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免疫系は全身を網羅する生体防御システムであり,それを担う免疫担当細胞は常に情報交換を行っている。その際,サイトカインなどを使い広範なネットワークを形成して行われる場合と,遭遇した細胞と細胞との密な接着を介して行われる場合とがある。免疫シナプス(immunological synapse)は,後者の情報交換効率を上げる場として,T細胞と抗原提示B細胞との間の構造として同定された1)。現在では,T細胞のほか,B細胞,natural killer(NK)細胞,NKT細胞にも存在することがわかっており,抗原受容体を介する抗原認識とシグナル伝達の場として概念化されている。神経細胞のシナプスと同じ情報伝達の場という意味合いから“免疫シナプス”と呼ばれているが,受容体とリガンドとの結合以外にも,サイトカインとその受容体とがタイトな閉鎖空間でやりとりされたり,神経細胞と同じ分子が使われていたり,神経細胞との共通点は意外に多い。
T細胞の免疫シナプスは,T細胞と抗原提示細胞との接着後5分間で形成され,受容体とリガンドおよびその下流のシグナル伝達分子が再配列した同心円状構造である(図左上)。中心部のcentral-supramolecular activation cluster(c-SMAC)は,T細胞受容体(T cell receptor;TCR)と主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex;MHC),非典型プロテインキナーゼprotein kinase C θ(PKCθ)から成り,その周囲を接着分子lymphocyte function-associated antigen-1(LFA-1)とintercellular adhesion molecule-1(ICAM-1),細胞骨格分子タリンやアクチンが取り囲みperipheral-(p-)SMACを構築する2)。この同心円ができることとT細胞の活性化の程度が相関していることから,免疫シナプスおよびSMACの形成は,十分なT細胞活性化とシグナル伝達に必須であると考えられてきた。その後,20-30個のTCRとその下流近傍のシグナル伝達分子から成るシグナルソーム“TCRマイクロクラスター(microcluster)”がSMACより先んじて形成され,免疫シナプス自体を構成していること,また,T細胞活性化の最小ユニットとして機能していることがわかった3)(図左下)。最近の超解像顕微鏡の進歩と共に,マイクロクラスター形成の前に,更に数個のTCRやシグナル伝達分子がナノクラスター(nanocluster)として凝集塊を形成していることも明らかになっている。細胞膜でのシグナル以外にも,免疫シナプスはアクチンや微小管形成中心(microtubule-organizing center;MTOC)などの細胞骨格構造にも及び,小胞輸送やエクソソーム,ミトコンドリアなどの移動の方向性を決定したり,細胞が分裂し新たなエフェクター細胞へと分化する際の不均等分裂を制御したりという新たな機能もわかってきている(図右)。
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