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チロシンキナーゼのうち膜貫通領域を持たないものを非受容体型チロシンキナーゼと言い,ヒトには32種が存在する。膜貫通領域を有する受容体型チロシンキナーゼが細胞膜に局在するのに対し,非受容体型の多くは細胞質に存在する。SrcファミリーチロシンキナーゼはN末端側にミリストイル化あるいはパルミトイル化される配列を有しており,これらの脂肪酸結合により細胞膜直下に局在する。
非受容体型チロシンキナーゼであるSrcは最初に発見されたチロシンキナーゼであり,Hunterらが癌遺伝子産物v-Srcおよび癌原遺伝子産物c-Srcがチロシンリン酸化活性を有することを報告した1)。以後,多くのチロシンキナーゼが同定されている。キナーゼドメイン中には自己リン酸化部位およびATP結合部位を含み,自己リン酸化によりキナーゼ活性を調節している点は受容体型と同様であるが,非受容体型チロシンキナーゼには直接リガンドに結合する細胞外領域がないため,その制御因子は細胞膜上あるいは細胞質に存在する他のタンパク質により担われている。Srcを例にその活性制御機構をみると,同じく非受容体型チロシンキナーゼであるc-terminal Src kinase(Csk)によりC末端にある527番目のチロシンがリン酸化されている。この部位にSrc自身のSrc homology 2(SH2)ドメインが結合することで,不活性化型の構造をとる。細胞外からの刺激などによりこのリン酸化チロシンが脱リン酸化し開いた構造(プライミング状態)となること,これに伴い自己リン酸化部位(Y416)がリン酸化されることにより活性化し,基質タンパク質をリン酸化して細胞応答を引き出すと考えられている(図)。
Srcがニワトリに腫瘍を引き起こすラウス肉腫ウイルス(Rous sarcoma virus)から発見された経緯を考えれば容易に想像できるように,多くの悪性腫瘍においてSrc,Syk,BTKファミリーなどの非受容体型チロシンキナーゼの発現亢進や異常活性化が認められる。慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia;CML)では,9番と22番染色体相互転座によりフィラデルフィア染色体が形成され,その切断点に存在するAblがBCRという遺伝子と融合する。これによる産物BCR-ABLが恒常的活性化を示し,CMLのドライバージーンとして機能する。非受容体型チロシンキナーゼは正常細胞内でも様々な生理機能を担っていると考えられるが,Srcの発現が特に神経細胞,血小板,破骨細胞など分裂しない終末分化した細胞での発現レベルが高いことは,がんでの機能と対比して興味深い。
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