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蛋白質中のアミノ酸はペプチド結合でつながっており,この結合は,ほとんどの場合トランス型になっている。例外的に,プロリンとそのN端側のアミノ酸間のペプチド結合に関しては,シス型とトランス型の両方をとることができる。このシス・トランス構造の変化(プロリン異性化)を引き起こすのに必要な活性化エネルギーは20kcal/molと比較的高いため,触媒する酵素が必要となる。プロリン異性化酵素(peptidylprolyl isomerase;PPIase)は文字どおり,この異性化を触媒する酵素である。プロリン異性化酵素は古くは,免疫抑制剤タクロリムス,シクロスポリンの結合蛋白質として同定されたFK506 binding protein(FKBP)とシクロフィリンが著明である。しかし,FKBPとシクロフィリン以外のPPIaseとしてPin1が存在し,近年,病態との関係および創薬のターゲットとして注目されている。
Pin1は他のPPIaseと異なり,プロリン前のアミノ酸がセリンまたはスレオニンであり,かつリン酸化されている必要がある。すなわちPin1は標的蛋白質のリン酸化状態に依存して結合するという特徴を持つ1)。
Pin1の標的蛋白質として現在までに多数の蛋白質が報告されており,代表的なものとしてTauと細胞周期関連因子(CyclinD1など)が挙げられる。そのため,Pin1と癌,アルツハイマー病との関連を検討した報告が多いが,近年では,糖尿病,非アルコール性脂肪性肝炎,骨粗鬆症など,幅広い疾患との関係が報告されている2,3)。
Pin1が結合することで標的蛋白質の機能が変化するが,最も多いのが,蛋白質安定性の変動であり,ほかに局在性や活性の変化などが認められる標的蛋白質もある。機能変化には,イソメラーゼ活性を必要とするものが大部分であるが,一部の標的蛋白質はPPIase活性非依存的に機能が変化する。
本稿では,Pin1に焦点を当てて解説する。
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