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細胞がG1期チェック機構を越えるとDNA複製期に入る(図)。DNA複製は複製起点から開始される。真核生物の染色体上には複製起点が多数存在するが,すべて細胞周期1回当たり一度しか複製は開始しない。複製開始に先立ち複製前複合体(pre-replicative complex;pre-RC)が形成される。まず,DNA上の複製起点上に結合したORC(origin recognition complex)複合体にATP分解活性を持つCdc6が結合,続いてCdt1が結合する。これにより,ORCにMcm2から7より成るMCM(minichromosome maintenance)複合体がロードされる。Cdc6およびCdt1はORCよりはずれ,その後は次の細胞周期のG1期までORC複合体に結合することはない1)。このため,この複製起点でのpre-RC形成がS期での複製の出発点となるが,一度pre-RCが形成された場所からは次の細胞周期まで二度と複製は起こらない(ライセンシング)。なお,MCM複合体はヘリカーゼ活性(二重らせんをほどく活性)を持つ。役目を終えたCdc6はリン酸化されて核外へ(異説あり),またCdt1も分解される。
サイクリン依存性キナーゼCdk2とDbf4依存性キナーゼCdc6がpre-RCをリン酸化すると複製起点が活性化する。この結果,複製起点周辺で二重らせんがほどけ,2本の一本鎖DNAとなりプライマーが合成され伸長が始まる。DNAポリメラーゼを含む複合体である複製装置が結合し,プライマーの3’末端に相補的なデオキシヌクレオチドを付加させる。DNAポリメラーゼは親鎖の一本鎖DNA上を移動しながら相補的な塩基を付加し,娘鎖を伸長させる。同時に未複製部の二重らせんがほどかれて複製が進行する。ポリメラーゼを親鎖から離れないようにつなぎ止める役目を担うのは,クランプタンパク質PCNA(proliferating cell nuclear antigen)である2)。
DNA二重らせんは反平行であり,複製は5’から3’の方向にのみ進むため二本の鎖でその複製方向は逆である。一方はそのまま進んでいく(リーディング鎖)が,もう一方は短い単位で不連続に複製することになり(ラギング鎖),この断片(岡崎フラグメント)をつなぎ合わせる必要がある。なお,プライマー合成(α)とリーディング鎖複製(δ),ラギング鎖複製(ε)と3種のDNAポリメラーゼが利用される。
複製中の細胞にDNA損傷を与えると,最終的にCdk2活性が阻害され複製が停止する。このことをS期チェックポイント機構という。損傷が修復されると複製は再開される。こうしたチェック機構の存在により,細胞は自分と同じコピーを増やしていくことができる。
真核生物においてDNAは線状であり,複製は5’から3’の方向へしか進まないため複製ごとに末端が削られていく。この末端部分をテロメアといい,その短縮が細胞分裂回数に限界がある理由の一つとなる。これは,癌細胞や生殖細胞など特殊な環境以外,元の長さに戻ることはない。
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