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TNF(tumor necrosis factor,腫瘍壊死因子)は,TNFα,TNFβ(lymphotoxin(LT)-α)およびLT-βの3種類から成るが,通常TNFはTNFαのみを指すことが多い。TNFαは当初,固形がんの出血性壊死を誘導させるサイトカインとして発見された。具体的な生理活性として転写因子NF-κB(nuclear factor-κB)の活性化が主な役割を果たす炎症性メディエーター,細胞接着分子やアポトーシス抑制因子の発現誘導に加えて,主にCaspase-8/Caspase-3経路の活性化が担うアポトーシスの誘導が挙げられる。したがって,TNFαの過剰産生は過度の炎症反応を誘導し,クローン病や関節リウマチなどの疾患発症や悪化に関与している。TNFαは25kDaの膜結合型の前駆体タンパク質として,主にマクロファージで産生される。その後,TNFα変換酵素(TACE)により切断を受けて17kDaの可溶性タンパク質となる。可溶性TNFαはホモ三量体として2種類の受容体TNF receptor(TNFR)1およびTNFR2に結合して,下流のシグナルを活性化する。TNFRもTNFと同様に三量体を形成しており,両者の結合が受容体の構造変化を誘導し,細胞質側に存在するシグナル伝達因子の受容体への結合を促すと考えられている。TNFR1は全身組織に常に発現しているのに対して,TNFR2は誘導型の受容体であり,TNFの多くの機能がTNFR1で説明可能であることから,ここではTNFR1について記載する。NF-κBはp50,p52,Rel,RelA,RelBの五つのsubunitで構成されるが,TNFαによって活性化されるのは主にp50/RelAのヘテロ二量体である。NF-κBは核移行シグナルを持っているが,通常抑制タンパク質IκBαと結合することで核移行シグナルがマスクされ,細胞質に係留されている。TNFα刺激依存的にIκB kinase(IKK)複合体が活性化されIκBαがリン酸化されると,それに続いてIκBαがLys48型のポリユビキチン化を受けプロテアソームで分解される。NF-κBはIκBαから解放され核移行し,標的遺伝子の転写を誘導する。IKK複合体は,TNFα刺激依存的に受容体近辺に幾つかのタンパク質が,TNFR1のdeath domainを介して集合し,安定したシグナル複合体が形成されることで活性化されるが,それには刺激依存的に集合したタンパク質の中のcIAP1/2が合成したLys63型ポリユビキチン鎖と,HOIL-1/HOIP/SHARPIN複合体が合成した直鎖状ポリユビキチン鎖が多くのタンパク質と相互作用することが必要である(図)。一方,シグナル複合体は更に別のタンパク質と作用することでCaspase-8を活性化し,アポトーシスのシグナルを活性化する。
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