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mTOR(mammalian target of rapamycin)は,免疫抑制剤ラパマイシンの細胞内標的分子として同定されたセリン・スレオニン特異的タンパク質キナーゼで,2種の複合体mTOR complex 1(mTORC1)とmTOR complex 2(mTORC2)を形成し,様々な細胞内基質をリン酸化により制御する。近年,mTORの機能が癌,糖尿病,肥満,老化に関連することが明らかになるにつれ,mTORは創薬,疾患予防,アンチエイジングのターゲットとして注目されるようになった1)。
mTORC1は触媒サブユニットmTORに加え,Raptor,mLST8,PRAS40,DEPTORを含み,成長因子や栄養に応答して活性化し,細胞の成長や増殖を正に制御する。mTORC1の代表的な標的基質として,タンパク質合成を調節するp70-S6Kと4E-BP,オートファジーにかかわるULK1などが挙げられる。一方,mTORC2はRictor,mSIN1,mLST8,PRR5/5L,DEPTORを含み,インスリンや成長因子刺激,あるいはストレス下で細胞の生存,糖の取り込み,細胞形態を制御する。Akt,SGK,PKCαといったAGCファミリーに属するキナーゼがmTORC2の標的として知られている。
mTOR複合体の活性は厳密かつ複雑に制御されており,その分子メカニズムの全貌はいまだに不明である。主要なmTORC1制御因子として,低分子量GTPaseであるRagとRhebが同定されている。RagとRhebはそれぞれアミノ酸と成長因子による刺激に応じて結合ヌクレオチド(GTP/GDP)をスイッチし,mTORC1活性を正負に制御する。他方,mTORC2の活性制御に関する知見は乏しく,分裂酵母を用いた解析から,やはり低分子量GTPaseが制御に関与する可能性が示唆されている2)。
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