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古典的Wnt経路は,胚発生や成体組織の恒常性の維持に重要な役割を果たすシグナル伝達経路である。近年,様々な組織においてWnt経路の活性化が幹細胞の維持や組織再生に必要であり,一方で恒常的な活性化は腫瘍形成の原因となることが報告されている。したがって,Wnt経路の理解とその活性の操作法の開発は,再生医療や癌治療の観点からも重要な課題となっている1)。
Wnt経路において,中心的な役割を果たすエフェクターはβ-cateninである1)。Wntリガンドがないときは,β-cateninはAPCやAxin,GSK3などから成る複合体中でリン酸化とユビキチン化を受け,分解される(図A)。同時に細胞膜上では,Wnt受容体のFrizzledがZNRF3やRNF43によるユビキチン化を受け,分解される。細胞膜上でR-spondinがLgr4/5/6に結合すると,このユビキチン化が抑制され,Frizzledが安定化する(図B)。安定化したFrizzledとLrp5/6にWntタンパク質が結合すると,下流へのシグナル伝達が開始される。このとき,AxinとLrp5/6の結合が増強され,AxinやGSK3が細胞膜上に移行して,β-cateninから解離する。それにより,β-cateninが蓄積し,核内へと移行するようになる。核内でβ-cateninがTCF/LEFファミリーの転写因子を介して標的遺伝子の発現を促進することで,Wntシグナルの生理的な機能が発現する。また最近では,癌遺伝子産物であるYAPもβ-cateninを分解する複合体の構成因子であり,Wntシグナルによって複合体から解離して,シグナルを伝達することが報告されている2)(図B)。このYAPを介した経路も幾つかの生命現象において重要な役割を果たすことが報告されており2),今後その生理的な意義の解明が進むと考えられる。
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