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細胞の集合体が細胞間接着により形成され,生体システムを構築することで組織や器官の機能と形態を維持し,個体の恒常性を保っている。細胞間接着とは,細胞間接着分子の直接の相互作用によって細胞と細胞とが互いに接着することを示す用語である。細胞間接着分子としては,主に免疫グロブリンスーパーファミリー,セレクチンファミリー,カドヘリンファミリーと呼ばれるタンパク質群の分子が一般的に知られている。加えてクローディンファミリーやコネキシンファミリーなどのタンパク質群も知られているが,シナプスの細胞間接着分子が不明であるなど課題も多い。
細胞間接着分子として初めて発見されたのは免疫グロブリンスーパーファミリーの一員であるCAM(cell adhesion molecule)である。CAMは共通に免疫グロブリン様モチーフを有する。なかでもNCAMやL1は主に神経細胞に発現し,シナプス形成に重要な役割を担っている。また,VECAMやICAMなどは血管内皮細胞に発現し,血球のインテグリンと結合することで白血球と内皮細胞間の細胞間接着を担っている。
セレクチンファミリーにはリンパ球ホーミングに重要なレセプター分子が含まれ,レクチン様ドメインを共通に持つ細胞間接着分子群である。セレクチンファミリーの一つであるELAM(endothelial leukocyte adhesion molecule)は,血球が内皮細胞の表面上に弱く接着しながらローリングする際に重要な役割を果たす細胞間接着分子として知られている。
カドヘリンファミリーの細胞間接着分子は,高次に組織化された細胞間接着構造体を構築する。カドヘリンファミリーメンバーは,主に上皮細胞間接着装置であるアドヘレンスジャンクションとデスモソームと呼ばれる接着装置を構成するが,詳細については前項を参照されたい。上皮細胞間接着装置はそのほかに特徴的な構造および機能を有しており,ギャップジャンクションはイオン,セカンドメッセンジャー,代謝物などを行き来させることにより,隣り合う細胞同士の情報伝達を担っている。タイトジャンクションでは隣り合う上皮細胞同士が限りなく近づくことにより,細胞間バリアが構築される1)。細胞間接着機能の制御機構の解析とその操作には接着分子“全長”の分子構造の解明が重要であるが,そのような例は少ない。ギャップジャンクションとタイトジャンクションの細胞間接着分子は膜タンパク質“全長”の構造が明らかになっている稀有な例である。ギャップジャンクションの細胞間接着分子コネキシンは4回膜貫通タンパク質であり,六量体の構造体コネクソンを形成し,そのコネクソンが向かい合う細胞のコネクソンと結合し,細胞間の連絡通路を形成している。コネキシン分子全長の構造解析の結果,ファネル構造と呼ばれる特徴的な構造は,細胞間に生じる膜電位を感知しコネクソンの孔の開閉を引き起こしていると予想されている2)。
タイトジャンクションに存在する4回膜貫通タンパク質クローディンは,少なくとも27種類のファミリーを形成している。クローディン構造解析から,細胞外の二つのループは計5本のβシートを構成し,βシートが細胞間で結合してβバレルを形成し(掌モデル),細胞間バリアとチャネルを構築すると予想されている3)。接着に関与する膜タンパク質の全長の構造が明らかになることで,細胞間接着の制御機構が解明され,細胞接着をターゲットとした創薬が期待される。
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