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Rasファミリー低分子量Gタンパク質はRas,Rap,Ralのサブファミリーを含む36遺伝子から構成されている。Rasは1981年にHarvey and Kirsten murine sarcoma retrovirusから単離された癌遺伝子であり,H-Ras,N-Ras,K-Ras4AおよびK-Ras4Bの4種類のアイソフォームが知られている(以下,単にK-Rasと記載する場合はK-Ras4Bを指す)。これらは互いに90%以上の相同性を持ち,残りが超可変領域と呼ばれるC末端の構造である。Rasは細胞増殖および分化の制御を介して癌化,および発生に深く寄与する。一方,RapはRasに相同性の高い低分子量GTP結合タンパク質としてほぼ同時期に三つのグループにより同定され,Rap1A,1BおよびRap2A,2B,2Cの五つのアイソフォームが存在する。Rapはインテグリンを介した細胞間接着への寄与,ひいては血管透過性の制御および血球系細胞の分化などに関与する。
Rasファミリー低分子量Gタンパク質(以下Rasと略す)はGTP結合時にシグナルをON,GDP結合時にOFFにする分子スイッチとして機能し,そのGTP/GDP結合状態はGEF(Guanine nucleotide exchange factor)およびGAP(GTPase-activating protein)により制御されている。Ras活性の時空間パターンは,このGEF,GAPの局在および活性化の時空間パターンにより制御されている(図A)。
Rasは初め細胞質タンパク質として合成された後,ファルネシル基転移酵素によりC末端CAAX配列(C:システイン,A:脂肪族アミノ酸,X:任意のアミノ酸)のシステインにファルネシル基が付加される。更なる翻訳後修飾を受けた後,K-Ras4BはPDE6δにより細胞質で安定化されながら形質膜の非ラフト領域へ移行する。H,N-RasおよびK-Ras4AはC末端に更にパルミトイル化を受け,形質膜のラフト領域および細胞内膜へ移行する(図B)。
Rasはそれぞれ複数のエフェクター分子と結合し,一部は重複している。Rasサブファミリーのエフェクター中でよく研究されているのはRaf,PI3KおよびRalGDSである。
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