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細胞は,外部から入力される力学刺激を細胞内の生化学シグナルに変換する過程─メカノトランスダクション─を通じ,周囲の力学的環境に応じて細胞運動の方向性や細胞極性を決定する1)。発生期の形態形成や創傷治癒などの多細胞レベルの活動においても,細胞間で伝達される力の大きさに応じて個々の細胞内の生化学シグナルが調節されることにより,力学的な情報伝達が行われる。本稿では,メカノトランスダクションの最上流において,力を起点として生じるメカノセンサーシグナルに焦点を当てる。メカノセンサーシグナルは,外力の作用下で生化学シグナルを直接調整するメカノセンサー分子により活性化され,下流の生化学シグナル経路に伝達される。
メカノセンサー分子は,細胞内でメカノセンサーシグナルが活性化される領域により,①細胞間張力に応じて接着結合をリモデリングする細胞間接着メカノセンサー(αカテニンなど),②細胞-細胞外基質間の張力に応じて接着斑をリモデリングする足場接着メカノセンサー(タリンなど),③細胞膜張力に応じてイオン流入を制御する細胞膜メカノセンサー(イオンチャネルなど),④細胞内張力・圧縮力に応じ自ら重合・解体する細胞骨格メカノセンサー(アクチンフィラメントなど),の主な4種類に分類できる(図)。
これらのメカノセンサー分子は,すべて力に対して分子レベルで構造を変化させ,生化学シグナルの結合部位を露出・遮蔽,あるいは,シグナル通過部位を拡大・縮小することで,メカノセンサーシグナル経路を直接制御する。例えば,細胞間の接着結合においてメカノセンサー分子として機能するαカテニンは,アクチン細胞骨格に由来した細胞間張力のもとで,閉じた自己抑制構造(鍋と蓋の関係)を開いた構造に変化させ,最終的に,生化学シグナルであるビンキュリンの結合部位を露出する2)。
これまで,メカノセンサー分子の活性を評価するために,分子を機能ドメインごと(鍋と蓋)に切り分けてシグナル分子結合の有無を調べる生化学的分子実験などが行われてきた。本稿では,このような生化学的実験にとどまらず,直接メカノセンサー分子を操作する技術を含む最新の研究手法を概説する。
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