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細胞増殖因子(growth factor)は細胞表面に存在する特異的受容体に結合し,その増殖作用を発揮する。細胞増殖因子受容体には様々な種類があるが,代表的なファミリーは細胞内にチロシンキナーゼドメインを有する受容体型チロシンキナーゼ群である。ヒトゲノムによって約60種類の受容体型チロシンキナーゼがコードされるが1),受容体型チロシンキナーゼの結合リガンドが明らかになったものはそのほとんどが細胞増殖因子である。このことからもチロシン残基のリン酸化を介するシグナルが,真核生物の増殖において中心的な役割を果たしていることがわかる。
受容体型チロシンキナーゼの多くは,1回膜貫通型受容体であり,細胞外でリガンドと結合し,細胞内に酵素活性領域がある(図)。例外はインスリン受容体ファミリーで,例えばインスリン受容体は単一ペプチドとして翻訳された後に,分解されてα鎖とβ鎖に分かれ,S-S結合でつながる。
受容体型チロシンキナーゼは,リガンド依存性に二量体化(あるいは多量体化)し,酵素活性が上昇する。リガンドが結合して二量体化した受容体型キナーゼは互いのキナーゼをリン酸化し合い(自己リン酸化と呼ばれる),酵素領域がATPと結合可能になってキナーゼ活性がオンになる2)。一般に自己リン酸化されるチロシン残基以外のチロシンも複数リン酸化され,セカンドメッセンジャータンパク質群のSH2ドメインのドッキング部位になる。受容体型チロシンキナーゼから発せられる増殖シグナル経路は,RAS-MAPK経路,PI3-kinase経路,phospholipase C経路などがある。
受容体型チロシンキナーゼの恒常的活性型変異はしばしばがんの原因となる。例えば上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor;EGFR)は,酵素活性領域内の点突然変異・内部欠失が後天的に生じ,肺がんの原因となる3)。同様にALKキナーゼ(anaplastic lymphoma kinase)は染色体転座inv(2)(p21p23)の結果,EML4(echinoderm microtubule-associated protein-like 4)と融合してEML4-ALKとなって肺がんを生じ4),HER2(ERBB2)キナーゼは遺伝子増幅によって乳がんの原因となる。いずれも特異的な分子標的薬が臨床の場で用いられている。
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