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睡眠,覚醒,血圧,体温,ホルモン分泌のリズムなど,様々な生理現象が約24時間周期(概ね1日;サーカディアン)の規則的な変動を示す。これらのサーカディアンリズムは生物が地球環境の24時間サイクルに適応して獲得した生理機能であり,その分子発振システムは概日時計と呼ばれる。シフトワーカーなどを対象とした疫学調査や臨床・基礎研究の成果から,概日時計は前立腺がんや乳がん,老化,睡眠障害,メタボリックシンドロームなど,広範な生命現象や病態に関与していることがわかってきた。
哺乳類において,個体レベルでみられる生理現象のリズム発現には,視床下部の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus;SCNと略)が必須の役割を果たしている。一方,個体から切り離して分散培養した細胞レベルにおいても,遺伝子の転写・翻訳リズムが継続することから,個々の細胞も自律振動する時計機能を備えていることがわかる。各組織における固有の生理的リズムの発現には,組織内の多くの細胞時計の同調が重要であり,その同調シグナリングはVIP(vasoactive intestinal peptide),グルココルチコイド,交感神経ネットワークなどが担っている。
概日時計の分子基盤は,時計遺伝子の転写・翻訳を介したフィードバックループで構成されている。哺乳類においては,bHLH-PAS型転写因子であるCLOCKとBMAL1がヘテロ二量体を形成し,DNA上の時計シスエレメントE-box(CACGTGタイプ)にリズミックに結合して多様な遺伝子の転写活性を促進する(図A)。その中にはPerやCryなどの負の転写制御遺伝子が含まれており,これらの翻訳産物がCLOCK-BMAL1複合体(図ではCLK・B1と略記)に結合して自らの転写活性促進を抑制する1)。CLOCK-BMAL1によるE-boxを介した転写は昼の時刻に発現のピークを迎えるリズムを生み出すが,一方で,転写抑制因子REV-ERBが制御するシスエレメントRREは夜の時刻にピークを持つ転写リズムを生み,ClockやBmal1はRREの支配下でリズミックに発現することが知られている(図A)。このように,E-boxとRREが支配する二つのフィードバックループは互いに共役して安定な転写リズムを生み出す。これと同時に,一群の時計タンパク質のリン酸化やユビキチン化といった多彩な翻訳後修飾が,概日時計の安定した振動の維持に必須である2)。
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