Cancer Board Square 4巻3号 (2018年10月)

特集 恐れず恐れよ!骨転移診療 超実践ガイド

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OS延長という確かな成果とともに避けられなくなってきた「骨転移」。

痛みや骨折など、がん患者の生活と治療継続に大きな影響と及ぼします。

ところがその本当の姿は実は明らかになっていないものでもあります。

「ひとまず絶対安静にしておけば大丈夫」

間違いではありませんが、過剰反応されている。そんな状況もあるのかも?

そこで本誌では、運動器のエキスパートである整形外科と骨転移診療の知見を蓄積した腫瘍内科とのコラボレーションによる「骨転移診療 超実践ガイド」を企画しました。予防的介入から骨転移のアセスメント、症状緩和、リハビリ、生活支援に至るまで、読み終えた時には、明日からの骨転移が変わります。さぁ、新しい世界へ!

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がん時代の到来

 2016年に国内のがん新規罹患数はついに年間100万人を超え、国内の出生数を上回った。また、がん診療の進歩に伴って生命予後が改善し、骨転移などのステージⅣであっても、がんをもったまま生活するがん患者の数が激増している。

 わが国が高齢化とともにまさに「がん時代」を迎えた今日、がんは根治を目指すとともに、慢性疾患としてがんとの共存を許容してQOLの維持・向上を図るというパラダイムシフトが生じている。

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骨転移診療への関わりは避けられない

 がんやその再発転移は、がん検診や人間ドックで早期発見されることが望ましい。定期的に検査を受け、異常を指摘されることなく公私に充実した日々を送っている方もいれば、多忙でなかなか検査の時間が作れず、日々に追われている方もいるだろう。しかし、そんな当たり前の日常に、がんは突然襲ってくる。時に、骨転移という形で見つかり、その時点でステージⅣ、転移進行がんと診断されることもある。

 ステージⅣ、転移進行がんは、これまで末期がんとされ、治療の対象ではなかった。仕方がない、と注視もされなかった。しかし、目覚ましい進歩を遂げる医療が、転移進行がんにも光を照らし始めた。未だ必ずしも根治、完治が望める疾患ではないが、生命予後は明らかに延長している。そして、それに伴い健康寿命の延長が求められている。

Part2 骨転移は誰が、どう診ればよいのか

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骨転移に対するチーム医療

 骨転移によって直接致命的になることはほとんどない。しかし、病的骨折、脊髄障害によってもたらされる痛みや運動障害、そして骨髄抑制、高カルシウム血症に基づく全身症状は、その進行状況によって患者の状態を大きく変える(Fig.1)。そのため、骨転移の状態、場面によって必要な治療も変わってくる。

 これまで、骨転移診療は原発がんの担当医ががん診療の延長として治療の中心を担ってきたが、言うまでもなく一人の原発がん担当医による診療には限界がある。そこにチーム医療の必要性が出てくる。状況をしっかり把握し、チームのメンバーが各場面でその専門性を発揮できる準備をしておくことが必要である。

Part2 骨転移は誰が、どう診ればよいのか 各職種の役割と現場を変える積極的なかかわり方

整形外科の立場から 佐藤 雄
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チーム介入前の課題

 腫瘍内科やがん原発科から骨転移の相談がくるときは、いつだって既に骨折しているか、麻痺を起こした後だった。痛みを訴え、麻痺にショックを受ける患者やその家族が、突然自分たちの前に現れるのである。がんの専門家でない私に「骨折や麻痺が起きているがどうしたらいい?」と相談される。でも本音は自分が質問したい気持ちであった。自分が一番知りたいことは「この患者は今どのような状態で、今後どのような経過が見込まれるのか? そもそも、どんな『人』なのか?」ということである。

 つらい状況に追い込まれている初対面の患者から、これらの情報を得ることは難しい。治療方針を考える時間も乏しく、具体的な治療方針に頭がまわらなかった。私のなかには常に、「手術の方針決定は整形外科だけでしなくてはならないのか?」「手術を選択したとき、この出会って間もない患者や家族は、手術後の結果や予後が臨んだものにならない場合に、受け入れてくれるのであろうか?」という不安が存在していた。

腫瘍内科の立場から 扇田 信
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チーム介入前の課題

 正直なところ骨転移キャンサーボード設立以前の状態は思い出したくない。確かに、骨転移に対する治療の選択肢は今とさほど変わりはない。しかし、個々の患者に最善の治療が、最良の時期に行なわれていたかというと、振り返ってみて自信がない。

 なぜこの患者には手術はできないのか。手術できないと言われたら諦めるしかないのか。私のなかで消化不良のままであった。また、手術後の化学療法再開によって創部感染を起こす不安を常に抱えていた。それぞれの治療を点とすると、必要時だけ点と点を細い糸で結ぶような診療であったと思う。患者は、その糸の上を綱渡りするように治療を受けていた。

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チーム介入前の課題

 骨転移の治療の目的は骨関連事象(skeltal-related events;SRE)を抑制し、骨痛を低下、コントロールすることで患者のQOL(quality of life)を改善、維持させることであり、基本的に乳がんに対する全身治療を行なう12。それに並行して骨転移に対する骨修飾薬剤としてビスフォスフォネートやデノスマブを投与することで病状コントロールは以前より良好になってきたが3、骨転移の症状や部位、骨折リスクや疼痛の強さ、更には現時点での治療効果の評価自体が困難であることがある。更に、ホルモン治療や化学療法などの全身治療を優先すべきか、手術適応となるか、照射で疼痛コントロールを図るべきかなどの判断が難しいうえに、各部署での他の治療に関する認識が異なることもある。このため、治療の選択や判断に時間を要することがあった。

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チーム介入前の課題

 近年の超高齢社会に加え、①治療法の進歩によるがん患者生存期間の延長、②がん以外の疾患の救命率向上によるがん罹患率の上昇、③画像診断機器の発達などの要因から、骨転移に遭遇する機会が増えている。当然、画像診断でがんが背景にあるとわかっていれば、常に骨転移の存在を意識する必要があり、またそのような背景がなくとも、骨転移ががん発見の契機となることもあるのは周知のことである。

 このような中、画像診断機器の発達、診断技術が向上したことで、より正確な骨転移の存在診断、質的診断が求められるようになってきている。

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チーム介入前の課題

 全身治療の進歩により、長期生存可能な骨転移患者が増加している。放射線治療は緩和照射のほか、高精度放射線治療による高線量照射や手術、椎体形成術などを組み合わせることで患者の身体能力を維持し、骨転移制御向上に役立てることができる。しかし、治療方法の選択は、症状や部位、全身状態、予後などを考慮して、その患者に最も適したものを選択する必要がある。そして、その選択は速やかに行なわれなければならない。

 しかし、異なる診療科や職種の間での認識の違いは、大きな障害となりうる。特に骨転移診療がチームとして機能する前には、放射線治療の依頼に対して他の方法の適否を検討するのに時間を要することがあり、改善の必要性を感じていた。

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チーム介入前の課題

 まず、鎮痛薬の効果の限界について、他職種と共通理解をもてずにいた。安静時痛がコントロールできている体動痛は、鎮痛薬だけで抑えるのが難しいことも多い。むしろ、疼痛が自然軽快するか、抗がん治療や緩和的放射線照射の効果がみられるまでは、鎮痛薬に加え、理学的対応も重要になる。しかし、具体的な提案ができる場面は限られていた。

 次に、症状緩和を図るなかでどの治療を優先させるか、判断を共有できずにいた。病気の進行、抗がん剤治療の状況などにより、症状緩和目的の放射線照射や手術のタイミングも左右されうる。最も優先すべき治療をひとりで判断するのは困難である。

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チーム介入前の課題

 実際に患者の体を動かし、立ち、歩いてもらう立場にあるのは、理学療法士であることが多い。骨関連事象(SRE)を起こさないためにも、骨転移に関する情報を少しでも多く得たいが、多くの場合指示はPC入力のみで行なわれ、直接のやりとりは少なかった。また、骨転移があることによる制限や許容範囲を聞いても、「併診している整形外科に聞いてください」と返されることも多くあった。結果、安静度の決定について誰に相談してよいのかわからず、恐怖心をもちながらリハビリ診療に当たることが珍しくなかった。

 また、患者のゴール設定についても、共有できずに孤立してしまうことがあった。現在の治療と予後がわからないまま骨転移の問題だけに捉われ、まだ予後が見込める患者に対し消極的な介入にとどまるなど、リハビリの内容にも問題を生じさせた。一方、急に追加のリハビリ指示が出され、「ここまでできるように」というゴールを突如課されることもあった。

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チーム介入前の課題

 骨転移はADLに直結する。リハビリテーション介入にあたっては、以下のような骨転移特有の課題に直面することがある。

看護師の立場から 山口 郁美
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チーム介入前の課題

 骨転移がある患者でも、早急に対応すべき問題がなければ原発巣の治療が優先され、骨転移に対する注目度や意識は低い傾向にあった。また、骨転移のある患者のADLを主治医に相談しても、骨の専門家ではないこともあり、明確な指示を仰ぐことは難しかった。そのため、過度な安静が患者のQOLを低下させ、廃用症候群やせん妄などの合併症の原因となることを理解しつつも、「自分の介助や判断で、患者が骨折や麻痺を起こしてしまったらどうしよう」という不安や責任感から、患者に無理をさせないよう安静を強いていたように思う。たとえ患者が、「骨折や麻痺のリスクがあっても歩きたい」という希望をもっていても、対応できる根拠や連携が十分ではないため、患者の思いに応えられないモヤモヤした思いを抱えていた。

薬剤師の立場から 濱谷 佳名子
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チーム介入前の課題

 当センターの入院患者の薬剤説明は、使用前日に行なっている(依頼があれば随時)。初回説明時は患者も薬剤に対して漠然とした認識しかなく、使用時のイメージができないことが多い。特に骨転移は自覚症状がないにもかかわらず、骨修飾薬の副作用予防のための継続内服が必要となるため、ますます受容されにくい。予防的投与の場合は自覚や認知が必要であり、継続の必要性に関する説明と同意が求められる。本来であれば薬剤使用後に再度訪室し、効果や副作用についての理解度を確認することが理想である。しかし、当センターは曜日担当制で病棟業務を行なっており、業務時間内の再訪が困難な場合もある。もちろん、薬剤師間で患者情報の共有を行なって病室を訪室することもあるが、他職種に比して患者と接する時間が短いため、どうしても距離感を感じてしまう。長い付き合いが必要となる薬剤に関する不安や疑問を本当に話してくれているのか、不安になることも多い。

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チーム介入前の課題

 骨転移の診断や「骨が溶けている」という説明に、原発がん告知を上回る「こころ」への衝撃があったと語る患者と多く接してきた。患者は痛みや麻痺、骨折など骨転移による「からだ」の症状が顕著になると恐怖・不安が更に高まる。また、「暮らし」のあらゆる局面、すなわち日々の動作困難や地域活動への参加制限、就労継続が阻害されるなど複合的な影響を体験するため、心理・社会的支援を提供することは重要である。

 医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)が介入する契機は、①各専門職が課題発見しMSWにつなぐ場合、②患者・家族自らが相談をもち込む場合に大別されるが、双方において調整・解決のアウトカムが焦点化され、診療プロセスの「点」にとどまる傾向があった。がん治療と仕事の両立を目指すある患者は、自らMSWに身体障害者手帳や傷病手当金、年金申請を相談し、理学療法士に職場環境に合わせた安全な動作の指導を請い、主治医には仕事中に作業効率の落ちない鎮痛剤への変更を依頼した。しかし、このように適切に各専門職の役割を把握し、「その人らしさ」を維持するためにニーズが表出され、情報収集ができる事例はまれであった。

患者・家族の考え 田平 芳子
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患者・家族の不安

 がんと診断された患者と家族は強いストレスを受け、大きな不安に襲われる。我々医療者も不断の努力を続けているが、患者の協力なくして満足につながる医療を提供することは難しい。すなわち、チームにおいて「積極的なかかわり方」を求められるのは医療者だけではない。ある患者家族からのメッセージを紹介したい。

Part2 骨転移は誰が、どう診ればよいのか 座談会

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骨転移診療の現状—なぜ、今骨転移チームなのか

山田 現在、私は脳神経外科と整形外科の40床の混合病棟の看護師長をしております。病棟には転移進行がん、骨転移の患者さんが多くいらっしゃいまして、がんの患者さんに対していかに適切な医療を提供できるかを考えて仕事をしています。一方で、再発転移のがん診療は、死と向き合いながら進行していくがんに対し喪失を体験する患者さんに接する場面が多く、過酷な現場です。そこで働くスタッフがモチベーションを下げることなくやりがいをもって働き続けられる職場作り、特に看護師が志高く働くための他職種との関係の重要性、これが私の大きなテーマとなっています。

 今、自分の考えの礎になっているのが、2008年に上野先生が主催された2泊3日の研修「The 2nd TeamOncology Workshop」*ⅰでの経験です。上野先生には、チーム医療をどう展開すればよいのか、またチームビルディングはどのように行なえばよいのかを具体的かつ徹底的に教えていただきました。病院に戻ってから、教わったことを小さなことでも少しずつ実践し積み重ねてきて、臨床が変わったと実感しています。

Part3 病期からみた骨転移ケアの超実践

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先回りするために

 骨転移治療においてチーム医療が大切なことは、ここまでPart1、2を通して各著者が述べている通りである。骨転移という病態にひとりで立ち向かうことの問題や不安、解決策としての取り組みは各稿に譲るが、医療現場でチームが機能しないことは、結果として対応が後手に回り、患者の不利益につながる。後手に回った治療は選択肢が限られ、得てしてこれ以上問題を起こさないような消極的な治療となり、悪循環を起こす。

 では、先回りの骨転移を実践するためにはどういったことが必要か。どの局面においても、まずは準備が大事である。患者に会う前に知っておくべき知識として、患者やがんによる骨転移のリスクがある。がん種や好発部位といった骨転移リスクを知っておくことは、患者と向き合う心構えを作る。そしてそのリスクをチーム内、および患者自身と共有することで、起こりうるSREに対して先回りできる。

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 これまでは骨転移が生じた場合、その後の生命予後は短いとされてきた。しかし、近年の集学的ながん治療の進歩により以前より生命予後が延び、その結果、骨転移を患うがん患者数も増加している。骨はがんの好発転移部位のひとつであり、がんの進行とともに骨転移の頻度は上昇する。よって、進行がん患者の診察に際しては、常に骨転移の存在を念頭に置くべきである。

 特に、骨転移の初期は無症状の場合も少なくなく、初回診断時には27〜60%が無症状であると報告されている12。痛み、病的骨折、脊髄圧迫、高カルシウム血症は、骨転移に伴う症状として代表的なものであるが、このうち、痛みを除く病的骨折、脊髄圧迫、更にこれらに関連した放射線療法、外科手術を合わせた4つの事象(高カルシウム血症も含めることがある)をまとめて骨関連事象(skeletal related events;SRE)という。これまでの多くの臨床的検討からSREが患者の日常活動度(activities of daily living;ADL)や生活の質(quality of life;QOL)の低下、予後の悪化に大きく影響することが知られている。これらの点からSREの発現を予防、治療することは臨床的に意義があり、骨転移の治療目標のひとつであると考えられており、適切な治療を行ないながら生活レベルを維持することが重要である。

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 骨転移は、原発巣が多岐にわたること、その治療方針が症例毎にさまざまであることから、非常に判断が難しく、しばしば専門家である整形外科医ですら悩むことがある。しかしながら、一般整形外科診療において必ず経験する機会があり、また診察した医師と関わる医療者の判断が患者の人生に大きな影響を及ぼす重要な疾患でもある。

 私は、短い期間ではあるが、がん専門病院で骨転移に対する治療を経験した。エビデンスやガイドラインについては清書に譲るとして、私が経験し、重要であると感じたことを述べさせていただく。整形外科医のみならず、広く骨転移診療に関わる皆さまの今後のがん診療に少しでも役立てば幸いである。

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Phaseを見抜き、早期介入を考えるためのポイント

 がん治療は日進月歩で進歩しており、日々その治療成績は向上している。それに伴い、骨転移の治療成績も以前と比べて大きく変化している。これまでは骨転移は終末期としてのイメージが強く、緩和医療のみに傾倒しがちであったが、現在は長期的予後を左右するひとつの要素になっていると言っても過言ではない。四肢や脊椎の骨折、脊髄麻痺などの重篤な骨関連事象は、それ自体が患者の予後を悪化させる因子とも考えられているため、筆者は前稿で述べられた「痛み待ち」「麻痺出現待ち」を可能な限り避けるべく、骨転移診療に参加している。骨転移の分野はエビデンスを作ることが難しく、個々の患者毎にがんの進行や全身状態、治療状況、患者の考え方などさまざまな要素により治療方針が決定される。

 本稿では、筆者が日常診療で経験した具体的症例を基に、その時々でどう考えて治療にあたったかを可能な限りわかりやすくまとめている。ただし、筆者の選択が唯一の正解ということは絶対になく、患者との向き合い方のなかで変化しうるものである。また、手術が施行可能かどうかなど、施設毎の技術的制約もあることは十分理解している。手術が唯一の選択ではないこともここで再度述べておきたい。

Part4 がんの進行と地域医療介護・在宅ケア—局所から全身へ

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骨転移を伴う進行がんに対する抵抗感

 骨転移を伴う進行がんを目の前にして、我々はなにを感じ、なにをすべきだろうか。

 「大変だ」「どうしよう」と漠然とした不安が募るかもしれない。あるいは、知ってか知らずか「担当じゃないし」「私が診なくても」と及び腰になっているかもしれない。がんは直接的に生命に関わる病気であり、大ごとである。しかし、だからこそ、見て見ぬふりをしていいわけがない。では、どうすればいいのか?

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 がんの骨への転移は進行がん患者において頻度の高い合併症であり、運動器が直接影響を受けるため日常生活活動(activities of daily living;ADL)が障害される。また、骨転移による疼痛や病的骨折、脊髄麻痺を契機にがんが発見されることもあるものの、骨転移患者の多くは既に長期間にわたって全身治療を受けており、二次的に筋力、運動耐容能の低下を起こし、ADLの低下をきたしている。一般的に、転移部位は脊椎、骨盤、大腿骨と荷重骨に多いため、骨転移患者は起居動作や歩行動作に移動機能が障害される。このように運動器が障害されることで移動機能が低下した状態はロコモティブシンドローム1と提唱され、骨転移患者における障害像の中心となる。

 また、がんの統計'17によれば、2013年にがんに罹患した人のうち70%が65歳以上の高齢者であり2、高齢者特有の問題を抱えているがん患者が増えてきている。高齢者は、加齢に伴う身体機能低下だけでなく、認知機能低下や意欲・判断力の低下などの精神回心理面の変化や、家に閉じこもりがちなどの社会交流の減少などの社会面において脆弱な状態=フレイル3に陥っている場合も少なくない。骨転移患者の障害像としては移動機能に着目したロコモティブシンドロームが中心となるが、精神面や社会面まで捉えたフレイルの概念も必要となる。

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 骨転移をきたしたような根治困難な状況においても、放射線化学療法などの治療方法の進歩により、長期に及ぶがんとの共生が可能となってきた、このことを背景に、がん治療における精神的ケア(メンタルケア)がいっそう重要視されるようになってきている。

 がん患者の心理的反応は、正常範囲内の精神的動揺から精神科診断レベルまで幅広い。

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患者に出会う前から始まるケア

 ナースセンターに「入院です。骨転移です」の連絡が入ると、私は心構えを始める。骨転移に対する看護や意思決定支援は、早期からの介入が重要な鍵となるからだ。そして、「どこの部位にどんな感じで転移があって、どんな障害なのか。年齢は、お仕事は、ご家族は、ご本人、ご家族の思いは、歯の治療歴は……」とさまざまな要素に思いを巡らせながら、情報収集と検査の準備を進める。

 「ずっと定期検診に行っていたから、大丈夫と思っていたんです。骨にくるなんて思ってもいなかった」「最近、腰が痛くて、湿布を貼ったり、鍼に行ったりしてたんです」「転んでしまってレントゲンを撮ったら、なにかおかしいって言われてきたんです」など、骨転移患者の訴えはさまざまだ。がんの再発という認識がなく、骨を治せばよいと捉えられていることもしばしばある。どのような治療を行なうのかによって、ケアも説明後の介入も変わってくるため、患者・家族の情報・思いを素早く、ひとつずつ丁寧に確認しなければならない。骨転移のケアは、患者に出会う前から始まっていると言える。

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 わが国における65歳以上の高齢者人口の割合は2015年度に26.7%と過去最高になっており、今後も上昇し続けると言われている。それに伴い、高齢がん患者数も増加しており、国立がん研究センター(がん対策情報センター)の発表では2012年の時点で、がん患者の70%が65歳以上であると報告されている。そして、フレイルの高齢者がん患者の治療への影響も報告されており、術後合併症や化学療法・放射線療法による有害事象(adverse event;AE)発生リスク、更には死亡リスクの増大につながると言われている1

 本稿ではがん治療と歯科、特に近年提言されているオーラルフレイルとの関係を中心に述べる。

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骨転移を伴う進行がんに対する栄養

 骨転移を伴う進行がんにおける栄養では特定の栄養素を積極的に摂取する必要はなく、治療継続やQOL維持を目標とした栄養状態の維持を目的とする。

 栄養はまず、日常生活を送るにあたって必要な栄養素の摂取を基本とし、そのうえで原疾患あるいは併存疾患(糖尿病、高血圧、腎疾患、肝疾患など)に対する栄養療法を考慮する。そして、治療における食思不振や消化管症状など、有害事象の出現といった短期的な変化に対する栄養摂取の配慮と、今後想定し得る病状変化を見据えた長期目線の栄養摂取の2つの目線を加える。更に、骨転移を伴う場合では安静度やリハビリテーションの強度、ADLの到達目標などに応じて、必要な栄養摂取を設定することになる。患者のなかにはさまざまな食品を「がんに効く」として制限したり積極的に摂取したり強いる場合があるが、厳しい食制限は摂取量減少や栄養素の不足につながり、栄養状態の悪化を招く恐れがある。またいわゆる健康食品やサプリメントは医薬品との相互作用の問題が生じることがある。内容や実践の程度を評価し、患者自身に不利益とならないよう適切な情報提供が必要となる。

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地域につなぐがん看護の重要性

 骨転移は、全てのがん腫において進行がん(StageⅣ)となる。骨転移そのものは直接的に予後に影響しないため、他の臓器への転移ほど優先度が高くない。しかし、骨転移の影響により骨折や疼痛、麻痺が生じると患者のADLは突然大きく低下し、QOLが著しく低下する。麻痺は、一旦生じると一生障害が残る。患者は、今まで当たり前にできていたことができなくなり、生活の再構築や骨転移の病態と向き合うことを余儀なくされる。そのため、患者の生活や生きる価値観を患者・家族とともに話し合うことが必要である。

 近年は、がん治療が発達し生存期間が延長している。よって、がんを患いながらも地域社会のなかで、自分で動けて、生活ができる機能予後が重要となってくる。しかし、骨転移の予兆や対処方法などの予備知識をもつ医療者や患者がまだまだ少ないのが現状と言える。骨転移の患者が退院する際には、患者個々によって骨転移の部位や予測される機能予後が異なるため、注意しなければならない生活動作なども含めて、在宅医や訪問看護師、ケアマネジャーたちと話し合い、地域社会で生活できるように調整する必要がある。

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 がん対策基本法施行以降、わが国でも国民一人一人が正しくがんを理解し、共存する社会を築くことが求められている一方で、医療者の多くが骨転移を正しく理解できていない現状がある。「骨転移=末期がん」「骨転移=骨折(動いてはいけない)」というイメージが先行し、リハビリテーション職種や在宅を支える医療・福祉関係者の多くが骨転移に関連する悩みを抱える機会は多い。

 地域で暮らす人々を地域で支える「地域包括ケア」が進められるなかで、がん患者が安心して地域で暮らしていくためには、より多くの関連職種が骨転移を正しく理解し、個々の患者の生活を支えることが重要である。本稿では、骨転移を伴う進行がん患者の生活と地域での暮らしに焦点を当てて、求められる支援のあり方について考える。

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 薬剤管理は非常に大切である。入院中であれば患者の意識も高く、看護師を中心に日々の薬剤管理をサポートしてくれるため、多くの患者はしっかり薬剤管理をすることができる。しかし、退院してしまうと入院中にできていた薬剤管理ができなくなってしまうことが少なくない。服薬に対するモチベーションの低下や、医療者による継続したサポートを受けることが難しいことが原因のひとつとして考えられる。特に、予防投与については、頭でその必要性がわかっていても、実際に症状が出ていない、または進行がんという衝撃を受けた患者の心理状態を考慮し服薬の意義を見いだし、良好な服薬アドヒアランスを維持するためにも、医療スタッフによる介入は必須と考えられる。服薬は入院という特殊な条件のときのみできていても意味がなく、患者が退院して、自宅や施設などでも入院時と同等の薬剤管理を継続できることが大切である。医療スタッフは、その患者に関わる人が協力できる環境を整えることまで見据えて介入する必要がある。

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 がんと診断されたとき、治療が長期にわたり日常生活に支障が生じるとき、患者はさまざまな不安や悩みを抱える。殊に骨転移を伴う進行がんは、痛みや神経障害による麻痺を生じることがあり、暮らし全般に多大な制限をもたらす。ここではそのような状況のなかでも、その人らしく社会生活を送るうえで必要な資源とその活用法について提示する。

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 弊社のサービスを利用する顧客数(以下、「利用者」)は訪問看護ステーションと看護小規模多機能型居宅介護事業所だけで150名/月ほどであり、主病名ががんである利用者は全体の20%、そのうち骨転移を伴うがんの利用者は24%である。

 先進的な医療と同じく、地域連携や地域医療のあり方も大きく変化し、地域には素晴らしい進歩が存在している。このことは、がん患者にも有益に活用されている。

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 難しいテーマですが、まず歴史を振り返って現在の状況に影響を与えたトピックを回想し、それに社会情勢を加味して、今後の骨転移や進行がんへの対処になにが必要かを予想してみます。

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症例提示

79歳、男性。PS1。セカンドオピニオンで来院。

主訴

腹部膨満感、下痢。

連載 患者さんに「寄り添って」話を聴くってどういうこと?[2]

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今回の登場人物

山崎美恵さん:卒後5年目の看護師。

乳腺病棟に配属され、身体的なケアに加えて患者さんが安心できる、寄り添うようなケアを提供したいと思って日々がんばっている。しかし、病状が厳しく、精神的にもつらそうな患者さんのケアについてはどうしたらよいのか戸惑うことも多く、試行錯誤中。

清水先生:がん患者とその家族のケア(精神腫瘍学)を専門とする精神科医。

心理的な問題に関するコンサルタントとして、担当医や看護師など他の医療者が困るケースの相談も積極的に受けるようにしている。

松田麻実さん:35歳、女性。乳がん(再発告知直後)。

腰椎に骨転移を認め、放射線治療および鎮痛薬の調整目的にて入院となった。専業主婦で夫と5歳の息子との3人暮らし。

*清水先生を除き、全て架空の人物です

連載 國頭ゼミの課外授業 わたしたちは、こう考える[3]

燃え尽き症候群 國頭 英夫
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はじめに

國頭 さて、私が日赤看護大学で1年生を対象にやっているコミュニケーション論のゼミ〔『死にゆく患者と、どう話すか』に講義録としてまとめ、2016年10月に出版〕のスピンオフ企画シリーズの第3回です。

 今回のテーマは、患者さんの問題ではなくて、医療者側の問題を取り上げます。「燃え尽き症候群(バーンアウト)」は、厳しい労働環境にある全ての医療者の問題で、ある集計ではオンコロジスト(内科領域、放射線領域、外科領域)の28〜38%が経験している、という驚くべき数字が挙げられています1。私の手元にある資料はどうしても医者側のものが多いのですが、当然同じ問題はナースにもあるはずで、どころか日本ではより深刻でしょう。本誌でも、2018年の第1号で「マインドフルネス」が特集されています(Cancer Board Square vol.4 no.1 特集「マインドフルネスを医療現場に活かす」)が、そのなかにも“看護師の燃え尽き症候群予防のためのマインドフルネス”という一項が設けられているくらいです。

 レイとチカには、Kelly Cottonという人が2018年2月にASCO Connectionに書いた、“Resilience While Caring for Seriously Ill Patients: Skills and Strategies to Prevent Burnout”という論文2を渡して読んでもらっておきました。これは、タイトルを見てもわかるように、いかにしてバーンアウトにならないようにするか、というものです。ちなみにこの論文では、若い医者は研修期間中に過半数がバーンアウトを経験する、と書いてあります。

連載 臨床医のためのワンテーマ腫瘍病理[10]

情拳設定 市原 真
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 かつて、「細胞を見ること」が可能だなんて思いもよらなかった時代がありました。細胞をどう見ればいいのかすらわからなかった時代がありました。さまざまな染色が現れたことで、人類はようやく、細胞をどのように見ればよいのかわかりました。HE染色をはじめとする「染め物」で浮かび上がった模様を次から次へと暴きまくることで、組織形態診断学は長足の進歩を遂げたのです。

 HE染色が核をハイライトしたことから、病理学者たちは核を研究対象にしました。核にはなにが含まれているのか、核小体とはどういうときに顕在化するのか、核膜が薄くなったり濃くなったりするのはどういうときかを調べ始めました。細胞分裂の周期が解析され得たのは、染色体の挙動が逐一可視化できたからと言っても過言ではないでしょう。電子顕微鏡の導入によって細胞内小器官が次々と明らかになるよりはるかに昔から、「核の周りには明るい部分があり、臓器によってこの明るい部分の広さは違うらしい」ということがわかっていました。後に、この核周囲の明るさはゴルジ野の大きさと関連していることがわかり、細胞が特定の機能を有するときにはゴルジ野が広くなりがちだ、という所見が納得をもって迎え入れられます。ミトコンドリアと好酸性細胞質、分泌機能とチモーゲン顆粒、線毛と呼吸機能、核内封入体と感染の関与……。とかくさまざまな細胞構造を、病理学者たちは必死で「見分けて」いったのです。

連載 これからの免疫療法の話をしよう[9]

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はじめに

 前回の連載第8回では、がん免疫療法に関連するバイオマーカーについて解説しました。今回は、がん種別の免疫療法の開発状況について解説させていただきます。

 また今回のテーマに連動するトピックスとして、①臓器横断的治療としての高頻度マイクロサテライト不安定性、またはミスマッチ修復機構の欠損を有する切除不能・転移性の固形がんに対する免疫チェックポイント阻害剤(immune-checkpoint inhibitor;ICI)の有効性、②ICIと局所放射線療法との組み合わせ治療の可能性についても紹介させていただきます。

連載 Medical Oncology 2.0[5]

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アウトカムとプロセス、どちらが大切なのか?

 私の人生でいつも迷うことがあります。「結果が全て」なのか? それとも「過程が大事」なのか? 学生時代、部活でスポーツに打ち込んでいたときも社会人になって仕事に取り組むときも、どちらが大切なんだろうとよく考えていたものです。

 医療現場ではどちらが大切なのでしょうか? 患者さんの立場からすれば「結果が全て」かもしれません。テレビや映画などフィクションの医療ドラマでは、「破天荒な医師が独創的な手技で患者さんを完治させる」という話がありますよね。それはそれでよいような気もします。しかし、現実には「再現性の高い標準化された診療プロセスを踏むことで適切な診療に導く」ように医学教育や臨床研修は行なわれています。ですが、適切なプロセスを経た診療が最良の結果をもたらすかというと必ずしもそうではありません。これが、「過程が大事、プロセス重視」のアプローチがもつ弱点です。

連載 漢方のすゝめ—支持療法における処方の考え方[5]【最終回】

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はじめに

 これまでに4回にわたって、支持療法における漢方薬使用の重要性を紹介し、併せて科学的エビデンスを有する漢方薬として半夏瀉心湯、六君子湯、大建中湯を紹介した。これらの漢方薬は基礎研究、臨床研究を通して科学的エビデンスが多く出され、「なぜ効くのか?」「本当に効くのか?」についての検証がなされている。最終回となる今回は、漢方薬の臨床使用の今後の発展に向けた問題点、および高齢者数のピークを2040年に迎えるなかで、今後の医療体制における漢方薬の貢献への期待などを紹介する。

連載 これからのがんサポート[10]【最終回】

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がんになっても安心できる社会のかたち

 皆さん、こんにちは。2015年10月の創刊以来連載してきました「これからのがんサポート」も、今回が総仕上げとなります。読者の皆さまをはじめ、出版に携わってこられた全ての方々への感謝を胸に、がんになっても安心できる社会のかたちについて、がん専門相談員である医療ソーシャルワーカーの視点からまとめてみたいと思います。

 医療ソーシャルワーカーは、人々が安心して医療を受け、再びその生活を始められるよう、受診・受療から社会復帰、地域づくりにいたる幅広い社会福祉援助を行なうことが使命です。私もがん専門相談員となって、主としてがん患者・家族の皆さんとお会いするようになってからも、この軸はぶれていません。

連載 フクシマ日記—A diary from Fukushima[10]【最終回】

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 東日本大震災から7年半が過ぎようとしています。

 毎月11日の月命日には、今も沿岸部での捜索活動が続けられていますし、リアルタイム線量計が県内約3,000ヶ所に設置されており、NHKのお昼のニュースでは天気予報のように県内各所の現在の空間線量が放送されています。時間の経過とともに、人々の記憶からは薄れていく部分もありますが、時折、その現実に直面しながら今もさまざまな努力が続けられています。

連載 人間はいつから病気になったのか—こころとからだの思想史[10]【最終回】

痛みと生命 橋本 一径
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生まれずに生きる

 心臓などの臓器の移植を待ち望む患者の数が増え続ける一方で、臓器の提供数が伸び悩んでいるのは、世界的な傾向である。大半の移植が脳死患者から提供される臓器を当てにしている限り、この実践から、「他人の死を待ち望む」という側面を一掃するのは困難であろう。臓器移植は他人の死と引き換えであるからこそ、一部からはカニバリズムや「屍肉食い」にも比されて、忌避されてきたのである。ブタなどの体内で作られた臓器を移植する「異種移植」、更には臓器だけを試験管内で培養する「器官培養」の技術に期待が寄せられるのもこのためだ。

 ブタから摘出した臓器であれば、少なくとも人間の死を引き換えにする必要はないし、試験管で培養された臓器ならば、動物の命を犠牲にしなくても済むだろう。試験管の中で脈打つ心臓は確実に「生きて」いるが、その「生」は特定の個体と結び付いていない。それはちょうど胎内の、個体として生まれる前の胚にも似ているが、しかし胚とは異なり、いくら成長を続けても、それが個体として誕生する日は決して訪れない。決して生まれないが、確実に生きているこの奇妙な存在を、前回のこの連載で私たちは「未生の生」と名付けたのだった。

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Cancer Board Square
4巻3号 (2018年10月)
電子版ISSN:2189-6429 印刷版ISSN:2189-6410 医学書院

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