連載 臨床医のためのワンテーマ腫瘍病理[10]
情拳設定
市原 真
1
1札幌厚生病院病理診断科
pp.539
発行日 2018年10月15日
Published Date 2018/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1430200353
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かつて、「細胞を見ること」が可能だなんて思いもよらなかった時代がありました。細胞をどう見ればいいのかすらわからなかった時代がありました。さまざまな染色が現れたことで、人類はようやく、細胞をどのように見ればよいのかわかりました。HE染色をはじめとする「染め物」で浮かび上がった模様を次から次へと暴きまくることで、組織形態診断学は長足の進歩を遂げたのです。
HE染色が核をハイライトしたことから、病理学者たちは核を研究対象にしました。核にはなにが含まれているのか、核小体とはどういうときに顕在化するのか、核膜が薄くなったり濃くなったりするのはどういうときかを調べ始めました。細胞分裂の周期が解析され得たのは、染色体の挙動が逐一可視化できたからと言っても過言ではないでしょう。電子顕微鏡の導入によって細胞内小器官が次々と明らかになるよりはるかに昔から、「核の周りには明るい部分があり、臓器によってこの明るい部分の広さは違うらしい」ということがわかっていました。後に、この核周囲の明るさはゴルジ野の大きさと関連していることがわかり、細胞が特定の機能を有するときにはゴルジ野が広くなりがちだ、という所見が納得をもって迎え入れられます。ミトコンドリアと好酸性細胞質、分泌機能とチモーゲン顆粒、線毛と呼吸機能、核内封入体と感染の関与……。とかくさまざまな細胞構造を、病理学者たちは必死で「見分けて」いったのです。
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