連載 がん医療スタッフの基本スキルを小説から学ぶ[1]【新連載】
安部公房『砂の女』—告知後の当事者と医療者の役割
金 容壱
1
1淀川キリスト教病院腫瘍内科
pp.318-324
発行日 2016年7月15日
Published Date 2016/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1430200088
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
告知という“思いもかけない”出来事
物語を介することでリアリティーは色あせることなくその衝撃を読者に伝えますⅰ。数々の小説で扱われてきたテーマのひとつに、「思いもかけない衝撃的な体験」というものがあります。今回は安部公房『砂の女』を題材に、がんの告知が引き起こす心のありようと人間関係の大きな動きをみてみましょう。
これまでの世界観が崩れ、価値観が覆されるような事態に遭遇すると、人の心は大きく揺らぎます。なぜなら、私たちは安定した世界観(認知構造)(point1)のなかで日々過ごしているからです。努力したら報われる。親切にしたら感謝される。夜寝たら朝目が覚める。秩序立っていて、極端に言えば予測可能な世界です。しかし、事故や事件、死別、失職、疾病などでこのような世界観が突然崩れ去ることがあります。認知構造が崩れると、未来が突然つぶされたように感じられます(心理的危機)(point2)。
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.