INTENSIVIST 1巻4号 (2009年10月)

特集 不整脈

1.不整脈診療の歴史的変遷

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■From BC to AC

今から20年前の1989年,CAST*1の初期報告が発表されると,世界中に激震が走った。よかれと思って行った治療が,実は無効どころか,反対に死亡率を高めてしまう悪しき治療であったのである。このCASTが,その後の不整脈診療へのアプローチに与えた影響は計り知れない。CASTの前(Before CAST:BC)とCASTの後(After CAST:AC)とでは,明らかに不整脈診療の流れが変わった。CASTの結果,不整脈の診療が恐れられ,あるいはあきらめられかけた時期を経て,やがてそのおかげで,より科学的で,より安全なものへと導かれた(表1)。ここでは,この革命的臨床試験の前と後(BC vs AC)でどのように考え方が変わったのかを追うとともに,その後に飛躍的に成長した非薬物療法や,より上流の基礎病態を重視したupstream治療に向けて,不整脈診療の流れが移りゆく背景と概観を展望し,最後に集中治療領域で働く医師への助言を述べることとする。

2.不整脈診療の基本「心筋とイオンチャネル」

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■総論

心臓刺激伝導系各部位の活動電位波形と体表面心電図

心臓は自発的に興奮し,その興奮伝導が心臓全体に波及し,収縮拍動を続ける。これは右房と上大静脈の境界部に自発的興奮を繰り返す洞房結節が存在し,その電気的興奮が心房,房室結節,His束,脚,Purkinje線維を経て,作業心室筋に伝導するためである(図1)。

 心臓各部位の活動電位波形にはかなりの差異が認められる。洞房結節細胞の活動電位は-50mV前後の比較的浅い膜電位からゆっくりとした脱分極を示す。洞房結節で発生した電気的興奮は心房全体に伝導する。心房筋細胞の活動電位は静止膜電位が-85mV程度であり,そこから比較的速い脱分極速度で脱分極する。心房電気興奮は房室結節に達するが,房室結節細胞の活動電位は洞房結節細胞と同様に比較的浅く,活動電位の立ち上がり速度が遅く,結節内の興奮伝導速度は遅いものとなる。房室結節を通過した興奮伝導は,His束に伝導し,心室中隔を下降しながら右脚および左脚に伝わり,左脚はさらに分岐して前枝と後枝となって,Purkinje線維として心室内面に興奮を伝播する。Purkinje線維では深い最大拡張期電位を示し(-90mV以上),非常に速い立ち上がり速度を示す活動電位が発生するので,その結果,伝導速度も速いものとなる。Purkinje線維を経由した電気的興奮は心室組織全般に素早く興奮を伝播するが,心室筋の活動電位もその静止膜電位は深く(-90mV程度),比較的速い立ち上がり速度を示す。

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Vaughan Williams分類

従来,抗不整脈薬の分類はその電気生理学的特性から分類されたVaughan Williams分類(表1)が用いられてきた。抗不整脈薬は4群に分けられ,Ⅰ群はナトリウム(Na)チャネル遮断作用,Ⅱ群は交感神経β受容体遮断作用,Ⅲ群は活動電位持続時間延長作用〔カリウム(K)チャネル遮断作用〕,Ⅳ群はカルシウム(Ca2+)チャネル遮断作用を有する。さらにⅠ群は,再分極過程への影響からⅠa群(活動電位持続時間延長),Ⅰb群(短縮),Ⅰc群(不変)に細分されている1)。この分類は簡便であり,日常診療においても有用である。

 しかし,それぞれの薬物の電気生理学的特性の解明と新薬の開発により,多くの抗不整脈薬が複数の作用を有することが明らかになり,細分類が困難であること,また,ジギタリス,アデノシンなど,抗不整脈薬作用を有する薬がことごとく網羅されていないことなど,Vaughan Williams分類には限界がある(表2)。

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ナトリウム(Na)チャネル遮断薬は従来,Vaughan Williams分類でI群に分類されてきた抗不整脈薬である。ただ,一概にNaチャネル遮断薬といっても,薬理作用がまったく同一な薬はなく,各薬物によって異なる。臨床では各Naチャネル遮断薬の特徴を理解して使い分けることが重要であろう。

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Ic flutterとは?

これまでの章で触れられてきたように,右房はその独特の構造により安定したマクロの電気的リエントリー回路 macro re-entrant circuitを形成しやすく(図1-C),実際,ほとんどの心房粗動(約85%)が右房の中で心房中隔を上行し,右房自由壁を下行するリエントリー回路を起源としている1)

 一方,心房細動は,異論はあるが,おおよそ次の3パターンによって発生することが知られている。

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本邦で使用可能なカリウム(K)チャネル遮断薬は,アミオダロン(静注,経口),ニフェカラント(静注),ソタロール(経口)の3種類である。本章では,これらの薬物の誕生の経緯および,Kチャネル遮断薬の薬理作用,利点,使用上の注意点について概説する。また,アミオダロンについては,その他のKチャネル遮断薬との違いならびにマルチチャネル遮断作用について説明する。

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筆者が米国での内科研修中に最も頻繁に使用した静注用の抗不整脈薬はアミオダロンであった。米国では,プロカインアミドやフレカイニドは循環器医の指示のもとに投与されることが多いが,静注用アミオダロンは比較的安全で効果があるため,循環器医以外の医師の判断で投与されることがあり,緊急時は研修医レベルの判断で投与されることもしばしばあった。

 アミオダロンは他の抗不整脈薬に比べて催不整脈作用が少なく,心拍出量も低下しないため,心室性不整脈だけでなく,上室性不整脈(特に心房細動)に対し,心機能低下症例でも使用できる。また,経口アミオダロンと違い副作用も少ないため,非常に使いやすい薬物である。日本でも2007年に発売されており,その使用方法,副作用に精通しておく必要がある。本稿では,米国のHeart Rhythm Society(HRS)によるアミオダロン使用に関するガイドライン1,2)を中心に,静注用アミオダロンについて症例提示を交えて概説する。

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ニフェカラントは日本で開発され,1999年に承認されたカリウム(K)チャネル遮断薬であり,アミオダロンと同じくVaughan Williams分類のⅢ群に分類される抗不整脈薬である。心室性不整脈に有効とされ,静注用アミオダロンの認可の前に使用されていたことから,日本の現場ではよく使用されるが,欧米ではいまだ承認されてはおらず,アミオダロンほど多くの臨床データはまだない。本稿では,ニフェカラントの薬物特性や日本での臨床研究を紹介し,アミオダロンとの比較(表1)について述べる。

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β遮断薬は文字通り“遮断薬”であり,その対象がβ受容体であることは“釈迦に説法”。とはいえ,まず最初に,基本的な薬理の話を少し。遮断薬と対比する薬物として作動薬がある。β遮断薬ならβ作動薬になるが,このβ作動薬が心臓のβ受容体に作用すると(詳細は後述),心筋収縮力や脈拍の増加が現れる。という具合に,作動薬と呼ばれる薬物は特定の受容体に結合して生体にさまざまな作用をもたらす。そのなかにはありがたいものもあれば,そうでないものもある。臨床では,同じ作用でも,時にはありがたく,時にはありがたくなかったりする。

 一般的に遮断薬と呼ばれる薬物はたくさんあるが,そのほとんどが,その薬物そのものが何らかの作用を有するものではない(ミニ知識1)(図1)。β受容体への作動薬や作動物質の結合と競合して,結果として作動物質の受容体への結合を減らすことで,もともとのβ受容体への作動物質の作用を弱めることが,その薬理作用である。つまり,β作動薬の作用を理解することで遮断薬の作用もおのずと理解できるのである。

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intensivistが集中治療の現場で積極的にβ遮断薬の使用を迫られる事例は現在のところ限られており,そのほとんどが心房細動などの上室性頻脈性不整脈や,周術期の心事故予防のためのrate controlであろう。ただし,使用事例が限られているとはいえ,遭遇する症例数としては,術後不整脈のケースなど数多く認められ,日頃から扱い方をよく身につけておかねばならない薬物である。また,急性大動脈解離や急性心筋梗塞の急性期管理にかかわることもあり,β遮断薬に関する深い理解と応用力が要求される。

 本稿では,臨床でよく使用されるβ遮断薬の特徴を簡単にまとめ,周術期の使用,そして最近その有用性が評価されつつある超短時間作用型静注用β遮断薬から内服薬への切り替えのタイミングを中心に述べる。

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我が国において使用可能な静注用β遮断薬は,プロプラノロール,エスモロール,ランジオロールである。このうち,超短時間作用型でβ1選択性を持つエスモロールとランジオロールは,手術中の頻脈性不整脈に対し使用されてきた。さらに,我々集中治療医には福音であるが,2006年10月にランジオロールの保険適用が「手術後の頻脈性不整脈」へ拡大された。ランジオロールの国内売上(2008年度で約8万バイアル)推移を,あくまで「短時間作用型β遮断薬の集中治療領域での認知と使用の経時的変化」という観点からみると,2006年を機に大幅に増加し,その後も右肩上がりの漸増を示している。このことを考えると,集中治療領域で短時間作用型β遮断薬は不可欠な薬物なのだろう。

 本稿では,集中治療における心房細動治療を,短時間作用型β遮断薬の使用意義と絡めて考えていく。

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ジギタリスは植物由来の生薬に含まれる成分として精製単離された強心配糖体cardiac glycosideと呼ばれる薬物群の総称であり,現在のように種々の心疾患治療薬のなかった時代から用いられてきた古典的治療薬である。これまで急性および慢性の心房細動の心拍数コントロールや心不全治療のオプションとして広く用いられてきた。一方で,治療域が狭く,時には血中濃度が治療域内であっても副作用(ジギタリス中毒)が出現することもあり,そうしたときに半減期が長いため使い勝手が悪い面もあることが知られてきた。

「ジギタリスは善か悪か?」答えは簡単ではない。以下に症例をまじえてジギタリスの使用法,注意点をエビデンスに基づき概説する。なお,ジギタリス製剤にはさまざまな製剤が存在する。しかし,筆者の知るかぎり,唯一ジゴキシンがさまざまな無作為化試験による臨床的アウトカムが吟味されているものであり,ジゴキシンのデータをもとに概説する。

4.心房細動治療の科学と実践:洗練された心房細動治療とは?

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■心房細動ガイドラインを理解するうえで重要な臨床試験

心房細動治療について,本邦のガイドラインと欧米のガイドラインを比較・解説する前に,最近の心房細動に関する臨床試験の結果を整理する必要があるだろう。以下,過去10年の重要な臨床試験の結果について概説する。ガイドラインの背景を理解していただければ,多少とも頭の整理に役立つと思われる*1

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心房細動は,循環器専門医のみならず,広く一般医も理解すべき不整脈である。1902年,Einthoven1)によって初めて心房細動の心電図記録がなされて以来,極めて一般的な不整脈であるにもかかわらず,いまだその成因・治療について解決されたとはいえない状況にある。歴史的には,1909年にジギタリスの効果が報告され,続いて1914年にキニジンの効果が報告されている。1900年代初頭には,すでに現在の治療の主流であるrate controlとrhythm controlという概念が存在した。この2者の選択は,現在でも議論が絶えない部分である。心房細動を考えるうえで何がこれほど難しくしているのか。これについては,(1)心房細動の成因が多種多様であり,細胞レベルのメカニズムは徐々に解明されてはいるものの,個々の症例にどの要素がどの程度関与しているのかについては不明な点が多いこと,(2)無症候例も多く,発生時期が正確には把握できないため,病状・病期が個々でまったく異なること,などが問題として挙げられる。

 本稿では,心房細動の成因の概略を理解し,予防・治療を理論的に解釈できるように,発生・維持という2つの観点から電気的リモデリングならびに構造的リモデリングについても触れる。さらに,集中治療へどのように還元できるのかも考えてみたい。

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心房細動は心房収縮の消失や不規則かつ速い心室レートなどのため循環動態を悪化させ,心不全の発症・増悪を促進する。また,そのための動悸や呼吸苦の症状を訴え,集中治療・救急対応となることが多い。集中治療において心房細動への治療の介入が必要な時を考えてみると,①頻脈による症状,②頻脈による心不全,③頻脈による血行動態の破綻,の3点の場合がほとんどであろう。そのいずれに対しても,基本的治療戦略としてrhythm controlとrate controlの2つの異なる治療戦略が存在する。しかしながら,③に関しては,生命維持にかかわる血行動態を直ちに改善しなければならず,早期の電気的除細動が必要であるため,本稿ではあえて論じない。ここでは,心房細動に対するrate controlの選択について,その適応と妥当性についてみていく。

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短時間作用型で選択的なβ1遮断薬であるランジオロールとエスモロールが本邦において発売されたのは2002年であり,ほぼ7年の月日が流れたことになる。当初は,麻酔中の頻脈および心房細動などの上室性頻脈性不整脈への適応とされていたが,もっぱら麻酔中の洞性頻脈がその主たるターゲットであった。この2剤の大きな特徴を1つだけ挙げるとすれば,それはβ1選択性や短時間作用性もさることながら,何といっても注射薬,つまり静脈内投与が可能という点であろう。

 本コラムでは,麻酔管理から術後管理を含めた,周術期管理における心房細動の治療として話を進めていきたいと思う。

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■集中治療における心房細動ガイドラインがない理由

集中加療中における心房細動について,しばしば治療方針が決定できず治療に難渋することがある。この理由には以下の2つが挙げられる。

1.集中治療に限らず,心房細動の治療には多くの治療手段があり,その優劣が完全には決定していない(非劣性はある程度示されている)。

2.心房細動の治療においては電気生理学や血行動態の理論に従って「有利と思われる治療」が否定され,理論に従ったというだけでは臨床アウトカムが必ずしも改善しないことがわかった。

日本循環器学会(JCS)のガイドラインも,この理由により決定的な治療方針を示すことができていない。抗不整脈薬の選択についても,理論に従った選択が必ずしも効果を表さず,アミオダロン以外の薬物については決定的な選択基準が示されていない。

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高齢化社会の進行とともに,非弁膜症性心房細動 nonvalvular atrial fibrillation(NVAF)が増加している。心房細動はその持続期間により,発作性心房細動(発症より7日未満で自然停止するもの),持続性心房細動(発症7日以上でカルディオバージョンにより洞調律に復帰するもの),永続性心房細動(カルディオバージョンを行っても洞調律に復帰することのないもの)の3つに分類される。一般に,非弁膜症性心房細動に抗血栓療法を行わなければ,年間1~5%の頻度で塞栓症が起きるが,この頻度は心房細動の持続期間にかかわらず同等である1)。このため,心房細動管理において塞栓症(特に脳梗塞)の一次予防の重要性が高まってきた。

 抗血栓療法は,抗血小板療法(アスピリンなど),抗凝固療法(ワルファリン,ヘパリン),および血栓溶解療法(t-PAなど)の3つに分類されるが,心房細動による塞栓症の予防には抗凝固療法が最も有効である。本稿では,非弁膜症性心房細動における脳梗塞リスクに基づいた予防治療や,経食道心エコー法による塞栓源の精査について述べる。

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心房細動(AF)は一般的に発作性心房細動 paroxysmal AFから始まり,発作と停止を繰り返し経過していく。長期的には発作の頻度は増加し,その持続時間は延長していき,やがて停止することのない持続性心房細動 persistent AFから永続性心房細動 permanent AFに移行する。発症初期には,発作性心房細動の薬理学的除細動の効果は比較的良好であるが,罹病期間が長くなるとその効果は減弱し,薬物療法に対しても抵抗性となることが知られている。

 これは心房細動自体が心房細動を誘発し,持続させやすくなるという“AF begets AF”1)という言葉で表わされるが,この背景にはリモデリングというメカニズムがあることが明らかとなっている。図1は動物モデルで心房頻回刺激〔burst pacing(ペースメーカによる頻脈刺激)〕を毎日行うことにより,次第に心房細動の持続時間が延びていき,2週間後に持続性の心房細動となる様子を示している。

 このリモデリングには,活動電位を形成する心臓イオンチャネルや,細胞間接続を形成するgap junctionなどのタンパクの発現量の変化による電気的リモデリングと,心筋細胞および間質の線維化といった構造的リモデリングが存在することが最近の研究によって明らかになっている。これら2つのタイプのリモデリングを念頭におくことは重要である。

 電気的リモデリングに対しては,メカニズムを考慮した抗不整脈薬の使い分け,構造的リモデリングに対しては,いまのところ,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)によるupstream治療によるアプローチが試みられている。

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心房粗動は,基礎的心疾患を有する患者だけではなく,術後においても全身状態が不安定な場合に,集中治療室(ICU)でたびたび遭遇する不整脈である。しかし,心房粗動は往々にして薬物療法および除細動などの非薬物療法に抵抗性が非常に強いため,対応に苦慮することが多い。また,心房細動に続発して発症することも多く,両者の病態的な相違点を理解することは,治療を考えるうえで参考になると思われる。

 本稿では,心房粗動の成因がその治療に深くかかわっていることを解説するとともに,難治例をどのように考えて治療していくのかについて,心房細動に対する治療と比較しながら紐解いてみよう。

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心室は血流を作り出すエンジンであり,その機能不全は生命の危険へ直結する。心機能不全は,①ポンプの不調(心不全),②調律の不調(心室性不整脈),③その混合状態,に大別できる。特発性心筋症や心筋梗塞後の心不全は「ポンプの不調」,QT延長症候群やBrugada症候群は「調律の不調」,心室性不整脈を伴う心不全は「その混合状態」である。本稿では,②の心室性不整脈の治療に焦点をあてるが,心室性不整脈がなぜ危険なのかといえば,心臓のポンプ機能に重篤な悪影響を及ぼすためである。極端な話,たとえ心室性不整脈が持続していても,ポンプ機能(心拍出量)に影響が出なければ,人間は通常通りに活動できるのである。しかし,実際には,不整脈(インプットとしての電気信号)とポンプ機能(アウトプットとしての機械的収縮)は密接に関連しており,ポンプ機能を改善するために不整脈治療は不可欠である。以下,まず心室性不整脈治療概念のいくつかに簡単に触れ,次に個別の治療法について述べる。

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心室性不整脈には,心室性期外収縮(PVC),心室固有調律 idioventricular rhythm,心室頻拍(VT),心室細動(VF)などがある。心室由来の不整脈は12誘導心電図でP波と連結しない,wide QRS complex(幅の広いQRS複合)を見つけることで診断できる。しかし,wide QRS complexが必ずしも心室性不整脈ではなく,上室性由来の調律でも変行伝導aberrancyなどの特殊状況下でwide QRS complex になりえる。変行伝導は,His-Purkinje系(通常は右脚)がまだ相対不応期を脱しないうちに次の刺激が到達して生じる生理的な脚ブロックである。一般的に,上室性頻拍(SVT)に比べ,心室頻拍は血行動態に与える影響が大きく,心室細動,心停止へと移行する可能性も高い。しかし,上室性頻拍はいつも「良性」ではなく,心拍数が十分速くなれば(例えば,250bpm以上)心拍出量減少を引き起こし,動悸のほかに,ふらつき,めまい,失神などの症状が生じる。一方,心室頻拍がいつも重篤な症状を伴うわけでなく,心拍数150bpm以下の,いわゆるslow VTの場合は,患者本人にまったく自覚症状のない場合もある。

 このように,心拍数や症状のみからの上室性頻拍と心室頻拍の鑑別はほぼ不可能であるが,上室性頻拍と心室頻拍では治療法と予後が異なるため,2つの頻拍の鑑別は重要である。鑑別不能な場合は電気生理検査(EPS)に頼るしかないが,病歴,身体所見,12誘導心電図の組み合わせで正しい診断に近づくことが可能である。本稿では,心室頻拍の治療根拠となる診断方法,種類,また心室頻拍を引き起こす特殊な病態について説明する。

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■実践的な“単純虚血ルール”

wide QRS頻拍症の診断のコツであるが,筆者が聞いたなかで一番簡単で,なおかつ現実の集中治療診療の場で精度が高いものといえば,

「虚血性心疾患が絡んでいればすべて心室頻拍(VT)と思って対応しろ」

というものである。この単純虚血ルールは,器質的心疾患を持つ症例でwide QRSの上室性頻拍supraventricular tachycardia(SVT)と比較して心室頻拍/心室細動を見逃すリスクはあまりに大きいという考え方によるもので,虚血性心疾患の多い欧米諸国では広く用いられている法則である。

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心室性頻拍性不整脈〔心室頻拍(VT)/心室細動(VF)〕はしばしば致死的であり,電気ショックや薬物治療に抵抗性の心室性不整脈の予後は極めて不良である。集中治療における心室性不整脈は急性冠症候群acute coronary syndrome(ACS),開心術,心不全などの治療目的で入院中の患者に心室頻拍/心室細動が発症する場合と,そもそも心室頻拍/心室細動のコントロールのため入院となる場合がある。

 心室頻拍/心室細動をきたす要因は表1の通りであり,その予防のためには,第一に「できうるかぎりその要因を排除すること」である。集中治療室に入室している患者は,複雑な病態を合併し,かつ病状も重篤であることから心室頻拍/心室細動の要因をすでに持っている可能性があるといってもよい。さらに心機能低下,腎機能低下,肝機能低下は,抗不整脈薬の陰性変力作用,催不整脈作用を増強させる可能性もあり,薬物の使用方法に細心の注意を払う必要がある。

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リドカインは不活性化状態のナトリウム(Na)チャネルを遮断する作用を持ち,チャネルとの結合・解離速度が速い特徴がある。これは,Naチャネルが閉鎖状態,すなわち拡張期に入るとただちに解離して遮断が解除unblockされた状態となることを意味する。心周期における収縮期と拡張期の割合は,心房筋で1:7,心室筋で2:3と,いずれも拡張期のほうが長い。頻脈時には収縮期・拡張期ともに短縮するが,短縮する割合は拡張期のほうが大きいため,頻脈時には拡張期の短縮時間が長くなる。すなわち,Naチャネルの閉鎖時間が短くなるため,Naチャネル遮断薬によりブロックされるチャネルの割合が高くなる(図1)。

 したがって,単発の心室性期外収縮(PVC)が散発しているときに使用するよりも,持続する心室頻拍(VT)もしくはインセサント型心室頻拍で使用するほうが理論的であるといえる。また,Naチャネル遮断からの解離速度は,高カリウム血症や心筋虚血時に遅くなるため,Naチャネルの遮断作用は正常心筋よりも虚血などの病的心筋で強く認められる1,2)

 心室性不整脈におけるリドカインの扱いを,以下のA~Dのガイドラインごとに確認することで,今後のリドカインの行方を探る。

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カテーテルアブレーションとは,電極付きカテーテルを用いて心筋組織を壊死させ,不整脈の原因となるリエントリー回路を断ち切ったり,異所性興奮部位を壊死あるいは隔離させることにより,頻脈性不整脈を根治する治療法である。現在,アブレーションに用いられるエネルギー源として最も一般的なのは高周波である。心腔内に留置したアブレーションカテーテル先端電極と体表に貼付した対極板との間で高周波通電を行うことにより,カテーテル先端電極が接触している心筋組織温度を局所的に上昇させ凝固壊死させる。

 近年,カテーテルアブレーションは多くの頻脈性不整脈の第一選択あるいは第二選択の治療法として広く行われており,心室頻拍,心室細動の一部,房室回帰性頻拍,房室結節回帰性頻拍,心房頻拍,心房粗動,心房細動が本治療法の適応となり,心房細動,心室細動以外の頻脈性不整脈ではほぼ根治といってよい成績が得られている。そして,心房細動においても近年は治療技術がめざましく向上し,治療成績も著しく改善してきている。

 本章では,こうした最近の進歩を踏まえ,薬物治療に抵抗性で,緊急あるいは準緊急でのカテーテルアブレーションを検討すべき病態について記載する。

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抗不整脈薬を使用しても治療に難渋する心室性不整脈に対しては,植込み型除細動器implantable cardioverter defibrillator(ICD)が選択されることが多い。現在,ICDをどのような患者に適応していくか,また,どのような指標を参考にして使用すべきかが専門医の間で議論されている。特に心筋梗塞後や心筋症などで低心機能となった患者では,致死性の心室性不整脈をきたしやすいため,ICDを心臓突然死の一次予防,すなわち「一度も不整脈イベントをきたしたことのない患者において積極的に使用すべき」との意見も出されている。

 本稿ではまず,ICDの有用性を示した大規模試験の結果と,これまでのエビデンスを基に作成されたガイドラインの指針について述べ,これを踏まえて,どのような指標を用いてICDを適応すべきか,そして,ICDの機種選択と設定について解説する。また,関連事項として,電気的除細動の極意とelectrical storm(電気的嵐)の対処法についても解説したい。

7.集中治療における特殊病態と抗不整脈薬の選択

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本稿では抗不整脈薬の薬物動態学pharmacokineticsについて述べる。はじめに一般的な薬物動態学について総括し,次いで各抗不整脈薬のそれについて論ずる。なお,薬物動態学総論については薬理学および心臓電気生理学の成書1~3)を参照しまとめた。各論については加えて,その他文献4~9)を参照した。最後に,各薬物の薬物動態をベースに,特殊病態における抗不整脈薬の選択,投与量をどう考えるかをまとめる。

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ICUにおいて抗不整脈薬の副作用を回避する最も確実な方法は「使わないこと」である。抗不整脈薬を投与するときに,「本当にこの不整脈は出てはいけないものなのか」を考えなくてはならない。循環器疾患の少ないICUで,どうしても治療する必要のある不整脈は数えるほどしかないはずであり,多くの場合は,関係者からのさまざまなプレッシャーに負けて抗不整脈薬を投与しているのではないだろうか。集中治療医にとっては,多種類の抗不整脈薬を使い分けることよりも,しっかりとした心電図の読影と,その意義を理解しておくことのほうが重要であると考えている。本章では,抗不整脈薬の有害事象について「催不整脈作用」と,経静脈製剤が承認され,循環器内科医以外にも広まりつつある「アミオダロン」を中心に概説する。

8.「特集 不整脈」解説

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本特集の第1章「不整脈診療の歴史的変遷」を執筆された三田村秀雄先生の言葉をそのまま借りてしまうと,不整脈治療はCAST前とCAST後でまったく異なる様相を呈するようになった。CASTは「すごい(抗不整脈)薬」で心室性期外収縮(PVC)を抑え込む焦土作戦的なアプローチが通用しないことをはっきりと証明し,かつさらに重要なことに,PVCや非持続性心室頻拍(NSVT)といった,モニター上の電気現象を抑制することが最終的に生命予後の改善につながっていないことを示したのである。

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世にはすでに数多の不整脈特集の本が溢れている。ありていに言えば不整脈は,それほど若手集中治療医が渇望する分野ではないのかもしれない。そうしたなかで,今なぜ,あえて不整脈特集なのか。今なぜ,一見して集中治療とは縁遠い不整脈特集を組むのか。

 その答は,循環器科医が内科診療で取り扱う不整脈と,我々が集中治療の現場で取り扱う不整脈が大きく異なるからである。もちろん,Sicilian Gambitの知識とそれに基づいた抗不整脈薬の選択,不整脈心電図の読解力,非薬物療法についてなど,根本の知識においては循環器内科医のそれとは大きく異なるわけではない。しかし,集中治療医が不整脈診療を実践するフィールドや患者背景は,例えば,不整脈そのものが極めて重篤であったり,その他の侵襲や,それに基づく交感神経過緊張であったり,患者の重症度が高かったり,複数の不全臓器を呈していたりと,循環器領域のそれとは大きく異なる。それ故,今,世にある循環器内科の立場からのエビデンスや教科書をそのまま当てはめることはできないと考える。つまり,我々は我々なりの,集中治療という現場に通用する不整脈診療の知識を携えて,不整脈に立ち向かわなければならない。

9.あとがき

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集中治療医の素養その1は,急性期重症患者の総合内科医としての素養である。ICUで起こる一般的な問題について,その鑑別を挙げ適切な対応ができなければならない。私は,しばしば「どのような分野の疾患でも80点が取れる能力」と表現する。我々が相手にする疾患は多様で,心臓外科手術後で補助循環を必要とする患者,重症多発外傷の患者,血液疾患・膠原病・アレルギーなど究極の内科疾患,果ては産科患者まで,実に幅が広いが,この急性かつ重症患者を診る80点の能力はユニバーサルに通用する。

 素養の2番目は,ある専門分野について専門医にひけを取らない臨床能力である。毎朝の回診でチームの意思決定を行うのがICUの基本スタイルであるが,ある分野の問題が生じた時に,その分野について知識を持つメンバーが議論をリードすることになる。もちろん,必要とされる知識は専門医と同等で,治療法の吟味や選択までできなければならない。残念ながら,高度に専門化した現代医療で,1人の医師がすべての専門分野に関して高度な知識を持つことは不可能であり,チームのメンバーがそれぞれ得意な専門分野を持っていればよく,それによってチームの効率が上がる。集中治療医というアイデンティティーが確立されていない日本では,専門性を持つことにより,対外的に潰しがきく,食いっぱぐれがない,という裏事情もある。

連載 集中治療に役立つ内科ベッドサイド診断学(米国内科専門医の内科診断学)

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前回は,根拠に基づく医療evidence-based medicine(EBM)とは何か,さらにSackettらの提唱するEBMの5つのステップのうちのStep 3までを概説した。今回はStep 4,5,さらに我々が実践している米国式Journal clubについて説明する。

連載 集中治療医のための基礎医学101

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多くの医師が「循環生理」という言葉を聞いて思い浮かべるのは,前負荷,後負荷,Starlingの法則といった類の用語ではなかろうか。多くの成書がこうした用語の説明に多くの紙面を割いているが,ここでは「集中治療に役立つ」ということに主眼を置き,あえて臨床の現場において頻繁に取り上げられることの多い項目について極力生理学的に説明することとした。なお,著者は循環器内科を専攻するものであり,本稿は一般の集中治療医の持つ視点とは多少異なるであろうことを付記しておく。

連載 集中治療室目安箱:ナース/ME,私の言い分

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実は,私は集中医療関係者ではない。子供の頃,親の転勤の都合でアメリカに引っ越した。アメリカのナースプラクティショナー(NP)の資格を取得後,とある外来の医院で働いている。日本でも,NPを導入しようという動きがあり,それにかかわらせてもらっている。 NP導入により医療の質に,そして患者さんによい影響を与えることは,イギリス,アメリカ,カナダなどの研究報告でわかっているし,NPによって助かる患者さんが日本にも多くいると思う。しかし,それとは別に,個人的に一人の女性として日本でのNP制度発足を願う理由がある。それをこの匿名の場を借りて述べたい。なお,男性看護師も増えてきてはいるものの,日米ともに9割方は女性だということで,今回は女性に視点を絞ってお話することをお許し願いたい。

連載 ICUフェローからのメッセージ

第5回:米国の脳死肝移植 深澤 恭太
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今年7月13日,制定から12年の年月を経て臓器移植法改正法案が可決されました。背景には,臓器提供に関する制約が厳しく脳死臓器移植数が伸び悩んでいる点,また今年5月WHO総会において,臓器の不正売買防止を目的として,国外における移植の原則禁止が決議される見込みが高まった点(実際には新型インフルエンザのため決議は翌年に延期)などがあります。

 この新しい改正法案の下では新たに,①年齢を問わず(小児を含めて),②脳死を一律に人の死とし(臓器提供の意思がある場合に限らず),③家族の同意があれば,書面による本人の同意がなくても移植できるようになります。これにより国内では今後,脳死臓器移植が増加し,特に現在12000人といわれる移植待機患者の移植への道が開かれることが期待されるとともに,命のリレーともいえる移植医療に少しずつ道は開かれてくるように思われます。そこで本稿では,米国での脳死肝移植の流れを紹介します。

連載 日本集中治療教育研究会(JSEPTIC)

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次号目次

基本情報

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INTENSIVIST
1巻4号 (2009年10月)
電子版ISSN:2186-7852 印刷版ISSN:1883-4833 メディカル・サイエンス・インターナショナル

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