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ヒトの体内に投与された薬物は,代謝・排泄され,消失していきます.図は,薬物を静脈内投与と経口投与した場合の血中濃度推移となります.この項目では,次の各種パラメータについて解説します.
図1 にPK/PD(pharmacokinetics/pharmacodynamics)理論の概念図を示しました.a が薬物動態学(PK)で,時間と血中濃度の関係となります. b は薬力学(PD)で濃度と薬理作用または副作用の関係となります.血中濃度を介して,薬物の投与方法と薬効・副作用を結びつける考え方がPK/PD 理論といいます.抗菌薬に関しては,PK パラメータとして,Cmax やAUC(Area under the concentration-time curve,血中濃度- 時間曲線下面積),PD パラメータとして,MIC(minimum inhibitory concentration,最小発育阻止濃度,※微生物の発育を抑制する濃度)がよく用いられます.このような考え方をもとにした,PK/PD 理論による抗菌薬の分類が図2 になります1).化学構造や抗菌スペクトラムによる分類を知っておくことは抗菌薬を選択する重要な知識となりますが,選択した抗菌薬の投与量を最適化するためには,PK/PD による抗菌薬の分類を知っておく必要があります.
定常状態とは,薬物が体内に入る速度と体外に排泄される速度が同じになっており,薬物の血中濃度が安定した状態となります.血中濃度が一定となるまでは,非定常状態となります(図1).血中濃度を評価する薬物の場合,一般的に定常状態における血中濃度を使用します.このため,投与開始後や投与方法の変更後,定常状態に到達したと考えられる適切なタイミングで採血を行う必要があります.
TDM では,有効性・安全性の指標として,ピーク値やトラフ値を使用します.バンコマイシンではトラフ値(および必要に応じてピーク値も加えた2 点)から算出したAUC(Area under the concentration-time curve,血中濃度- 時間曲線下面積)が有効性・安全性の指標となります.以前はトラフ値が有効性・安全性の指標とされていましたが,近年では,AUC 中心のTDM に変わりつつあり,AUC 算出のためにピーク値の意義が見直されてきています.アミノグリコシド系抗菌薬では,ピーク値が有効性・トラフ値が安全性の指標と考えられています.このため,目的に応じて,ピーク値,トラフ値を測定します.
負荷投与(ローディングドーズ)は,投与開始時の数回,早期に目標血中濃度に維持するために行われる投与です.維持投与は,有効血中濃度に維持するために必要な投与量ですが,言い換えれば,単なる通常の投与量となります.
薬物は,一定の割合で体内のタンパク質(主にアルブミンやα1- 酸性糖タンパク質)と結合し,これをタンパク結合といいます.静電的な相互作用など,さまざまな様式により,基本的には可逆的に結合します.薬物によって,タンパク結合しやすいもの,しにくいものがあります.一般的に,タンパク結合率:80 ~ 90% 以上の場合,タンパク結合率が高いとされています.
組織移行性を示す指標として,分布容積(Volume of distribution,Vd,単位:L またはL/kg)が知られています.分布容積とは,血中濃度と同じ濃度で体内の各組織に移行していると仮定した場合に,その薬物がどれだけの容積にひろがっているかを示す指標です.分布容積が大きいほど,組織移行性は良好で,分布容積が小さいほど,組織移行性は不良となります.一般的に組織移行性の良好な脂溶性薬物の分布容積は大きく,組織移行性が不良な水溶性薬物の分布容積は小さいとされています.
抗菌薬は,ほかの疾患で使用している薬剤と一時的に併用する機会が多くあります.併用する組み合わせによっては,効果を減弱し期待している効果が得られなかったり,効果を増強し過ぎて副作用が出現することがあります.そのため,薬物相互作用は,抗菌薬適正使用において非常に重要です.抗菌薬治療開始時には,使用している薬剤,市販薬やサプリメントを確認するようにしましょう.
薬剤の使用の有無に関わらず,ヒトの出生時に形態的に確認できる先天異常の頻度は3 ~ 5% とされています(これをベースラインリスクといいます).先天異常の原因は,原因不明や染色体異常,遺伝子異常が大部分を占め,環境要因によるものは全先天異常のうち10% 未満とされています.そのなかでも,環境要因の一つである薬剤が原因とされるのは1% 程度です.
胎盤では,母体‒胎児間のガス交換や,母体から胎児へ栄養分の供給,胎児からの代謝廃棄物の排出などが行われています.母体に投与された薬剤は,母体血中に取り込まれた後,胎盤を介して胎児に移行するため,薬剤の胎盤通過性は胎児への影響を考えるうえで重要です.
腎機能とは何か?
基本的には「糸球体濾過量(GFR)」のことを指します.GFR は糸球体で濾過される血液の量ですね.健常人のGFR は100mL/ 分のため,144L/ 日となります.これが原尿の量(生成速度)です.1 日にこれだけの血漿量が糸球体を通過し,そして100 倍に濃縮された尿が約1.5L/ 日得られます.
血液透析は,透析膜(半透膜)を介して血液と透析液を接触させ,拡散と濾過により血液を浄化する治療法です.血液中の薬物が透析液中に移動して除去されますが,その程度(透析性)は薬側の要因によりある程度は推測できます.シンプルに表現すると,薬物の透析性は「MVP」でほぼ決まります.「部屋の掃除理論」でイメージします(図).
皮膚外用剤の添付文書で添加物の項目に注目することは少ないかもしれません.しかし,外用剤の性質の理解に添加物は重要です.本項では軟膏剤の添加物における注目すべき点について解説します.
ステロイド軟膏は,よく白色ワセリンやヘパリン類似物質油性クリームなどの保湿剤との混合を指示する処方が散見されます.この混合の目的として,一つは患者のコンプライアンス向上のため,もう一つはステロイドの希釈効果を期待するためなどが考えられます.後者の希釈効果についてはエビデンスが不十分であり,組み合わせによってはかえってステロイドの透過性が上がってしまう事例もあります1).
調剤指針における混合可否の基準
調剤指針1)には混合可否の基準について表1 に示すような表が掲載されています.例えば混合する製剤がともに油脂性基剤,あるいは水溶性基剤であれば『混合可』です.ところが,混合する製剤のどちらか,あるいは両者が乳剤性基剤(W/O 型,O/W型)だと,『組み合わせによっては混合可』あるいは『混合不可』となります.他剤と混合することの多いステロイド軟膏を例にあげると,例えば混合する相手が白色ワセリンやほかの軟膏剤(油脂性基剤)であれば,混合物の安定性などは特に問題ないと思われます.
降伏値とは?
降伏値は物理薬剤学のレオロジーの分野で学ぶ用語です.ある流体の流動特性はせん断応力とせん断速度との関係により成立します.横軸にせん断応力,縦軸にせん断速度としてプロットしたとき,両者の関係が原点を通る直線関係となる場合をニュートン流動と呼びます.水やエタノールなどの純溶媒がこの流動を示します.この直線の傾きの逆数を絶対粘度と呼び,単位はPa・s(パスカル・秒)などが用いられます.
皮膚刺激指数とは?
皮膚外用剤を選択する際は,その製剤のもつ皮膚刺激性も考慮する必要があります.皮膚刺激性の強い製剤ほど塗布後に紅斑や浮腫,水疱などを生じる可能性が高いといえます.この皮膚刺激性の指標として「皮膚刺激指数」という数値が用いられています.この指数は,表1 に示すようにわが国のパッチテストの基準表から陰性も含めた一定時間後の6 段階の症状を点数化し,総点数を被験者数で除した値に100 を乗じた数値として算定されます.この数値が大きければ皮膚刺激性が強いことになります.また香粧品の皮膚刺激指数による分類では(表2),安全品は5.0 以下とされており,15.0 を超えると要改良品となります.
影響を与える因子① ─基剤の性質─
皮膚外用剤の混合が皮膚透過性に影響する事例はいくつか報告されています.まず注目すべきは,混合する製剤に使用される基剤の同等性です.
坐剤の保管方法
坐剤にはハードファットなどの油脂性基剤とマクロゴールなどの水溶性基剤があり(p.254 参照),アセトアミノフェン坐剤などの解熱剤は前者が,一方,ドンペリドン坐剤などの吐き気止めやジアゼパム坐剤などのけいれん予防薬は後者がそれぞれ用いられています.
モルとモル質量の関係
「モル(mol)」は,物質量を表すSI 単位であり,1 モルには,厳密に6.02214076 ×1023 の要素粒子が含まれること(この数をアボガドロ数とよびます),そしてこの要素粒子は,原子,分子,イオン,電子,その他の粒子,あるいは,粒子の集合体のいずれであっても構わないことを,高校生の時に学習したと思います.でも,これはなかなかイメージしづらく,一般的には次の式の方が馴染みやすかったのではないでしょうか?
容量モル濃度とミリ当量の関係
ミリ当量(mEq)は,電解質の量を表す単位で,次の式で求められます.
mEq = モル(mmol)×イオンの価数
通常は,溶液1L に溶けている物質の当量数として表すので,容量モル濃度を使って,次のように表します.
mEq/L = 容量モル濃度(mmol/L)×イオンの価数
電解質の検査結果や輸液に含まれる電解質量は,mEq/L で表記されています.ちなみにEq はequivalent の略で,「mEq」は「メック」とよばれています.
浸透圧の単位はパスカル? オスモル濃度?
浸透圧は簡単にいうと,「半透膜を介して濃度の高い液が低い液から水を引き寄せる力」です.力の単位は基本のニュートン(N)や,圧力であればパスカル(Pa)で表します.高校時代,浸透圧の単位はパスカル(Pa)で,次のファントホッフの式が成立すると学習したと思います.
体液の分布
健常な成人の体内水分量は,体重の60% です.そのうち,40% が細胞内に,20% が細胞外(細胞と細胞の間の間質に15%,血漿に5%)に分布します(図1).生体内の水分の移動は,大きく分けて細胞内と細胞外の移動と,血管内(血漿)と血管外(間質液)の移動の,2 つの場合で考えることができます.
浸透圧
図1 のように,ある溶質の水溶液と水を半透膜(溶媒分子は通すが,ある溶質の分子は通さない膜)で区切ってしばらく放置すると,水分子が水溶液の方に移動します.この現象を「浸透」といい,両液面差が一定となるところまで水分子が移動します.一定になったとき,溶液の液面を元の高さに戻すために必要な圧力を「浸透圧」といいます.つまり,浸透圧は「水分子が半透膜を通して,溶液側に浸透しようとする圧力」,もしくは「濃度の高い液が低い液から水を引き寄せる力」であるともいえます.
溶解速度式
薬の溶解度や溶解速度は,生物学的利用率(バイオアベイラビリティ)に影響を与えます.溶解とは,溶媒に気体,液体,固体が溶けて,均一な溶液になる現象のことで,固体薬物の場合には崩壊して飽和溶液になり,それが拡散(分散)して内部溶液になるという過程をたどります(図).
添付文書中に禁忌事項をはじめ,構造名称が記載されている薬剤が多くあります.しかし,その構造名称が何を意味するのかわからず,どのように考え,回避したらいいの判断できないケースが多いのではないでしょうか.
生体内の受容体や酵素には,生理活性物質と類似した構造をもつ物質と間違えて結合してしまうという非常にアバウトな性質をもちます.現在使われている薬剤の多くは,このアバウトな性質を利用したものです.そのため,薬の構造内には生理活性物質と類似した構造が存在しています.この類似構造を見いだすことが,薬が薬理活性を発揮する根本的な理解につながります.
キラル製剤を創薬することは非常に難しいとされています.そもそも,この難しさは2001 年に野依良治先生が,医薬品としては比較的単純な構造のℓ-メントールの合成研究を基礎としてノーベル化学賞を受賞したことからもわかります.そして,その大きな壁がラセミ化です.ラセミ化は,キラルな物質がラセミ体になることです.たとえ,キラル製剤の合成に成功しても,構造上の特性によってラセミ体になってしまう医薬品もあります.
現在,上市されている多くの薬剤はラセミ体です.ラセミ体とは「鏡に写ったもの同士」「右手と左手」というような関係で表現されるように,互いに重なり合わない一対の化合物(光学異性体)が1:1 で混じって存在する分子のことです.キラル製剤はラセミ体とは逆に右手と左手の関係にある2 つの異性体のうち,右手なら右手だけ,左手なら左手だけというように,どちらかの異性体のみで製剤化された薬剤です.
バイオアイソスター(生物学的等価体)は,異なる構造でありながら,生体内でほぼ同じ性質をもつ部分構造のことです.バイオアイソスターの導入によって,薬物の経口吸収率を高め,薬物代謝を受けにくくなるなど生物学的利用率を向上させることができるので,多くの医薬品にバイオアイソスターが導入されています.
異性体のひとつにシス-トランス異性体があります.シス(cis)とトランス(trans)は2 個の置換基の位置関係をあらわす用語です.たとえば,二重結合を軸として同じ側に2 個の置換基が位置する場合をシス体,反対側に位置する場合をトランス体と言います.構築された化学構造が,シス体とトランス体では薬物代謝の影響が大きく異なる場合があります(図1).
抗コリン作用を副作用にもつ薬剤は,口喝,便秘,前立腺肥大症状の悪化,膀胱の制御喪失などの症状を発現することが知られています.たとえば,アレルギー性鼻炎に使用される第一世代の抗ヒスタミン薬には眠気や口喝などの抗コリン由来の副作用の発現率が高い薬剤が存在します.そのため,花粉症シーズンでは,多くの患者から「眠くなりますか?」などの質問を受けることでしょう.このようなとき,薬の構造中にあるアセチルコリン(以下,Ach)と類似する大きな構造が抗コリン作用の発現の違いの把握に役立ちます.
プロドラッグは,活性体の状態では十分な治療効果を得られない化学構造上の欠点を化学修飾により改善した薬剤です.たとえば,活性体をそのまま服用した場合に比べ,プロドラッグとした場合により良好な体内動態を示す薬剤などがあります.そして,ほとんどのプロドラッグは活性体の一部の化学構造をエステル構造に化学修飾したエステル系プロドラッグです.
共有結合は,結合する原子が電子を共有することにより成り立つ結合です.共有している電子は各原子に絡みつくような軌道をとるため,各原子は強固に結合していることがイメージできると思います.そのため,作用部位と共有結合を形成する性質をもつ薬剤は,作用部位から解離しない“ 不可逆的な” 結合によって効果を発揮します.
水素結合と医薬品の消化管吸収の関係として,化学構造中に存在する極性基(-OH や-NH など)の数を比較することにより,同効薬剤群に分類される薬剤間における経口吸収率の良し悪しを推測することができます.
水素結合から得られる情報のひとつに,医薬品の排泄経路の推測があげられます.処方された薬剤の排泄経路を把握することは処方監査のなかでとても重要です.たとえば,腎機能が低下した患者に対して,腎臓から排泄される腎排泄型薬剤を投与する際には,薬物血中濃度が高くなり,副作用を引き起こしやすくなるため投与量に慎重さが求められます.
孤立電子対をもつ原子から差し出された電子対を,もう一方の原子が受け取る(配位する)ことで形成される2 原子間の結合が配位結合です.最もシンプルな例に,アンモニアの中和反応があります(図1 a ).そして配位結合のうち,孤立電子対を複数もつ分子(配位子)が金属イオンへ複数の配位結合を形成した状態をキレートとよびます(図1 b ).キレートと似た意味の名称に「金属錯体」があります.錯体と聞くと,苦手意識をもつ人も少なくないかもしれません.でも,薬を理解するうえでのキレートは,単に「金属陽イオン+孤立電子対をもつ化合物の組み合わせで形成される」程度の理解で十分ですので安心してください.
医薬品が標的と形成する化学結合の種類(結合様式)のうち可逆的な結合は,水素結合や疎水結合など,静電気的に互いを引き寄せ合う結合,不可逆的な結合には共有結合があります.またPK/PD 理論はおもに抗菌薬の抗菌作用を薬物動態と薬力学の両方を組み合わせて解析する理論です.結合様式からPK/PD 理論を読み解くことにより,この理論を服薬説明で活用することができるケースがあります.
酸化と還元
中学校では,酸化とはある化合物が酸素と結合する反応,またはある化合物中の酸素が増加する反応で,還元は酸化とは逆の反応と学習します.高校では,電子の授受により,酸化は原子が電子を失う反応,還元は原子が電子を得る反応と学習します.
一般的に,酸化還元反応は,物質間で電子や酸素または水素の授受が行われる反応と説明されます.これではややこしいため,薬の化学では,単純に水素原子(H 原子)と酸素原子(O 原子)の受け渡し反応と考えれば十分でしょう.H 原子が減る,またはO 原子が増えた場合が酸化反応で,還元反応はその逆となります.
一包化調剤は多種類の薬剤を服用している患者や錠剤をPTP シートから取り出せない患者の服薬支援にとって効果的な方法です.しかし一包化が必要でも,吸湿性による薬効の低下によって一包化が不適切と判断されている薬剤はたくさんあります.一包化から吸湿によって薬効の低下を招く代表的な薬剤として,直接トロンビン阻害剤のダビガトランエテキシラート(プラザキサ® カプセル)があります.
求核置換反応とは,負(-)の電荷をもつ物質(求核剤)が,脱離基などが結合する基質の正(+)電荷した原子に攻撃することにより,脱離基と求核剤が置き換わる反応です.薬のなかには自身が高い反応性をもち,標的とする物質と化学反応を起こして薬理活性を発揮するものがあります.求核置換反応を活かした薬剤として,抗がん薬のアルキル化薬や白金製剤などがあります.
あまり多くはないですが,脱離反応(分子のなかから一部の原子団(構造)が離脱して,多重結合を形成し,より分子量の小さい分子に変化する現象)により薬が分解してしまう場合もあります.そのような分解は,薬の混合によるpH の変化や温度変化,吸湿によって起こる可能性があります.脱離反応では脱離する部分構造が必要なので,多くの場合で脱離しやすい構造上の特徴があり,構造式から脱離による分解を予測できると考えられます.
メイラード反応とは,化学構造中のカルボニル基に存在するδ+性を帯びて電子をほしがっている炭素原子と,アミノ基にある電子を渡したがる窒素原子がもつ孤立電子対との反応を起点とし,複雑な化合物を形成する化学反応です(図1).この反応は着色を伴い,日常生活では肉を焼いたときの色の変化や,ごはんのお焦げなどにこの反応が関与するといわれています.一度焼き色のついた肉が元の色に戻らないように,この反応で一度生成された物質も元に戻りません.
ラジカル反応の理解は薬剤性光線過敏症の発症を推測するのに活用できます.ラジカル反応は,光のエネルギーによって原子間の結合にかかわる共有電子対がバラバラとなり,1 個になった電子(不対電子)によって起こる反応です.特に二重結合またはヘテロ原子と単結合の繰り返し構造がある物質は,ラジカル反応を起こしやすくなります(p.94参照).そして,薬剤性光線過敏症の原因の一つとして,ラジカル反応が考えられます.
薬には,光に弱い性質をもつ薬があるため,一包化や粉砕調剤が不向きな薬剤,あるいは調剤後も遮光での保管が必要になる薬剤があります.光に弱い性質を化学的にあらわすなら,ラジカルになりやすい性質と言い換えることができます.
シクロデキストリン(CD)は,6 ~ 8 個のブドウ糖がシクロに,つまり環状に連結したデキストリン(オリゴ糖)です(図1).その構造の内部には,ちょうど底の抜けた紙コップのような空間が構築されます.内部が疎水性で外部は親水性の特性をもち,CDはその空間にさまざまな分子を取り込むことで包接化合物を形成します.「包接」とは,かごのような中空の構造をもつ分子が,他の分子や原子を内側に包み込む現象です.
医薬品の吸収率
ヒトの腸管の細胞膜はリン脂質でできているため,脂溶性が大きい物質は吸収されやすい性質があります.医薬品も同じで,一般的に脂溶性の大きい医薬品は吸収率も良いといえます.では,医薬品の脂溶性はどのように判断すればよいでしょうか.目安となるのが,油水分配係数です.
水素イオン指数(pH)
水溶液が酸性かアルカリ性かを示す尺度として,水素イオン指数(pH)が用いられます.1909 年にセーレン・セーレンセンにより,次式で定義されました.
複数の注射剤をミキシングする場合では,注射剤同士の配合変化が問題なることがあります.たとえば,酸性の注射剤と塩基性の注射薬をミキシングすると,酸塩基反応をおこし,白濁,混濁,沈殿などの外観変化や含量低下などが起こります.配合変化は,期待される効果が得られないばかりか,ときに健康被害を招く可能性があります.点眼液では,薬の成分が酸性,塩基性の両方の性質をもつような場合があり,pH の変動により角膜刺激の増大や成分の結晶化などの変性が起きてしまう可能性があります.そのため,これらの薬剤にはpH 変動を抑制する緩衝剤が配合されています.
薬が酸性か塩基性なのかを判別するだけで,多くの薬剤情報の収集につながります.たとえば,漢方薬が処方された患者への服薬説明の場面です.漢方薬の用法は,食前か食間服用となっているケースが多いです.一方,患者からの「食前の服用を忘れたときはどうしたらよいですか?」「食前に服用すると胸やけがするのだけど…」などの相談に対して多くの薬剤師が「食後に服用してください」と答えていることが多いのではないでしょうか.ここで,漢方薬の食後服用の妥当性を酸・塩基反応の視点から考えます.
化学平衡とは
生命現象は多くの化学反応から成り立っています.その多くは可逆反応とよばれ,そこには化学平衡が成立します.化学平衡とは反応系から生成系に進む正反応の反応速度と,生成系から反応系に戻る逆反応の反応速度がやがて等しくなり,見かけ上,反応が止まった状態のことをいいます.有名な例として,ヨウ化水素の反応例を示します(図).
活性化エネルギー
化学反応が起こるにはエネルギーが必要で,その単位はジュール(J)で表します.反応物(図中では●●,●●と表します)が接触するだけでは生成物はできません.反応物はいったん,原子間の組換えを起こしやすい遷移状態になる必要があり,この状態になるためのエネルギーが活性化エネルギー(E1)です.活性化エネルギーを超えるエネルギーが加わると化学反応が進行し,生成物(●●)が生成します(図1).
熱量の定義
熱は温度の高い物体から低い温度の物体へと移動する性質があります.熱湯と冷水が混ざると,熱湯から冷水へ熱が移動して,しばらくすると適温になります(図1).そのときに,熱湯と冷水の間で熱として移動するエネルギー量のことを「熱量」といい,「温度」はその尺度です.
周期表
1869 年,ロシアの化学者メンデレーエフは,元素を原子量の順に並べると似た性質の元素が周期的に表れることを発見しました.これを周期律とよびます.その後,同じ性質を示す元素を縦の列にそろうように並べ変えたものが,現在の周期表です(図1).余談ですが,メンデレーエフの時代には発見されていなかった元素もありましたが,彼はその部分を空欄にして,その元素の性質を予言したそうです.その後,1886 年に発見されたゲルマニウムの性質は,彼の予言とほぼ同じでした.
昔の化学者はある種の物質を溶かした液体に電圧をかけると電気が流れ,電極(+ or-)に向かって移動する性質があることを知っていました.この移動する物質は,ギリシャ語の「移動」と言う意味のイオンと名づけられました.
DNA
DNA(デオキシリボ核酸)はアデニン(A),チミン(T),グアニン(G),シトシン(C)の4 つの塩基とデオキシリボースという五炭糖,リン酸により構成され,遺伝情報が書かれています(図1).
生物界の基本原則
われわれが生きている生物界には基本原則があります.通常,タンパク質は「DNA →RNA →タンパク質」という流れで合成されます.すなわち,DNA の遺伝情報はメッセンジャーRNA(mRNA)に転写され,mRNA の情報がリボソームの中で翻訳され,タンパク質が合成されます.この一連の流れをセントラルドグマといいます.タンパク質の情報を直接決めているのはDNA ではなく,RNA であることがポイントです.
腎機能を評価すると,① 慢性腎不全(CKD)ステージを評価して,CKD の進行抑制のための治療をサポートできる,②薬物の全身クリアランスの変化を推定して,投与設計ができるというメリットがあります.ここでいう腎機能は糸球体濾過量(GFR)のことを指します.GFR は腎臓全般の機能を代表する数値と考えてよいのです(図).
ハイリスク薬とは
生体への影響が強く,特別な管理が要求される治療薬のことを一般的に「ハイリスク薬」と表現しています.用量調整が必要,禁忌に該当,毒性が重いなどの理由で腎機能低下時に追加の管理が必要と考えられる薬物の特徴を紹介します(図,表).
シックデイと急性腎障害
慢性的に腎機能が低下していることを慢性腎臓病(CKD),腎機能が急に悪化することを急性腎障害(AKI)といいます.AKI は,その機序から① 腎前性,② 腎性,③ 腎後性の3 つに分類され(表),薬剤によっても生じます(図).
CKD-MBD とはなにか?
腎臓は,ビタミンD の活性化やリン利尿に代表されるように,体内のCa やリンのバランスを保つための機能を担っており,副甲状腺と協働して骨の健康を保っています.
腎性貧血
腎性貧血は「腎臓においてヘモグロビン(Hb)の低下に見合った十分量のエリスロポエチン(EPO)が産生されないことによって引き起こされる貧血であり貧血の主因が腎障害以外に求められないもの」と定義されます.つまり,腎障害でほかに原因のなさそうなEPO 不足が原因の貧血で,慢性腎臓病(CKD)ステージ4 くらいから有病率が上がります.また,赤血球寿命の短縮も関与しているとされています.
生成・分泌
インスリンは,膵臓ランゲルハンス島のβ細胞で生成・分泌されるペプチドホルモンです.肝臓や,筋肉,脂肪組織などに作用し,ブドウ糖の細胞内への取り込みや,グリコーゲンの合成促進,糖新生抑制などにより,血糖値を低下させるはたらきをします(図1).
インクレチン
インクレチンとは,食事摂取により消化管から分泌されるペプチドホルモンで,グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)とグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の2 種類が確認されています.GIP は上部小腸の腸内分泌細胞の一種であるK 細胞から,GLP-1 は下部小腸や大腸の腸内分泌細胞であるL 細胞から分泌されます.インクレチンは食後数分~ 15 分で膵臓のβ細胞に作用し,血糖依存的にインスリン分泌を促進するとともに,グルカゴン分泌抑制作用をもつことが知られています.これはグルコース(ブドウ糖)を経口的に投与した場合にみられる作用で,経静脈的に投与した場合にはみられず,インクレチン効果(図1)といわれています.
C ペプチド
C ペプチドとは,アミノ酸31 個からなるペプチドで,インスリンの前駆体であるプロインスリンからインスリンが生成される際の副産物です.プロインスリンは,膵臓のβ細胞内でインスリンとC ペプチドに等モル(1:1)で分離されて血中に放出されます(図1).インスリンは血糖値を調節するホルモンとして働きますが,C ペプチドに生物学的活性はないと考えられています.インスリンに比べ代謝が遅く,主に腎臓で代謝・排泄されます.
75g 経口ブドウ糖負荷試験(Oral Glucose Tolerance Test:OGTT)とは,糖尿病の診断に用いられる検査です.糖質を150g 以上含む食事を3 日以上摂取したのち,10 ~ 14 時間絶食して採血し,空腹時血糖値を測定します.75g ブドウ糖を含む溶液(トレーラン®G)を服用し(図),ブドウ糖の負荷後30 分,60 分,120 分に採血して血糖値を測定し,その結果をもとに診断します.すでに糖尿病と診断されている場合は原則行いません.
HbA1c
HbA1c とは糖化ヘモグロビンのことです.ヘモグロビンは赤血球内にあるタンパク質で,鉄を含み酸素と結合するヘムとポリペプチドであるグロビン部分から構成され,ヘムが酸素と結合することにより,赤血球は全身に酸素を運搬する役割を担っています.グロビン部分の違いによりHbA,HbA2,HbF に分けられ,HbA のβ鎖N 末端のバリンにグルコースが非酵素的に結合したのがHbA1c です.高血糖状態が続くと不可逆的に結合した安定型HbA1c の割合は高くなり,赤血球の寿命である約120 日間消滅しません.このことから,糖尿病診断や治療の評価に用いられ(表1),過去1 ~ 2 ヵ月の平均血糖値を反映するといわれています.出血や鉄欠乏性貧血の回復期,溶血性疾患や肝硬変などで低値となるため注意が必要です.
ケトアシドーシス
ケトアシドーシスとはケトン体の蓄積により体液のpH が酸性に傾いた状態です.体内に存在するケトン体にはアセトン,アセト酢酸,β- ヒドロキシ酪酸があります.ケトン体は,糖尿病や高脂肪食,絶食(または飢餓),運動,アルコール多飲,外傷や大手術など,エネルギー補給のためにブドウ糖や,グリコーゲンのような糖質ではなく脂質が利用された場合に,脂肪細胞の分解により肝臓で産生され,エネルギーとして利用されます.一方でアセト酢酸,β- ヒドロキシ酪酸は強い酸性であるため蓄積すると体は酸性に傾き,ケトアシドーシスという命にかかわる状態になります.
低血糖とは
低血糖は,糖尿病薬物療法中に起こりうる緊急事態です.動悸,発汗,脱力,意識レベルの低下などの症状があり,血糖値が 70 mg/dL 未満の場合とされています.普段の血糖値がかなり高い人では,急激な血糖値の低下に伴い 70 mg/dL より高い値でも低血糖症状を示す場合があります(表).多くはインスリンまたはスルホニル尿素(SU)薬使用中に起こり,SU 薬による低血糖は遷延しやすいため注意が必要です.
血糖自己測定
血糖自己測定(SMBG)は自己検査用グルコース測定器を用いて,患者が自身の血糖値を測定することです(図).インスリン製剤またはGLP-1 受容体作動薬を使用中,12 歳未満の小児低血糖症および妊娠中の糖尿病の人などに保険適用となっています.血糖測定器および穿刺器具は医師の指示のもと医療機関から貸し出されます.測定結果を診断に用いることはできませんが,治療効果の判定や処方変更など血糖管理に大きく寄与するとともに,家庭での血糖値を知ることで患者自身の動機づけにつながることが期待されています.特にシックデイや低血糖が疑われる場合など,いつもと状態が違うときに測定することは重要です.測定器は小型化や軽量化が進み,操作も簡便で使いやすいさまざまな機種が上市され,いずれも正しく使用すればほぼ正確な値が得られます.
通常,タンパク質は,アミノ酸が単に平面状に連なっただけ(ただのポリペプチド鎖)ではありません.実際には,ペプチド結合どうしやアミノ酸の側鎖の原子が水素結合〔原子が電子を引っ張る力である電気陰性度の差によって生じる,プラス(δ+)とマイナス(δ-)を帯びた電子的なひずみで形成される結合〕などを形成するほか,それらのポリペプチド鎖が三次元的につながり,会合するなど,立体的な高次構造を構築します.もちろん,51個のアミノ酸から構成されるタンパク質であるインスリンも同様です(図1).
インスリン製剤の保管時は,未開封で2 ~ 8℃,開封後は30℃以下の温度管理が求められます.そのため,夏季の車中や,暖房機器の温風が直接あたる場所を避けるなど,日常生活でも注意が必要です.こうした温度管理が必要になる主な理由は,「インスリンが変性するから」です.
受動輸送は濃度勾配に従って物質が移動するのに対して,能動輸送は,エネルギーを使い,濃度勾配に逆らって物質が移動します(図1).
合成・分泌
甲状腺ホルモンは甲状腺で合成されるアミノ酸誘導体ホルモンで,食品に含まれるヨウ素(ヨード)を材料にして作られます.血液を介して全身に運ばれ,代謝やエネルギー産生,心機能の調節などを行っています.
一般的に感染症の抗菌薬治療の流れは,まず初めにエンピリックセラピー(経験的治療)を行い,次にディフィニティブセラピー(最適治療)を行う2 段階から形成されています1).
感染症患者の感染臓器と原因微生物が判明すると,エンピリックセラピー(経験的治療)からディフィニティブセラピー(最適治療)に移行します.この時に,広域抗菌薬から狭域抗菌薬へ変更することをデ・エスカレーションとよびます(図1)1).デ・エスカレーションは,培養検査結果,感受性検査結果を参考に行い,注意点が2 点あります.症例を用いて考えてみましょう.
静脈内注射抗菌薬で感染症の治療を開始した患者の臨床症状が改善したときに,静脈内注射抗菌薬から経口抗菌薬へ変更することを経口スイッチといいます.
抗菌薬の使用状況や薬剤耐性菌の検出などの影響を受け,抗菌薬の感受性は,施設,地域,国ごとに異なっています.そのため,自施設の感受性パターンを知る目的として,一定期間の微生物ごとの抗菌薬感受性率を集積し表にしたものをアンチバイオグラム(図1)といいます.
薬剤耐性(antimicrobial resistance:AMR)は,日本を含め世界中で問題視されています.2013 年のAMR 起因の死亡者数は世界で70 万人であり,このまま何も対策をとらないと2050 年には世界で1,000 万人の死亡者数が予想1)され,悪性腫瘍による死亡者数をはるかに超えるといわれています.一方で,抗菌薬の研究開発は,新しい機序の抗菌薬の開発と新たな耐性菌の誕生の繰り返しとなり難しいことや収益性の低さなどから停滞状態となっています1).このままでは,効果が得られる抗菌薬が存在しない世界が将来的に訪れるかもしれません.
生物の定義とウイルス
生物の定義は,①外界と細胞膜で仕切られている,②代謝を行う,③自己複製ができるという3 つの条件(成書によっては4 つの場合もあります)を満たすものです.
免疫とは異物の侵入を防いだり,侵入してしまった異物を感知して体から排除したりする生体防御のはたらきのことで,自己の細胞と非自己の細胞を見分けるしくみそのものであるともいえます.免疫には,自然免疫と獲得免疫があります.
液性免疫
細胞性免疫と同じように樹状細胞は貪食した病原体の情報を細胞表面に提示します(抗原提示).リンパ節では,抗原を提示している樹状細胞に多くのT 細胞が接触し,その中で,提示された抗原を認識できるT 細胞がヘルパーT 細胞に分化・増殖します.B細胞は自身が認識できる異物に接触すると,その異物の断片を細胞表面に提示します.ヘルパーT 細胞は,同じ抗原を提示しているB 細胞を活性化し,抗体を産生することができる形質細胞に変化し,抗体が作られます.抗体は体液に溶けた状態ではたらくので,これを液性免疫といいます.抗体は体液中に放出され,感染部位の病原体のもつ抗原と抗原抗体反応により,病原体の増殖や細胞への感染を防ぎます(図1).
サイトカインとは
サイトカインとは,細胞から分泌される生理活性物質(タンパク質)の総称です.細胞間の情報伝達,また特異的な受容体に結合することで,免疫,炎症,生体防御において重要な役割を担っています.サイトカインの種類としてはインターロイキン(IL),ケモカイン,インターフェロン(IFN),コロニー刺激因子,細胞刺激因子,細胞壊死因子などがあります.以下に代表的なサイトカインの役割を記載します.
「咬まれた」と聞いたとき対象は何を想定しますか? 動物咬傷は一般的にイヌが多く,ネコも少なくはないようです.ヒトも当カテゴリに含まれます(どんな状況なのでしょう….喧嘩?).世界は広く,ラクダ,スカンクなどさまざまな動物咬傷が報告されています.地域性がありそうですが,一度は対応した経験があるのではないでしょうか.
神経伝達物質や,それらを使って情報伝達を行う神経の数が変動したり機能がうまく制御できなくなったりすると,感情や思考を安定させる作用のほか運動の制御などのはたらきが不十分になり,気分障害や運動障害など精神科領域や脳神経内科領域で取り扱われる症状・疾患が生じます.そのため,神経伝達物質の合成・再利用に関わる分子や神経伝達物質の受容体を標的として,たくさんの治療薬が開発されています(図1).
統合失調症の発症機序は,いまだ十分に証明されていません.最も広く知られている発症機序仮説は,脳のドパミン神経系の機能調節不全が原因であるとする「ドパミン仮説」です.今でも「仮説」の域を抜け出していませんが,現在使用されている抗精神病薬(統合失調症の治療薬)はすべてドパミン受容体に拮抗・遮断作用をもつ薬剤です.抗精神病薬が実際に治療効果をもつことから,ドパミンが統合失調症の症状発現に大きく関与していることは間違いないようです.
抗精神病薬は1996 年のリスペリドンの発売前後で第一世代薬(第一世代抗精神病薬)と第二世代薬(第二世代抗精神病薬)に分類されています.ドパミン受容体遮断作用を中心に考えられてきた第一世代薬と比べて,リスペリドン以降の抗精神病薬は,新しい作用にも着目しました.その結果,①錐体外路症状,②高プロラクチン血症,③認知機能障害などの副作用が軽減されています.しかし,脳への移行性が低いことなどに起因して,リスペリドンは高プロラクチン血症を比較的発症しやすいとされています.
ドパミン受容体部分作動薬(DPA)の作用
アリピプラゾール,ブレクスピプラゾールは,D2 受容体を部分的に刺激して作用する,ドパミンのパーシャルアゴニストです.そのため,ドパミンのはたらきが活発な中脳辺縁系神経路ではD2 受容体に作用してドパミンのはたらきを抑えて陽性症状を改善します.一方,ドパミンのはたらきが低下している中脳皮質神経路などでは,ドパミンのはたらきを高め,陰性症状を改善します(図).また,D2 受容体の部分作動薬であることから黒質線条体神経路や漏斗下垂体神経路ではドパミン神経系が過剰に遮断されないため,EPS や高プロラクチン血症などの副作用が発現しにくくなります.
血液脳関門とは
脳と血液間での物質交換は,血液脳関門(BBB)および血液脳脊髄液関門によって制限されています.アミノ酸やグルコースなどの神経活動のエネルギー源となる栄養素は脳内に選択的に輸送されますが,多くの薬物は脳内に自由に入るわけではありません.BBB のメカニズムには「物理的関門」「輸送関門」「代謝的関門」の3 種類があるといわれています.「物理的関門」とは,脳毛細血管で内皮細胞同士の密着結合とグリア細胞により形成された構造であり(図1),水溶性分子や極性分子は容易には透過できません.また,「輸送関門」は,特定の分子の移動に対して,特定のトランスポーターや特定の受容体が関与することを,「代謝的関門」は,血管内皮にある酵素により神経活性物質を不活化させてしまうことをいいます.
神経障害性疼痛とは
神経障害性疼痛は,神経(主に末梢神経)の障害によって生じる疼痛のことであり,「体性感覚系に対する損傷や疾患によって直接的に引き起こされる疼痛」をいいます1).そのため,神経系の損傷または疾患の存在が示される必要があり,これらが確認できない場合には,身体表現性障害や疼痛性障害などの精神疾患を疑うべきとされています2).神経障害性疼痛は帯状疱疹後神経痛や糖尿病性神経障害に伴う疼痛などの末梢性のものと,脳卒中後疼痛や脊髄損傷後疼痛などの中枢性のものがあります.また,慢性腰痛や腰椎椎間板ヘルニアなどのように,外傷や打撲などの侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の要素を併せもつ疾患もあります(図).2010 年に実施された20 ~ 69 歳の一般市民の男女20,000 名を対象としたインターネット調査では,慢性疼痛患者は全体の26.4%, 神経障害性疼痛の疑いのある患者は6.4% を占め,慢性疼痛患者の4 人に1 人は神経障害性疼痛の疑いがあることが報告されています3).
メラトニン受容体作動薬として2010 年7 月にラメルテオン(ロゼレム®)が発売され,オレキシン受容体拮抗薬として2014 年11 月にスボレキサント(ベルソムラ®)が,2020 年7 月にレンボレキサント(デエビゴ®)が発売されました.新しい睡眠薬は,ベンゾジアゼピン系睡眠薬とは作用機序が異なっていますので,これまでの睡眠薬の問題点の改善に一役買ってくれるものと思われます.
悪心・嘔吐の症状,状態
悪心は,嘔吐しそうな不快感がある状態を指し,嘔吐中枢への求心性刺激があるものの嘔吐運動に至らないものです.一方,嘔吐は,何らかの原因によって嘔吐中枢が刺激され,胃底部および下部食道括約筋が弛緩している状態で腹筋系が不随意収縮し,胃内容物を強制的に排出させる運動です.
セロトニン症候群とは
セロトニン症候群とは,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬のようなセロトニンを増加させる薬剤を追加・増量した後に,シナプス後膜のセロトニン受容体への刺激が増大して,精神症状,神経・筋症状,自律神経症状などのさまざまな症状がみられることをいいます(表1).
悪性症候群の判断基準
悪性症候群は抗精神病薬の投与中に起こり得る症状で,対応が遅れると死に至る可能性がある重篤な副作用です.さまざまな自律神経系の症状があり,錐体外路症状,無動・緘かん黙もく,発汗,頻脈,筋固縮,横紋筋融解症,振戦,嚥下障害,流涎,体温上昇が現れます.
プロラクチンは脳下垂体前葉から分泌されるホルモンで,乳汁分泌作用と性腺抑制作用をもちます.妊娠・授乳期に高い血中濃度を示すのは問題ありませんが,それ以外の時期にプロラクチンが過剰に分泌されると高プロラクチン血症となり,乳汁漏出,女性化乳房,性機能障害などのプロラクチン関連障害(図)が現れる場合があります1, 2).また長期的には,骨密度の低下や乳がんのリスク増加とも関連すると考えられています.
統合失調症の急性期では通常,幻覚や妄想などの陽性症状や興奮などが強く現れるために,処方全体としては鎮静傾向の処方内容となります.すなわち,抗精神病薬のうち,比較的強い鎮静効果をもっている薬剤群であれば十分な用量が使用されますし,鎮静効果の弱い薬剤群では,鎮静効果を補うための補助薬が使用されます(図a ).
精神科治療薬の運動失調に関する副作用として,よく知られているものに抗精神病薬などによる錐体外路症状(EPS)があります.
錐体外路症状(EPS)は,アセチルコリン神経系とドパミン神経系の活性のバランスが崩れることで引き起こされます.脳のドパミン神経系の一つである黒質線条体神経路では,ドパミン神経はアセチルコリン神経系に作用してアセチルコリンの遊離を制御(抑制)しています.抗精神病薬によってドパミン神経の活動が弱くなると,見かけ上,アセチルコリン神経系の活動が活発な状態になりEPS が引き起こされます(図1).
パルスオキシメータは,皮膚の上から赤い光を当て,経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)と脈拍数を測定する機械です.クリップになっている部分を開いて指を挟み,爪の部分が発光部にあたるように奥まで差し込みます(図).簡便で非侵襲的に,かつ短時間でSpO2が測定できます.最新のパルスオキシメータは,体動によって生じる静脈の拍動などの生体ノイズを除去することにより正確なSpO2 モニタリングを可能にし,脈波に基づいて呼吸数を測定できるものもあります.SpO2 は,動脈血の中を流れている赤血球に含まれるヘモグロビンの何% に酸素が結合しているか,経皮的に調べた値です.入院患者では呼吸状態の指標として脈拍,体温,血圧,呼吸数に加えSpO2 を測定します.
血液ガス分析は,血液中の酸素や二酸化炭素の量,血液の性状を調べる検査です.通称「血ガス」とよばれます.血液ガス分析では,主に,①酸素化,② 肺胞換気,③ 酸塩基平衡が迅速に評価できます.このうち③については他稿(p.214)で解説します.
圧力の単位
国際単位系(SI)では圧力の単位は,パスカル(Pa)が使用されます.1Pa は1N/m2(ニュートン毎平方メートル)で,1m2 あたり1N(= 1kg・m/s2)の力が働いている状態です.これを変形すると
1Pa =1N/m2 = 1kg/m・s2
となりますので,基本単位である質量,長さ,時間の組み合わせで組み立てられていることがわかります.
血液のpH が酸性である状態をアシデミア(酸血症),酸性に傾く病態・変化をアシドーシス,またアルカリ性である状態をアルカレミア(アルカリ血症),アルカリ性に傾く病態・変化をアルカローシスといいます.血液のpH は7.35 ~ 7.45 という非常に狭い範囲で調節されており,これは生体の細胞が適切に活動するための条件となっています.pH 7.35 以下がアシドーシス,pH 7.45 以上がアルカローシスです.
ピークフローメーター(図1)とは,最大呼気流量(PEF)を測定する簡易呼吸機能計測器で,喘息患者の日常の病状コントロールを把握するために用いられます.
スパイロメトリーは,スパイロメーターという装置で行う呼吸機能検査です.肺に出入りする空気の量を測定する検査で,この記録曲線(空気の流れ)をスパイログラム(図1)とよびます.検査は侵襲性がなく通常15 分程度で終了します.閉塞性換気障害や拘束性換気障害の有無が判断でき,喘息,COPD,間質性肺炎などの診断に有用です.
呼吸音は,呼吸によって生じる空気の振動音を指し,気管支の第7 ~ 9 分岐までの乱流領域で発生します.それより末梢にある気管支の部位では気流が乱れないため呼吸音は発生しません.聴診の際に大きく呼吸すると,呼吸音は大きく聴こえます.気管で生じた高い音は大きく聴こえますが,肺の末梢で生じた高い音は肺実質に吸収されるため伝播されにくく,低く小さい音(肺胞呼吸音)が聴こえます.
見るからに調子が悪そうな患者に,「横になるよりも,こうやって座っていた方が呼吸は楽(図1).横になると息苦しくなるので眠れない」と言われたことはありませんか?
気胸とは,肺に穴が開いて肺の空気が胸腔内へ漏れ出し,その空気によって肺が潰れてしぼんでしまう状態です.息を吸っても肺が広がりにくいため呼吸がうまくできません.最も多い原因は自然気胸で,10 ~ 30 代のやせ型の男性に好発します.突然の胸痛を発症し呼吸困難を伴うこともあります.軽症であれば安静を保つことで自然に治癒する場合もありますが,緊張性気胸では穿刺脱気(胸腔に針を刺して減圧を行う)などの緊急の対応が必要になります.
吸入デバイスはその構造から,加圧定量噴霧式吸入器(pMDI)とドライパウダー吸入器(DPI)に分類されます(図).
酸素は生体の正常な機能・生命の維持に不可欠な物質であり,その酸素の供給が不十分となることで細胞のエネルギー代謝が障害された状態を低酸素症といいます.低酸素症に対して,吸入気の酸素濃度を高め,適量の酸素を投与する治療法が酸素療法です.臨床で汎用される酸素投与方法のメリットと注意点を図1 ~ 3 に示します.
マスク換気とは,心肺蘇生や人工呼吸器装着前・回路の交換時などにマスクを用いて用手的に換気補助を行うことを指します.換気装置には,バッグバルブマスクとジャクソンリースがあります(図).緊急時には,バッグバルブマスクでの換気が第一選択です.その後に気管挿管を行いジャクソンリースや人工呼吸器に接続します.
気管挿管とは,気道を確実に確保する方法の一つで,口や鼻から咽頭を経由して気管内チューブを挿入する手技です(図).意識障害や重症呼吸不全のある患者に実施されます.心肺蘇生,人工呼吸管理や全身麻酔には必須となります.適応基準を表に示します.
がんのステージ
がんと疑われる病変が見つかると,ほとんどの場合,まず病変から組織を採取し,病理診断によりがんの診断を確定させます.同時にレントゲン検査やCT 検査,内視鏡検査などの各種画像検査を行い,見つかったがんのステージ(進行度)を決めていきます.
初発と再発
それまでがんと診断されたことがない患者さんが初めてがんと診断されたとき,「初発」のがんと表現します.また,がんの既往があっても,既知のがんとは異なる部位から発生したほかのがんが診断された場合も「初発」にあたります(図1).
レジメン1)
「レジメン(regimen)」は,米国国立がん研究所(NCI)のホームページ中に,「(抗がん薬の)投与量,投与スケジュール,治療期間を明記した治療計画」と定義され,抗がん薬以外にも,輸液(希釈・溶解液),支持療法薬(制吐薬など)が合わせて記載された,時系列的な治療計画です.今や,抗がん薬はレジメン管理することが当たり前となっていますが,米国有数のがん医療機関である,ダナ・ファーバーがん研究所で起こった医療事故(’ 94 年)をきっかけに,その機運が高まったとされています.
腫瘍マーカーとは,がんに関連して血中や尿中で変動する特定の物質のことをよびます(図).そのため,時にがんの診断や治療効果,予後などの判定に使用されることがあります.腫瘍マーカーは正しく解釈すれば有益な情報になることがありますが,腫瘍マーカーの値のみに振り回されず,症状や画像検査の結果と合わせて総合的に判断することが重要です.
がんの進行度からみて,治癒が可能な状態であれば,手術療法に加えてエビデンスに基づいた周術期化学療法により根治を目指します(図a ).周術期化学療法は一部薬剤の添付文書では「術前・術後薬物療法」と記載されていますが,同じ意味です.
磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging:MRI)は,X 線を使用せず,強い磁場と電磁波を使って体内の状態を断面像として描写する検査です.具体的には体内の水素原子核の核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance:NMR)現象を用いて,異常を検出します.
放射性壊変(崩壊)
放射性同位体は,放射線を出すことで安定同位体へと変化していきます.このことを放射性壊変(崩壊)といいます.放射性同位体の原子核の数は時間の経過とともに減少します(図).
放射線の種類
放射性同位体は,放射線を出すことで安定同位体へ変化していきます.このことを放射性壊変(崩壊)といいます.壊変にはα壊変,β壊変があり,α線やβ線を放出した原子核の多くは,励起状態になるので,それらが安定同位体になるときにγ線が放出されます(図1).
PET とは?
PET は,陽電子放出断層撮影(positron emission tomography)とよばれる核医学検査のひとつです.陽電子(positron)とは,放射性のあるプラスの電荷をもつ電子で,β+壊変(崩壊)とよばれる原子核内の陽子が中性子に変換する過程で放射される放射線です(p.250 参照).β+線ともよばれます.例えば,炭素の安定核種(12C)よりも質量数が1 つ少ない116C について考えてみると,原子番号(陽子の数)が同じで質量数が1 つ少ないということは,中性子が1 つ少ない状態です.この時,下式のような壊変(崩壊)が起こり,過剰な陽子1 つが中性子に変わることで安定核種である原子番号5 のホウ素(115B)に変わります.このときに放射性のあるプラスの電子とニュートリノを放出します.この放射性のあるプラスの電子がβ+線です.
坐剤に用いられる基剤の特徴
小児領域では,アセトアミノフェン坐剤とジアゼパム坐剤のように,坐剤が2 種類処方されることがあります.両剤の使用タイミングが重なった場合,どのように使用するのがよいか考えてみましょう.
初回通過効果とは
内服した薬物は,胃や腸などの消化管で吸収された後,肝臓に直結する門脈を通過します.そうして肝臓に到達した薬物は,薬物代謝酵素などによる代謝を受けます.これを初回通過効果とよびます.ただし,すべての薬物が代謝を受けるわけではなく,代謝をまぬがれた薬物が肝静脈から下大静脈に入り,心臓から全身へ分配され効果を発現します.そのため初回通過効果の大きい薬物は代謝される割合を見越して多めに投与量を設定しなければならず,初回通過効果は薬物の投与量設定のための重要な情報であるといえます.
太陽光線の種類
地球に届く太陽光線には紫外線(波長:200 ~ 400nm),可視光線(400 ~ 760nm 付近),赤外線(760nm 以上)の波長の異なる光が含まれています.また光のエネルギーEと波長λの間には次式が成立します.
FTU とは?
保湿剤の使用量の目安としてフィンガーチップユニット(Finger Tip Unit:FTU)が知られています.ヒルドイド® ソフト軟膏やヒルドイド® クリームの25g チューブや50gチューブのような穴の直径が5mm のタイプのチューブでは,成人の人差し指の先端から遠位指節間関節(第一関節)までの長さを押し出した量が1FTU で,約0.5g に相当します1, 2)(図).しかし,ヒルドイド® ローションの場合は,容器の形状がソフト軟膏やクリームとは異なるためFTU の基準が異なります.具体的には1 円玉大に排出した量が1FTU(約0.5g)相当となります2).いずれにしても,1FTU(約0.5g)で成人の手のひらの面積の約2 枚分に塗ることが可能です.
静脈注射は,薬剤を静脈内に注入する投与法です.静脈内への注射では,他の薬剤の投与法と違い,血中に取り込まれるまでに吸収過程が存在しないことが特徴です.そのため,消化管吸収率が低いことや初回通過効果が大きいことなどによりバイオアベイラビリティが低い薬剤や,錠剤などへの製剤化が難しい薬剤で頻用されます.
蘇生後で低体温療法が実施され徐々に復温中の患者さん.投与中の注射剤数は15 種類.看護師から「投与可能なルートはCV(中心静脈)のみでトリプルルーメンが入っています.末梢は全くとれません.もう1 剤,何とかなりませんか?」と問い合わせ.集中治療室ではよくある場面です.薬剤師への注射剤の配合変化に関する問い合わせは多く,迅速かつ的確な情報が求められます.成人であればトリプルルーメン・クワッドルーメンなどカテーテル径の大きいCV カテーテルを留置できますが,小児では一般的にダブルルーメンやシングルルーメンが使われます(図).限られたルート数のなか,注射剤が配合変化を起こすことなく適切に投与できる投与設計が求められます.
注射針の包装に記載された「G」とは?
注射針に記された「G」は「ゲージ」と読み,外径サイズ(太さ)を表します.数字が大きくなるほど外径サイズは細くなります.以前は金属製の注射針を洗浄・滅菌して再使用する場合もありましたが,今はほとんど使い捨て(ディスポーザブルタイプ)です.ディスポーザブル注射針は,識別のため針基の部分が外径別に色分けされています1)(図1).
フラッシュとは,生理食塩液(生食液)などを急速に注入し,カテーテル内の薬液を押し出すことです.また,ロックとは留置するカテーテル内を液体で満たし,次回の輸液ルートを確保することです(図1).どちらの手技も衛生面の観点から,プレフィルドシリンジ製剤を用いることが望ましいとされています.
栄養輸液は,経口摂取や経腸栄養で十分量の栄養が補充できない場合の補助的な栄養源になるだけでなく,消化管が機能していない患者にとっては唯一の栄養源となります(図).
栄養輸液を用いて栄養管理を行うことを静脈栄養(PN)といい,栄養投与量や投与ルートに応じていくつかの種類があります(図1).
PFC 比
PFC とはタンパク質(protein),脂肪(fat),炭水化物(carbohydrate)の頭文字をとったもので,以前は三大栄養素とよばれていましたが,近年はエネルギー産生栄養素とよばれています.摂取熱量全体を100% としたときのエネルギー産生栄養素それぞれの熱量の構成比をPFC 比といいます.
細胞外液補充液
細胞外液補充液は細胞外液(血管内と組織間液)への分布を目的に使用する輸液製剤であり(図),血漿の電解質組成に類似するようNa+が130 ~ 154mEq/L に調整されています.代表的な製剤には生理食塩液,乳酸リンゲル液,酢酸リンゲル液,重炭酸リンゲル液があります(表)
心臓の電気活動には,心房にある洞結節(洞房結節)から開始され,房室結節を通り心室に至るという,正常な流れがあります.これを一定頻度でくり返すことで心臓は心房と心室が交互に収縮し,全身に血液を循環させます.正常な脈拍は1 分間に50 ~ 100 拍程度であり,脈拍数が極端に少ない状態を「徐脈」,多い状態を「頻脈(頻拍)」とよびます.また,徐脈・頻脈に加え,心臓の電気活動の乱れが生じている状態を含めて不整脈とよびます.そのなかで死に至る可能性のある危険な不整脈が致死性不整脈です.
心電図検査は,心臓の収縮に関わる電気的な流れ(刺激伝導系)の異常を検知するための検査です.臨床では,検査目的に応じた心電図測定が行われます(図1).
薬剤による心電図異常の主な原因は,①交感神経・副交感神経系への作用によるもの,②心筋の刺激電動系や心筋細胞膜への直接的影響によるもの,③薬剤使用に伴って生じる電解質異常や代謝異常などによる二次的なものの3 つです.①の機序にまつわる知識として,交感神経の興奮により心拍が増加し,副交感神経の興奮により心拍が減少することはご存じかと思います.一方,②を理解するには,刺激伝導系と心電図の関係について知っておく必要があります(図1).③ については,利尿薬による高カリウム血症・低カリウム血症や,甲状腺ホルモン関連薬によるものなどがあげられますが,ここでは割愛します.
バイタルサインとは生命活動を示す基本的な兆候のことで,血圧,脈拍,体温,呼吸を指します.また,意識レベルを含めることもあります(図1).
意識レベルの評価の必要性
患者の意識状態を評価する方法として,評価スケールが汎用されています.臨床においては,意識レベルの評価は患者の急変時や,救急集中治療領域における患者の重症度,気道確保の必要性などの判断に用いられます.臨床現場で汎用されている意識レベルの評価ツールとして,Japan coma scale(JCS)とGlasgow coma scale(GCS)があります.また,意識障害の患者にする原因疾患の鑑別診断方法としてカーペンター分類があります.
鎮静の定義と目的
鎮静の定義は,患者の苦痛緩和を目的として患者の意識を低下させる薬剤を投与すること,あるいは,患者の苦痛緩和のために投与した薬剤によって生じた意識の低下を意図的に維持すること1)とされています.一般病棟ではがん患者の苦痛緩和やがん患者などに用いられますが,ここでは集中治療領域を中心に述べます.
ショックとは,生体への侵襲や侵襲に対する生体反応の結果,重要な臓器への血流が低下して,細胞の代謝障害や臓器障害が生じる急性の症候群のことです.低血圧は特徴の一つですが,必須ではありません.身体所見や検査所見として,臓器灌流の低下や酸素の需給バランスの破綻がみられます.
ショックの際に起こる細胞の代謝障害や臓器障害は,重要な臓器への血流(臓器灌流)低下と酸素の需給バランスの破綻が主な要因です(図1).つまり,酸素を十分に含む血液を重要臓器に送り込むことがショックの管理において重要になります.
集中治療後症候群(post intensive care syndrome:PICS)とは,集中治療室(intensive care unit:ICU)に入室中あるいは退室後に生じる身体障害,認知機能の低下,精神障害のことです.PICS はICU 患者の長期予後のみならず患者家族の精神にも影響をおよぼすことがわかっており,この患者の家族に発症するものをPICS-Family(PICS-F)といいます.
敗血症は,「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と定義されています.また,より重症な敗血症性ショックとよばれる病態については,「急性循環不全により細胞障害および代謝異常が重度となり,ショックを伴わない敗血症と比べて死亡の危険性が高まる状態」と定義されています.
病 態
DIC(disseminated intravascular coagulation:播種性血管内凝固)は,種々の原因により,局所にとどまらない血管内凝固活性化を来す後天性の症候群と定義されています1).著しい凝固活性化は,血管内に微小血栓を大量に発生させ,細い血管を中心に血栓閉塞を引き起こし,臓器障害の原因となります.また,重篤かつ持続的に凝固活性化が起こると,血小板や凝固因子が枯渇し,消費性凝固障害が生じます.さらには,過剰な凝固活性を制御するために,線溶系(血栓を溶かして分解するはたらき)も過剰に活性化します.よって,DIC では臓器障害および出血症状が問題になります.
AKI とは
急性腎不全(acute kidney injury:AKI)は急激に腎機能が低下する病態の総称であり,腎血流量低下による腎前性(脱水,出血,心不全など),尿路障害による腎後性(前立腺肥大,悪性腫瘍,神経因性膀胱など),腎実質の障害による腎性(糸球体腎炎,尿細管壊死,間質性腎炎など)に分類されます.AKI では腎機能が完全に回復する場合もありますが,不可逆的な腎機能障害を生じて慢性腎不全に移行する場合や死亡に至る場合もあります.AKI の診断基準にはRIFLE,AKIN,KDIGO の3 つが提唱されており,AKI 診療ガイドライン2016 でも推奨されているKDIGO 診断基準が頻用されます.KDIGO 診断基準では,血清クレアチニンおよび尿量を用いて重症度をステージ1 ~ 3 に分類します1).
ARC とは
腎機能障害に伴う腎クリアランスの低下により腎排泄型薬剤の減量が必要となることは一般的ですが,全身に強い炎症を伴った重症患者などでは腎クリアランスが増大し,薬剤の増量が必要となる場合があります.このような状態を過大腎排泄(augmented renal clearance:ARC)と呼び,敗血症患者などの重症病態で多く認められます.
CRRT とは
腎不全患者に認められる乏尿や電解質異常,代謝性アシドーシス,尿毒症症状などの改善目的で選択される代表的な腎代替療法に血液透析(hemodialysis:HD)がありますが,低血