臨床皮膚科 71巻5号 (2017年4月)

増刊号特集 最近のトピックス2017 Clinical Dermatology 2017

1.最近話題の皮膚疾患

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近年,国内外で糖尿病治療薬のdipeptidyl peptidase-4(DPP-4)阻害薬を内服中に発症した水疱性類天疱瘡(bullous pemphigoid:BP)の報告が散見される.これを受け,DPP-4阻害薬の一部では添付文書の改訂もなされた.当院において,DPP-4阻害薬が本邦で発売された2009年12月〜2015年11月に受診したBP症例34例について検討したところ,そのうち9例がDPP-4阻害薬を内服中に発症していた.BPも糖尿病も高齢者に多い疾患であることから偶発している可能性も否定できないが,この発症頻度は糖尿病の有病率よりも高かった.糖尿病患者におけるDPP-4阻害薬の内服頻度は高く,本剤内服中に発症するBP患者の診療機会も増加すると予想される.BPを診療する際には,詳細な服薬歴の聴取が必要である.現時点ではまだその関連性や発症機序は明らかになっておらず,今後の解明が望まれる.

Pork-cat syndrome 千貫 祐子
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Pork-cat syndromeは獣肉アレルギーの一種で,原因抗原は豚の血清アルブミン(Sus s)であり,類似の構造を有するネコの血清アルブミン(Fel d 2)に経気道的に感作された後,交差反応によって豚肉摂取時にアレルギー症状を呈する疾患である.遅発性に発症する糖鎖α-Galが原因の獣肉アレルギーとは異なり,一般的に豚肉摂取30〜45分後に症状が出現するとされる.Pork-cat syndromeの診断には,問診と同時に,豚の血清アルブミン(Sus s)特異的IgEとネコの血清アルブミン(Fel d 2)特異的IgEの測定を行うことが有用である(保険未適用).保険適用の検査では,豚肉特異的IgEとネコ上皮特異的IgEを測定することで,ある程度推測できる.豚肉摂取後に蕁麻疹やアナフィラキシーを発症した患者を経験した場合は,ネコの飼育歴やネコとの接触の問診聴取が必要であり,豚肉やネコ(上皮やフケ)の特異的IgE検査を行う必要がある.

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Terra firma-forme dermatosisは,主として小児に後天性に生じる泥汚れ様の色素斑で,石鹸ではとれないがアルコールで容易に拭き取れるのが特徴とされる.典型的な2症例を報告する.この病名を用いた本邦症例報告は皆無であるが,日常見かける病態であり,アカツキ病の一型として扱われてきたものと思われる.ダーモスコピー像は特徴的でコーンフレーク様の黄褐色角化物が皮溝を避けるように配列する.70%イソプロピルアルコールにより清拭すると容易に除去されることによって診断は確定し,治療も兼ねる.本邦で提唱されているアカツキ病は「主として心的機制によって局所的清浄化が妨げられて鱗屑痂皮として蓄積した状態」として定義され欧米でpomade crustとして報告されているものに近い.しかし,terra firma-forme dermatosisは心的機制が明らかではないものの,その病態から小児型アカツキ病として認識すべきものであると考える.

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SAPHO症候群は,synovitis(滑膜炎),acne(痤瘡),pustulosis(膿疱症),hyperostosis(化骨症),osteitis(骨炎)を主症状とし,膿疱症には,掌蹠膿疱症の他,化膿性汗腺炎も含まれる.最近では自己炎症性疾患に位置づけられているが,本邦においてはきわめて稀である.一方,掌蹠膿疱症は本邦に多い疾患であり,それに付随する関節炎もしばしばみられる.SAPHO症候群と,掌蹠膿疱症性骨関節炎は,同義語であると考える立場と,意識的に使い分ける立場とがあり,本邦皮膚科においてもいまだ統一的な見解が得られていない.本稿では,SAPHO症候群やその近縁疾患について私見を交えて概説した.

2.皮膚疾患の病態

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皮膚は,表皮細胞,真皮内の免疫細胞と皮膚常在微生物の相互作用により,物理的・免疫学的に宿主を感染から防御する.両者のバランスが崩れると常在微生物の組成が変わるdysbiosisが起こり,皮膚感染症やアトピー性皮膚炎などの湿疹性病変が出現・増悪する.また,特定の条件下で増殖し病原性を発揮する“pathobiont(病原性偏利共生菌)”と称されるヒトの常在微生物の中でも,Staphylococcus aureusはクオラムセンシングという同種の生息密度を感知し栄養要求性を充足する機構を用い,病原物質を放出,皮膚炎を惹起することが解明され,アトピー性皮膚炎の病態への関与が明らかになりつつある.本項ではこのような最近の研究成果をまとめ,スキンケアを考える上で細菌叢が注目される根拠について概説する.

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皮膚,腸管,肺,生殖器などにおいて長期生存し,迅速かつ強力な免疫防御を担う「レジデントメモリーT細胞(resident memory T cells:TRM)」に関する一連の報告は,バリア臓器における基本的な免疫メカニズムの解明とさまざまな疾患病態の理解に重要な知見を与えている.皮膚では,固定薬疹,ウイルス感染,アレルギー性接触皮膚炎などにおいてCD8TRM,CD4TRMの重要性が示唆されており,特に,皮膚T細胞リンパ腫(cutaneous T cell lymphoma:CTCL)においては局所のリンパ腫細胞などを標的とした治療開発が進められている.近年,毛囊がさまざまな白血球に対して能動的な免疫学的機能を有することが明らかとなっており,毛囊由来のサイトカインが皮膚TRMの恒常性維持およびCTCLにおけるリンパ腫細胞の表皮局在に重要な役割を担うことが示唆された.今後,複雑に絡み合った免疫システムの全体像の把握や,T細胞性の皮膚疾患に対する革新的治療の開発戦略等に寄与することが期待される.

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ロドデノール(英語表記:rhododendrol)の結合を受けたチロシナーゼ蛋白から隠蔽自己抗原ペプチド(cryptic-self peptides)が産生され,これを非自己と誤認したT細胞によってメラノサイトが傷害されるという作業仮説を証明することに成功した.ロドデノールはチロシナーゼに結合し酵素活性を阻害することが知られている.基質が結合した酵素はアロステリック効果によりその高次構造を変化させる.その際,生体内のプロテアーゼが普段は接近できない場所に接近できるようになることで,生理的には存在しないペプチド断片が産生されることがある.そのようなペプチドは隠蔽自己抗原として自己免疫病を誘導しうると考えた.さらにマウスを用いた研究によりロドデノールとX線照射処理したマウスメラノーマ細胞(B16)を反復免疫することにより担癌マウスに効率的に抗腫瘍免疫を誘導できることを証明した.

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Kallikrein-related peptidasesは,複数の遺伝子から構成される分泌型のセリンプロテアーゼファミリーである.表皮では顆粒層から角層において発現している.これらは,コルネオデスモソームの分解により角層の剝離において重要な役割を果たす.さらにprotease-activated receptor 2を介した炎症反応の誘導,抗菌ペプチドのプロセッシングなど多彩な機能を持つ.表皮におけるkallikrein-related peptidasesの生理的な役割について述べるとともに,Netherton症候群,アトピー性皮膚炎,乾癬など炎症性皮膚疾患で認められるkallikrein-related peptidasesの過剰な活性化とその意義について最近の知見を解説する.

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基底細胞癌は最も頻度が高い皮膚悪性腫瘍である.外科的切除のみにて完治する症例が多い一方,基底細胞癌の0.6%が重症型であり,進行期の基底細胞癌に対する治療法は十分ではなかった.近年,基底細胞癌の発症のメカニズムとしてヘッジホッグ伝達経路の活性化が報告された.このヘッジホッグ伝達経路を遮断する薬剤としてvismodegib(ビスモデギブ)が欧米で認可され一定の治療効果を上げている.興味深いことに,イトラコナゾールがヘッジホッグ伝達経路を遮断する効果を有することが報告された.ヒト基底細胞癌のPhase Ⅱの臨床試験にて有効性が報告されており,今後進行期の基底細胞癌に対する治療法になりうる.

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紫外線は悪性黒色腫の最大の危険因子だが,非露光部の足底にも悪性黒色腫が生じる.さらに露光部悪性黒色腫ではBRAF遺伝子変異が高率であるのに対し,足底悪性黒色腫ではほとんど検出されない.そのため足底悪性黒色腫の多くは露光部悪性黒色腫とは異なった機序で発生すると推測される.足底悪性黒色腫の好発部位と荷重部位との関連を調べたところ,踵部や趾球部の荷重部位に多くの病変が分布していたのに対し,非荷重部位の土踏まずにはほとんど病変がなかった.このことから,荷重負荷などによる機械的ストレスが足底悪性黒色腫の病態にかかわっている可能性が強く示唆された.

3.新しい検査法と診断法

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炎症性筋疾患の中で多発性筋炎および皮膚筋炎に関しては,患者血清中の自己抗体の解析が近年飛躍的に進み,いわゆる疾患マーカー自己抗体がいくつも同定されてきた.その中でも,抗MDA5抗体,抗Mi-2抗体と抗TIF1-γ抗体は多発性筋炎よりも皮膚筋炎との関連が強く,さらには,これら3つの自己抗体は皮膚筋炎の臨床サブセットと深く関係している.抗MDA5抗体は,筋症状は乏しいものの急速進行性の間質性肺炎を合併するタイプと,抗TIF1-γ抗体は,小児皮膚筋炎もしくは悪性腫瘍合併の成人皮膚筋炎と,抗Mi-2抗体は合併病態に乏しい生命予後が良好なタイプと関連する.2016年の10月にELISA法によるこれら抗体の測定が保険収載された.3種の自己抗体の臨床的意義や測定の保険上の制約について,よく理解したうえで効率よく検査を施行することが望まれる.

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薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)は,限られた薬剤により遅発性に発症し,発熱,多臓器障害,ヒトヘルペスウイルス再活性化を伴う重症型薬疹の1つである.本症では,初期の対応がその後の経過を左右するため,早期診断が必要不可欠である.しかし実際には,問診や臨床所見のみから,DIHSを早期に診断するのは困難なことが多い.近年,DIHSの発症初期に,Th2型免疫反応を誘導するケモカインの1つであるthymus and activation-regulated chemokine(TARC)の血清中濃度が著明に高値を示すことが明らかとなった.一方,Stevens-Johnson症候群,中毒性表皮壊死症,紅斑丘疹型薬疹では,軽度の上昇にとどまることから,TARCがDIHSの早期診断のバイオマーカーとして注目されている.

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ウイルス感染を証明する検査には,血清学的方法とウイルス粒子の証拠を証明する方法がある.単純ヘルペス,水痘・帯状疱疹の診断では,水疱部からの抗原検査やウイルスDNAを検出するPCR法などが有用だが,血清学的な診断は単純ヘルペスでは持続潜伏感染して再発する性質から,初感染以外は難しい.近年,イムノクロマト法が性器ヘルペスに対して保険適用となり,短時間で局所のウイルスを証明できるようになった.イムノクロマト法は感度の面でPCR法やLAMP法に劣るが,特異度は高く臨床的には十分有用な検査である.今回,これらの検査の機序や検査方法などについて述べた.ヘルペスウイルスは潜伏感染するため検査を行う場合は,その方法や採取部位,採取時期などを考慮して結果を判断する必要がある.

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ダーモスコピーは現在皮膚科の診療現場において定着してきたと思われる.しかし判断能力においてはいまだ個人差があり,やはり多くの症例に対して経験することが大切である.まずは感度・特異度の高い色素性病変で十分に症例を経験し,ダーモスコピー所見と病理組織学的所見を照合しながら考察する.そして他の各疾患においてダーモスコピーを使用し,やはり病理組織学的所見と照らし合わせて考察することで,ダーモスコピーの有効性が理解できると同時に臨床診断力が向上することに気づかされるものである.ただし過信しないことも重要で,診断に悩む際は躊躇なく生検して病理組織学的に検討し,そしてダーモスコピーで確認される各所見の理由を見直すことを忘れてはいけない.

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血管肉腫は比較的稀な間葉系悪性腫瘍であるが,高齢者に多く発生し比較的診断が難しくかつ進行が速いことなどから皮膚悪性腫瘍の中で最も予後の悪いものの1つとしてよく知られている.近年本邦では増加傾向にあるという報告もあり,きたる高齢化社会において問題となる可能性がある.このような状況に対して最近,パゾパニブをはじめとする新規治療薬が登場し,さらに頭部血管肉腫診療ガイドラインが策定された.そしてわれわれは最近,血管肉腫において新しい融合遺伝子NUP160-SLC43A3を発見した.本稿ではその詳細と今後の展望について述べる.

4.皮膚疾患治療のポイント

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巻き爪は日常診療でしばしば遭遇する疾患である.ほとんどの患者は巻き爪に伴う疼痛を主訴に受診する.その治療方法はいろいろ報告されているが,非観血的な形状記憶合金などを用いた爪の矯正法などが主流となっている.しかしながら非観血的療法で疼痛は軽減されないことがある.われわれは難治性の足趾の巻き爪に対し,魚口切開法を基本とした骨形成を含めた爪床形成術を行っている.爪床形成術は手を出しにくい感があるが,シンプルなデザインとし,高度な技術は必要のないようにした.魚口切開法は古典的な手術法であるが,外科技術を身に着けた皮膚科医ならば施術可能であり,難治例に対する選択肢として有用である.

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液体窒素療法などの一般的な治療法に抵抗する手足の尋常性疣贅には,レーザー照射療法も有用な治療選択肢の1つである.今回,われわれは1,064nmロングパルスNd:YAGレーザー(LP-Nd:YAG)を使用し,難治性疣贅20症例,手足疣贅の合計34病変に対して,4週±2週間ごとに,疣贅が完全に消失するまで繰り返し照射を施行した.その結果,治療開始6か月後の効果判定においては,56%の症例では治癒となった.作用機序として,本レーザーでは①病変部のウイルス感染している表皮を基底層から剝離させることができる点.②疣贅の栄養血管を熱変性させて,病変部を凝固・壊死させて脱落させる働きがある点.③温熱療法による免疫賦活化作用などが考えられる.LP-Nd:YAGを使ったレーザー治療法は,疣贅治療に対する患者満足度を高めるためにも重要である.

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2015年9月から皮膚ループスエリテマトーデス(cutaneous lupus erythematosus:CLE)や全身性エリテマトーデス(systemic LE:SLE)の治療の世界的な標準薬であるヒドロキシクロロキン硫酸塩(hydroxychloroquine sulfate:HCQ)の使用が本邦でも可能となった.ステロイドなどの外用薬が効果不十分,あるいは外用薬の使用が適切でない限局的CLEや,皮膚症状・倦怠感等の全身症状・筋骨格系症状等があるSLE患者に適応がある.投与は身長に基づき算出される理想体重1kgあたり6.5mgを超えない量(200〜400mg/日)を1日1回で投与するのを基本とする.眼科検査が重要で,投与開始前のスクリーニング,そして投与中にあっては少なくとも年に1回は定期的に実施することが基本である.今後,どのような皮疹に有効性があるのかを検討していく必要がある.

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βブロッカーであるプロプラノロールが乳児血管腫の退縮効果をもたらすことが,2008年偶然に発見されたことを契機に,欧米では本剤が重症乳児血管腫に対する第一選択として用いられるようになっていた.わが国では,インデラル錠を粉砕して適用外使用してきたが,2016年ヘマンジオル®シロップが乳児血管腫に対して保険承認が下り発売されるに至った.増殖期の乳児血管腫で,眼裂,鼻腔,口腔,外耳道の狭小化などの機能的問題や,顔面の巨大例などの整容的問題がある場合,潰瘍形成があり易出血性がある場合などに内服させると,非常に有用な治療法である.本剤は非選択的βブロッカーであり,循環器系,呼吸器系,糖代謝系,中枢神経系などへのさまざまな副作用の懸念もあるため,安易に使うことなく,リスク・ベネフィットをよく検討し適応を厳選した上で,バイタルチェックをこまめに行いながら慎重に投薬し,長期経過観察を行っていくことが大前提となる.

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痒疹の治療として,さまざまな工夫がされているが副作用のない効果的な治療法はない.われわれは痒疹の発生要因として発汗障害があることに着目して,保湿剤を大量に塗布部位に密封療法(occlusive dressing technique:ODT)を行い,有効な治療効果を得た.痒疹の中心部は,安静時はもちろん温熱誘発によってもほとんど汗をかかないが,保湿剤のODTを行うと痒疹の中央部位から周辺に発汗滴が増え,温熱負荷により治療前にはみられなかった発汗誘発が良好に認められた.このことより痒疹は発汗障害を伴う疾患であると考えた.

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アプレミラストは本邦で25年ぶりとなる経口の新規低分子乾癬治療薬である.米国では2014年に乾癬性関節炎,次いで局面型乾癬で承認され,国内でも2016年12月に尋常性乾癬,関節症性乾癬で承認された.他の内服薬や生物学的製剤を含む全身治療と比較して,効果は劣るが非常に高い安全性を示す.過剰な免疫抑制をもたらす懸念がないことから,生物学的製剤で課される投与開始前のスクリーニング検査や投与開始後のモニタリング検査は不要であり,特徴的な臓器障害や併用薬剤との相互作用の懸念もほとんどないことから,クリニックレベルでも使いやすい薬剤と言える.乾癬治療における位置づけとしては,生物学的製剤導入前に用いるのが妥当と考えられるが,生物学的製剤を含めた他の治療との併用も考慮しやすい薬剤と言える.

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菌状息肉症の治療の基本は紫外線療法に代表されるskin-oriented therapyである.治療に抵抗性の場合にインターフェロンやレチノイドなどの薬物療法を併用するのが標準である.難治性の皮膚病変に対して放射線療法も効果的である.皮膚外病変が生じた場合は化学療法の適応になるが,どの化学療法も長期完全寛解は期待できないため,外来で使用できる経口薬による単剤化学療法を用いることが一般的である.さらに悪化してきた場合は,モガムリズマブやゲムシタビンなどの点滴治療や臨床試験を考慮する.これまでは欧米で認可されている薬が日本では使用できないという,いわゆるドラッグラグの問題があったが,近年では本邦への薬剤導入が進んでいる.近年認可されたインターフェロン,ベキサロテン,モガムリズマブ,菌状息肉症の臨床試験が進んでいるデニロイキンジフチトクス,ブレンツキシマブ・ベドチンについて解説する.

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血管肉腫のうち約半数を占めるとされる頭部血管肉腫は,脈管内皮細胞由来の非常に稀な肉腫であり,一般的な軟部肉腫とは発生リスク因子,発生部位,転移再発形式,予後などが異なるとされる.稀少であるがゆえに,これまで頭部血管肉腫に対する有効な治療法の開発は十分と言える状態にはない.近年本疾患に対してパクリタキセルに続き,パゾパニブ,エリブリンなどの薬剤が使用可能となり,さらには2016年2月に頭部血管肉腫診療ガイドラインが公開され,今後は治療法がある程度標準化されていくことが期待される.現時点では,初回治療時から局処治療に加え全身療法を組み合わせていく治療戦略が徐々にコンセンサスを得てきているが,血管肉腫に対して複数の薬剤が使用可能になったことで,それらをうまく組み合わせることによりさらなる治療成績の向上が期待される.

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免疫チェックポイント阻害薬としてニボルマブ,イピリムマブ,ペンブロリズマブが,低分子性分子標的薬としてベムラフェニブ,ダブラフェニブ,トラメチニブ,と進行期悪性黒色腫に対する新薬ラッシュが止まらない.臨床医は常に最新の情報を取り入れ,これらの薬剤を適切に使いこなすことが要求される.日本皮膚悪性腫瘍学会は「悪性黒色腫新規薬剤に対する治療の手引version1.2016」として,治療フローチャートを公表した.本稿では手引に基づいて進行期悪性黒色腫の治療戦略について,その行間について文献を基に述べる.BRAF変異陽性症例に対して,低分子性分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬のどちらから治療を開始するか.抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体はどう使い分けるのか.ファーストラインが無効だった場合,セカンドライン治療に移行するタイミングはどこなのか,など未解決な問題についても最新情報を解説する.

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2000年に乾癬のPUVA療法ガイドライン(日本乾癬学会PUVA療法ガイドライン)が発表されて以来,新たな光線療法としてナローバンドUVBやターゲット型光線療法であるエキシマライトも登場し,乾癬に対する光線療法ガイドラインが切望され,2016年に日本乾癬学会光線療法ガイドライン作成委員会による乾癬の光線療法のガイドラインが策定された.照射方法もあらためて記載を行い,さらに,Clinical question(CQ)を19個用意し,臨床上で問題となる事項に対して推奨度の設定と解説を行った.今後,乾癬のみならず,アトピー性皮膚炎,白斑,掌蹠膿疱症,菌状息肉症などの光線療法ガイドラインも策定が必要と考えられる.

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日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版では,臨床現場での意思決定を必要とする22個の重要なポイント(Clinical Questions:CQs)について,報告されている臨床研究論文を吟味し,医療行為がもたらす益と害のバランスを評価し,医療行為による患者アウトカムが最適化することを目指した推奨を新たに提示した.本稿では2016年版で加筆された部分を中心に,改訂の要点を説明した.具体的には,アトピー性皮膚炎のevidence-based medicine(EBM),病態(皮膚バリア,アレルギー炎症,瘙痒),治療方法,薬物療法(タクロリムス軟膏の発癌のリスクについて,プロアクティブ療法,抗ヒスタミン薬,妊娠・授乳婦への配慮),悪化因子としての汗,入院治療の適応,教育,アドヒアランス,治療の手順などについて概説した.

5.皮膚科医のための臨床トピックス

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われわれは腹部手術症例で潜在的な大臀筋の炎症がみられ,炎症が高度である場合に臀部の皮膚傷害を伴うことを見出した.このときみられる皮膚所見は1998年に林らにより提唱された術後臀部皮膚障害に一致する.さらにこの大臀筋の炎症が褥瘡におけるいわゆるdeep tissue injury(DTI)とは明らかに異なることを確認した.これらの知見をもとに術後臀部皮膚障害を再考し,周術期大臀筋・臀部皮膚傷害として提唱した.傷害部位は大臀筋が骨盤底に隣接する部分であり,筋肉の電気抵抗が低いことから電気メス電流の関与が否定できないと考えた.発症メカニズムについて,骨盤部位の3次元モデルを作成し有限要素法にて解析を行った.電気メスを骨盤底に近い部位で使用した場合に,大臀筋の熱上昇が裏付けられ,潜在的な大臀筋傷害が前立腺や膀胱の手術で高率にみられた事実と一致した.

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タキサン系の抗がん剤は悪性腫瘍に広く使用されている.タキサン系薬剤投与に伴う浮腫・硬化は容量依存性に起こるが,その病因については明らかではない.われわれはタキサン投与に伴い浮腫・硬化を起こした症例において,早期の浮腫期では,通常の浮腫と異なりヒアルロン酸ではなくコンドロイチン硫酸を側鎖に有するプロテオグリカンであるバーシカンが著しく増加していることを見出した.一方,硬化期では,バーシカン異常沈着はもはや認めず,膠原線維の異常増加が目立つ硬化病変を認めた.浮腫期から皮膚硬化に至るタキサン投与による有害事象の発生病理の解明につながる知見と考えた.

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肉眼的には診断が難しい場合の脱毛症のトリコスコピーによるフローチャート式脱毛症診断につき,病態と所見を照らし合わせながら解説する.毛包の不可逆的破壊の結果として起きる“diffuse white areas”は瘢痕性脱毛症で観察される.毛幹破壊像である“broken hairs”,“black dots”が観察される場合,円形脱毛症,トリコチロマニアが疑われ,後者では“follicular microhemorrhage”に代表される人為的破壊像が確認できる.毛周期異常像には“tapering hairs”,“short nonvellus hairs”,“hair diameter diversity”があり,円形脱毛症,休止期脱毛,男性型・女性型脱毛症の診断に役立つ.形態異常所見を認める場合には遺伝性脱毛症も疑う.これら主所見の有無を順次確認することで代表的脱毛症を診断する.さらに副所見として瘢痕性脱毛症では“peripilar scales”,“hair tufting”のほか,慢性円板状エリテマトーデスに特異的な“red dots”がある.円形脱毛症では“yellow dots”や“short vellus hairs”が,男性型脱毛症では“peripilar sign”が観察される.続発性脱毛症では所見が典型的でない可能性があることに注意を要する.

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近年,科学技術の進歩により,IgE抗体と反応し症状の誘発に関わる蛋白質を測定できるようになった.食物中で特異的IgE抗体が結合するそれぞれの蛋白質をアレルゲンコンポーネント(構成蛋白),その結合部位をエピトープ(抗原決定基),アレルゲンコンポーネントに対する特異IgE抗体を測定することをcomponent resolved diagnosticsと呼ぶ.従来測定していた粗抽出アレルゲンには直接アレルギー症状の有無とは結びつかないコンポーネントも含まれているが,臨床症状の有無との関係がより密接なコンポーネントで特異IgE抗体を測定すれば,臨床的な感度・特異度が改善するとされる.本稿では,われわれ皮膚科医が日常診療で遭遇する,アレルゲンコンポーネントの測定が有用な即時型アレルギーである,ラテックスアレルギー(Hev b 6.02),小麦による食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(ω-5グリアジン),大豆(特に豆乳)による即時型アレルギー(Gly m 4)について概説する.

パッチテストパネル®(S) 鈴木 加余子
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パッチテストパネル®(S)は,日本で保険承認を得て発売されたready to useのパッチテスト試薬である.そのアレルゲンは,1987年にスウェーデンで開発されたT.R.U.E. test®の中からジャパニーズスタンダードアレルゲン2008シリーズに対応するアレルゲンを選択して構成される.各アレルゲンは濃度ではなく,含量で示され,基剤はワセリンや水ではなく,ヒドロキシプロピルセルロースやポビドンなどが添加されている.パッチテストパネル®(S)の金チオ硫酸ナトリウムは,これまでの0.5%ワセリン基剤の試薬よりも高い陽性率を呈し,1週間以降に惹起される陽性反応や,ステロイド外用剤を塗布しても長期間持続する陽性反応を呈するなど,その反応の解釈が困難な場合があり,今後検討を要する.そのほかのアレルゲンについては,特に問題なくパッチテスト貼布時のスクリーニングとして有用である.

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固定疹の臨床像は多彩であるが,非対称性に生じ色素沈着を残すpigmenting typeと,対称性に生じ色素沈着を残さず消退するnon-pigmenting typeに分類される.原因としては薬剤が多いが,食物や紫外線,アルコールといった身近な要因により生じることもある.診断には,経時的な皮疹の記録,詳細な問診,適切な条件下での負荷試験が有用である.

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帯状疱疹後肉芽腫は,帯状疱疹治癒後に罹患部位に一致して生じる肉芽腫性病変である.常色から淡紅色の丘疹,紅斑,皮下結節を列序性,環状性に生じる.帯状疱疹後,肉芽腫性病変の出現時期は数日〜4年と期間に幅がある.病理組織学的所見は,真皮上層から下層に肉芽腫が多発する.治療はステロイドの外用,局注注射,内服が主体であり,抗ウイルス薬の投与は無効とする報告が多くみられる.われわれの調べた限り現在までに55例の症例が報告されているが,帯状疱疹後の皮疹を生検することは少なく,こうした病態があることはあまり知られていないため自験例を交えて考察する.

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帯状疱疹は高齢者に多い疾患であるが,その理由として加齢による水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)特異的細胞性免疫が低下することが考えられている.一方,水痘生ワクチンを高齢者に接種すると,VZV特異的細胞性免疫が増強することが知られており,帯状疱疹発症阻止に働いていると考えられる.2005年に発表された,米国での60歳以上の約4万名を対象とした大規模な無作為化二重盲検プラセボ対照試験では,帯状疱疹ワクチン接種後平均3.12年の追跡期間中,帯状疱疹発症頻度はワクチン群がプラセボ群に比して51.3%減少,帯状疱疹後神経痛は66.5%減少,重症度も61.3%減少したことが示され,現在ZOSTAVAX®として欧米で使用されている.一方,わが国では,乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」は,ZOSTAVAX®と本質的に同じワクチンであることに基づき,帯状疱疹に対する予防効果は医学薬学上公知であるとして,「50歳以上の者に対する帯状疱疹予防」の効能追加が2016年3月に認められた.

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通常量の1種類の抗ヒスタミン薬で効果不十分な慢性蕁麻疹には,抗ヒスタミン薬の変更・増量のほか各種補助的治療薬が,さらに重症難治例にはステロイドやシクロスポリンなどの副作用のリスクの高い治療薬が用いられる.オマリズマブは,IgEのCε3ドメインに結合して受容体への結合を阻害する抗IgE抗体で,まず喘息に合併した寒冷蕁麻疹における有効例が報告され,その後各種蕁麻疹の病型に対する有効性が報告された.2014年には欧米で慢性蕁麻疹に対する適用が認められ,2016年には日韓合同の臨床治験が行われ,2017年春にはわが国でも保険適用が認められる見通しにある.刺激誘発型の蕁麻疹に対する保険適用はなく,高価である,効果発現までの期間には個人差があり,無効例もあるなど,残された課題もあるが,これまでの報告を見る限り効果と安全性は高く,今後,わが国における蕁麻疹診療が大きく変貌する可能性がある.

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ジェネリックとは,低分子医薬品の後発医薬品を指すが,バイオシミラーはバイオ医薬品の後続品を指す.低分子医薬品の開発は頭打ちであり,今後はバイオ医薬品の開発の伸びが期待されており,バイオシミラーの開発が進むことが予想される.低分子医薬品と比較して,バイオ医薬品の製造工程は複雑であり,環境に依存する微生物の細胞内で産生され,培養,精製など多数の工程を踏む必要がある.バイオシミラーでは他社が製造した先行品の詳細な情報を得ることが難しいため,宿主・ベクター系,培養・精製の工程を独自に確立する必要があり,アミノ酸配列は同一であっても,糖鎖修飾や不純物プロファイルが異なるために,免疫原性や有効性が異なる可能性がある.そのため,バイオシミラーは,先行品と同等・同質の品質,安全性,有効性を示すことが厚生労働省から求められており,最終的には臨床試験による同等性,同質性の証明が必要である.

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 皆さんも日々の診療の中で,治療に難渋する場合に「もっといい治療法がないのか?」と苦悩することも多いと思います.患者さんを早く快癒させたいという強い思いから,海外の文献で治療効果が示されている薬を使用してみたいとか,これまでの他疾患の治療経験から,従来使用されていない薬が治療に使えるのではないか? といった考えが浮かびます.しかし,エビデンスや使用適応のない治療法を行うわけにはいきません.実際に医療現場で使用するためには,臨床試験,治験によって有効性と安全性を証明することが必要です.われわれは,多くの全身性強皮症患者が苦しんでいるRaynaud現象や手指潰瘍を治したいと考え,海外で有効性が報告されていたボツリヌス毒素の局所注入療法を臨床試験から開始しました.さらに,実用化に向けて必要となる試験・治験計画に関して,医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)から,多くの助言・指導をいただきながら,医師主導治験を開始することができました.医師主導治験では製薬企業ではなく,医師自らが,治験実施計画書の作成,治験の実施,モニタリングや監査の管理,試験結果の取りまとめなど,治験のすべての業務の実施・運営をしなければなりません.今回の治験に至るまでの過程で,臨床試験部の先生方から多くのことをご教授いただきました.そこから普段何気なく使用している薬がどのような治験を行ってきたのかということに興味を持つようにもなりました.

 基礎研究も重要ですが,臨床医にとっては実際に患者さんの治療に結びつく臨床研究も非常に大切です.しかし,開始当初の私も含めた,多くの医師が臨床研究の詳しい仕組み,方法について理解していないのではと感じます.これからは医学生の教育から臨床研究の仕組みを勉強していくことも必要ではないかと思います.われわれ,皮膚科医が疾患を治したいという情熱を持って臨床試験,治験を率先して行うことも社会貢献の1つではないでしょうか.

皮膚科医と手術 加藤 裕史
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 皮膚科は,診断から検査,治療まですべてを行える数少ない科である.しかもその守備範囲は広く,皮膚,皮下に病変があればすべてが皮膚科関連の疾患であると言っても過言ではない.一方,手術においても,皮膚腫瘍や皮膚潰瘍に対する治療はもちろん皮膚欠損に対する再建治療,重症虚血肢,骨髄炎,リンパ節,静脈瘤に至るまで多様な範囲をカバーすることが可能である.部位に至っては全身が対象であり,顔面,体幹,四肢,陰部など多彩な解剖を熟知する必要がある.よく若手医師に,「どうやったら解剖を覚えられますか?」と聞かれるが,いまだになかなかいい答えが思いつかない.自分もまだまだ修練中の身ではあるが,結局のところ教科書を用いて網羅的な勉強を行った後に,1つ1つの症例に取り組むにあたってそれを確認するといった,地道な努力しかないのではないかと考えている.そのためにも1回1回の手術記録に解剖学的な特徴やその際に学んだことを追記し,ファイリングして反芻することが最も重要であると考え,今でもずっと続けている.そうやってたまった手術記録の束を見ると,気持ち的にもあたかもできるようになった感じを受ける.昔,手術中に,指導医の先生から細かい口頭試問を受けたことを今でも覚えている.また,手術記録を提出した際には細かく直され,解剖について勉強するように指導され,そのときにはよく理解していなかったが,同じことを若手に行っている現在の自分があり,やっとあのときの指導医の先生の気持ちが理解できるようになってきたのかなと,ほんの少し自分の成長が見えて嬉しく思う今日この頃である.どの分野においてもそうだと思うが,1つの分野を突き詰めていくことは楽しく,充実したものであると心から思う.

局所多汗症治療 大嶋 雄一郎
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 私が発汗と関わりを持つきっかけは,皮膚科入局時,当大学皮膚科には美容班,PDT班,発汗班があり,教授から君は明日から発汗班でがんばってほしいという一言からであった.発汗班には上級医が1人いて掌蹠多汗症に対するイオントフォレーシス治療を行っていた.その先生に指導されながら局所多汗症治療について学んだ.当初,「汗なんかで本当に困っているのだろうか?」,「汗が多いからって命にかかわる病気でもないし…」と正直思っていた.実際,上級医の先生が掌蹠多汗症,腋窩多汗症患者を診察しているのをみると,患者は「手の汗が多くて,試験のときに紙がフニャフニャになって大変困る」,「脇汗が多く,会議中シャツに汗じみができてないか心配で集中できない」と切実な悩みを持っていることに驚きを感じた.本邦では重度の手掌多汗症患者は約231万人,腋窩多汗症患者は約249万人いると報告され,世の中に汗が多くて困っている患者は大変多いことがわかった.現在,日本皮膚科学会から局所多汗症診療ガイドラインが制定され,①塩化アルミニウム外用療法,②イオントフォレーシス療法,③A型ボツリヌス毒素局注療法,④交感神経遮断術といった治療が確立された.診療アルゴリズムも手掌,足底,腋窩,頭部・顔面と部位別に分類されている.私自身,塩化アルミニウム外用による発汗低下の機序の解明や,重度原発性腋窩多汗症に対するA型ボツリヌス毒素局注療法の治験に参加させていただき,現在本邦でも健康保険で治療が受けられるようになって大変うれしく感じている.

 しかしながら,ガイドラインである程度治療法が確立されているが,「手術以外でもっと汗を抑えてほしい」,「もっと別の治療はないか」といった,患者が十分満足する治療効果が得られないこともしばしばある.今後より簡便で,安全に治療でき,健康保険で行うことができる新しい治療法の開発に少しでも力になりたいと思う.

人工知能と原著論文 小寺 雅也
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 人工知能を利用した防犯カメラのコンピュータ工学的技術開発が凄まじい.登録された不審人物を,大勢の人間の中から発見する技術はすでに過去のものである.不審人物の特徴を人間が入力する過去の技術から,現在は不審人物のビッグデータをコンピュータに入力することにより,コンピュータ自体がその特徴を自ら導き出す.学習する人工知能アルゴリスム,情報処理速度向上によるディープラーニング(深層学習)である.人工知能によって,登録されていない人物をコンピュータが確からしさを提示しながら不審人物として検出する.いわゆる知能を持った眼である.これを皮膚病変の診断にあてはめるとどうだろうか.ベテラン皮膚科医が何十年と積み重ねた「見る」経験を,コンピュータはビッグデータから学習し,しかも忘却しない.そんなコンピュータ診断の時代はすぐそこにある気がする.私もその一人ではあるが,何となく拒絶感を感じる先生も多いと察する.しかし拒絶しても技術革新の波は必然的にやってくるだろう.ならばうまく取り入れるべきとも思う.自分が研修医の頃,皮疹の診断に際して,ベテラン皮膚科医の「見ればわかる!」ではなく,皮疹を客観的な数値化評価ができないものかと自分の診断能力の低さを棚に上げて妄想していたこと思い出す.しかる世の中で人間医師は何をすべきか? 感情と想像力こそわれわれ人間が持つ武器である.研修医教育に携わっていると若手医師はガイドラインを非常に尊重する.診断でも治療でもプレゼンテーションでもガイドラインが第一.ガイドラインは非常に大切ではあるが,ガイドラインに準拠した治療ができることのみで医師としての目標達成としている若手も多い.人工知能を持ったコンピュータ医師はガイドラインが大得意であろう.過去のガイドラインも世界中のガイドラインも全部覚えて忘れない.人間医師がすべきは,たとえ今は間違っていると解釈されても理論に基づいた想像力,妄想力の訓練と思う.コンピュータにはできないことは何か? 思いもよらない想像力と感情.なるべく個人の思いや感情を除いたエビデンスを基に作られる二次情報のガイドラインは大切にしながらそれだけじゃなく,著者の想像力が満ちてあふれている一次情報の原著論文を読もう! 書こう! と若手に向かってつぶやいている今日この頃である.

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 天疱瘡や類天疱瘡の患者さんにステロイドの内服を開始するとき,表題のように質問されたことはありませんか? 多くの場合,「一生という訳ではないが,これから少なくとも数年間はつきあうことになるでしょう」と私は答えています.天疱瘡診療ガイドラインは,治療目標を「プレドニゾロン(PSL)換算で0.2mg/kg/日または10mg/日以下のステロイドの内服で皮疹がみられない状態を維持すること(寛解)」に設定しています.しかし,この目標が達成された後のことは触れられていません.もちろん,症状が落ち着いている症例では,PSL 5mg/日に向けて減量を進めるべきなのは間違いありません.では,PSLが5mg/日になった後は? その答えは,非常に難しいと思います.「先生,ステロイドは減らせるのですか?」水疱症の専門外来で,PSLが5mg/日まで減った患者さんからよく聞かれる質問です.副腎皮質ホルモンとして,健常者ではコルチゾール換算で20mg/日が分泌されるといわれています.PSLに換算すると5mg/日程度になるので,5mg/日まで減量できた症例は,健常人の分泌量と同等量のステロイドを内服していることになるので,内服が本当に必要か? という疑問は当然です.しかし,内服しないでよいとも言い切れません(中止したら天疱瘡が再燃した,という痛い経験をお持ちの先生も少なくないのではないでしょうか).そういう葛藤を,正直に患者さんに説明すると,「ステロイドを減らしたいので,リスクを承知でチャレンジします!」という方と,「再発する可能性もあるのですか….あんな辛い思いは二度としたくない」とPSL 5mg/日の継続に納得される方と,半々といった印象です.とはいえ,表題の質問をされた,これから初期治療が開始される患者さんにとっては,まだまだ遠い未来の話になりますね.

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 「本人もそうでしょうが,私の気持ちも楽になりました,ありがとうございます」とある患者さんのご家族が涙を見せながら放った言葉です.

 私は乾癬外来を担当しています.近年は生物学的製剤の普及により,難治性乾癬も治療可能となっており,患者さん自身から「今まで乾癬のせいでゴルフに行ってもシャワーを浴びずに帰るのが辛かったけど,この治療のお陰で皆と楽しめましたわ」などの話は聞いていましたが,ご家族への気持ちを聞く機会はありませんでした.

皮膚科診療最前線 簗場 広一
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 大半は籍を置いている大学病院で診療を行っている.以前は大学に紹介受診された患者さんを診察した際,一目で手足口病や水痘,帯状疱疹などと診断できた場合に,「なんでこんなものもわからなかったのだろう?」などと傲岸不遜なことをしばしば思っていた.数年前から妻が開業している皮膚科クリニックで診療を定期的に行うようになった.すると,「今朝からこんな発疹がでました!」といった患者さんがたくさん受診されるが,これが本当に難しい.わからずに数日後に受診していただき再び診察すると,どこからどう見ても典型的な水いぼであったりし,深く落胆する.ついさっき出たばかりの皮疹から診断することがいかに難しいかを痛感されられる.先日も生後数日の新生児の,顔面の淡い紅斑の診察をしたが,てっきり単純性血管腫であろうと思っていたら,数週間の間にみるみる盛り上がってきて,結果としては誰がどう見ても典型的な苺状血管腫であった.来る日も来る日も,絶え間なく訪れる数多くの患者さんの早期の発疹から「これはひょっとして…?」と難治性疾患や重篤な疾患を疑い,悩み考えた末に紹介してくださる開業の先生方の苦労がわかり,皮膚科医として少しだけ成長した気がする今日この頃である.

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 国内の帯状疱疹発症率は年々増加しており,特に60歳以上の増加が著しい.その原因として,免疫抑制を伴う治療法の充実による細胞性免疫の低下,家族構成の変化(核家族化)による小児と高齢者の接する機会の減少と,それによる水痘を介した水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)に対する免疫のブースター効果を得られにくくなっていることが考えられる.

 最近VZVワクチンを取り巻く環境が大きく変化している.つまり,2014年10月より小児に対する水痘ワクチンが定期接種化(生後12月から生後36月に至るまでの間に2回接種)され,2016年4月にVZV Oka株を用いた弱毒生水痘ワクチンが50歳以上の者に対する帯状疱疹の予防に使用承認された(帯状疱疹ワクチン).

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 (お,あのときの非定型抗酸菌感染症と似ているな)「あぁ,熱帯魚飼っていらっしゃるんですね?」,(貨幣状湿疹と間違えて4か月もボチシート貼ってたっけ)「皮膚の細胞同士の接着剤を壊してしまう物質がないか調べましょうね」,(腱鞘炎だと思ってついで診療で湿布を処方し続けて猛省したことがあったなぁ)「好酸球性筋膜炎という病気が考えられますので画像検査と筋膜の検査をしましょう」,こんなふうに,私たちの臨床は以前の経験での学習や反省の上に成り立っている.ただ,実際の経験がこのように次の診療に活かせているとも限らない.むしろ,「この何かおかしいという感覚,前にも感じたような気がするけれど…いつだっけ? 何の患者さんだっけ?」という,手からすり抜ける形ない相手を必死で掴み直そうとするようなもどかしい感覚につきまとわれ苦悩することのほうが私は多い.皆さんはいかがだろうか?

 かつての経験を幽霊に再会したような感覚として思い出すのでなく,実体ある経験として次に活かすためには,自分が捉えた問題点を記憶に理論的に刻み込むことが大切だろう.月並みだが,一瞬心に浮かんだ疑問を文章化して輪郭をはっきりさせ,なぜ疑問に思ったかを考え,その都度調べる.忘れっぽい私にはそうするよりほかないと思って,外来の合間に走り書きした疑問メモが未解決のまま1,000以上,すでにメモの判読すら困難なものも.

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 アトピー性皮膚炎はかつてマスコミでもよく取り上げられ社会問題となるほどであったが,最近は見かけることが少なくなった.ガイドラインができて現場の混乱は減ったように思うが,患者が減ったかというとそうでもない.学童を調査する限りはこの10年は10%前後で推移しておりあまり変化がないようだが,プロトピック®やネオーラル®が使われるようになり重症のアトピー性皮膚炎患者は減った印象ではある.近頃は生物製剤全盛期を迎え,乾癬や癌の治療に画期的成果をもたらしている.そして近々アトピー性皮膚炎にも導入されていく予定である.これまで既存治療でどうにも治せなかった患者に対しては福音となると思われるが,アトピー全体の患者数を減らすには至らないだろう.というのも生物製剤が適応となる患者は難治なごく一部となると思われるからである.そして病院・診療所でアトピーを仮に完治させていったとしても患者数は容易には減らないだろう.それは常に多くの新しいアトピー患者が生み出されているからである.研究者・臨床家として病気と向かい合うと,病気の原因を分子生物学的手法で明らかにしていくことや目の前の患者さんをどう治療していくことに視点が行ってしまう.しかしそのアプローチだけではアトピーの患者が減らないのはこれまでの経過をみると明らかであろう.そこで全体のアトピー患者を減らしていくには新規のアトピー患者を減らすところに注力していく必要があると考える.つまりスキンケアを中心とした予防医学である.近年経皮感作の実態が明らかになり早期のスキンケア介入の重要性が示されている.現在,産官学を巻き込んだ特定の地域で徹底したアトピーの予防を行う社会実験を準備している.成果が出るのは十数年後だろうがいずれ報告できればと考えている.

凍結療法 神谷 浩二
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 凍結療法は,皮膚科診療において大変有用な治療法の1つである.誰もが日常診療における第一歩として習得するが,調べてみると案外奥が深い.

 文献報告によれば,凍結が治療に初めて利用されたのは19世紀中頃のようである.現在では,冷却材として液体窒素(−196℃)が最も広く使用されているが,以前はドライアイスも使用されていた.凍結方法に関しては,綿球やピンセットを用いる方法から,専用の装置を用いる方法までさまざまである.皮膚科診療においてはウイルス性疣贅に対して綿球法を用いる場面が多い.そのほかにも,脈管腫,上皮性良性腫瘍,一部の皮膚悪性腫瘍に対する治療に用いられることがある.皮膚疾患だけでなく,心房細動の手術や網膜剝離の凝固術に用いられることもあり,腎癌,肝癌,前立腺癌に対して穿刺して凍結する手術も行われているようだ.凍結療法は,病変を凍結,融解,壊死させることによって治療している.時に,液体窒素で焼く,と表現されることがあるのは,病変部がまるで焼かれて壊死したような状態になっているのを表しているのかもしれない.どれだけの強さ,どれだけの時間,どれだけの回数で治療を行うのかは,目安はあっても決まりごとはない.凍結させる病変の組織や構造,病変の部位によって反応が異なるため,症例ごとに治療方法が少しずつ異なる.そのため,指導する立場になってみると,この感覚を伝えるのは思いのほか難しい.

凍結療法の松竹梅 鬼頭 昭彦
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 これまでに,数え切れないほどのイボを凍結してきた.研修医の頃は,早く治るように強めに凍結すれば痛すぎると文句を言われ,逆に処置時に痛い痛いと叫ぶので凍結を軽めにするとなかなか治らないと文句を言われ,未熟な私は「どうせえっちゅーねん」と心の中でキレていた.しかしこれは,「どうせえ」と患者さん本人が思っているのか尋ねない私の大きな間違いであった.今では,強い痛みや水疱形成を我慢してでもとにかく早く治したい松コース,治療期間が長くなってもいいから痛みを最小限にして欲しい梅コース,中間の竹コースから最初に患者さん本人に選択してもらっており,前述のような文句はゼロになっている.鶏眼処置も同様に松竹梅の3コースから選択してもらうことで,処置時の軽微な出血や,処置後も歩行時の痛みが残ることに文句を言われることはなくなっている.ちなみに,昨年梅コースを選択された患者さんは1名のみであったが,小児でもお年寄りでもなく,顔貌も体格もいかつい空手師範の中年男性であった.こちらで勝手に判断しないことが重要と再認識した.

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 1990年代,分子工学の進歩によりアレルゲンが次々と同定されたが,ここ10年余りアレルゲンとなりうる新規のprotein familyは発見されなかった.そのようななか,2013年,食物としては久々の新規アレルゲンが登場した.それがgibberellin-regulated protein〔GRP,別名:ピマクレイン(peamaclein)〕である1).GRPは生物学的に抗菌ペプチドに分類されるprotein familyである.奇遇にも,イタリアと当教室でほぼ同時期に発見され,モモアレルゲンPru p 7と命名された1,2).その登場からわずか3年足らずであるが,海外のみならず本邦でも注目を集めるようになってきた.その理由はGRPが果物アレルギーの中でも重症例を見極めるマーカーになりうるからである.これまで,日本では果物アレルギーの重症マーカーが同定されていなかったため,GRPは初めての重症マーカーアレルゲンとなる2).一般に果物アレルギーといえば,花粉との交差反応で発症する口腔アレルギー症候群〔別名:花粉-食物アレルギー症候群(pollen-food allergy syndrome:PFAS)〕が連想される.その診断根拠となるのが,交差抗原であるBet v1関連蛋白やプロフィリンへの感作の確認であった.当科の果物アレルギーの症例集積研究(対象100例)では,果物アレルギーの約80%はBet v1関連蛋白かプロフィリンのいずれかに感作されておりPFASであることを明らかにした.また残り20%のうち,65%はGRPに感作が認められ,PFASではない果物アレルギーにおいてGRPは重要なアレルゲンであることがわかった3).GRPアレルギーの臨床は特徴的であり,眼瞼の腫脹や喉頭絞扼感の出現頻度が高く,1名の患者が複数の果物アレルギーを示し,時に二次的要因が関与する食物依存性運動誘発アナフィラキシーの臨床型をとることもある.残念ながらGRPアレルギーでは,果物粗抗原に対するImmunoCAPの陽性率が低いが,診断には果物を用いるプリックテストが有用である.GRPという新規アレルゲンの登場により,これまで迷宮入りになってきた果物アレルギーの知られざる世界が解き明かされる可能性があり期待を寄せている4,5)

乾癬皮疹の重症度評価 森実 真
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 乾癬の皮膚病変の重症度評価にはPsoriasis Area and Severity Index(PASI)が世界的に用いられています.ところがこのスコアリングは評価者間の誤差が案外小さくないように思われます.以前,当科の症例カンファレンスでも,A先生「(ある患者さんの臨床写真がスクリーンに出てきて)バイオ使用の希望があり,当科を紹介受診されました.診察時のPASIスコアは20点で…」,B先生「ええっ.そんなに(高く)ないやろー」,一同「ザワザワ…」,といった場面がありました.スコアリング自体は慣れたらそこまで時間はかかりませんし,共通のトレーニングを受けることで誤差は小さくなるかもしれません.しかしながら,もし評価者間の誤差が出ない,指先の血糖値のように簡単かつ瞬時に測定できて,アトピー性皮膚炎のTARCのように特異的であり,全世界で共有できる乾癬のバイオマーカーがあればどんなに日々の診療と研究用の記録が楽になるだろう,とつい考えてしまいます.

 皮膚のTh1 & Th17炎症を鋭敏に反映する特異的な分子は血中に存在しないのでしょうか.文献を検索すると乾癬のバイオマーカーは多数報告されていますが,現時点で広く臨床応用されている特異的なマーカーはないようです.今後研究が進み,臨床応用可能な画期的なバイオマーカーが登場し,さらにその簡易測定方法が開発されることを期待しています.

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 以前,クリニックに勤務していたことがある.乾癬患者も多く来院し,紫外線療法,免疫抑制剤の内服なども行っていた.病院勤務と違い自分で保険点数をcheckしなければならなかったため,初再診料,1つ1つの手技にどれだけコストがかかるかを学べた.あまり高額になると時々,患者さんから不満の声を聞かされた.同じ日に皮膚科特定疾患指導管理料を算定し,シクロスポリンやビタミンD3軟膏を多く処方し,採血を行ったときなどである.このような患者さんに,何も言わず診療を続けていると,やがて受診されなくなる.そのため診療費の内訳や,今の治療選択肢が最高のものであること(当時は,まだ生物学的製剤が承認されていなかった)などを時々に説明し取り繕っていた.医療は一般的なサービス業とは異なるが,それでも患者満足度を考える上でコストパフォーマンスは1つの大きな要素であり,自分の受けている治療が質の高い治療であると理解してもらうことでコストパフォーマンスが向上するのだと信じていた.

 さて大学に戻ってきて,しばらくすると重症乾癬患者を中心に既存治療より高価な生物学的製剤を処方する機会が増えた.そのため経済的理由で選択されない(できない)こともあったが,導入後に「コスパが悪い(値段の割に効果が低い)」と言って不満を漏らされた方は1人もいなかった.逆に「高いけど導入してもらって本当に良かった」と,圧倒的な高い効果に感謝されることが多い.導入後に経済的理由で中止を希望する方もいたが,ほとんどが「本当は続けたいのだが…」と言われる.

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 先日,メラノーマ,基底細胞癌,有棘細胞癌,乳房外パジェット病,頭部血管肉腫,皮膚リンパ腫の各診療ガイドライン改訂に関する会議が開かれ,作成手法としてGRADE systemを採用する方針となった.従来の診療ガイドラインとは作成方法が大きく異なり,作成委員の負担も増える.この苦行にも近い作業をやり遂げようという原動力は,ひとえに患者さんとその家族のため,正しい情報を伝えたいという各委員の熱意によるものである.

 医療情報サービスMindsは,診療ガイドラインを「診療上の重要度の高い医療行為について,エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価,益と害のバランスなどを考慮して,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義している.一定の手法に従ってメリット(益)・デメリット(害)を評価し,その結果をできるだけわかりやすく示すのである.

技術の継承の難しさ 中村 泰大
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 皮膚疾患に対する手術は母斑・腫瘍,感染症,外傷,美容などその守備範囲は広い.皮膚科医として習得すべき治療手段であるが,外用,内服,光線療法などに比べて侵襲が高く,施行者の技量の差が合併症や治療結果に直結するのが最大の欠点である.医療者・患者にとって,手術以外の治療が発展して「手術がなくなる日」が来るのが望ましい思う(誰だって手術は受けたくない!).しかしそんな日がすぐには来ないので,それまでは上手に手術しなければならない.

 年齢を重ねれば自身の技術の維持・発展と同時に,次世代の先生方への技術の継承も当然要求される.近年はハンズオンセミナーが数多く開催され,基本手技を若手の先生方に指導させていただく機会が増えたのはありがたい.一方で,基本手技がある程度身についた次の段階の指導が本当に難しいと感じる.

水疱症外来を担当して 石井 健
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 東邦大学皮膚科に赴任して5年目になるが,専門外来は水疱症外来を担当している.天疱瘡,水疱性類天疱瘡などで退院後の病勢の落ち着いた維持期の患者を主に診察している.維持期の症例では水疱,びらんが全くないので,デスモグレイン1,3抗体,BP180抗体を測定し,その抗体価の推移を指標にしながらプレドニゾロンの減量時期を決めている.抗体価が減少していれば比較的安心して減量できるし,逆に抗体価が上昇していれば減量せずに経過を見たりする.もし抗体価のデータなしで診察するとなると,患者への説明が自信のないものになってしまうし説得力のないものになってしまうのではないかと思う.客観的データを使って説明することの重要性を改めて感じる.

 私は大学院のときにデスモグレインELISAの開発の仕事に関わったのだが,その研究成果が日常診療に使われて患者の役に立っているのを今になり実感している.その研究プロジェクトに参加できてよかったと思う.今後も臨床応用できる研究をし,また若い先生方の研究の指導をしていきたい.

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 物心がついた頃から乾燥肌があり掻き破っていたので,アトピー性皮膚炎歴は40年近くになる.両親や祖母に背中を掻いてもらっていたこと,頭皮全体が膿痂疹であったこと,兵庫医科大学に定期的に通院していたことなどなんとなく記憶に残っている.幸い自分の皮膚に対して悲観的になったことは一度もなく,いつの間にか個性の1つとして捉えるようになって現在に至っている.

 大学院時代に携わらせていただいた仕事から「皮膚アレルギー」に関する講演の機会をいただくことが多い.その際には,IgE 24,000U/ml以上,Eos 3.7%,LDH 284IU/l,TARC 7,695pg/ml(2016年秋の測定),運動時の汗は多め,苔癬化も多め,天然保湿因子は少なめ,といった優等生ではない自分の皮膚をよく出演させる.見慣れているはずの自分の皮膚を見ながらふと感じることもあり,自分の皮膚を足がかりにした研究テーマもなるべく取り組んでいきたいと考えている.そして,自分(谷崎)の皮膚を見て皮膚科を目指し,できれば研究もしてくれるような後輩を育てていかなければいけないことも重要な任務になりつつある.

医局長の達成感 林 周次郎
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 多くの医局長の先生方は病棟,外来,手術などの日々の臨床業務や研究などに+αで医局長を兼務していると思います.臨床や研究と違い,医局長の仕事は時間を浪費する一方で,結果は形にはわかりにくく一定の評価を受けるのは難しいです.どんなに時間を割いて医局員のスケジュール管理をしても,必ず不満と感じる先生もいると思います.そこで,医局長の達成感も臨床や研究に求めてみてはどうでしょうか.そのためには,医局長の仕事時間を短縮することがポイントになります.例えば1年間のスケジュールを年度末の事前アンケートを参考にして作成します.当直表も含めて年間予定表を年度分作成してしまえば,毎月の予定表は小さな修正で済みます.事前アンケートにより医局員の不満も減ると思います.重要事項さえ決めれば,毎月の予定表は他の医局員でも作成が可能です.医局員の確保で力を入れたのが,産休や育児休職中の先生の早期復職です.個々のワーク・ライフ・バランスにあった仕事内容を提案し,周囲の医局員にも理解を求めました.復職して活躍している先生は,安心して働ける良いロールモデルになり,また入局者の確保にもつながります.医局員が増えれば仕事も分散されて時間の確保につながるでしょう.結果はすぐには出ませんが,徐々に時間が確保できるようになると思います.そしたらぜひ,学会・雑誌での症例・研究報告に挑戦してください.学会報告を終えたとき,論文掲載が決まったとき,そのとき感じた達成感はこれまで以上だと思います.それは形にはならずとも裏にある日々の医局長業務の努力の結果でもあります.医局長の成果と評価はいつの時代も賛否両論を受けると思いますが,研究や臨床から結果を出すことができれば,達成感と同時に医局員の協力や理解も得られると思います.

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 アメリカ合衆国ではドナルド・トランプ大統領が誕生したが,この背景でよく指摘される「白人の中間層の不満」というのは何なのだろうか.小生は2013年から2年間,ウィスコンシン州ミルウォーキーのウィスコンシン医科大学のSam Hwang教授のラボに乾癬や免疫チェックポイント(PD-1)といった免疫学的研究で米国留学していた.このウィスコンシン州は伝統的に民主党が強かったが,今回の大統領選挙では共和党が制した.アメリカ中西部は白人が90%弱であり,黒人6%,アジア人2%という人口比で,アジア人が多いカリフォルニア州とは異なる.さてはて皮膚科ラボの構成だが,ボスは台湾人,准教授は韓国人と東欧人,助教授と上席研究員は中国人,ポスドクは中国人,韓国人,タイ人,インド人(と私)であった.医学部の学生は白人なのだが,教員に外人が多く英語が微妙なので,授業が不人気となる問題は米国のあちこちの大学であるらしい.皮膚科ラボも,英語がネイティブなのは3歳から移住しているボスの台湾人だけである.ところが,いろいろお世話をしてくれる秘書さん,図書館司書,実験補助数名,みなさん現地出身の白人なのである….隣のラボも,そんな感じであった.ちなみに実験補助の給料は,ボスや准教授が獲得したグラントで雇用されているので,不安定なポジションである.留学当時はみんな良い人ばっかりだったので気がつかなかったが,今から考え直してみると,アメリカ人にしたら移民に職が奪われているという気分もわかるし,壁も作りたくなるだろうし,トランプ政権誕生の理由が,なんとなく想像できる気がする.しかし,米国はすばらしい国なのでぜひ米国留学を,と後輩に勧めている小生としては,今後は米国留学する人が減ってしまうのではないかと心配している.

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欧文目次

あとがき 石河 晃
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 今年も増刊号「最近のトピックス2017」が完成いたしました.月刊の『臨床皮膚科』が個々の症例に立脚した投稿論文を中心としているのに対し,この増刊号は皮膚科の新しい話題について第一線の先生方に書き下ろしをお願いしております.今年から大槻マミ太郎先生,渡辺大輔先生が編集委員に加わり新たなメンバーで,巷がリオオリンピックで盛り上がっているころから編集作業を行って参りました.最近1年の学会での話題,過去数年の『臨床皮膚科』増刊号も参照した上で,新鮮なトピックを厳選しております.お忙しい中執筆依頼を快諾いただいた本編の著者の先生,コラムを寄稿いただいた先生の皆様のお陰で,昨年までに負けない充実した誌面をお届けすることができたと思います.この1冊を読むことにより,皮膚科で近年何が話題となっているのか,基礎医学的な事項から実臨床に直接役立つ治療法までup dateすることができます.私自身も校正作業をしていながら大変勉強になりました.皆様もぜひ,ご活用いただけますようお願いいたします.

基本情報

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臨床皮膚科
71巻5号 (2017年4月)
電子版ISSN:1882-1324 印刷版ISSN:0021-4973 医学書院

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