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アメリカ合衆国ではドナルド・トランプ大統領が誕生したが,この背景でよく指摘される「白人の中間層の不満」というのは何なのだろうか.小生は2013年から2年間,ウィスコンシン州ミルウォーキーのウィスコンシン医科大学のSam Hwang教授のラボに乾癬や免疫チェックポイント(PD-1)といった免疫学的研究で米国留学していた.このウィスコンシン州は伝統的に民主党が強かったが,今回の大統領選挙では共和党が制した.アメリカ中西部は白人が90%弱であり,黒人6%,アジア人2%という人口比で,アジア人が多いカリフォルニア州とは異なる.さてはて皮膚科ラボの構成だが,ボスは台湾人,准教授は韓国人と東欧人,助教授と上席研究員は中国人,ポスドクは中国人,韓国人,タイ人,インド人(と私)であった.医学部の学生は白人なのだが,教員に外人が多く英語が微妙なので,授業が不人気となる問題は米国のあちこちの大学であるらしい.皮膚科ラボも,英語がネイティブなのは3歳から移住しているボスの台湾人だけである.ところが,いろいろお世話をしてくれる秘書さん,図書館司書,実験補助数名,みなさん現地出身の白人なのである….隣のラボも,そんな感じであった.ちなみに実験補助の給料は,ボスや准教授が獲得したグラントで雇用されているので,不安定なポジションである.留学当時はみんな良い人ばっかりだったので気がつかなかったが,今から考え直してみると,アメリカ人にしたら移民に職が奪われているという気分もわかるし,壁も作りたくなるだろうし,トランプ政権誕生の理由が,なんとなく想像できる気がする.しかし,米国はすばらしい国なのでぜひ米国留学を,と後輩に勧めている小生としては,今後は米国留学する人が減ってしまうのではないかと心配している.
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