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人工知能を利用した防犯カメラのコンピュータ工学的技術開発が凄まじい.登録された不審人物を,大勢の人間の中から発見する技術はすでに過去のものである.不審人物の特徴を人間が入力する過去の技術から,現在は不審人物のビッグデータをコンピュータに入力することにより,コンピュータ自体がその特徴を自ら導き出す.学習する人工知能アルゴリスム,情報処理速度向上によるディープラーニング(深層学習)である.人工知能によって,登録されていない人物をコンピュータが確からしさを提示しながら不審人物として検出する.いわゆる知能を持った眼である.これを皮膚病変の診断にあてはめるとどうだろうか.ベテラン皮膚科医が何十年と積み重ねた「見る」経験を,コンピュータはビッグデータから学習し,しかも忘却しない.そんなコンピュータ診断の時代はすぐそこにある気がする.私もその一人ではあるが,何となく拒絶感を感じる先生も多いと察する.しかし拒絶しても技術革新の波は必然的にやってくるだろう.ならばうまく取り入れるべきとも思う.自分が研修医の頃,皮疹の診断に際して,ベテラン皮膚科医の「見ればわかる!」ではなく,皮疹を客観的な数値化評価ができないものかと自分の診断能力の低さを棚に上げて妄想していたこと思い出す.しかる世の中で人間医師は何をすべきか? 感情と想像力こそわれわれ人間が持つ武器である.研修医教育に携わっていると若手医師はガイドラインを非常に尊重する.診断でも治療でもプレゼンテーションでもガイドラインが第一.ガイドラインは非常に大切ではあるが,ガイドラインに準拠した治療ができることのみで医師としての目標達成としている若手も多い.人工知能を持ったコンピュータ医師はガイドラインが大得意であろう.過去のガイドラインも世界中のガイドラインも全部覚えて忘れない.人間医師がすべきは,たとえ今は間違っていると解釈されても理論に基づいた想像力,妄想力の訓練と思う.コンピュータにはできないことは何か? 思いもよらない想像力と感情.なるべく個人の思いや感情を除いたエビデンスを基に作られる二次情報のガイドラインは大切にしながらそれだけじゃなく,著者の想像力が満ちてあふれている一次情報の原著論文を読もう! 書こう! と若手に向かってつぶやいている今日この頃である.
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