- 有料閲覧
- 文献概要
皆さんも日々の診療の中で,治療に難渋する場合に「もっといい治療法がないのか?」と苦悩することも多いと思います.患者さんを早く快癒させたいという強い思いから,海外の文献で治療効果が示されている薬を使用してみたいとか,これまでの他疾患の治療経験から,従来使用されていない薬が治療に使えるのではないか? といった考えが浮かびます.しかし,エビデンスや使用適応のない治療法を行うわけにはいきません.実際に医療現場で使用するためには,臨床試験,治験によって有効性と安全性を証明することが必要です.われわれは,多くの全身性強皮症患者が苦しんでいるRaynaud現象や手指潰瘍を治したいと考え,海外で有効性が報告されていたボツリヌス毒素の局所注入療法を臨床試験から開始しました.さらに,実用化に向けて必要となる試験・治験計画に関して,医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)から,多くの助言・指導をいただきながら,医師主導治験を開始することができました.医師主導治験では製薬企業ではなく,医師自らが,治験実施計画書の作成,治験の実施,モニタリングや監査の管理,試験結果の取りまとめなど,治験のすべての業務の実施・運営をしなければなりません.今回の治験に至るまでの過程で,臨床試験部の先生方から多くのことをご教授いただきました.そこから普段何気なく使用している薬がどのような治験を行ってきたのかということに興味を持つようにもなりました.
基礎研究も重要ですが,臨床医にとっては実際に患者さんの治療に結びつく臨床研究も非常に大切です.しかし,開始当初の私も含めた,多くの医師が臨床研究の詳しい仕組み,方法について理解していないのではと感じます.これからは医学生の教育から臨床研究の仕組みを勉強していくことも必要ではないかと思います.われわれ,皮膚科医が疾患を治したいという情熱を持って臨床試験,治験を率先して行うことも社会貢献の1つではないでしょうか.
Copyright © 2017, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.