medicina 46巻12号 (2009年11月)

特集 CT・MRIアトラス Update―正常解剖と読影のポイント

正常解剖アトラス

頭部/頸部/肺/縦隔/腹部/骨盤

CT・MRIの動向

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CT・MRIの最近の進歩

 CTおよびMRIは,装置およびソフトの開発とコンピュータ能力の向上が合わさり日々進歩している.特に最近では医療機器メーカーの開発努力により,その進歩が早まっていると感じられる.本稿では,最近10年程度のCT,MR装置の進歩を述べ,次に両者の使い分けについて解説していきたい.

脳 総論

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脳のMRI読影について

 MRIは頭部領域の画像診断において中心的な検査法である.一般にMRIはCTと比較して中枢神経病変の描出に優れており,ペースメーカー装着者などの検査禁忌例を除けば,多くの疾患において第一選択の画像診断法である.

 MR画像の読影は,①異常所見の拾い上げ,②異常所見の解釈,③鑑別診断,の順に行う(図1).これらにおいて,正常MR像を把握すること,アーチファクトかどうか判断できること,MR信号強度を解釈すること,は適切な画像診断に必須である.

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■基底核

 「大脳基底核(basal ganglia)」とは終脳の深部灰白質で,前脳基底部の線条体(striatum)〔尾状核(caudate nucleus)と被殻(putamen)〕と淡蒼球(globus pallidus),間脳の視床下核(subthalamic nucleus)および中脳の黒質(substantia nigra)からなる(図1).「中心灰白質(central gray matter)」は,これら基底核と間脳の視床を含める(視床は大脳基底核には含まれない注釈1, 21).基底核は大脳皮質や視床と相互の神経回路を形成し,運動の調節機能(興奮と抑制)を司る〔錐体外路系(extra pyramidal tract)〕.その障害は①運動低下をきたすParkinson病や,②振戦,アテトーゼなどの不随意運動の原因となる.

 視床は間脳由来の中心灰白質で,大脳基底核には含まれない.ただし,大脳皮質や基底核と密な神経線維連絡があり,大脳皮質-基底核-視床-大脳皮質のフィードバックループを形成する(直接経路,間接経路;後述図4)2).視床の外側腹側核,前腹側核,背側内側核は運動のコントロールに関連する.その他,感覚,記憶,情動,眼球運動などの多くの機能を中継,連合する.

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海馬と扁桃体

 側頭葉内側部を構成する重要な構造として海馬と扁桃体がある1~4).扁桃体,その内側下部にある迂回回,海馬頭部の内側領域をあわせた領域は鈎とも呼ばれる(図1~3).

 海馬はアンモン角と歯状回からなり,隣接する海馬台,海馬采を含めて海馬体と呼ばれる.これらは記憶にかかわる機能と関連が深い.アンモン角は細胞構築の差異によりCA1~CA4に分けられる.アンモン角と連続する皮質である海馬台は海馬傍回の上面を構成する(図1~4).海馬が関連する記憶にかかわる神経回路はPapezの回路と呼ばれ,アンモン角,海馬台の錐体細胞からの遠心性線維が,海馬采→脳弓→乳頭体→乳頭視床路→視床前核→帯状回後部→帯状束→海馬傍回→海馬体に戻る.海馬の前端に近接してみられる扁桃体は,下角の前上壁をなすアーモンド型の灰白質構造であり(図1~3),情動反応の処理と記憶において主要な役割をもつとされる.扁桃体は主に6つの核からなるが,機能的には皮質内側扁桃体群と基底外側扁桃体群に分けられる.扁桃体が関連する感情にかかわる回路はYakovlevの回路と呼ばれ,扁桃体→視床内側核→前頭葉眼窩面皮質→側頭葉皮質前部→扁桃体に戻る.

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 この領域には,生体の恒常性の維持に重要な内分泌機能を担っている下垂体-視床下部系をはじめ,視交叉,海綿静脈洞,Willis動脈輪など複雑な構造が含まれている.本稿では,下垂体を中心とした正常MRI像を概説し,代表的な疾患について症例を提示する.

脳幹・小脳 木下 俊文 , 木下 富美子
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正常解剖1,2)(図1)

 脳幹は,延髄,橋および中脳の3つの部分に分かれる.脳幹の頭側には間脳(視床)があり,尾側では脊髄につながる.橋および中脳の背側部は発生学的に古く,被蓋部と呼ばれ,脳神経核を含んでいる.小脳は脳幹の背側に位置し,正中の虫部と一対の半球よりなる.小脳は中脳・橋・延髄とおのおの上・中・下小脳脚でつながっている.小脳と橋の間には第四脳室が存在し,中脳水道を介して第三脳室と交通する.第四脳室からは両外側にあるLuschka孔と正中下部にあるMagendie孔によりくも膜下腔につながる.脳幹,小脳周囲には小脳延髄槽,小脳橋角槽などの脳槽があり,このうち小脳橋角槽は小脳と脳幹部で形成されるくも膜下腔で,橋と延髄の接合部より出る顔面神経や内耳神経が走行する.

 脳幹部では,さまざまな神経線維が神経核を介しながら,縦走・横走する.運動系の伝導路として最も重要なものに皮質脊髄路が挙げられる.皮質脊髄路は線維が延髄錐体を走行することから錐体路とも呼ばれる.中脳では大脳脚を,橋では橋底部を,延髄では錐体を下行する.その他の橋の縦走線維としては,皮質核路(別名,皮質延髄路)と皮質橋路がある.皮質核路は大脳皮質から迷走神経核や舌下神経核といった主に延髄の脳神経運動核に至る経路である.また,皮質橋路は大脳皮質から橋に下行する縦走線維で,橋核で橋小脳路に中継される.橋小脳路は中小脳脚を通って対側の小脳皮質に至る.

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 大脳白質は有髄線維を多く含むため,肉眼的に皮質と比べて白くみえる.CTやMRIで観察すると,一見均質な左右対称性の単純な構造にみえるかもしれないが,解剖学的には神経線維の束が交錯し合った複雑な形態をしている.その大まかな構造を知っておくことは,画像診断においてきわめて重要である.また,白質は脳の容積のかなりの部分を占めており,さまざまな疾患が生じることが知られている.

 本稿では,白質の種類や解剖を中心に概説を行う.

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正常解剖

●大脳の表在解剖1)(図1a,b)

 大脳半球は正中の大脳縦裂により左右の半球に分けられる.それぞれの大脳半球は中心溝,Sylvius裂,頭頂後頭溝により前頭葉,頭頂葉,側頭葉,後頭葉,島葉に分けられる.

 前頭葉は,後縁は中心溝によって頭頂葉と,下後部はSylvius裂後枝により側頭葉と境される.外側面では,中心溝の前にこれと平行して中心前溝があり,ここから前方に向かって横走する2本の上・下前頭溝がある.これらの脳溝により,中心前回,上・中・下前頭回の4つの脳回に分けられる.中心前回は一次運動野にあたる.下前頭回はSylvius裂の前水平枝と前上行枝により,眼窩部,三角部,弁蓋部に分けられる.

頭蓋冠・髄膜 土屋 一洋
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正常解剖

●頭蓋冠

 頭蓋腔を円盤状に被うのが頭蓋冠(calvaria)である.頭蓋のうち,顔面骨や頭蓋底を除いた部分で,頭頂骨と前頭骨・側頭骨・後頭骨の鱗部からなる.緻密質からなる外板と内板の間に,海綿質からなる板間層がある3層構造になっている.

 外板の表面は平滑で,帽状腱膜がこれを被う.板間層には各所に静脈を容れた板間管があり,外板または内板に開口する.また,板間層には骨髄が存在し,そのMRIでの信号強度は年齢などで変化する.すなわち,赤色髄が占めるとT1強調像で低信号を示し,これは1歳以下では正常所見である.その後おおむね7歳前後まで,脂肪髄化に伴い次第に高信号化する(図1).赤色髄はGd造影剤で増強効果を示す.内板の内面は各種の凹凸がある.これには脳回による指圧痕,脳溝による脳隆起,硬膜の動静脈による動・静脈溝,硬膜静脈洞による上矢状洞溝や横洞溝などがある(図2).

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 血管・血流の情報は,脳疾患,特に脳血管障害の診断に欠くことができない情報で,従来から脳腫瘍・脳血管障害などにおいてカテーテルを用いた選択的脳血管造影が広く行われていた.しかし,その合併症の頻度は高く,症状で観察した報告で0.5%,MRIの拡散強調像で観察すると2割程度の検査で異常が出現したという報告もあり,血管内治療は別として,その適応は術前や血管障害に限られてきている.

 血管造影の適応を限定できるようになった背景には,CT,MRIの進歩で血管の情報が頭蓋内でも非侵襲的に得られるようになったことが大きい.

 特にMRAは非侵襲的に頭蓋内の血管の詳細を知ることができ,その臨床的有用性は高い.また,通常の断層像でも血管に注目すればかなりの情報が得られることも知っておく必要がある.

頭頸部 総論

読影の基本とポイント 豊田 圭子
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CTとMRIの部位別・疾患別の選択の指針

 頭頸部は頭蓋底から胸郭入口部までの領域を指すが,細分すると,頭蓋底,眼窩,側頭骨,鼻・副鼻腔,咽頭,喉頭,口腔,大唾液腺,甲状腺・副甲状腺,リンパ組織である.その第一の診断法は,耳鏡,喉頭鏡,鼻鏡などを用いた視診法と頸部触診法である.これらで診断がつけられ,さらに質的診断や進達度診断のため,画像検査が施行される.頭頸部における読影の手順は,中枢神経系や腹部領域など,そのほかの領域と基本的に同じである.しかし頭頸部では,病変の進展により大きく治療方針が異なるので,進達度診断が重要である.症状が著明な,しかし視診・触診で診断がつかない例でも,画像診断は行われる(例えば異物誤飲).

 また,頭頸部は症状と所見が一致しやすい領域であるので,症状から上記のそれぞれの領域を細かく画像を撮像する.具体的な画像の選択方法は後述する(表1).

頭頸部 各論

側頭骨 長縄 慎二
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 側頭骨の画像診断には一般にCTおよびMRIが用いられる.側頭骨領域の特徴としては,立体的に複雑な構造であることと,各構造自体が小さく空間分解能の高い撮影が要求されるという点である.CTは骨構造の微細な変化の描出に優れ,MRIは軟部組織コントラストの変化検出に優れる.後頭蓋窩および内耳道については,CTでは周囲の厚い骨によるX線の線質変化(beam hardening artifact)によって詳細な検討が困難であるので,MRIを用いるのが一般的である.また内耳についても,形態異常と内部石灰化や空気の有無のほかはMRIを用いるのがよい.例えば,外傷後の骨折線や迷路気腫の検出についてはCTのほうが優れるが,迷路内の軟部組織の検出にはMRIが優れる.中耳および外耳については,外耳道骨壁や耳小骨,顔面神経管などの描出に優れるCTを用いることが多いが,外耳道腫瘍の進展範囲や中耳真珠腫の性状把握にはMRIも用いられる.側頭骨領域の画像診断で重要なことは,まず画像そのものが診断に値するような適切な撮影がなされているかどうかを判定することである.不十分な条件で撮影された画像は,この領域を専門とする画像診断医にとっても読影が難しく,ましてこの領域の画像を見慣れない諸家にとっては評価がきわめて困難である.次に適切に撮影された画像で,正常解剖を習熟し,さらには代表的疾患の典型像を知っておくことである.

 内科医がこの領域の画像を目にするのは,めまい,顔面神経麻痺,頭痛,耳痛,難聴,耳鳴りなどの症状をもった患者の場合と思われる.この領域の症状が全身疾患の一症候として現れることもあるので,内科医もある程度は側頭骨領域の画像診断を知っておく必要がある.本稿では,最新の装置を用いて得られたCT像とMRI像によって,まず側頭骨領域の正常解剖を習熟し,ついで上述の症状を呈する代表的な疾患の画像を提示する.

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 当然ながら頭蓋底を直接観察することはできない.その病変を疑うきっかけは,症状や画像に頼るところが大きい.頭蓋底は頭蓋内と頭蓋外の境界で,脳神経が頭蓋外に出るときに必ず通る領域である.そのため,この領域の病変の症状の多くは脳神経の異常として認められる.また,画像による頭蓋底病変の存在診断,広がり診断は治療方針の決定に重要であるが,この領域の解剖は複雑で,不慣れな場合は画像の解釈にも苦労することも多い.

 本稿では,症状と関連する画像所見(CT,MRI)を中心に,正常解剖,頻度の高い疾患,見落とすと重大な結果につながる疾患を中心に取り上げた.

唾液腺・甲状腺 高橋 直也
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 唾液腺と甲状腺は表在に位置するため,触診や超音波検査が有用である.CT・MRIの役割は主に病変の由来や局在を明らかにすることにある.本稿では,痛みや腫瘤などの症状をきたす疾患を中心に解説する.

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正常解剖

 咽頭とは全長約12~15cmの管状臓器で,上・中・下の3腔に分けられる.喉頭とは咽頭と気管の狭間にある(図1).

頸部リンパ節 河津 俊幸 , 吉浦 一紀
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正常解剖

 全身に800個あるリンパ節のうち,300個は頸部に存在するといわれている.

 頸部リンパ節の分類に関しては,解剖学的分類とともに頭頸部癌取扱い規約やACHNSO(Academy's Committee for Head and Neck Surgery and Oncology)など,いくつかの分類法が提唱されているが,決まった見解はない.本稿では基本的に頭頸部癌取扱い規約1)の分類に則り解説を進めていく.図1および以下にその分類を示す.

頸椎 大久保 敏之
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正常解剖

 頸椎では,単純X線撮影がまずスクリーニングとして施行されることが多く,CT,MRIを精密検査として使用することが多い.MRIでは,その高いコントラスト分解能によって,前処置なく脊髄,くも膜下腔,脊髄神経根が明瞭に描出できるので,頸椎,頸髄の領域では最も重要な検査法である.

胸部 総論

読影の基本とポイント 村田 喜代史
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胸部における画像診断法の選択の指針

 胸部は単純X線写真が依然として重要な役割を占める数少ない領域の1つである.簡便性やX線被曝量の低さに加えて,胸部全体の変化を概観できる利点をもつが,精密な形態診断は断層像であるCTが中心になる.要は,X線写真とCTを組み合わせながら,いかに最小のX線被曝で,最大の情報を得るかを考えることが重要ということになる.なお,現時点では,胸部MRIはCTを補足する役割と位置づけられる.

 胸部CTでは,通常,肺野条件と縦隔条件の画像シリーズが再構成されるので,全スライスを正常構造の連続性に注意しながらレビューして,肺野あるいは縦隔胸壁内の異常をとらえる.肺野の病変の有無をとらえるだけなら,5~7mm厚の通常CTでも可能であるが,びまん性肺疾患で肺二次小葉レベルの精密形態診断を行うためには,1~2mm厚の高分解能CT(high-resolution computed tomography:HRCT)が必要である.また,肺癌の形態診断も通常HRCTを用いて行われる.

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 肺野に出現する異常陰影を正確に読影するためには,肺の基本構造である小葉の理解と,種々の異常所見が小葉とどう関連しているかを読み解くことが重要である.したがって,本稿においては,まず肺の基本構造である小葉について整理し,さらに,病変がHRCT(high-resolution CT)で小葉とどう関連して把握されるのかを,いくつかの典型例とその病理像を示しながら解説する.

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正常解剖

●気管

 輪状軟骨下縁から気管分岐部までの長さ約12cm,径約2cmの管腔臓器である.食道の前方で胸腔内に入り椎体前方を下降する.通常,第6胸椎のレベルで左右の気管支に分岐する.気管壁は前方および側方を軟骨部,後方を膜様部と呼ぶ.前者は16~20個の馬蹄形の気管軟骨により,後者は平滑筋と弾性線維により構成されている.

肺の動静脈 栗原 泰之
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正常解剖

 中枢側の肺動脈と肺静脈は胸部単純X線写真上,肺門陰影を形成する重要な要素である.肺門の大きさを左右する陰影である肺底肺動脈(下肺動脈幹)は,右中間気管支幹外側では正常では15mm以下,第8肋骨の幅とほぼ同じである.左肺門は左肺動脈が左主気管支を乗り越えてから葉間肺動脈として下行するために,左肺門のほうが高く位置する.

 肺動脈は末梢では気管支に伴走するが,中枢の分岐パターンにはバリエーションがみられる.

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正常解剖と生理的変化

●正常解剖

 縦隔は左右の胸腔の間に位置し,前方は胸骨,後方は胸椎,下方は横隔膜で囲まれ,上方は頸部へ連続している.

 縦隔のX線学的区分は,従来よりFelsonの胸部単純写真側面像での区分により理解されている1).この区分では,気管の前縁から心陰影の後縁を結ぶ線を前縦隔と中縦隔の境界とし,椎体前縁の1cm後方を中縦隔と後縦隔の境界としている.現在ではCTにより正常構造の位置を把握し,前縦隔を心大血管の前外側,中縦隔を気管・食道周囲,後縦隔を傍椎体領域としている(Sone, et al2)による区分).

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正常解剖

●肺のリンパ管の解剖

 肺のリンパ管は存在部位により,胸膜に分布する表在性リンパ管と内部に存在する深在性リンパ管に大別される.深在性リンパ管はさらに小葉間結合織内のリンパ管,肺静脈・気管支・肺動脈に伴うものに分類される1,2)

 胸膜下リンパ毛細血管内のリンパは,主に小葉周辺部のリンパ管を介して一本の集合リンパ管に運ばれ,区域間や肺葉間の肺静脈に伴う集合リンパ管を介して肺門部に注ぐ.ごく一部は,小葉間結合織内の集合リンパ管を経て,肺動脈・気管支に伴うリンパ管に流入してから,肺門部に到達する経路,すなわち表在性から深在性リンパ管に注ぐ経路が存在している(胎児で発達,成人は肺底部にわずかに認められる)(図1).

 また,胸膜下リンパ管への色素注入法による解剖学的検討と,肺癌切除例における転移リンパ節分布の検討から,肺から縦隔への直接リンパ経路の存在が考えられている.

胸膜 負門 克典
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正常解剖と画像

●正常解剖

 胸膜は薄い漿膜で,肺を覆う臓側胸膜と胸壁内面・縦隔・横隔膜を覆う壁側胸膜の2つからなり,両者は肺門を介して連続的に移行している.胸膜で囲まれたスペースが胸腔であり,内部に肺を格納する.正常の状態では,臓側胸膜で覆われた肺が入り込めない閉鎖腔が肋骨横隔膜陥凹(costodiaphragmatic recess)尾側に存在しており,同部では壁側胸膜同士が接することになる.胸部単純X線撮影で認識される肋骨横隔膜角とは肺下端に対応しており,胸腔は閉鎖腔としてさらにその下方まで伸びていることを忘れてはならない.

 肺門下部では臓側胸膜と壁側胸膜が飜転して肺靱帯が形成されており,これにより肺下葉は縦隔側に固定されている.前後方向に2枚の胸膜が存在する索状の狭い間隙にはリンパ組織(肺癌取扱い規約の#9肺靱帯リンパ節)と結合織がはさまっている.

心臓・心囊 市川 泰崇
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正常解剖(図1~4)

 心臓は心膜に包まれ,人の握り拳大で,重量は250~350gである.心臓の下端部はやや尖り,心尖と呼ばれる.心臓内部は右心房,右心室,左心房,左心室の4つの部屋に分かれる.房・室および左右心室を隔てる境界に一致して,心臓の表面に溝がみられる.心房と心室の間の溝は房室間溝と呼ばれる.心室の前面と後面には縦走する溝があり,前室間溝・後室間溝と呼ばれる.右心房は心臓の右上部を占め,後方の上下に上大静脈と下大静脈が注ぐ.右心耳は上大静脈の基部から左前方に向かって突出する.心房中隔には浅い卵円形の凹みがあり,卵円窩と呼ばれる.三尖弁は前尖・後尖・中隔尖からなる.右心室は心臓の最下部を占め,内面に多数の肉柱がみられる.心室中隔は右心室に向かって膨隆する.心室中隔の大部分は筋性で厚いが,中隔上部の小部分は薄く膜様で,膜性部と呼ばれる.肺動脈弁口は右心室の前上部に位置する.左心房は心臓の後上部にあり,後壁上部に左右肺から2本ずつ肺静脈が開口する.左心耳は肺動脈起始部の左方に位置する.左心室の内面には右心室と同様に多数の肉柱がみられ,前壁と下壁には強大な乳頭筋(前乳頭筋・後乳頭筋)が突出する.僧帽弁は2個の弁尖(前尖・後尖)からなる.大動脈弁と肺動脈弁は同様の形状をもち,3枚の半月弁からなる.

 冠動脈は右冠動脈と左冠動脈からなる.右冠動脈は大動脈起始部腹側の右冠動脈洞から分岐し,右房室間溝に沿って走行する.左冠動脈は大動脈起始部左背側の左冠動脈洞より起始し,左冠動脈前下行枝と左冠動脈回旋枝に分岐する.分岐するまでを左主幹部と呼ぶ.分岐した左冠動脈前下行枝は前室間溝,左冠動脈回旋枝は左房室間溝に沿って走行する.冠動脈の各セグメントの名称については,AHA(American Heart Association)の分類が一般的に使用される.心臓の静脈の大部分は冠状静脈洞に集まり,右心房に注ぐ.冠状静脈洞の開口部は,下大静脈口と三尖弁口との間に位置する.

 心臓を包む結合組織性の膜を心膜という.心膜は,心臓表面を覆う臓側心膜と,胸膜と接する壁側心膜より構成される.両者に囲まれた空間が心膜腔であり,心膜腔には正常でも50ml以下の心囊液が存在する.

食道・横隔膜 門澤 秀一
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■食道

正常解剖(図1)

 食道は咽頭と胃を結ぶ25~30cmの筋性の管腔臓器で,食道癌取扱い規約では食道入口部(輪状軟骨下縁のレベル)から胸骨上縁(内視鏡では門歯から約18cm)までを頸部食道,胸骨上縁から気管分岐部下縁(門歯から約24cm)までを胸部上部食道,気管分岐部下縁から食道胃接合部(門歯から約40cm)を2等分した上半分(門歯から約32cmまで)を胸部中部食道,下半分を胸部下部食道に区分している.

 食道は頸部では気管と椎体の間を,胸部では椎体の左前方の後縦隔を下行し,食道裂孔(第11胸椎レベル)から水平方向に向きを変えながら腹腔に入る.腹部食道は円錐状にゆるやかに拡張しながら胃噴門へ移行する.

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胸部の大動脈

●発生異常

 胎児の大動脈は,左右1対の背側大動脈(dorsal aorta)で,背側大動脈弓は第1大動脈弓を形成し,腹側大動脈(ventral aorta)へ移行する.左右の腹側大動脈は合流し,大動脈囊(aortic sac)を形成する.以後,鰓弓の発生に伴い腹側大動脈と背側大動脈との間に左右6対の大動脈弓が異時的に形成されるが,最終的には正常の大動脈弓は左第4弓と連続する背側大動脈からなり,第3弓は両側頸動脈,右第4弓は腕頭動脈および右鎖骨下動脈起始部,第6弓は肺動脈となり,左大動脈弓が正常の形態となる.

 大動脈弓の発生異常は,Edwardsの模式図“仮想両側大動脈弓両側動脈管(hypothetic double aortic arch with bilateral ducti arteriosi)”という概念から(図1),吸収および残存形態から種々の大動脈弓異常が説明される1)

 先天性大動脈異常の分類には,①大動脈弓の位置(右側,左側または両側),②上部下行大動脈の位置(右側または左側),③動脈管の位置(右側か左側),④弓部分枝の分岐パターンにより,以下のように分類される.

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正常解剖

 胸壁などの軟部組織を除く骨性構造の正常解剖について記載する.

●胸郭(図1~4)

 骨性胸郭は12個の胸椎,12対の肋骨と肋軟骨,胸骨で構成される.前方では肋軟骨が肋骨弓を形成する.上位7対の肋軟骨は胸骨と関節する.第1~2肋骨は胸椎柄の肋骨切痕と関節し,第3~7肋骨は胸骨体部の肋骨切痕と関節する.第8~10肋軟骨は1つ上位の肋骨と関節する肋軟骨間関節を形成する.後方では肋骨と胸椎が関節する.胸骨は3部分からなり,上方から胸骨柄,胸骨体部,剣状突起に分かれる.柄部の上方正中部に頸切痕,上方外側に鎖骨切痕が存在し,鎖骨切痕部で鎖骨と関節する.胸鎖関節は関節円板をもつ滑膜関節で前方に全胸鎖骨靱帯,その外側下方に肋鎖靱帯が存在する.頸切痕の上方を鎖骨間靱帯が走行し,鎖骨を連結する.その下方に第1~2肋骨との関節部である肋骨切痕が存在する.胸骨角部は胸骨柄と体部の結合部分が前方に突出する部分である.体部上外側に第2肋骨と関節する肋骨切痕が存在する.下方に第3~7肋骨との関節部である肋骨切痕が存在し,第1胸肋関節は軟骨結合であり,関節腔は存在しない.第2~7胸肋関節内には関節腔があり,関節内胸肋関節靱帯が存在する.前方には前放射状胸肋靱帯が存在する.肋骨は大きく分け,頭部,頸部,体部から構成される.肋骨の前方には硝子軟骨である肋軟骨が存在する.第3~10肋骨では肋骨頭部に胸骨の肋骨窩との関節部である上下肋骨頭関節面が存在し,肋骨頭稜で境される.第1,2,11,12肋骨頭部では単一の肋骨頭関節面である.頸部の外側後方に肋横突関節部である肋骨結節が存在する.体部の尖端には肋軟骨との関節部分が存在する.第1肋骨体部上面には,鎖骨下静脈溝と前斜角筋結節が存在する.第2肋骨体部上面には前鋸筋による結節が存在する.

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正常解剖と生理的変化

 乳房には,体表面から皮膚,皮下脂肪組織,浅在筋膜浅葉,乳腺,浅在筋膜深葉,乳腺後脂肪組織,大胸筋が順に存在する.成人女性の乳腺(図1)は約15~20の乳腺葉からなる.各乳腺葉の体積は均一ではない.乳腺葉は乳汁産生能を有する終末乳管小葉単位(terminal duct lobular units:TDLU)と乳汁を乳頭へ導く乳管からなる.各乳腺葉からの乳管がそれぞれ乳頭に開口するが,開口直前に紡錘状に拡張する領域がみられ,乳管洞と呼ばれる.生殖可能年齢にある女性の乳腺組織はエストロゲンとプロゲステロンに反応する.エストロゲンは新たな乳管形成や既存の乳管の延長などを促進し,これにより結合組織の量や弾力性が増加し,脂肪組織の沈着,血管分布の増大が生じる.プロゲステロンは小葉の形成を刺激する.乳腺実質は加齢とともに萎縮し,脂肪組織に置換され,周囲結合織の線維化がみられるようになる.

腹部 総論

読影の基本とポイント 齋田 幸久
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CTとMRIの使い分け

 腹部には多数の臓器が存在し,肝,胆,膵,胃腸管,腎尿路系,骨盤生殖器系など,多彩である.想定される臓器と疾患によって,それぞれの検査の進め方は異なり,CT,MRIの使い分けも要求される.

 国内には,X線CT装置が数多く備えられ,検査の施行とその診断評価が比較的簡便であることから,まずCTが選択される傾向にある.腹部全体を網羅的に把握して客観的に評価できる点で優れている.ただし,CTは常にX線被曝を伴う.CTによる腹部の被曝量は単純X線検査のおよそ10倍を優に超え,100倍に迫る.一方,MRIにX線被曝はなく,その濃度分解能はCTに比べ圧倒的に優れている.ただし,装置が高価で,しかも検査時間がCTに比べて長く,その画像評価もCTのように単純ではない.

腹部 各論

肝臓 塚原 嘉典 , 角谷 眞澄
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正常解剖(図1)

 右の上腹部で横隔膜下面の凹みに存在している.肝後面の上部はbare areaと呼ばれ,腹膜を欠くため,肝は横隔膜に接している.肝鎌状靱帯により大きく解剖学的左葉と右葉とに区分される.また,胆囊窩と下大静脈を結ぶ線(Cantlie's line)により外科的な左葉と右葉とに分けられ,この線上に中肝静脈が走行する.

 門脈本幹は肝門部で右枝と左枝に分かれ,右枝はさらに前区域枝と後区域枝とに分かれる.肝動脈は,固有肝動脈から左肝動脈と右肝動脈とに分かれる.右肝動脈も前区域枝と後区域枝とに分かれ,肝内の動脈は門脈に伴走する.肝内胆管も門脈に伴走する.

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正常解剖

 脾臓(spleen)は人体最大のリンパ性器官であり,腹腔内の左上隅の横隔膜と左腎の間に存在する.第9~11肋骨の高さにあり,その長軸は左第10肋間と平行している.形態はやや扁平な楕円形で,横隔膜面は凸面をなし,胃,膵尾部,左腎に向かう臓側面は凹面をなしている.また,脾門は臓側面にあり,脾動静脈と神経の出入り部位となる(図1).脾臓は,長さが約10cm,幅約7cm,厚さ約3cmで,重さは75~200gであり,15歳前後にピークに達する.

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正常解剖

●胆道系の正常解剖(図1~4)

 胆道とは,肝細胞から分泌された胆汁が十二指腸に流出するまでの全経路を指すが,胆道癌取扱い規約では肝外胆道系を意味し,肝外胆管,胆囊,乳頭部に区分される(図1)1)

 肝外胆管は,肝門部胆管,上部胆管,中部胆管および下部胆管に区分される.肝門部胆管は,左側は外側区と内側区の合流部から,右側は前枝と後枝の合流部から左右肝管合流部下縁までとされ,さらに右肝管,左肝管,上部胆管で囲まれる部位は肝管合流部とされる(図2).上部および中部胆管は,肝門部胆管の下縁から膵上縁までの部分を2等分して区分され,下部胆管は膵上縁から十二指腸壁を貫通するまでの部分とされる.解剖学的には肝左葉から出た左肝管と右葉から出た右肝管が肝門部で合流し総肝管となり,その下方で胆囊管と合流し総胆管となるが(図3),胆道癌取扱い規約では,胆管の区分として総肝管,総胆管という解剖学的な名称は用いない.

膵臓 入江 裕之
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正常解剖と正常膵のCT・MRI

●正常解剖

 膵は十二指腸下行脚~水平脚,上行結腸,下行結腸と同様,前腎傍腔に存在する後腹膜臓器であり(図1),内外分泌機能を有する腺組織である.膵癌取扱い規約では頭部,体部,尾部に分類され,門脈左縁より右側が膵頭部,左側が膵体尾部であり,さらに膵体尾部は二等分して体部と尾部に分けられる(図2).解剖学的にはその他,頸部,鈎部があり,頸部は上腸間膜静脈と脾静脈の合流部の腹側にあたる領域を指し,鈎部は頭部の左下縁で上腸間膜静脈の背側に位置する.頸部,鈎部ともに膵癌取扱い規約では頭部に含まれる.

 膵頭部,体部は前面が壁側腹膜に覆われ,後面が前腎筋膜に隣接し,純粋に後腹膜に存在するのに対して,尾部は脾腎間膜内に存在し,前後面ともに腹膜で囲まれ,腹腔内に存在する.体尾部の前面には小網と呼ばれる腹膜腔が存在する.横行結腸間膜は頭部前面に付着して体尾部方向に横走し,小腸間膜は横行結腸間膜の後層から連続して頭部前面より起始し,鈎部前面を横走下行する(図3).これらの間膜は種々の膵病変の進展経路となるため重要である.

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 従来,胃・十二指腸に対するCT,MRI検査の主な目的は,消化管原発の悪性腫瘍(図1a)の他臓器浸潤や転移の術前評価と経過観察であった.近年,multidetector row CT(多列検出器CT:以下,MDCT)が普及し,高速で詳細なデータ収集が可能となり,種々の画像作成ソフトが開発されたことにより,ワークステーション上でのデータ再構築が可能となった.これにより,腸管の任意の断面の作成(図1b)や血管との重ね合わせ像(図1c)での観察など手術のシミュレーションに耐えうる画像が短時間で作成できるようになっている.また,立体視(いわゆるバーチャルエンドスコープ)が可能になり,検診への応用も検討されている.MRIにおいては撮像の高速化により空間および組織分解能が向上している.また,拡散強調像が腹部でも撮像可能となり,消化管の悪性腫瘍の検出や転移,播種病変の検出に有用である.

小腸・大腸・直腸 市川 太郎
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正常解剖

 一般に消化管疾患の診断は,消化管造影や内視鏡によりなされる.それは,現代の消化管診断の主たる目的が早期の癌を見つけることにあるからである.しかしながら,消化管疾患の裾野は広く,CTあるいはMRIでの診断が優先される病変も数多い.さらに最近の断層画像の進歩は著しく,以前にはこれらの検査の適応と思われなかった病変に対しても施行され,一定の評価が得られているものもある.

 小腸,大腸,直腸は,現在では特別の前処置や工夫を行わなくても断層画像での描出ができる.しかし,それは詳細に粘膜面が診断できるといった段階ではない.また,詳細に粘膜を診断するまでではないものの,消化管腫瘍の描出などを主たる検査目的とする場合は,あらかじめ下剤を投与する,消化管内にガスを注入しておく,造影剤を飲用させておくなどの前処置が行われることもある.しかしながら,他疾患の検索,腹部の不定愁訴,急性腹症などで検査を行う場合,前処置なしに施行されることが一般的であり,これらの検査で消化管疾患が見つかることも数多い.したがって,こういった通常の検査画像からでも消化管にも注意して読影する習慣が必要である.

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 腹膜・腸間膜は,さまざまな腫瘍性病変および炎症性病変の重要な波及経路となりうることから,CTを中心とした画像診断を正確に行うには,これらの正常解剖の知識が必須となる.

 腸間膜はその複雑な解剖学的特徴から,従来のCT横断像のみでは十分に評価ができないことも少なくなかった.近年,multidetector-row CT(MDCT)の普及により,1mm-sliceなどのthin-sliceでの多断面再構成像による評価が可能となり,各間膜や腹膜コンパートメントの認識が十分可能となった.

 本稿では腸間膜の正常解剖とその代表的疾患について,主にMDCTで撮像された症例の供覧を中心に概説する.

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 後腹膜腔は,前腎筋膜(anterior renal fascia),後腎筋膜(posterior renal fascia),外側円錐筋膜(lateroconal fascia)により3腔に分けられる(図1).腎周囲腔(perirenal space)は,前腎筋膜と後腎筋膜で囲まれる腔であり,腎,腎周囲脂肪組織,副腎を入れる.前腎筋膜と後腎筋膜は外側で外側円錐筋膜に移行する.前腎傍腔(anterior pararenal space)は,壁側腹膜と前腎筋膜,外側円錐筋膜で囲まれた領域で,膵,上行・下行結腸,十二指腸の下行・水平・上行脚が含まれる.後腎傍腔(posterior pararenal space)は,腹側を後腎筋膜と外側円錐筋膜で,背側を腹横筋膜で囲まれた領域であり,脂肪組織のみで実質臓器は含まない(図2).

 副腎は,右側は右腎上極のやや上方で,下大静脈後方,肝右葉内側,右横隔膜脚の外側に位置する.左副腎は左腎前内側で,膵尾部の後方,左横隔膜脚の外側に位置する.左副腎は右側に比べ,やや下方に位置する.副腎はCTやMRIの横断像で逆Y字型,逆V字型,三角形,線状,三射状などの形態を示すが,頭側では線状,中央部では逆Y字型,尾側では逆V字~三射状を示すことが多い(図3).MRIではT1強調像で肝と同程度かやや低信号,T2強調像で肝とほぼ等信号を示す(図4).

 腹部大動脈は,大動脈裂口部から左右の総腸骨動脈に分岐するまでをいう.主な分枝として,第12胸椎下縁から第1腰椎の高さで腹腔動脈,続いて上腸間膜動脈,左右の腎動脈,下腸間膜動脈を分枝する.下大静脈は左右の総腸骨静脈が第4~5腰椎の高さで合流し,椎体の右前方を走行し,右心房に合流する(図5).

腎臓 秋田 大宇 , 陣崎 雅弘
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正常解剖(図1,2)

 腎臓は後腹膜に位置する代表的臓器の1つである.後腹膜のなかで脂肪組織に包まれており,それを腎周囲腔と呼ぶ.腎周囲腔の前後には前傍腎腔と後傍腎腔があり,それぞれGerota筋膜前葉とGerota筋膜後葉により腎周囲腔と境されている.

 腎臓は通常左右1個ずつ存在し,右腎は左腎より尾側に位置する.しかし,片腎の先天性欠損や馬蹄腎(左右の腎臓が腹部大動脈,下大静脈の前方で癒合,図3)などの正常変異もある.また,骨盤腎や胸腔内腎など位置の変異を認める場合もある.さらに腎動静脈が流入,流出する腎門は通常前方内側を向いているが,回転異常によりさまざまな方向を向くことがある.特に腹側を向くことが多い.

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正常解剖

●尿管

 尿管は腎盂から連続する長さ約30cm,径約5mmの管腔臓器である.大腰筋の腹側を下内側に走行し,生殖(卵巣,精巣)動静脈の背面を横走する.小骨盤腔では総腸骨動脈と交叉して腹側を通り,仙腸関節付近まで下行すると正中方向に曲がり,膀胱後壁を正中から約2.5cmのところで斜め前方に貫いて終わる.尿管には生理的狭窄が3カ所〔①腎盂尿管移行部(ureteropelvic junction:UPJ),②総腸骨動静脈との交叉部,③尿管膀胱移行部(ureterovesical junction:UVJ)〕存在し,尿管結石が嵌頓しやすい部位である(図1).

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正常解剖

●一般的事項

 子宮は膀胱背側,直腸腹側に位置している.子宮を覆う腹膜(=子宮広間膜)は,膀胱子宮窩と直腸子宮窩(=Douglas窩)という2つの腔を形成する.この腔は腹水が貯留するスペースとして,あるいは悪性腫瘍の腹膜播種をきたす部位として重要である.

 子宮は西洋梨型で,子宮体部,子宮頸部および両者の移行部である子宮峡部からなる.

卵巣 田村 綾子
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正常解剖

●解剖

 卵巣は子宮の両側に1つずつ認められる.卵巣窩は外腸骨動静脈の腹側,尿管の背側に位置する.卵巣は卵巣固有索,卵巣提索,卵巣間膜により支持されている.子宮広間膜の背側で,子宮角の卵管付着部に卵巣固有索(ovarian ligament)によって付着する.広間膜は外側で卵巣提索(suspensory ligament)となって骨盤壁に達し,卵巣を保持する.卵巣動静脈や神経はここを通る.卵巣間膜(mesovarium)は卵巣腹側を覆う二重の腹膜で,卵巣前縁から広間膜後葉に連続する.卵巣間膜の卵巣への付着部が卵巣門であり,血管と神経,リンパ管が通る.卵巣門以外の卵巣表面は腹腔に露出している.

 卵巣は大動脈から直接分枝する卵巣動脈,子宮動脈卵巣枝の2つの動脈血流が流入する.卵巣動脈と子宮動脈は卵巣間膜内で吻合する.卵巣静脈は動脈に伴走する.広間膜内で子宮静脈と吻合し,右卵巣静脈は下大静脈へ,左卵巣静脈は左腎静脈へ流入する.

 卵巣は卵胞を含む表層部の皮質と血管の豊富な中心部の髄質からなり,白膜に覆われる.皮質には卵胞のほかに豊富な間質も含む.生殖可能年齢では皮質が大部分を占める.

前立腺・男性生殖器 北島 一宏 , 楫 靖
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正常解剖およびCT/MRIでの正常像

 男性生殖器の疾患に対しては,CTよりも軟部組織コントラスト分解能に優れ,被曝もないMRIが用いられることが多い.本稿もMRIを中心に概説する.

腹壁・骨盤壁 吉松 俊治 , 浅尾 千秋
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正常解剖

 腹壁を構成する浅腹筋には外側群の側腹筋と内側群の前腹筋がある.前腹筋には前腹壁の正中部に左右の腹直筋があり,恥骨からでて白線内に入り込む小さい錐体筋がある.側腹筋は浅層より外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋の3層の筋群よりなり,上中腹部では脂肪により3層の分離は良好であるが,下腹部では分離が不良となる.

 側腹筋はその広い面状をなす腱膜で両側の腹直筋を包み,固有の結合組織である腹直筋鞘を形成する.腹直筋上部中部では,外腹斜筋腱膜は腹直筋鞘前葉を,内腹斜筋腱膜は前後に分かれて前葉と後葉を,腹横筋腱膜は腹直筋鞘後葉を形成する.臍輪より数cm下方の腹直筋下部では,側腹筋腱膜はすべて腹直筋鞘前葉を形成し,後葉は欠如する.腹直筋鞘後葉の消失する部分が弓状線である(図1).

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正常解剖

 腰椎に限らず,脊椎の解剖は大きく前方成分(椎体および椎間板),後方成分(椎弓や関節突起),脊椎周囲組織(周囲の筋など)に分けて考えると理解しやすい(図1).腰椎は5つの椎体からなる.また,頸椎,胸椎レベルと異なり,脊髄はL1~2レベルまで脊髄円錘となり,それより尾側では馬尾が連続する.椎体の両側に大腰筋を認め,後方成分背側には棘筋や胸最長筋を認める.

骨軟部 総論

読影の基本とポイント 新津 守
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 骨病変の画像診断の第一選択は,単純X線写真であることに異論はないであろう.近年では超音波が高性能化し,単純X線写真では描出されない肋骨などの骨折を超音波で描出する試みも報告1)されているが,その普及(多くは整形外科医が外来で実施すると思われる)には今しばらく時間がかかりそうである.また,微細な骨折線や椎骨や手足の骨,顔面骨など複雑な形状の骨の骨折描出にはCT,特にMDCTによる薄スライスや多方向再構成画像が有用なのは周知のことと思われる(図1).

 本稿ではMRIについてその有用性,撮像法の工夫について述べる.

骨軟部 各論

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 肩関節(肩甲上腕関節)は西洋梨状の陥凹をもつ関節窩(glenoid fossa)と,その約3倍の関節軟骨の広がりをもつ上腕骨頭(humeral head)から構成される球関節である.生体内において最大の可動域をもつことが特徴であるが,関節窩が上腕骨頭に対して小さく,関節の不安定性があることが弱点であり,最も脱臼を起こしやすい関節となっている.そのために関節唇(glenoid labrum),上腕骨頭の約2倍の表面積をもつ関節包,関節上腕靱帯をはじめとする靱帯,腱板(rotator cuff)などの軟部組織が補強・支持する構造となっている.表層にあり,触れることのできる筋肉をアウターマッスル,深層にある筋肉をインナーマッスルと呼ぶ言い方があるが,肩関節において腱板を構成する筋肉はインナーマッスルに相当し,関節のstabilizerとして機能している.ほかの関節とは異なるこういった特徴を有するために,一般的に肩関節の解剖,MRIの読影は難しい印象をもたれている.したがって,本稿では肩関節のMRI解剖においてポイントとなる構造について解説する.

肩関節の疾患 佐々木 泰輔 , 山本 祐司
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 一般的に関節疾患はMRIのよい適応だが,筆者のまわりの画像診断医には肩関節のMRIを不得手とする者が多い.その原因を推定すると,まず解剖がやや複雑で正常変異も多いこと,膝などに比べると構造が小さく損傷機序も複雑なこと,などが挙げられる.

 本稿では,肩MRIの読影の基本について簡潔に説明したい.取り上げる疾患も,腱板損傷,脱臼,スポーツ外傷に限定し,損傷の細かな分類や亜型についてはあえて触れないのでご容赦いただきたい.なお,提示する症例は関節鏡や手術で診断が確認されたものである.

手関節 植野 映子
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MRI正常像と手の関節の解剖,機能

 手の関節は多数の関節により構成される(表1).「手関節」と「手の関節」はあくまで別の名称であり,「手関節」とは橈骨手根関節,手根間関節,豆状三角骨関節を一括したもの,「手の関節」は手のなかにあるすべての関節のことである.手関節の運動は屈曲(掌屈),伸展(背屈),外転(撓屈),内転(尺屈)のほか,回外・回内運動が加わることが特徴的である.指関節などをはじめとして高い巧緻性が求められる関節でもある.個々の関節の構成は非常にシンプルであるが,多数の関節が集合することで巧緻運動を可能にしている.別の見かたをすれば,狭い領域に多数の構造がひしめく関節でもあり(図1~3),解剖はとっつきづらい印象が否めないかもしれない.

股関節 中西 克之
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 股関節は,球形の大腿骨頭とそれを包み込む臼蓋で強固に結合する最大の関節である.寛骨臼と臼蓋唇により骨頭の2/3が包み込まれ,ball and socket constitutionとも呼ばれる.関節可動域は肩関節に比べて制限されるが,関節の安定性と体重の支持において重要な役割を果たしている.近年,高精細なMRIやCTで詳細な画像が得られるようになり,画像診断を施行するにあたり,関節の特性と正確な解剖知識を得ておく必要がある.図1に高精細MR像とシェーマの対比を示す.

 上述したように大腿骨頭の2/3が臼蓋唇により包み込まれるため,関節裂隙は狭く,大腿骨頭側の関節軟骨と臼蓋側の関節軟骨が分離してみえないこともしばしばある.本例では股関節を牽引して関節裂隙を広げ,両側関節軟骨を分離して描出していることに留意されたい.MRIで脂肪抑制画像を用いると関節軟骨が高信号に描出され表面を追跡しやすくなる.臼蓋と大腿骨頭を結合させる役割で大腿骨頭靱帯がある.臼蓋側ではその靱帯の周囲に月状窩と呼ばれる脂肪が存在し,関節軟骨は存在しない.臼蓋の辺縁部分に関節唇が存在する.関節唇は膝関節における半月板と同様,線維軟骨であり,低信号に描出され,楔状の構造を呈する.

膝関節の解剖 稲岡 努
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正常解剖

 膝関節は人体最大の加重関節であり,最大の長管骨である大腿骨と次に大きい脛骨によって構成される.また,前方には最大の種子骨である膝蓋骨が関節包内に存在し,大腿骨と膝蓋大腿関節を形成している.脛骨の外側部には腓骨が位置するが,関節包内には存在しない.大腿骨遠位端と脛骨近位端の関節面には硝子軟骨からなる厚い関節軟骨が広がっている.膝蓋大腿関節は外側部に広いV字状を呈し,関節面には同様に厚い関節軟骨が広がっている.

 膝関節内および周囲には多くの軟部支持組織が存在する.内側側副靱帯,外側側副靱帯を含む外側支持組織,前・後十字靱帯,半月板が臨床的に重要である.内側側副靱帯は,膝関節の内側部を縦走する靱帯であり,浅層と深層とに分けられる.浅層は大腿骨内顆から起こり,脛骨骨幹端の内側部に付着する.深層は浅層の直下に存在している.深層は内側半月板辺縁と強固に付着し,半月板と大腿骨,半月板と脛骨とを結ぶため,それぞれmeniscofemoral ligament,meniscotibial ligament とも呼ばれる(図1).また,膝関節内側部の表層には縫工筋,薄筋,半腱様筋腱,半膜様筋腱が下降し,脛骨上端の内側部に付着している(図2).膝関節外側部には,外側側副靱帯を含めた外側支持組織が存在し,内側部と比べて複雑な構造になっている.外側側副靱帯は,大腿骨外顆から腓骨頭へと広がり,下端は関節包から離れている.その表層では前方に腸脛靱帯,後方には大腿二頭筋腱が下降し,脛骨外側部および腓骨頭に付着している(図3).

膝関節の疾患 神島 保
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変形性関節症(図1)

 変形性関節症は軟骨の軟化に始まる疾患である.関節構造とそれにかかる荷重のバランスが崩れることにより生じる.初期の病理は関節軟骨の変性とそれに伴う修復像であり,軟骨細胞の消失と細線維化や軟骨細胞集合化が認められる.さらに進むと軟骨に裂隙が生じ,軟骨欠損部に線維軟骨が形成される.軟骨が完全に磨耗すると関節裂隙は狭小化し,軟骨下骨が露出,軟骨下骨の硬化,骨内囊胞形成が画像で認められる.骨棘や遊離体形成も特徴的である.滑膜に強い炎症を伴うことは稀である.

軟部腫瘍 玉川 光春 , 晴山 雅人
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正常解剖

 大腿・下腿の横断像を示す(図1,2).大腿の筋を含む大腿筋膜は,外側で厚く腸脛靱帯を形成する.鼠径部で大腿前面の大腿筋膜の穴が伏在裂孔で,大伏在静脈などが通過する.大腿筋膜の内外後側から大腿骨に向かい,内側筋間中隔と外側筋間中隔,半膜様筋と大内転筋を分ける3枚の中隔が存在する.これにより,筋は前方,後方,内側筋膜区分に分けられる.前方には伸筋群である大腿四頭筋(大腿直筋,内側広筋,外側広筋,中間広筋)と縫工筋,後方には屈筋群(ハムストリング)である大腿二頭筋,半腱様筋,半膜様筋,内側には内転筋群の薄筋,恥骨筋,短内転筋,長内転筋,大内転筋が存在する.大腿動脈は前方筋膜区分内にあり,坐骨神経は後方筋膜区分内にある.

 下腿の筋膜は大腿筋膜が膝窩筋膜となり,連続的に下腿筋膜に移行する.下腿筋膜は前後筋間中隔が腓骨に付着し,脛骨と腓骨の間の骨間膜で前方,外側,後方筋膜区分に分かれる.後方筋膜区は深横筋膜で,浅層筋群と深層筋群に分かれる.前方には伸筋群の前脛骨筋,長指伸筋,長母指伸筋があり,前脛骨動静脈,深腓骨神経が含まれ,外側では腓骨筋群の長・短腓骨筋,腓骨動脈からの枝,浅腓骨神経が含まれる.後方筋膜区分は深横筋膜により分けられ,浅層筋群には下腿三頭筋(腓腹筋,ヒラメ筋)と足底筋,深層筋群には膝窩筋,後腓骨筋,長母指屈筋,長指屈筋があり,後脛骨動静脈,腓骨動静脈,脛骨神経が含まれる.

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 骨腫瘍の診断は年齢・性別などの臨床情報と単純X線所見が重要であるが,近年はこれに加えてCTおよびMRIが広く応用されるようになった.これらの画像診断は,単純X線写真で描出困難な病変の発見や,病変範囲の正確な決定およびstaging,病変の質的診断に有用な情報を提供する.本稿では,MRIを中心に骨腫瘍の診断における画像診断の応用を述べる.

基本情報

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medicina
46巻12号 (2009年11月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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