生体の科学 62巻5号 (2011年10月)

特集 細胞核―構造と機能

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 細胞はサイトゾルを含め細胞小器官という構成単位によって整然と,あるいは過激な表現を使えばガンジガラメに組織化されています。それも,小器官という区画が単なる膜で囲まれた空間というのではなく,膜そのものが活性を持った機能タンパクの集まりであり,その膜タンパクがさらに足場となってシグナル経路を構成し,その効果として種々の特異な細胞機能を果たしています。

 かつて「細胞構造」,「細胞小器官」といったテーマで数多くの特集が世に送り出されました。それ以来少なくとも十年の歳月が流れました。その間きわめて多くの新しい遺伝子(タンパク)が発見され,その機能が解析されました。既知のタンパクについてもさらなる知見が付け加えられました。しかし,個々には明らかとなったそれらのタンパクの機能が細胞の機能単位として細胞小器官の下にまとめて提示される機会は最近ではあまりありませんでした。本増大号では,温故知新ではありませんが,いま再び細胞小器官と新しく知られたタンパク分子を結びつける企画を構想いたしました。今回取り上げた小器官は細胞核です。

1.核 膜

核膜タンパク質 原口 徳子 , 小林 昇平
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 核膜は核と細胞質を隔てるように存在する二重膜構造(2枚の脂質二重層膜からなる構造)で,細胞質に面した膜を外膜,核質に面した膜を内膜と呼ぶ。この2枚の膜を繋ぐように核膜孔複合体と呼ばれる穴状の構造が作られており,細胞質と核質の間の物質輸送を行っている。多くの場合,外膜は小胞体の一部と連続している。核膜のこの基本構造は真核生物に共通である。この基本構造に加えて,動物細胞の核には核膜の内側に核ラミナと呼ばれる線維状の裏打ち構造がある。一般的に“核膜タンパク質”には核ラミナを構成するラミンなどのタンパク質を含むことが多いが,本稿では,膜にタンパク質の一部が埋まった状態で存在している膜タンパク質のみを核膜タンパク質として紹介する。

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 筋ジストロフィーの原因となる分子は,筋細胞の細胞膜か細胞質に存在するものがほとんどである。それに対してX染色体劣性遺伝形式をとるエメリー・ドライフェス型筋ジストロフィー(X-linked Emery-Dreifuss muscular dystrophy;X-EDMD)は,核膜に局在する膜タンパク質エメリンの欠失か変異が原因となる1,2)。核ラミナを構成するラミンAの変異も,全く同じ症状を示す常染色体優性遺伝性のEDMDを起こすことが知られている。EDMDは幼児期に発症し,1)病初期から起こる後頸部,肘部,アキレス腱の拘縮,2)進行性の上腕下腿型の筋萎縮と筋力低下,3)心伝導障害を伴う心筋症の三大症状を伴う進行性の筋ジストロフィーである。ほとんどの組織で発現しているエメリンやラミンAがなぜ特定の組織の異常につながるのか,そのメカニズムの解明が待たれている。

分裂酵母核膜タンパク質 平岡 泰
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 高等動物では多くの核膜に局在するタンパク質が報告されており,これら核膜タンパク質のうち特に核内膜タンパク質のなかには核質側でクロマチンと相互作用し,その機能を制御するものがあると予想される。一方,菌類の核膜タンパク質はあまり知られていない。Bqt3とBqt4は分裂酵母Schizosaccharomyces pombeで最近見つかった核内膜タンパク質である。Bqt3・Bqt4は,もともと減数分裂期のテロメアクラスターにかかわる一群のタンパク質としてBqt1・Bqt2とともに同定されたが,減数分裂期だけでなく増殖期の細胞においてもテロメアを核膜につなぎ止める働きを持つ。

Nucleophagy 林 由起子
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 核内膜および核ラミナに存在するタンパク質の異常が原因となる遺伝病は,「nuclear envelopathy;核膜病」と総称され,骨格筋疾患,心疾患,中枢神経障害,末梢神経障害,代謝異常,発育・発達異常や早老症候群といった様々な疾患を引き起こすことが相次いで明らかになってきている。この核膜病の発見の端緒となったのがエメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー(EDMD)である。

 EDMDは通常,小児期に発症する筋ジストロフィーで,1)肩甲下腿優位の進行性の筋萎縮と筋力低下,2)病早期からの肘,足関節および後頸部の拘縮,3)心伝導障害を伴う心筋症を臨床的三主徴とする遺伝性疾患である。染色体Xq28に存在するエメリン遺伝子(EMD)の変異によるX染色体劣性型(X-EDMD)と,染色体1q21.2に存在するA型ラミン遺伝子(LMNA)の変異による常染色体優性(AD-EDMD)あるいは劣性型(AR-EDMD)が多いが,同じく核膜タンパク質であるネスプリンをコードするSYNE1/2LUMAの遺伝子変異によるEDMDも少数例報告されている。EDMDは遺伝形式や原因遺伝子にかかわらずその症状はよく似ており,臨床症状から原因遺伝子を推測することは困難である。

2.核膜孔複合体

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 核膜孔複合体(nuclear pore complex;NPC)は核膜に存在する総重量100MDaの巨大タンパク質複合体である。NPCを構成する全因子(Nups)はプロテオミクス解析で明らかにされ,全体構造は電子顕微鏡で明らかにされてきた。Nupsの形状予測,分子間相互作用,孔に存在する分子数と局在情報を統合して,それぞれのNPC構造に配置するNupsがシミュレーションされている1)。これらの情報をもとに明らかにされてきたNPC形成機構を概説する。

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核-細胞質間輸送

 細胞核は2層の脂質二重膜で構成される核膜で包まれている。核-細胞質間の分子の行き来は,核膜上に多数存在する核膜孔複合体を介して行われる。しかし,あらゆる分子が自由に通過できるのではなく,量と速度が高度に制御されている。約50kDa以下の低分子蛋白質やイオンは自由拡散により通過することができるが,それより大きな分子はimportin βファミリーをはじめとする輸送因子が核膜孔複合体を構成する蛋白質群であるヌクレオポリンと相互作用することによって,選択的に核内または細胞質へと輸送される。

 このような核内輸送と核外輸送は様々なタイプが報告されているが,最も研究されているのがimportin α/βによる塩基性アミノ酸核局在化シグナル(nuclear localization signal;NLS)を持つ核蛋白質の核内輸送と,CRM1/RanGTPによる富ロイシン型核外移行シグナル(nuclear export signal;NES)を持つ蛋白質の核外輸送である。

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 核膜孔複合体(nuclear pore complex;NPC)は核と細胞質の間での物質輸送に際して,単なる通路としてではなく物質の出入りを厳密に制御する働きを有している。NPCを構成する構造タンパク質の一つであるNup62は核膜孔を通る物質輸送を制御するとともに,核内で遺伝子の転写を直接調節する働きも持ち,さらにいくつかの疾患とのかかわりがあることが明らかになってきている。

 この項ではNup62が関与する疾患に焦点を絞り,われわれの教室で行った研究成果も含めて紹介する。

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 核膜孔に存在する核膜孔複合体(nuclear pore complex;NPC)は,ヌクレオポリン(NP)と総称される約30種類のタンパク質によって構成される一つのユニットが,8ユニット回転対称性に配置した100MDaの巨大なタンパク質複合体である。そのなかで核膜孔複合体タンパク質Gp210は膜貫通型ヌクレオポリンに属し,他の二つの膜貫通型ヌクレオポリン(POM121,NDC1)とともに,核膜孔複合体の核膜へのアンカーの働きをしていると考えられている。本稿では,Gp210の構造,機能について今までに報告されている主な知見を紹介するとともに,難治性の自己免疫性肝疾患である原発性胆汁性肝硬変との関連についてわれわれの知見を紹介する。

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 動物細胞において,核膜孔は細胞分裂期に核膜とともに崩壊し,分裂期終期の染色体上に再形成される。分裂期終期では染色体上のELYS/Mel28を足場としてNup107/160 complex(以下Nup107/160)が,続いて核膜孔膜タンパク質Pom121がリクルートされることがXenopus卵を材料にした生化学的解析や生細胞内での局在観察を通して示されている(図B上)。間期でも細胞周期の進行過程で核膜が拡張し,核膜孔も形成されてゆくが,この場合は核膜平面が核膜孔形成の場となる。そのため核膜構成因子(Nucleoporins;Nups)の中でも膜タンパク質が核膜孔形成の基盤構築や安定化に寄与する予想されてきた。最近,Pom121が間期核膜孔形成初期の必須因子であることが続いて報告された。ここではPom121の分子内機能ドメインと核膜孔形成における役割について,最近の知見を紹介する。

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 核膜孔複合体(nuclear pore complex;NPC)は酵母から脊椎動物まで広く保存された巨大建造物である。この巨大な構造体は核内膜と核外膜からなる二重の核膜で隔てられた核と細胞質をつなぐ唯一の通路であり,その中を運搬体タンパクが積荷タンパク質やmRNAなどの分子を双方向に運搬している。本稿ではこの巨大建造物が構築されている基礎構造について紹介する。

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 本稿では,近年,腫瘍マーカーとして注目されている核膜孔複合体タンパク質Nup88のサブ複合体,物質輸送における機能,腫瘍組織との関連性,さらには最近われわれが明らかにした有糸分裂期での役割を紹介する。

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 真核細胞ではゲノムDNAが核を覆う核膜により隔てられている。そのため,核膜上にある核膜孔を介した核-細胞質間分子輸送は,様々な生命現象にとって重要な役割を担っている。

 核-細胞質間分子輸送のなかで,代表例としてimportin αとimportin β1によるタンパク質の核内輸送がある。転写因子や複製因子など核で働くタンパク質の多くは,その分子内に核へ移行するための塩基性アミノ酸に富んだ配列「核移行シグナル(nuclear localization signal;NLS)」を持っている。その配列を受容体であるimportin αが認識する。そして核膜孔複合体と親和性のある輸送担体importin β1と三者複合体を形成し,エネルギー依存的に核へと選別輸送される。その後,核内ではRanと呼ばれる主として核内に局在を示す低分子量GTPaseがimportin β1に結合して三者複合体から輸送基質の解離を促し,importin αとimportin β1はそれぞれ細胞質へとリサイクルされる。

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 インポーティンβは核膜孔複合体(NPC)を介した核内輸送因子として最もよく知られるタンパク質の一つである。Karyopherinファミリーに属し,HEATリピートと呼ばれるαヘリクスに富む構造を持つ(図)1)。現在までに20種類近くのファミリータンパク質が同定されている(表)。それぞれに輸送するタンパク質が異なると考えられており,大部分のものはすでに同定されている(表)。核局在化シグナル(NLS)の輸送で知られるインポーティンαに結合するサブタイプはインポーティンβ1である。各サブタイプは細胞種や組織特異的な発現パターンを示すことが知られている。同じKaryopherinファミリーに属するタンパク質にエクスポーティンがある。インポーティンと同じHEATリピートに富む構造を持つが,輸送する基質および輸送方向はインポーティンと大きく異なる。基本的にインポーティンは細胞質から核内へ,エクスポーティンは核内から細胞質への物質輸送を助けるが,インポーティン13のように,インポートとエクスポートの両方を行うものも知られている。

 運搬するタンパク質や他のタンパク質に対するアフィニティーは各インポーティンのサブタイプ間で大きく異なり,輸送の特異性を決定している(表)。一方で,RanGTPはほぼすべてのKaryopherinファミリータンパク質と高いアフィニティーで結合する。インポーティンβがRanGTPに結合すると,輸送タンパク質へのアフィニティーが低下することが知られており,逆にエクスポーティンはRanGTPに結合すると輸送タンパク質へのアフィニティーが高くなる。この違いにより,輸送方向が決定されていると考えられている。RanGTPの結合がKaryopherin自体の方向性にどのような影響を与えるかは,まだ明確な結論が得られていない。Karyopherinファミリータンパク質はフェニルセファロースのような疎水性カラムに強く結合する2)ことからも,強い疎水性タンパク質であると考えられる。このため,pull-downや免疫沈降などの実験を行うと,実に多くのタンパク質が結合する。しかし,これらの相互作用が実際に細胞内で起こるのか,また生理学的な重要性を伴うかどうかに関しては慎重な検討が必要である。

3.核骨格

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 長大な真核細胞ゲノムは小さな核内に収納され,コンパクトなクロマチンとして存在するが,発生段階や種々の細胞間で転写や複製,修復などの過程が異なる制御を受けるべくダイナミックな高次の構造をとっている。さらに,細胞の核内における様々なイベントが効率的に,また,精密かつ巧妙に制御されるために,核の内部構造が密接に関与していると考えられている。核マトリックスはこのような核内イベントにかかわる諸因子の足場として機能すると考えられている。ここではまず,これまでに蓄積されてきた基盤的データに基づき,核内イベントのダイナミクスへの核マトリックスの関与について述べ,さらに,最近示されつつあるがん化や幹細胞の分化への核マトリックス関連タンパク質の関与,核マトリックスを介した遺伝子発現制御におけるmicroRNAのかかわりなど,核マトリックスとゲノムダイナミクスの最近の知見を紹介する。

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 真核細胞の核の機能に核の内部構造が深くかかわっていることはよく知られている。この内部構造の初期の研究において,培養細胞を種々の試薬や酵素で処理して脂質,可溶性タンパク質,塩可溶性細胞骨格タンパク質およびクロマチン成分を取り去っても後に残る細胞構造の電子顕微鏡観察によって,核内に顆粒を結合した不規則な線維状構造のネットワークが観察され,核マトリックスと呼ばれた。そして核マトリックスは種々の核内反応の足場となっていると考えられている。生細胞では核内に明らかな線維状構造は観察されていないが,細胞をこのように処理して残ったタンパク質の画分,核マトリックスタンパク質画分には,種々の核内反応の足場として働くタンパク質やクロマチン間領域に存在する核内構造体の構造形成などに関与するタンパク質が含まれていることが期待される。そこでその画分に含まれるタンパク質の分析が行われてきた。そして近年のプロテオーム解析技術の著しい進歩により,核マトリックスタンパク質の詳細が明らかにされた。そこで,最近得られた核マトリックスタンパク質のプロテオームを中心に紹介し,その結果を種々の分析結果と組み合わせることによって明らかにされつつある核内構造について考察する。

 核マトリックスタンパク質画分調製には多くの場合,Feyらの方法1)またはその一部を改変した方法が用いられている。石井らは,HeLa細胞の核マトリックス画分のプロテオーム解析で333種のタンパク質を同定した2)。その結果,1)プロテオームの半分以上をRNA結合タンパク質,転写因子,DNA結合タンパク質およびリボソームタンパク質が占めること,2)39種の新規タンパク質が含まれていること,3)WD40リピートを持つタンパク質(WDタンパク質)および天然変性状態の領域を多く含むタンパク質(DOタンパク質)が,全ヒトタンパク質より高い割合で含まれていることを明らかにした。WDタンパク質,DOタンパク質とも種々のタンパク質複合体のコアタンパク質になっている例が多く知られていることから,われわれは,これらのタンパク質をコアとしたタンパク質複合体が核内構造形成の単位となって,それらがさらに機能的,動的に結合してタンパク質超複合体が形成され,それが核内構造形成に働いているというdynamic scaffold modelを提唱した。

A型ラミン 林 由起子
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 核内膜の内側はラミンを主とする核ラミナで覆われている。ラミンには,染色体1q21.1に存在するLMNAにコードされるA型ラミンと染色体5q23のLMNB1,19q13のLMNB2にそれぞれコードされるB型ラミンがある。ラミンは様々な核内タンパク質と結合し,核の形態や大きさを維持するほか,細胞分裂,染色体の構造維持や複製,転写など多彩な機能にかかわっている。

 LMNAは12個のエクソンで構成される遺伝子で,スプライシングの違いによって72kDaのラミンAと65kDaのラミンCが主に産生される。ラミンAはまずC末端がファルネシル化,ならびにメチル化されたprelamin Aとなり,ZMPSTE24によって18個のアミノ酸が除かれ,成熟型のラミンAとなる(図A)。ラミンCはこのような修飾は受けない。

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 核膜はDNAを囲み,核を形成している。核膜は同心円状の二重の膜で,その膜を貫通して核膜孔複合体がある。核の内膜と外膜は連続しているが,この2種類の膜内のタンパク質の構成は異なっている。核の内膜には,クロマチンや膜構造を支持体とする網目状タンパク質の核ラミナと結合するタンパク質が存在している。内膜の外側を囲んでいる核の外膜は小胞体膜と連続している。この核膜構造の中でラミン(lamin)は内膜を裏打ちする核ラミナの重要な構成タンパク質であり,細胞骨格の一つである中間径フィラメントを構成するタンパク質である。

 ラミンは単細胞生物と植物では見つかっていないが,ヒドラからヒトまでよく調べられており全ての動物に存在している。ヒト,マウス,カエル,ショウジョウバエ,線虫などいくつかのモデル生物において詳細な特徴が明らかになっており,種を超えてその性質は保存されている。ラミンはその配列相同性,発現パターン,生化学的な特徴からA型とB型のラミンに分類される。Lamin-Aとlamin-Cは脊椎動物の二つの主要なA型ラミンのアイソフォームであり,オルタナティブスプライシングによって一つの遺伝子LMNAから産生される。また,lamin-B1とlamin-B2は多くの脊椎動物の主要なB型ラミンであり,それぞれLMNB1LMNB2遺伝子によってコードされている。ラミンとその関連タンパク質はDNA複製,遺伝子発現,クロマチン構造の制御などの細胞内プロセスにおいて重要な役割を担っていることが知られており,ラミンやそれら関連タンパク質における変異は疾患の原因となっている。ここでは,核内中間径フィラメントの構成タンパク質であるB型ラミン,特にlamin-B1の生物学的な役割と細胞死に関する知見に焦点を絞って紹介する。

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 研究対象のタンパク質が細胞内のどこに局在するか―これは単純なようでなかなか難しい問題である。もちろん最大の分子集団の局在は,免疫染色など様々な手法で明確に特定することができるだろう。では“マイナーな”分子集団が他の部分に局在する可能性はどうだろうか。蛍光標識による観察では常にバックグラウンドや最大輝度との相対的なシグナル量をみているにすぎないし,生化学的に分画して検出するにしても,目的外の部位の混入の有無を立証するのは非常に困難である。近年,様々な種類の細胞骨格関連タンパク質が細胞核にも局在し,核の機能に重要な役割を果たしている例が報告されている。興味深いことにそのなかには圧倒的多数の分子は細胞質側に局在するものの,上記のように蛍光手法などでは検出が難しいごく少数の分子集団が核内に存在し,細胞質とは異なる機能を担っているものもある。いったいこれらのタンパク質の核内局在はどのように制御され,核内で何をしているのだろうか。

4.核小体

核小体の新機能 小林 武彦
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 核小体は有核赤血球や動物精子以外のほとんどの真核細胞核に観察される核の中の最大の構造体である。古くからリボソームの生産工場として研究の対象になってきた。最近ではその従来の機能に加えて,細胞周期の調節,がん化,細胞老化,DNA修復などにも重要な役割を果たしていることがわかってきた。さらに,核小体に存在するリボソームRNA遺伝子はユニークなゲノム領域として様々な影響を細胞に及ぼす。本稿ではそれら核小体の新機能を最近の知見を含めて概説する。

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 リボソームRNA遺伝子(rDNA)は核小体に存在する反復遺伝子で,リボソームのタンパク質合成を触媒するRNA分子をコードしている。リボソームは細胞中で最多のタンパク質-RNA複合体であり,そのためrDNAも1コピーでは足りず,真核細胞では100コピー以上が染色体上に巨大な反復遺伝子群を形成している。通常このような反復配列はリピート間で組換えを起こし,コピーが脱落してしまうが,rDNAにはそれを最小限に食い止める「サイレンシング」機構と,コピーが減少したときに元に戻す「遺伝子増幅」機構がコピー数を一定量に維持している。しかし,それでも恒常的にコピー数の増減を繰り返すゲノム中で最も不安定な領域である。本稿ではこのようなユニークな性格を持つrDNAの細胞機能に与える影響を概説する。

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 Small subunit processome(SSU processome)はリボソーム小サブユニットの形成にたずさわる約2.2 MDa(沈降係数約80S)の巨大な粒子である。この粒子にはrDNAの転写,rRNA前駆体のプロセッシング,18S rRNA前駆体へのリボソームタンパク質の集合,リボソーム小サブユニットの成熟などに関与する因子が含まれている。酵母では少なくとも72種類のタンパク質がSSU processomeから単離されている。個々のタンパク質の機能については多くが未知であるが,そのアミノ酸配列から,RNA結合モチーフを持つもの,protein-protein interaction(PPI)モチーフを持つものなどが同定されている。また,エンドヌクレアーゼやRNAヘリカーゼであることが類推できるもの,ATPaseやGTPase,キナーゼなど,他の機能性タンパク質の活性を制御すると考えられるタンパク質なども含まれている1)。これまでにSSU processomeの六つの部分複合体(subcomplex)が同定されている。それぞれU3 snoRNP,Mpp10 subcomplex,Rcl1/Bms1 subcomplex,t-Utps/UtpA,UtpB,UtpCと名付けられ,構成成分や機能について解析が進められている1)。後者三つの部分複合体の名前にある“Utp”はU three proteinsに由来する。これらはU3 snoRNAおよびそのコアタンパク質と一緒に精製されてきたタンパク質の総称で,t-Utps/UtpA,UtpB,UtpC各々の部分複合体には異なる種類のUtpタンパク質が含まれている。

 U3 snoRNPはU3 snoRNAとNop1/フィブリラリン(fibrillarin),Nop56,Nop58,Snu13/15.5K,Rrp9/U3-55Kからなる複合体である。U3 snoRNAがrRNA前駆体の5'ETSや18S rRNA内部と部分的に塩基対を形成することによって,rRNA前駆体が適切に折りたたまれ,そのプロセッシングが進む。このようにU3 snoRNAのRNAシャペロンとしての分子機能が提唱されており,多岐にわたる解析の結果はそのことを支持している。

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フィブリラリンの発見とその分子機能および生理機能の解明

 フィブリラリン(fibrillarin)はChristensenらによって粘菌(Physarum polycephalum)からはじめて単離され,核小体に豊富に存在するタンパク質として報告された(1977年)。その後,酵母やアフリカツメガエル,ショウジョウバエ,マウス,ヒトなど,広く他の真核生物にも同様のタンパク質があることが確認され,これが進化的に保存された重要なタンパク質であることが示唆された。その名前は哺乳動物の細胞で核小体の線維質の領域(fibrillar center;FCおよびdense fibrillar component;DFC)に局在することに由来する1)。1980年代後半から1990年代前半にかけて,酵母を用いた遺伝学的な解析や培養細胞を用いた生化学的な解析が進められ,その分子機能および生理機能に関する多くの知見が得られた。その結果,フィブリラリンは一群の核小体低分子RNA(small nucleolar RNA,snoRNA)と結合して,rRNA前駆体のプロセッシングや修飾に機能することがわかった。

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 ユビキチンが細胞内の標的タンパク質にイソペプチド結合でコンジュゲートされる翻訳後修飾すなわちユビキチン化は,プロテアソームでの分解をはじめ,それら標的タンパク質の運命や機能を様々に制御している。ヒトゲノムにはユビキチン化を担うユビキチンリガーゼが約600種類コードされていると見積もられており,ユビキチン化は多くの細胞内タンパク質に共通の普遍的制御機構であると考えられる。一方でユビキチン化は可逆的な反応であり,ユビキチン化に拮抗して標的タンパク質からユビキチンを外す脱ユビキチン化酵素による負の調節を受ける。すなわち,細胞内タンパク質の機能はそのユビキチン化と脱ユビキチン化のバランスによって制御されている。ヒトには約90種類の脱ユビキチン化酵素が存在し,このようなユビキチンリガーゼと脱ユビキチン化酵素の多様性から,多彩な細胞機能がユビキチン化/脱ユビキチン化による制御を受けていると予想されている。しかし,核小体の機能への関与についてはこれまでごく限られた知見しか報告がなかった。筆者らは,機能不明の脱ユビキチン化酵素USP36(ubiquitin-specific protease 36)の解析を通じ,ユビキチン化による核小体機能の制御機構を解析してきた。

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 核小体は,その主な機能はリボソームの生合成であるが,その他にも細胞周期制御や老化,ウイルス因子の会合,リボソーム以外のリボ核酸タンパク質複合体の生合成など,様々な細胞内機能に関与する多機能な構造体である。核小体にはそれを取り囲む膜構造はないが,簡便な位相差顕微鏡などでも判別可能な比較的大きな核内構造体である。そのため核小体の存在自体はかなり古くから知られており,この構造体を単離・精製することによりその構造と機能を明らかにしようとする取り組みも長い歴史を持つ。

5.染色体

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定 義

 分裂間期の細胞を塩基性色素で染色すると,クロマチンが凝縮していて濃く染色される領域と,クロマチンが弛緩していて淡く染色される領域が存在する。前者をヘテロクロマチン(heterochromatin),後者をユークロマチン(euchromatin)という。ある生物種のどの細胞でも凝縮している領域は構成的ヘテロクロマチン(constitutive heterochromatin)と呼ばれ,全ゲノムの10-20%を占め,主にセントロメア周辺にみられる。特に断らない限り,ヘテロクロマチンというと構成的ヘテロクロマチンを指す。これに対して一部の細胞種だけで凝縮している領域は条件的ヘテロクロマチン(facultative heterochromatin)と呼ばれ,胚細胞にはほとんど存在しないが,発生,分化の過程で細胞種ごとに特定の領域が凝縮してヘテロクロマチンとなる。例えば哺乳類の不活性X染色体があげられる。一部の例外を除いて,ヘテロクロマチンでは転写や組換えが不活性化されており,細胞周期のS期後期に複製される。逆に,ユークロマチンでは転写や組換えが活性か,活性化されうる状態にある。

ヌクレオソームとヒストン 田上 英明
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歴史的背景:古くて新しいクロマチン/ヌクレオソーム

 真核生物のゲノムDNAは核の中でコンパクトに折り畳められ,クロマチンと呼ばれる高次構造体内に収納されている。「クロマチン」は1880年代にドイツのFlemming Wによって,染色されるもの(Chromo-)から名付けられた。生化学的には1871年に,Miesher Fが膿白血球核から核酸を含む「ヌクレイン」を発見しており,1884年にMiesherと同じHoppe-Seyler F門下生であるKossel Aがトリ赤血球核から酸抽出したタンパク質を「ヒストン」と名付けた。このようにクロマチンは非常に古い歴史を持ち,Sutton Wの遺伝の染色体説,Morgan Tらによる染色体上の遺伝子地図など染色体の重要性は認識されていたが,化学的実体についてはよく理解できないという技術的限界があった。さらに,1970年代まではDNAが遺伝情報物質であるという大発見の影に埋もれていたところがある。

 1970年代に,Olins夫妻らによる電子顕微鏡観察からいわゆる「Beads on a String」像は得られつつあったが,1974年にKornberg Rが,生化学的解析から4種類のコアヒストンタンパク質(H3/H4四量体と二つのH2A/H2B二量体)と約200塩基対のDNAがクロマチンの繰り返し構成単位であるというモデルを提唱したことが一つの転機となった。この繰り返し構造を「ヌクレオソーム」と呼ぶことがフランスのChambon Pらによって提唱され,1997年にRichmond Tらによって,ヒストン八量体の周りに146塩基対のDNAが左回りに1.65回転巻きついたヌクレオソームコア粒子のX線結晶構造が明らかにされた。高次クロマチン構造や多様性に富む化学修飾されたヌクレオソーム構造についてはいまだに明らかにされていないが,クロマチンの基本単位としてのヌクレオソームの構造から,円盤状のヒストン八量体と塩基配列非特異的なDNAとの相互作用の性質や,後述するヒストンタンパク質N末端テイル領域の機能など,多くの情報が三次元構造から明らかとなったことは後の研究展開に非常に大きな影響を及ぼした。

ヒストンリスト 藤田 道也
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 ヒストンはアミノ酸残基の配列類似に基づいてH1/H5ファミリー,H2Aファミリー,H2Bファミリー,H3ファミリー,H4ファミリーに大別される。H1/H5ファミリーを除くとヒストンの遺伝子名もタンパク名も同義語が多く混乱をきたしやすい。そこでヒトに限ってヒストン遺伝子(およびタンパク)の一覧表を作成した(表)。

 偽遺伝子を除いてヒトヒストン遺伝子は現在約29(8個のバリアントを加えると37)が知られる(表)。そのうちH1/H5ファミリーが5,H2Aファミリーが10(バリアントを加えると15),H2Bファミリーが12,H3ファミリーが1(バリアントを加えると3),H4ファミリーが1である。

ヒストンH1 平野 泰弘 , 平岡 泰
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 真核生物のDNAはヌクレオソームを形成し,さらにクロマチン構造に折り畳まれる。ヌクレオソームは146bpのDNAがヒストンH2A,H2B,H3,H4の八量体に左回りに1.75回転分巻きついた直径11nmのビーズ状の構造である。これがDNAに数珠状につながるが,ヒストンテールの電荷反発などの影響から,リンカーDNAと呼ばれる隙間が残る。このリンカーDNAに結合し,より高次のクロマチン構造を作る第5の因子がヒストンH1に代表されるリンカーヒストンである。

ヒストンH2Aのバリアント 藤田 道也
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ヒストンH2A.Z

 ヒストンH2A.Z(以下H2A/z)は保存性の高いバリアントで,全多細胞生物で90%以上の配列同一性を示す。ヒトでH2A/zは全H2Aファミリーの5-10%を占める。

 H2A/zはアノテーションの付いたプロモーター領域の50%および転写因子の結合サイトにも局在する。この場合,H2A/zはクロマチン修飾酵素やATP-依存性クロマチンリモデラーを動員する1)

ヒストンH3 立和名 博昭 , 胡桃坂 仁志
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 真核生物のゲノムDNAを核内に収納するクロマチン構造は,ヌクレオソームを基本構造としている。ヌクレオソームは,4種類の塩基性タンパク質コアヒストンH2A,H2B,H3,H4からなるヒストン八量体にDNAが巻きついた構造を形成している1)。H4を除くコアヒストンには相同性の高いバリアントが存在することが知られており,ヒトのH3には,H3.1,H3.2,H3.3,H3T(またはH3.4),H3.5,H3.X,H3.Y,CENP-Aの8種類が同定されている。本項ではヒストンH3について,ヒトH3のバリアントを中心に概説する。

ヒストンH4の化学修飾 伊藤 昭博
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 ヒストンH4はヒストン八量体を形成するコアヒストンの一つである。ヒストン八量体に約146bpのDNAが左巻きに約1.65回巻き付き,ヌクレオソームと呼ばれるクロマチン構造の基本単位を形成する。クロマチンの構造変換が遺伝子発現に重要な影響を及ぼすことが知られており,コアヒストンの翻訳後修飾がその制御機構において中心的な役割を果たす。コアヒストンのN末端はヒストンテールと呼ばれ,正電荷を持つアミノ酸残基を豊富に含んでおり,その中の特定の側鎖がアセチル化,メチル化,リン酸化などの化学修飾を受ける。これらの化学修飾は修飾酵素,脱修飾酵素により可逆的に制御されている。ここでは,ヒストンH4のヒストンテール上で起こる化学修飾に焦点を絞り,その概要と最近明らかとなった機能について紹介する。

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 SMC(structural maintenance of chromosomes)タンパク質ファミリーはその名前のとおり染色体の構造維持に役割を果たす,進化的に保存されたタンパク質ファミリーである1)。遺伝学的および生化学的アプローチによる先駆的な研究から,真核生物の細胞分裂時におけるM期染色体の凝縮・分配に必須な役割を果たすことが示されていたが,現在ではその役割はM期にとどまらず,細胞周期を通じて幅広くゲノムの構造と機能に重要であることが明らかになってきている。また,SMCタンパク質は真核生物のみならず大腸菌や枯草菌などバクテリアにまで及んで保存されており,進化生物学的な観点からみればヒストンよりさらに古い起源を持つということができる。すなわち,SMCタンパク質は核膜を持たない単細胞の原核生物から多細胞の動物や植物を含む高等真核生物に至るまで,ゲノムDNAの維持・継承にかかわってきた最も基本的な染色体タンパク質の一つである。したがって,SMCタンパク質ファミリーの機能を解析することは,染色体とクロマチンの構造と機能の最も根幹をなす分子メカニズムの理解に直結する。本稿では,特にSMCタンパク質のATPaseの果たす役割に焦点をあて,最近の研究によって得られた知見を含めて概観してみることにしたい。

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 すべての真核細胞は自身の染色体を複製することで遺伝情報を倍加して,細胞分裂の際にそれを二つの娘細胞に均等に分配することで自己複製を完結する。この染色体の均等分配に誤りが生じ,娘細胞の染色体数に異常が起こった場合,細胞死やがん化などが引き起こされる。精子や卵子のような配偶子形成にみられる減数分裂において染色体分配に異常が生じた場合は,流産,ダウン症やクラインフェルター症などの先天性疾患を引き起こす。これらのことから,染色体分配を制御する分子メカニズムの研究は,基礎生物学的見地だけでなく医学的見地からも重要である。本稿では,染色体分配における姉妹染色分体の接着の機能・意義について,セントロメア局在因子シュゴシンによる接着保護機構を中心に最新の知見を紹介する。

セントロメアの構造 深川 竜郎
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 染色体の複製や分配に異常が起きると,娘細胞へ正確な染色体情報が伝わらない。このような染色体異常は細胞のがん化の重要な要因の一つと考えられている。

 細胞周期のS期で複製された染色体はM期(分裂期)において両極から延びた紡錘体に捉えられ,娘細胞へと分配される(図)。このM期における染色体分配の際に,紡錘体が結合する染色体の特殊構造を動原体(キネトコア)と呼んでおり,動原体が形成されるゲノム領域のことをセントロメアと定義している(図)。セントロメア領域がどのように決まるのかという質問に対する答えは単純ではなく,多様なメカニズムが存在する。このメカニズムを理解するためには,各種モデル生物においてセントロメア領域のゲノム構造を比較することが大切である。本稿では,各モデル生物におけるセントロメア領域のDNA構造について紹介し,セントロメア領域がどのように決まるのかについて,現在受け入れられているモデルを解説する。

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ゲノムのどこにセントロメアを作るか

 セントロメア構成タンパク質因子の多くは広く真核生物で保存されている(前項参照)。一方で,セントロメアの下地となるDNA配列(セントロメアDNA)は生物種ごとに異なる。エピジェネティックな現象がさらに問題を複雑にする。極めて低い頻度であるが,セントロメアDNA配列が存在しない断片化した染色体のアーム部に新たなセントロメアが出現する現象(ネオセントロメア)や,染色体同士が融合すると,どちらか一方のセントロメアがDNA配列が存在するにもかかわらず構成タンパク質因子群の集合を起こせないように不活性化する現象が知られている。そこで,DNA配列そのものではなく,セントロメア特異的ヒストンH3であるCENP-Aを含んだクロマチンの集合がセントロメアにおけるエピジェネティックな記憶となり,他のセントロメア構成タンパク質因子群の集合の引き金となる説が重要視されるようになった。実際にCENP-Aをノックアウトするとセントロメア構造は維持されなくなる。ただし,DNA配列そのものもセントロメア形成に深くかかわっている。出芽酵母,分裂酵母,マウス,ヒト細胞ではセントロメアDNA配列を細胞へ導入すると機能するセントロメア/キネトコア構造が新規形成される。ヒトではすべての染色体セントロメアに数メガ塩基にも及ぶαサテライトDNA(アルフォイドDNA)の均一な繰り返し領域に,CENP-Aクロマチンが集合してセントロメアとして機能している。このアルフォイドDNA領域にはCENP-Aクロマチンに加え,通常のヒストンH3のリジン9メチル化修飾(H3K9me3)からなるヘテロクロマチンも集合する。

 クローン化したアルフォイドDNAの巨大断片をヒト線維肉腫細胞HT1080へ導入すると,宿主染色体に組み込まれることなく,本来の染色体と同等のセントロメア機能を獲得したヒト人工染色体(HAC)が形成される。HAC形成とセントロメア機能獲得には,アルフォイドDNAとCENP-Bの結合配列(CENP-B box)が必要である。CENP-B遺伝子は哺乳類で高度に保存されており,CENP-B boxはマウスセントロメアの反復DNA配列中にも保存されている。ところが,驚くべきことにCENP-Bノックアウトマウスでは染色体分配異常は観察されず,CENP-Bがなくても分配機能は働くことが判明した。この矛盾はHACを用いた解析により解決された。

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 有糸分裂(mitosis)は真核生物にみられる娘細胞への染色体分配の過程(M期)であり,一般的に染色体分配に加えて細胞質分裂(nuclear division plus cytokinesis)を含む語として用いられている。生殖細胞が生じる過程を特に減数分裂(meiosis)として区別している。染色体パッセンジャー(chromosomal passengers)はこれらの過程が正確に遂行されて,娘細胞に染色体が分配されるよう制御するためのキー因子群である。

 染色体分配が遂行されるとき,細胞内構造はわずかな時間で大きく変化する。特に動物や植物の細胞の場合,核膜が消失し(open mitosis),細胞骨格系も崩壊して染色体分配に必要な細胞内装置が形成され,染色体構造が現れる。染色体パッセンジャーは,こういった過程で分裂装置自体や染色体構造たんぱく質とは区別されて染色体上に乗車し,その後,染色体を降車するような動きをする一群のたんぱく質に対して1991年にEarnshaw WCが与えた名前である。染色体パッセンジャーは正確には染色体に乗り込む乗客ではなく,むしろサイクリン依存的キナーゼ(Cdk1-cyclin B)の活性化で始まる一連の染色体分配過程の要所要所での指揮を取っている現場監督のような存在である。しかし,以下に概説するように,M期の前期での紡錘体や染色体構造たんぱく質を通じた姉妹染色分体分離の制御,後期での細胞骨格系たんぱく質を通じた細胞質分裂の制御という二つの異なる局面で制御機能を持つ一群のたんぱく質の発見は細胞生物学上の特筆すべきことであり,その命名が実に的確である。

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 極地に神秘的に現れる太陽フレアによる発光現象を名前に冠したたんぱく質は,ハエの変異体の名称から始まる。この変異体では発生過程で紡錘極(spindle pole)分離ができずに単極となり,極周囲に染色体がメリーゴーランド状に配置した細胞が出現する。単一極の周りに紡錘体が広がり染色体が広がるような観察結果は極地のオーロラを連想させたので,この名称が与えられた。現在ではこの原因遺伝子のコードするたんぱく質はオーロラAと呼ばれるキナーゼである。オーロラはオーロラ変異の原因遺伝子に与えられた名称であるが,実はよく似た遺伝子が酵母でオーロラ発見より以前に見つかっていた。非許容温度下において染色体分配に失敗し染色体倍数性が増加する変異体なので,ipl1と呼ばれた(ipl1:increase-in-ploidy 1)。この原因遺伝子は後にラットから見つかった類似遺伝子であるAIM-1と機能的に相同であり,広く酵母からヒトまで種間を越えて保存されたキナーゼをコードしており,オーロラBと名付けられた。その後,オーロラBは染色体パッセンジャー複合体の根幹キナーゼであることが確かなものとなり,進化的にも主体となるキナーゼであることがわかっている。すなわち,酵母ではオーロラは1種類しか存在しないが(オーロラB),ハエや線虫そしてカエルなどには2種類(オーロラAとオーロラB),哺乳類にはオーロラCを加えた3種類が存在する。

 これらはいずれも構造が非常によく似ているセリン/スレオニンたんぱく質キナーゼであり,オーロラBとオーロラCは染色体パッセンジャーとして知られ,オーロラAはセントロソーム関連キナーゼとして知られる(細胞内局在など,前章の図参照のこと)。オーロラAが最も大きく,ヒトの場合,オーロラBと比べてN末端が56アミノ酸長く,また,オーロラCはN末端が34アミノ酸短い。構造の類似性があるにもかかわらずオーロラAは染色体パッセンジャーではない。しかしながら,オーロラAの変異実験で198番目のグリシンをアスパラギンに置換した変異体(G198N-Aurora-A)はパッセンジャーの局在を示し,パッセンジャー複合体形成に関与し,オーロラBの欠失表現型に相補することができる。酵母Ipl1たんぱく質ではこの位置に相当するアスパラギンにグリシンが入っており,酵母では1種類のオーロラでオーロラBの機能に加えてオーロラAの機能も兼ねていることをよく説明し得る。

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 ヘテロクロマチンとは細胞周期を通じて凝縮したままのクロマチン画分を指す。この領域は概して遺伝子密度が低く,反復配列やトランスポゾンが高密度に存在している。ヘテロクロマチンタンパク質HP1は,ショウジョウバエのヘテロクロマチンに局在する非ヒストンタンパク質として,1986年にElginらによって同定された1)。またショウジョウバエでは,セントロメアなどのヘテロクロマチンの近傍に置かれた遺伝子の発現が多様な発現パターンを示す現象(PEV;position effect variegation)が古くから知られている。このPEVを抑圧する変異体の一つとして単離されたSuvar2-5が,実はHP1をコードする遺伝子上の変異であることが明らかにされ,HP1がヘテロクロマチンの主要なタンパク質であるばかりでなく,遺伝子発現を制御する因子であることが示された。HP1は進化的に非常によく保存されたタンパク質であり,分裂酵母からヒトに至るまで広く見出される。また,多くの生物種では複数のHP1サブタイプが見出され,それぞれ独自の機能を持っていると考えられている。

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 ここ10年ほどの間にキネトコアを構成する分子は急速に明らかになりつつあり,その多くが酵母からヒトまで種を超えて保存されていることがわかってきた1)。また,これらの分子によるキネトコアの基本的な構造もかなり理解されてきている2)。その一方でキネトコアに存在する新たな分子が現在も次々に報告されている。そのあるものはスクリーニングにより同定され,また,これまで他の機能で知られていた分子がキネトコアに局在することが明らかになった例もある。これらの分子にはヒトなどの高等真核生物でのみ存在するものも多く,より複雑な染色体分配制御に機能しているものと考えられる。われわれは最近,染色体分配に関与する新規分子CAMPを発見した3)。CAMPは脊椎動物にのみ存在し,キネトコアと微小管の結合の維持に必要であることが明らかになった。ここでは新たなキネトコアタンパク質としてのCAMPの特徴と機能を紹介する。

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 正確な染色体分配が行われるためには,紡錘体微小管とセントロメア領域に形成された動原体が正確に結合する必要がある。動原体構造は100種類を超えるタンパク質群が集合することによって形成される。動原体構造を理解する目的で,筆者らのグループは,これら動原体タンパク質の網羅的な同定を試み,複数の新規タンパク質を見出した。本稿では,そのうち最近同定したCENP-S/X複合体について解説する。

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 動原体は染色体上の特定領域であり,有糸分裂時に紡錘糸と結合し,染色体の両極への移動に必須の役割を担っている。現在では細胞周期を通じ動原体に局在する構成的動原体蛋白質は数多く知られているが,2005年にCENP-A,CENP-C,CENP-HおよびCENP-Iに続く五つ目の構成的動原体蛋白質としてわれわれはCENP-50を同定した1)。ここではCENP-50の発見の経緯とその後の機能解析の結果について紹介する。

BRCA2とヌクレオホスミン 三木 義男
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 BRCA1BRCA2は遺伝性乳癌・卵巣癌症候群の原因遺伝子である。それらの蛋白は相同組換えによる二本鎖DNA損傷修復において重要な役割を持ち,BRCA2はまた転写制御,細胞質分裂,細胞増殖においても重要な役割を果たしている。BRCA2は中心体移行シグナルを持ち,核だけでなく中心体にも局在し,その機能不全が細胞分裂の異常を起こす1)。中心体の複製はG1/Sに始まってS期に完成され,同時に核内ではDNAが複製される。この中心体複製の異常は結果的に癌形成の開始事象の一つである核の異数体を生み出す2)。中心体制御にかかわるBRCA2の正確な役割を理解するため,中心体においてBRCA2と結合する新たな蛋白としてNPM(ヌクレオホスミン:nucleophosmin)とROCK2を同定した3)

 NPMは核と細胞質を往復する多機能の核小体リン酸化蛋白である4)。それはリボゾーム会合,前r-RNA処理,mRNA処理,DNA複製,核-細胞質蛋白の輸送,分子シャペロンなど多機能に関与している。NPMの大部分はS期にCdk2/cyclin Eによりリン酸化され中心体から解離するが,中心体に残ったものはROCK2と結合し,中心体複製の開始を誘導する5)。ROCK2は低分子量GTPase Rhoにより制御されるSer/Thrキナーゼで,NPMと物理的に相互作用し中心体複製を促進する中心体蛋白である。

6.核内受容体

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 核内受容体はDNA結合領域とリガンド結合領域を有する転写因子型の受容体であり,ヒトにおいて48種類の存在が知られている。核内受容体は,1)ステロイドホルモン受容体,2)ホモ二量体型オーファン受容体,3)retinoid X receptor(RXR)ヘテロ二量体型受容体,4)単量体型またはその他の受容体の4種類に大きく分類できる。ビタミンD受容体(VDR)はオキシステロール受容体liver X receptor,胆汁酸受容体farnesoid X receptor,生体異物受容体pregnane X receptorと同じく,RXRヘテロ二量体型受容体である。生体内で最も重要なVDRリガンドは,1α,25-ジヒドロキシビタミンD3(1,25(OH)2D3)である1)。コレステロール生合成系の中間代謝産物である7-デヒドロコレステロールが,紫外線の作用によりプレビタミンD3を経てビタミンD3に変換される。そして,肝臓での25水酸化,腎臓での1α水酸化を経て活性型の1,25(OH)2D3になる。食物由来のビタミンD3やビタミンD2も同様の水酸化反応を受ける。1,25(OH)2D3はVDRに作用することで骨・カルシウム代謝をはじめとして,炎症・免疫,心血管機能,細胞の増殖・分化,胆汁酸代謝など様々な生体機能を調節する。また,VDRとpregnane X receptorなどの近縁の核内受容体との類似性に着目した研究により,二次胆汁酸であるリトコール酸がVDRのリガンドであることが明らかにされた1)。肝臓においてコレステロールを原料にコール酸やケノデオキシコール酸などの一次胆汁酸が合成される。消化管に分泌された一次胆汁酸の一部は,腸内細菌によりデオキシコール酸やリトコール酸などの二次胆汁酸に変換される。1,25(OH)2D3やリトコール酸によって活性化したVDRは,生体異物代謝系を誘導して胆汁酸代謝に影響を与える。VDRは骨・カルシウム代謝疾患のほか,悪性新生物,感染症・自己免疫炎症性疾患,心臓血管系疾患などの疾患においても有望な分子標的とされており,多くの合成リガンドが開発されている。種々のリガンドのVDR作用の研究により,VDRの活性化機構が解明されつつある。

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 核内受容体は転写制御因子の一種であり,固有の小分子(リガンド)と結合する部位(リガンド結合領域)と遺伝子上の特定の塩基配列に結合する部位(DNA結合領域)を持ち,リガンドの結合をスイッチとして特定の遺伝子発現のオン・オフを行う1,2)。したがって,遺伝子転写は非常に多くの蛋白質間相互作用によって制御されているが,これを小分子によって制御しようとする場合には核内受容体が最も重要な分子標的といえる。核内受容体で制御される遺伝子群は,細胞分化・増殖,代謝,恒常性など非常に重要な個体生理とかかわっているうえに,その機能はがん,自己免疫疾患,生活習慣病,神経変性疾患など様々な難治性疾患の発症もしくは治療と密接に関与していることから,これらを制御する小分子の創製研究とそれらを用いた機能解析,臨床応用研究が活発に行われてきた。今日,このような研究はケミカルバイオロジーとして位置づけられている。

 ケミカルバイオロジーとは化学の知識や技術,特に人工化合物を用いて生命現象を解明しようという,化学と生物学との融合領域である。そもそも核内受容体はステロイドホルモンの作用を担う蛋白質として見出されたものであり,各種ステロイドホルモンを起点とした核内受容体研究,すなわち活性化合物を用いた受容体蛋白質の同定に始まる生命現象や関連する疾病の理解,受容体蛋白質の構造や機能を標的とした新しい制御分子の創製と臨床応用の展開は,まさしく今日でいうケミカルバイオロジー研究といえるであろう。以下,核内受容体リガンド研究の最近の動向と課題について紹介する。

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 ステロイドホルモンであるエストロゲン(17β-estradiol)は女性や男性の生殖系の発達に関与しており,脳神経,血管,脂質・骨代謝などにおいて生理作用を及ぼしている。また,乳癌や前立腺癌の進展にも深く関与している。エストロゲンの様々な生理作用は核内受容体の一つであるエストロゲン受容体(estrogen receptor;ER)を介して引き起こされる。近年,以前より知られていたエストロゲン受容体α(ERα)に加えて,エストロゲン受容体β(ERβ)が新たに発見された。ERβはリガンド依存的に特異的なDNA配列に結合し,標的遺伝子の転写制御を行うことが知られている(classical pathway)。この典型的なERβを介した転写制御経路の他に,DNAへの直接結合を介さないERβによる転写制御経路(non-classical pathway)が報告されている。本稿では,第二のエストロゲン受容体であるERβのclassical pathway,ならびにnon-classical pathwayを介した転写制御機構を紹介する。

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 この20余年の間,核内受容体に関する研究が精力的に進められ,各種受容体の転写調節機構や構造などの解析が飛躍的に進展した。ヒトの核内受容体は48種類存在し,その中のステロイドホルモン受容体,甲状腺ホルモン受容体などは低分子化学物質をリガンドとする転写調節因子として知られている。近年,意図的に受容体を標的として作られた医薬品と違い,例えば内分泌撹乱化学物質のようなある種の化学物質群が偶発的に核内受容体のリガンドとなることが明らかになり,それらの生体への影響が懸念されている。現在,これら化学物質の検出,評価にはこれまでの核内受容体関連の基礎研究の成果が広く活用されている。

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 脳には数多くの核内受容体スーパーファミリーが発現しており,情動行動,性行動を中心として,多くの脳高次機能にかかわっていることが明らかにされている。本稿では,脳機能の中でも学習記憶にフォーカスして,核内受容体と学習記憶制御との関係に関して説明する。

7.核内移行

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 NFAT(nuclear factor of activated T cell)はT細胞活性化に重要なIL-2の転写因子として発見され,さらには免疫抑制剤であるCsAやTacrolimus(FK506)の直接の標的であるserine/threonine脱リン酸化酵素,カルシニューリン(CnA)によりその転写活性調節を受けている1)。これまでにNFATは別々のグループからの命名で混乱していたが,現在では大別してNFAT1(NFATp or NFATc2),NFAT2(NFATc or NFATc1),NFAT3(NFATc4),NFAT4(NFATc3 or NFATx),NFAT5の5種類のサブタイプが報告され,免疫系にとどまらず多くの臓器で重要な役割を果たしていることが報告された1)。直接制御するサイトカインもIL-2にとどまらず,多くの標的因子が報告されている2)

 最初の遺伝子として同定されたNFAT1/pは,NF-κBと緩い相同性を持つDNA結合領域(Rel相同領域:Rel homology domain)が存在し,N末端のserine-rich領域と数ヵ所の核移行シグナル(nuclear localization signal;NLS)が認められ,脱リン酸化により細胞質から核内へと移行する活性制御を受けていることが明らかにされた3)

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 真核生物の細胞では核と細胞質が核膜によって隔てられているため,DNA複製・修復・組換・転写因子やヒストンなどの核内タンパク質は細胞質で合成された後,核内に能動的に輸送される。このようにタンパク質の核内移行は遺伝子の発現や調節など機能的に重要な役割を担っており,生体内のプロセスの中でもその重要性は極めて高い。核と細胞質を隔てる核膜にはそれを貫くように分子量60-120 MDaの核膜孔複合体が存在し,分子量30kDa以下の小分子やイオンはその内部を通って拡散により核内に自由に移行できるが,それ以上のタンパク質などの巨大分子は自由に移行できない。このような巨大分子には核局在化シグナル(NLS)が存在し,これを核内輸送受容体と呼ばれるタンパク質が認識・結合することによって核膜孔複合体を通過することができる。このような核内輸送受容体の多くはインポーチンβファミリーに属しているが,このファミリーには細胞質から核への移行のほかに核から細胞質への物質輸送に関与する核外輸送受容体や核-細胞質間をシャトル輸送する受容体も含まれ,いずれの受容体も基質の輸送には低分子量Gタンパク質Ranが関与している。インポーチンβファミリーの核内輸送受容体はヒトでは20種類以上知られているが,ここでは,hnRNP A1分子に含まれるグリシンに富む核局在化シグナル(M9 NLS)を認識して核内に輸送する受容体として発見されたトランスポーチン1について,輸送基質の細胞質での認識と核内での解離機構およびインポーチンβによる核内輸送機構との違いを概説する。

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 生体内では環境変化に応じてさまざまな化学的プロセスが,タンパク質や核酸などの生体分子の相互作用を介して実行されている。なかでも,細胞内外の刺激に応じたタンパク質の核-細胞質間輸送は,特定の標的遺伝子の発現量を調節するうえで極めて重要な現象である。生体内において,タンパク質核内移行はリガンドの結合,タンパク質のリン酸化や限定分解により厳密に制御されている。一方,ガン細胞などの疾患細胞の中には,タンパク質の核-細胞質間輸送に異常をきたす細胞の存在が知られている。したがって,生きた細胞や生体内でどのタンパク質がどれほど核-細胞質間輸送されているかを検証することは,生命科学研究において大きな課題の一つである。

 本稿では,筆者らのグループが開発した「プロテインスプライシング反応に基づくレポータータンパク質の再構成法」を利用し,タンパク質の核内移行を可視化検出するプローブタンパク質のデザインとその実用例について紹介する。

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 ナノ材料を用いた薬剤輸送やセンシングはナノテクノロジーの大きな目標の一つである。近年,様々な機能を有するナノ粒子(例えば蛍光特性,磁性,薬剤内包能,刺激応答性など)の合成法が報告され,表面修飾によって生体内で機能を発現する研究が行われるようになった。しかしながら,薬剤輸送の最終目的である細胞核へのナノ粒子の送達技術はまだ発展途中である。ここでは,糖鎖修飾によるナノ粒子の核移行に関して筆者らの最近の知見について紹介する。

8.その他

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 真核細胞核内の長大なゲノムはクロマチンの形で様々なレベルで折りたたまれ,限られたスペースに収納されている。一方で,クロマチンが占める核内のスペースは半分程度に過ぎず,クロマチンの間隙部(IC)には様々な核質成分が存在し,ゲノムのダイナミックな構造変換に寄与している。ゲノム自体を可視化できるFISH(fluorescence in situ hybridization)やin vivo複製標識は,ゲノムダイナミクス可視化の重要なツールとして現在もその威力を発揮している。一方,近年種々のハイスループット技術がこの分野にも活用され,ゲノムダイナミクスの全体像について,網羅的かつ詳細な解析が可能となってきた1)。ここでは,FISHや複製標識などの可視化技術により提案されてきたゲノムの核内配置やゲノムドメインの概念について述べ,さらに最近の革新的技術と可視化技術の役割について言及する。

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ノンコーディングRNA;ncRNA

 ノンコーディングRNA(non-coding RNA;ncRNA)とは,タンパク質をコードしない機能性RNAの総称である。細胞内に最も多く存在するncRNAであるリボソームRNAやトランスファーRNA,スプライシング反応を担うsnRNAなどは古くから知られていたが,近年,大規模トランスクリプトーム解析などの解析手法によって,多様な長さを持つ機能未知のncRNAが数多く存在することが明らかとなった。これらのうち小分子ncRNA(miRNAやsiRNA,piRNA)については,加速度的に機能解析が進んでいる。その一方,長鎖のncRNAについてはそれには遠く及ばない。本稿では,近年目覚ましい発展をみせている核内構造体に寄与するncRNAの一つ,MEN ε/βを例に挙げ,核内長鎖ncRNAが果たす役割について解説する。

テトラヒメナの二つの核 沼田 治
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 テトラヒメナやゾウリムシなどの繊毛虫は小核と大核の2種類の核を持つ。2種類の核を持つ生物は広い生物界の中で繊毛虫類だけである。テトラヒメナ(Tetrahymena thermophila)は原生生物界,アルベオラータ門,繊毛虫亜門,貧膜口綱,膜口亜綱,ミズケムシ目に属する体長50μm,幅30μmの単細胞生物で,体表にある多数の繊毛によって遊泳運動を行う。池や沼などに棲息し,細胞前方にある口部装置で餌を食胞に取り込んで吸収分解する。大核は直径約10μmで細胞の中央に存在する。小核は直径約1μmで大核の表面にあるくぼみにはまり込んでいる。本稿ではテトラヒメナの小核と大核について,構造と機能,分裂様式,大核分化の仕組みなどについて紹介する。

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 動物細胞の細胞質分裂(cytokinesis)は,分裂面直下に形成されたアクトミオシンから成る収縮環の収縮によって進行する。収縮環の形成は分裂期後期開始後の特定の時期に開始される。Canmanらはこの時期をthe cytokinesis phase(C phase)と名付けた1)。C phaseはCdc2/Cdk1キナーゼの活性の低下とAnaphase promoting complex(APC)によるタンパク質分解によって引き起こされると考えられている。

 細胞質分裂のプロセスは分裂面の位置の決定,収縮環の形成,収縮環の収縮による分裂溝の陥入,そして二つの娘細胞の間の切断の四つに分けられる。以下,これらのプロセスに関して概説する2,3)

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索引

次号予告/財団だより

基本情報

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生体の科学
62巻5号 (2011年10月)
電子版ISSN:1883-5503 印刷版ISSN:0370-9531 金原一郎記念医学医療振興財団

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