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真核細胞の核の機能に核の内部構造が深くかかわっていることはよく知られている。この内部構造の初期の研究において,培養細胞を種々の試薬や酵素で処理して脂質,可溶性タンパク質,塩可溶性細胞骨格タンパク質およびクロマチン成分を取り去っても後に残る細胞構造の電子顕微鏡観察によって,核内に顆粒を結合した不規則な線維状構造のネットワークが観察され,核マトリックスと呼ばれた。そして核マトリックスは種々の核内反応の足場となっていると考えられている。生細胞では核内に明らかな線維状構造は観察されていないが,細胞をこのように処理して残ったタンパク質の画分,核マトリックスタンパク質画分には,種々の核内反応の足場として働くタンパク質やクロマチン間領域に存在する核内構造体の構造形成などに関与するタンパク質が含まれていることが期待される。そこでその画分に含まれるタンパク質の分析が行われてきた。そして近年のプロテオーム解析技術の著しい進歩により,核マトリックスタンパク質の詳細が明らかにされた。そこで,最近得られた核マトリックスタンパク質のプロテオームを中心に紹介し,その結果を種々の分析結果と組み合わせることによって明らかにされつつある核内構造について考察する。
核マトリックスタンパク質画分調製には多くの場合,Feyらの方法1)またはその一部を改変した方法が用いられている。石井らは,HeLa細胞の核マトリックス画分のプロテオーム解析で333種のタンパク質を同定した2)。その結果,1)プロテオームの半分以上をRNA結合タンパク質,転写因子,DNA結合タンパク質およびリボソームタンパク質が占めること,2)39種の新規タンパク質が含まれていること,3)WD40リピートを持つタンパク質(WDタンパク質)および天然変性状態の領域を多く含むタンパク質(DOタンパク質)が,全ヒトタンパク質より高い割合で含まれていることを明らかにした。WDタンパク質,DOタンパク質とも種々のタンパク質複合体のコアタンパク質になっている例が多く知られていることから,われわれは,これらのタンパク質をコアとしたタンパク質複合体が核内構造形成の単位となって,それらがさらに機能的,動的に結合してタンパク質超複合体が形成され,それが核内構造形成に働いているというdynamic scaffold modelを提唱した。
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