特集 細胞核―構造と機能
5.染色体
染色体パッセンジャー
岡本 茉佑美
1
,
藤井 幹子
1
,
達家 雅明
1
Mayumi Okamoto
1
,
Mikiko Fujii
1
,
Masaaki Tatsuka
1
1県立広島大学 生命環境学部 ゲノム制御システム生物学研究室
pp.460-463
発行日 2011年10月15日
Published Date 2011/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425101209
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有糸分裂(mitosis)は真核生物にみられる娘細胞への染色体分配の過程(M期)であり,一般的に染色体分配に加えて細胞質分裂(nuclear division plus cytokinesis)を含む語として用いられている。生殖細胞が生じる過程を特に減数分裂(meiosis)として区別している。染色体パッセンジャー(chromosomal passengers)はこれらの過程が正確に遂行されて,娘細胞に染色体が分配されるよう制御するためのキー因子群である。
染色体分配が遂行されるとき,細胞内構造はわずかな時間で大きく変化する。特に動物や植物の細胞の場合,核膜が消失し(open mitosis),細胞骨格系も崩壊して染色体分配に必要な細胞内装置が形成され,染色体構造が現れる。染色体パッセンジャーは,こういった過程で分裂装置自体や染色体構造たんぱく質とは区別されて染色体上に乗車し,その後,染色体を降車するような動きをする一群のたんぱく質に対して1991年にEarnshaw WCが与えた名前である。染色体パッセンジャーは正確には染色体に乗り込む乗客ではなく,むしろサイクリン依存的キナーゼ(Cdk1-cyclin B)の活性化で始まる一連の染色体分配過程の要所要所での指揮を取っている現場監督のような存在である。しかし,以下に概説するように,M期の前期での紡錘体や染色体構造たんぱく質を通じた姉妹染色分体分離の制御,後期での細胞骨格系たんぱく質を通じた細胞質分裂の制御という二つの異なる局面で制御機能を持つ一群のたんぱく質の発見は細胞生物学上の特筆すべきことであり,その命名が実に的確である。
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