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ゲノムのどこにセントロメアを作るか
セントロメア構成タンパク質因子の多くは広く真核生物で保存されている(前項参照)。一方で,セントロメアの下地となるDNA配列(セントロメアDNA)は生物種ごとに異なる。エピジェネティックな現象がさらに問題を複雑にする。極めて低い頻度であるが,セントロメアDNA配列が存在しない断片化した染色体のアーム部に新たなセントロメアが出現する現象(ネオセントロメア)や,染色体同士が融合すると,どちらか一方のセントロメアがDNA配列が存在するにもかかわらず構成タンパク質因子群の集合を起こせないように不活性化する現象が知られている。そこで,DNA配列そのものではなく,セントロメア特異的ヒストンH3であるCENP-Aを含んだクロマチンの集合がセントロメアにおけるエピジェネティックな記憶となり,他のセントロメア構成タンパク質因子群の集合の引き金となる説が重要視されるようになった。実際にCENP-Aをノックアウトするとセントロメア構造は維持されなくなる。ただし,DNA配列そのものもセントロメア形成に深くかかわっている。出芽酵母,分裂酵母,マウス,ヒト細胞ではセントロメアDNA配列を細胞へ導入すると機能するセントロメア/キネトコア構造が新規形成される。ヒトではすべての染色体セントロメアに数メガ塩基にも及ぶαサテライトDNA(アルフォイドDNA)の均一な繰り返し領域に,CENP-Aクロマチンが集合してセントロメアとして機能している。このアルフォイドDNA領域にはCENP-Aクロマチンに加え,通常のヒストンH3のリジン9メチル化修飾(H3K9me3)からなるヘテロクロマチンも集合する。
クローン化したアルフォイドDNAの巨大断片をヒト線維肉腫細胞HT1080へ導入すると,宿主染色体に組み込まれることなく,本来の染色体と同等のセントロメア機能を獲得したヒト人工染色体(HAC)が形成される。HAC形成とセントロメア機能獲得には,アルフォイドDNAとCENP-Bの結合配列(CENP-B box)が必要である。CENP-B遺伝子は哺乳類で高度に保存されており,CENP-B boxはマウスセントロメアの反復DNA配列中にも保存されている。ところが,驚くべきことにCENP-Bノックアウトマウスでは染色体分配異常は観察されず,CENP-Bがなくても分配機能は働くことが判明した。この矛盾はHACを用いた解析により解決された。
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