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歴史的背景:古くて新しいクロマチン/ヌクレオソーム
真核生物のゲノムDNAは核の中でコンパクトに折り畳められ,クロマチンと呼ばれる高次構造体内に収納されている。「クロマチン」は1880年代にドイツのFlemming Wによって,染色されるもの(Chromo-)から名付けられた。生化学的には1871年に,Miesher Fが膿白血球核から核酸を含む「ヌクレイン」を発見しており,1884年にMiesherと同じHoppe-Seyler F門下生であるKossel Aがトリ赤血球核から酸抽出したタンパク質を「ヒストン」と名付けた。このようにクロマチンは非常に古い歴史を持ち,Sutton Wの遺伝の染色体説,Morgan Tらによる染色体上の遺伝子地図など染色体の重要性は認識されていたが,化学的実体についてはよく理解できないという技術的限界があった。さらに,1970年代まではDNAが遺伝情報物質であるという大発見の影に埋もれていたところがある。
1970年代に,Olins夫妻らによる電子顕微鏡観察からいわゆる「Beads on a String」像は得られつつあったが,1974年にKornberg Rが,生化学的解析から4種類のコアヒストンタンパク質(H3/H4四量体と二つのH2A/H2B二量体)と約200塩基対のDNAがクロマチンの繰り返し構成単位であるというモデルを提唱したことが一つの転機となった。この繰り返し構造を「ヌクレオソーム」と呼ぶことがフランスのChambon Pらによって提唱され,1997年にRichmond Tらによって,ヒストン八量体の周りに146塩基対のDNAが左回りに1.65回転巻きついたヌクレオソームコア粒子のX線結晶構造が明らかにされた。高次クロマチン構造や多様性に富む化学修飾されたヌクレオソーム構造についてはいまだに明らかにされていないが,クロマチンの基本単位としてのヌクレオソームの構造から,円盤状のヒストン八量体と塩基配列非特異的なDNAとの相互作用の性質や,後述するヒストンタンパク質N末端テイル領域の機能など,多くの情報が三次元構造から明らかとなったことは後の研究展開に非常に大きな影響を及ぼした。
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