特集 細胞核―構造と機能
6.核内受容体
核内受容体を標的とするケミカルバイオロジー
棚谷 綾
1
,
影近 弘之
2
Aya Tanatani
1
,
Hiroyuki Kagechika
2
1お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科
2東京医科歯科大学大学院 疾患生命科学研究部
pp.480-481
発行日 2011年10月15日
Published Date 2011/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425101218
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核内受容体は転写制御因子の一種であり,固有の小分子(リガンド)と結合する部位(リガンド結合領域)と遺伝子上の特定の塩基配列に結合する部位(DNA結合領域)を持ち,リガンドの結合をスイッチとして特定の遺伝子発現のオン・オフを行う1,2)。したがって,遺伝子転写は非常に多くの蛋白質間相互作用によって制御されているが,これを小分子によって制御しようとする場合には核内受容体が最も重要な分子標的といえる。核内受容体で制御される遺伝子群は,細胞分化・増殖,代謝,恒常性など非常に重要な個体生理とかかわっているうえに,その機能はがん,自己免疫疾患,生活習慣病,神経変性疾患など様々な難治性疾患の発症もしくは治療と密接に関与していることから,これらを制御する小分子の創製研究とそれらを用いた機能解析,臨床応用研究が活発に行われてきた。今日,このような研究はケミカルバイオロジーとして位置づけられている。
ケミカルバイオロジーとは化学の知識や技術,特に人工化合物を用いて生命現象を解明しようという,化学と生物学との融合領域である。そもそも核内受容体はステロイドホルモンの作用を担う蛋白質として見出されたものであり,各種ステロイドホルモンを起点とした核内受容体研究,すなわち活性化合物を用いた受容体蛋白質の同定に始まる生命現象や関連する疾病の理解,受容体蛋白質の構造や機能を標的とした新しい制御分子の創製と臨床応用の展開は,まさしく今日でいうケミカルバイオロジー研究といえるであろう。以下,核内受容体リガンド研究の最近の動向と課題について紹介する。
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