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極地に神秘的に現れる太陽フレアによる発光現象を名前に冠したたんぱく質は,ハエの変異体の名称から始まる。この変異体では発生過程で紡錘極(spindle pole)分離ができずに単極となり,極周囲に染色体がメリーゴーランド状に配置した細胞が出現する。単一極の周りに紡錘体が広がり染色体が広がるような観察結果は極地のオーロラを連想させたので,この名称が与えられた。現在ではこの原因遺伝子のコードするたんぱく質はオーロラAと呼ばれるキナーゼである。オーロラはオーロラ変異の原因遺伝子に与えられた名称であるが,実はよく似た遺伝子が酵母でオーロラ発見より以前に見つかっていた。非許容温度下において染色体分配に失敗し染色体倍数性が増加する変異体なので,ipl1と呼ばれた(ipl1:increase-in-ploidy 1)。この原因遺伝子は後にラットから見つかった類似遺伝子であるAIM-1と機能的に相同であり,広く酵母からヒトまで種間を越えて保存されたキナーゼをコードしており,オーロラBと名付けられた。その後,オーロラBは染色体パッセンジャー複合体の根幹キナーゼであることが確かなものとなり,進化的にも主体となるキナーゼであることがわかっている。すなわち,酵母ではオーロラは1種類しか存在しないが(オーロラB),ハエや線虫そしてカエルなどには2種類(オーロラAとオーロラB),哺乳類にはオーロラCを加えた3種類が存在する。
これらはいずれも構造が非常によく似ているセリン/スレオニンたんぱく質キナーゼであり,オーロラBとオーロラCは染色体パッセンジャーとして知られ,オーロラAはセントロソーム関連キナーゼとして知られる(細胞内局在など,前章の図参照のこと)。オーロラAが最も大きく,ヒトの場合,オーロラBと比べてN末端が56アミノ酸長く,また,オーロラCはN末端が34アミノ酸短い。構造の類似性があるにもかかわらずオーロラAは染色体パッセンジャーではない。しかしながら,オーロラAの変異実験で198番目のグリシンをアスパラギンに置換した変異体(G198N-Aurora-A)はパッセンジャーの局在を示し,パッセンジャー複合体形成に関与し,オーロラBの欠失表現型に相補することができる。酵母Ipl1たんぱく質ではこの位置に相当するアスパラギンにグリシンが入っており,酵母では1種類のオーロラでオーロラBの機能に加えてオーロラAの機能も兼ねていることをよく説明し得る。
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