臨床眼科 60巻11号 (2006年10月)

特集 手術のタイミングとポイント

序文 西田 輝夫
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 さまざまな訴えをもって受診された患者さんを前に,細隙灯顕微鏡や検眼鏡を中心とした基本的な眼科検査と近年著しく進歩してきた眼科検査機器を用いて,私たち眼科医は眼球や眼球付属器のほとんどすべての部位の形態や機能の変化を知ることができます。全身疾患との関連を疑う場合,時には他科との連携も必要です。これら多くの眼科的観察や検査の結果を統合して,訴えを説明するのに最も合理的な診断名を求めます。当然同じような所見や検査結果を生む異なる疾患を鑑別することが大切で,そのためには十分な知識と経験が必要です。このようにして適切な診断を下しますと,次はどの治療法を選択するかが問題となります。医療の基本はやはり薬物を用いて疾患を治癒せしめることではないかと私は考えます。しかしながら,診断がつき次第手術療法を選択する疾患もたくさんあります。眼科診療の1つの特徴は,その診療のなかで薬物治療と手術治療を適切に選択し適切な時期に手術を実施できることではないかと考えます。

 ぶどう膜炎や感染症の治療は,ほとんどの例で薬物による治療がまず選択されます。一方,外傷や網膜剝離などでは手術治療が第一選択です。薬物による治療は感染予防や炎症の鎮静化の目的で補助的に用いられます。これらの主として薬物治療を行う疾患群と主として手術治療を行う疾患群の間には,治療の過程で薬物治療を継続するか手術に踏み切るかの選択を迫られる多くの例をしばしば経験します。緑内障の治療では,薬物による眼圧下降をまず試み,十分に眼圧を下げられないときに手術が一般に選択されます。しかし複数の抗緑内障薬を用いて眼圧が何とかコントロールできてはいるものの,中毒性角膜症で角膜の状態がきわめて悪化している症例を経験します。このような症例では,たとえ薬剤で眼圧がコントロールできるとしても,良好な視機能を維持するためには思い切って外科的に手術を選択すべきかもしれません。角膜感染症の治療でも,ほとんどすべての症例で,適切な薬物を第一選択として治療を開始しますが,抗菌薬や抗真菌薬などの投与量を増やしても種類を増やしても角膜潰瘍が鎮静化しない症例があります。薬剤の過剰投与による角膜への影響や全身的に肝臓や腎臓への影響を考えたとき,思い切って治療的角膜移植術を行い,感染巣を除去することも考慮しなければなりません。感染などの炎症のある眼に対する角膜移植術は禁忌であると教科書的には述べられていますし,私たちも一般には炎症眼に対して角膜移植を行いません。薬物治療継続によるリスクと手術治療による利点を天秤にかけながらいつ手術に踏み切るかということを判断するのは,治療の過程できわめて重要です。

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患者が希望する場合

 患者が白内障手術を希望する場合は,その原因が白内障であれば基本的にはすべて手術適応と考える。以前,余命3か月といわれている末期肝臓癌患者の白内障手術を,親友の外科医に頼まれて行ったことがある。患者本人がどうしても亡くなる前に白内障を手術して,少しでも見えるようになりたいと希望されたそうで,親友もその熱意に負け,何とかその患者の体調を手術できる状態に管理してくれたから実現できた。手術後,体調が体調だけにベッドから移動することもできなかったが,病室の窓から見える景色がとてもきれいだと感動され,心から感謝された。残念ながら,手術後1か月で亡くなられてしまったが,「見えるってすばらしい。本当にありがとう」と言っておられたと親友から話を聞いて,涙した。この経験をしてからは,患者の希望には100%応えるべきだと思っている。

 患者の希望に応えることは,患者の希望する視力予後が得られることが前提である。白内障手術を希望する理由によく耳を傾け,その症状が白内障手術によってどこまで回復するかを十分説明することが重要である。術前の状態によっては,期待される結果が得られないこと,ないしは術前より機能が低下すること(裸眼視力,近方視力など)は十分ありうる。

 患者が白内障手術を希望する理由としては,視力低下がある場合,羞明,霧視がある場合,運転免許・仕事等に必要な視力がない場合などがある。

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はじめに

 超音波乳化吸引(phacoemulsification and aspiration:PEA)装置は破砕効率の向上と発熱を抑えるため,ハイテクノロジーを応用したさまざまな技術が登場し,核処理の安全性は飛躍的に向上している。本稿では手術戦略から超音波乳化吸引をしない症例と最新のハイテクノロジー超音波乳化吸引手術について述べる。

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はじめに

 眼内レンズ(intraocular lens:以下,IOL)を二次挿入する機会というのは,一時に比べかなり減っている。通常の症例では,IOLの一次挿入が原則となっているためである。しかしながら,眼内レンズのパッケージを開け,説明書を取り出すと,そのなかに適応が禁忌とされている疾患が列挙されている(表1)。この禁忌症例は1987年に適応委員会が答申したもので,公的にはこの答申が現在も生きている。その後2002年8月には,日本眼内レンズ屈折手術学会から日本眼科学会理事長へ答申が行われ,禁忌項目を削除,適応を慎重にするものとして小児,先天性眼異常,角膜内皮障害,緑内障,活動性のぶどう膜炎,増殖性網膜硝子体疾患,重篤な術中合併症となっている。現在では現実との乖離があり,ほとんどの症例でIOL挿入は禁忌とは考えられなくなっている。このギャップを是正するために,現状を分析した特集も組まれている1~6)

 したがって,現状でIOLの二次挿入が行われるのは,適応には問題がなかったものの白内障手術の際に重篤な眼合併症が生じIOL挿入を控えた場合や,硝子体手術などとの同時手術でIOL挿入を控えた場合,過去の白内障手術の際にはIOLの適応がないと判断されたが,患者の状況が変化したり眼科学の進歩により適応が拡大し可能となった場合が考えられる。これらの状況での二次挿入の可能性を考えてみたい。

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Save early and hard!

 本来,良好な視力が得られ,患者と術者は喜びを共有するはずであったのに,晴天の霹靂の如く急速に失明の危機に晒される……。白内障術後眼内炎の特殊性および重篤性を考慮した場合,対応の遅れや不十分な治療はその後の患者・術者双方に計り知れないダメージを招く。一方で,最善の対応を行えばほとんどの術後眼内炎は十分に治癒できる疾患でもある。そこで少しでも術後眼内炎を疑ったなら,できうる限り迅速に最善の対応を行い何とか危機から脱しなくてはならない。

 本稿では,白内障術後急性細菌性眼内炎に関して時系列を踏まえた治療ポイントについて述べるとともに,遅発性眼内炎の対処方法にも触れる。

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はじめに

 近年の白内障手術の進んできた方向は,水晶体摘出に関してはいかに安全に小さな切開創から水晶体を摘出するか,また眼内レンズ(IOL)に関してはいかに質の高い視機能を得られるIOLを小さな切開創から挿入するかについて検討されてきたといえる。現在では,超音波白内障手術とフォルダブルIOLによる小切開白内障手術によって完成度の高い術式となっている。その結果,手術侵襲は眼・全身ともに従来の方法に比べて格段に少なくなり,日帰り手術を行う施設が多くなった。このことは世間的に広く認知され,臨床の場で患者から日帰り手術を希望される場合も少なくないが,さまざまな事情で日帰り手術よりも入院手術のほうが適している場合もある。そこで本稿では,白内障の日帰り手術の適応について考察する。

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先天白内障と形態覚遮断弱視

 小児の白内障の約86%は先天および発達白内障であり,この2つで大部分を占めている。そのほかに外傷性,アトピー,ステロイド,併発,糖尿病性白内障などがある。先天白内障の発生頻度は約0.04%,10,000人に4人の割合であり,小児の失明原因の10~38.8%を占めている。

 先天白内障において最も問題となるのは,視性刺激遮断弱視または形態覚遮断弱視の発生である。すなわち白内障によって網膜に到達する視性刺激(主に形態覚)が劣化・減弱・遮断などにより障害され,そのために視覚の発達が不良となる弱視である。

Ⅱ.緑内障

薬物療法か手術療法か 相良 健
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はじめに

 緑内障の治療は薬物療法と手術療法が選択できる。緑内障治療は白内障とは異なり,手術という侵襲的な治療を選択しても,その代償として視力および視野の改善が得られるわけでなく,むしろ視力低下をきたす可能性があると考えられているため,緑内障治療は薬物療法,とくに全身的副作用の比較的少ない点眼治療に依存する傾向が強い。事実,大半の緑内障患者は点眼治療のみで生涯にわたり日常生活に支障をきたさない程度の視機能を維持しうる。

 一方,なかにはどうしても緑内障手術が必要な症例は存在する。その場合,手術に踏み切る適切な時期を逃さなければ,新たな治療を受け入れる余裕が術者および患者に与えられ,患者-医師間の良好な信頼関係構築が期待できる。しかしながら緑内障手術の適応として紹介される症例のなかには,もう少し早期に手術に踏み切ることができていればと思う状態にあることが少なくない。とくに末期緑内障に至った症例では,残された視機能の厳しい現状,あるいは必ずしも良好とはいえない治療予後を説明する必要があり,インフォームド・コンセントを得るまでに苦労することが少なくない。前医への不信感,また手術への失望感を吐露されることもある。自験例においても過去の経過を振り返ると,はたして手術時期が妥当であったか疑問符が付く症例もある。したがって緑内障の治療では,どのタイミングで薬物療法から手術に踏み切るかが1つの大切なポイントになる。

流出路手術か濾過手術か 東出 朋巳
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 現在行われている観血的緑内障手術にはさまざまな術式があるが,濾過手術と生理的房水流出路再建術(流出路手術)に大別される。まず,それぞれに属する主要な術式について概説し,術式選択の考え方についてポイントごとに解説する。

濾過手術の種類と特徴

 濾過手術のなかで最も普及しているのは線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)であり,日本ではほとんどの症例において術中にマイトマイシンC(MMC)を併用している。これは,10mmHg台前半の術後眼圧が得られる確率が最も高い術式である。しかし,過剰濾過に伴う合併症や,白内障の進行,濾過胞感染などの合併症が多いのも特徴である。

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はじめに

 どんなに難治な緑内障であっても,「濾過手術か毛様体破壊手術か」どちらにするかと問われれば,即,「濾過手術」と答えるべきである。濾過手術の選択が可能な場合は,まずやはり濾過手術を行うべきで,毛様体破壊手術は濾過手術が何らかの理由で行えない,あるいは行う意味がない場合のみに施行されるべき方法である。そんななかで,それでもあえて毛様体破壊手術を施行せざるえない場合を考えてみたい。

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手術法の選択肢

 緑内障への降圧治療の基本はいうまでもなく薬物治療である。しかし,許容範囲の最大限の薬物治療を行っても十分な眼圧下降が得られず,視野障害の進行など視機能が障害される恐れがある場合には,レーザー治療や観血的手術など次の治療方法を考える必要が出てくる。

 現在,観血的手術の主流はマイトマイシンC(以下,MMC)を併用した線維柱帯切除術(trabeculectomy:以下,TLE)であり,特に進行した緑内障症例や正常眼圧緑内障など目標眼圧が10mmHg付近である場合にはMMC併用TLEが適応となる。MMC併用TLEは術後の低眼圧や晩期濾過胞感染症などの問題点を有しているが,その強力な眼圧下降効果のため広く用いられているのが現状である。MMC併用TLEは結膜に濾過胞を形成することにより眼圧を下げるため,重篤な結膜の瘢痕化が存在し十分な濾過胞が形成されない眼においては良好な成績が期待できない。複数回の手術既往があり結膜の瘢痕化が強い症例やその他,ぶどう膜炎による続発緑内障,血管新生緑内障などはMMC併用TLEの有効性が低いことが知られている。実際,緑内障診療の場では,複数回の緑内障手術既往のある症例や硝子体手術後などで結膜が広範囲にわたり瘢痕化している症例をみることは決して少なくはない。これらの症例においてはMMC併用TLEの効果は期待できず,他の治療法を検討する必要が出てくる。

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はじめに

 流出路手術は,日本緑内障学会のガイドラインでは流出路再建術とされ,線維柱帯切開術,隅角癒着解離術,隅角切開術の3つが挙げられる。ここではわが国で施行されている流出路手術の代表である線維柱帯切開術のほか,シュレム管外壁開放術(シヌソトミー)併用線維柱帯切開術,viscocanalostomyについて,その適応と術前のポイントを考えてみた。

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線維柱帯切開術の術後合併症とその対処法

 流出路手術の代表である線維柱帯切開術(トラベクロトミー)は,濾過手術と比較して,眼圧下降作用がマイルドである反面,視機能に重篤な障害を残すような術後合併症に遭遇することが非常にまれな術式であることが特徴である。手術手技が原因で生ずる術後合併症には,プローブ(トラベクロトーム)の挿入回転の操作に関係するものが圧倒的に多く,主な合併症として,毛様体損傷,デスメ膜剝離,デスメ膜下血腫が挙げられる(図1)。一方,手術手技に問題がなくてもしばしば遭遇する合併症として,術後一過性眼圧上昇と前房出血が代表的な術後合併症として挙げられる。

 毛様体損傷は,プローブを挿入する際に,シュレム管内に挿入されず誤って強膜側や毛様体内へ挿入してしまい,それに気づかずにプローブを前房内へ回転させてしまったときに合併する。また,シュレム管に正確に挿入されていても,前房内へ回転させる際に,過度に虹彩方向(下向き)へ回転し続けた場合も虹彩根部にプローブを引っかけて損傷させることがある。虹彩毛様体からの前房出血だけでなく,虹彩根部離断や毛様体解離を合併することもある。虹彩根部離断や毛様体解離が軽度であれば経過観察のみでよいが,毛様体解離が深刻であれば,術後低眼圧が遷延し毛様体の縫着が必要となることもある。

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はじめに

 緑内障治療の最終目標は,視神経障害の進行を阻止することにより,患者に残された視機能を生涯にわたり維持することにある。視神経障害を予防する手段として,現在最も確実な方法は眼圧下降治療であることはすでに数多くの報告1~3)がなされている。眼圧下降治療法の選択肢としては,薬物治療,レーザー治療,そして手術治療が挙げられるが,それぞれに長所と短所が存在することから,症例の病態や経過に応じて最も適切な治療法を選択する。なかでも手術治療は,強力かつ確実な眼圧下降効果が期待できる反面,逆に視機能を障害する術中・術後合併症が発生し得る,いわゆるハイリスク・ハイリターンの治療手段である。本稿ではそのような手術治療のなかで最も代表的な線維柱帯切除術について,筆者らの施設における適応と考え方,および術後早期管理について概説したい。

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はじめに

 一般臨床医が手を出したがらない眼科手術の1つが緑内障の濾過手術である。理由はいくつかあって,もともと視機能が改善する手術でないこと,術後が面倒なこと,気難しい患者さんが少なくないことなど人によって意見はさまざまだが,「マニュアル化しにくい細やかな術後管理が必要であり,主治医班のチーム医療としての質が結果を左右するから」というのが大きな理由の1つである。例えば,濾過胞の充血が強くなってきた,圧迫したら前房が浅くなるようだ,昨日まで低眼圧だったのに今日は眼圧が上がっている,など術眼が刻々と発するサインを見逃さず,主治医班の一人ひとりが同じように危機感を持てないと,治療のタイミングを逸してしまう。その結果,「手術終了時は理想的と思っていたら,もう術前の眼圧レベルになってしまった……」となる訳である。数年ごとに自分の施設の治療成績を出して他施設の報告と比べ,どこが劣るのか,何が足りないのかをセルフ・アセスメントすること,そして他施設の専門医と交流をもって日々新しい情報を入れていくことが,チーム医療の質を維持,向上させる唯一の方法である。ところが,治療成績というのが曲者で,「術後1か月での眼圧が15mmHg以下」という基準で評価すれば,うまく濾過量を調節できる術者が手術すれば術後成績に差が出ないかも知れないが,もし「1年後に12mmHg以下」という基準で区切るとすれば,入院中は低眼圧スレスレの低空飛行で管理するくらいでないと,ハードルをクリアするのは相当に難しい。

 この数年の間に,プロスタグランジン製剤が登場し,選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculoplasty)など新しい治療機器が開発され,緑内障治療全体における観血的治療の守備範囲は少し狭まった感がある。さらに,濾過胞感染などの晩期合併症に対する関心が高まっている今日では,いかなる症例が濾過手術でなく,流出路再建術でカバーできるのか模索されている。したがって,ほんとうに濾過手術が必要な症例にわれわれが求めるのは,21mmHgを切ることではなく,12mmHg以下あるいは一桁といった,より低い目標眼圧をねらうことである。本稿では,そのような意味で濾過手術のスタンダードとなりつつある,マイトマイシンC(MMC)併用tight-suture trabeculectomy(術後レーザー切糸術併用)1,2)について,術後早期(主に入院中),術後中期(1年以内,主に3か月以内),術後後期(術後数年)に分けて,代表的な術後合併症に対する管理の要点と効果の判定についてまとめる。

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はじめに

 レーザー虹彩切開術(laser iridotomy:LI)は,外来で短時間に施行可能であるという簡便性,非観血的処置のため術直後の合併症が軽度であるという安全性,術効果の高さ,レーザー機器の普及,以上の利点ゆえに観血的周辺虹彩切開術に代わる治療法として広く普及している。

 その反面,水疱性角膜症といった重篤かつ不可逆的な合併症1~3)を発症するリスクを抱えている。わが国の報告によると,全水疱性角膜症のうち1/5がレーザー虹彩切開術によるものであり,無水晶体性水疱性角膜症,偽水晶体性水疱性角膜症それぞれが全体に占める割合とほぼ同程度とのことである2,3)。さらに,レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症はわが国に特徴的であり,アジアを含めた諸外国ではほとんど見受けられない。また発症の原因が不明であるため有効な予防策を講じることができない。以上の点からわが国ではレーザー虹彩切開術の危険性を指摘する声が高まりつつある。

 しかし,レーザー虹彩切開術は相対的瞳孔ブロック(図1)の解除4)において有効な治療法であることは間違いない。本稿では,より効果的かつ安全なレーザー虹彩切開術について当院にて留意している点について論じる。

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はじめに

 原発閉塞隅角緑内障は日本緑内障ガイドライン1)で,相対瞳孔ブロックが関与するものとプラトー虹彩によるものに分類された。閉塞隅角緑内障は開放隅角緑内障とともに緑内障の2大病型の1つであり,その頻度は多治見スタディでは原発閉塞隅角緑内障を含めて有病率は40歳以上の1.3%と報告され2),全緑内障患者の約20%に相当することも明らかにされた。本症はさらに人種差,地域差,性差(女性が圧倒的に多い)があることもその特徴として知られている。閉塞隅角緑内障は基本的には相対瞳孔ブロックの解除,プラトー虹彩形状の緩和,水晶体の処理など外科的な治療が優先される疾患である。

 本稿ではそれぞれの病態に対して現状で行われている外科的治療についてその種類およびその問題点について述べ,次いでそれぞれの手術手技の適応について最近の方向性を交えて述べる。

続発緑内障の手術適応 蕪城 俊克
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続発緑内障の分類

 眼圧上昇の機序が不明な緑内障を原発緑内障と呼ぶのに対し,続発緑内障(secondary glaucoma)は,他の眼疾患,全身疾患,薬物使用など眼圧上昇機序がはっきりしている緑内障と定義される。2002年に作成された緑内障診療ガイドライン1)によれば,続発緑内障(secondary glaucoma)には,続発開放隅角緑内障と続発閉塞隅角緑内障があり,前者には ①線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座があるもの(血管新生緑内障,虹彩異色性虹彩毛様体炎による緑内障,前房内上皮増殖など),②線維柱帯に房水流出抵抗の主座があるもの(ステロイド緑内障,落屑緑内障,ぶどう膜炎による緑内障,外傷性緑内障,術後緑内障,色素散布症候群など),③シュレム管より後方に房水流出抵抗の主座があるもの(眼球突出に伴う緑内障,上大静脈圧亢進に伴う緑内障など)が挙げられる。一方,続発閉塞隅角緑内障には,①瞳孔ブロックによるもの(膨隆水晶体,虹彩後癒着,水晶体脱臼,小眼球症など),②水晶体後方にある組織の前方移動によるもの(悪性緑内障,眼内腫瘍による緑内障,原田病・後部強膜炎による閉塞隅角緑内障,眼内充填物質による緑内障など),③隅角癒着によるもの(前房消失後の緑内障,ぶどう膜炎,角膜移植後,血管新生緑内障,ICE症候群など)などが挙げられる。

 このように続発緑内障の原因は多岐にわたり,前眼部所見・隅角所見に加えて,それまでの眼病歴や手術歴,全身疾患,ステロイドの使用歴などを各々の症例ごとに総合的に考えて,眼圧上昇の原因を推定することが必要になる。

白内障同時手術の適応 布施 昇男
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はじめに

 近年の白内障手術の進歩(超音波小切開白内障手術)と,代謝拮抗薬の付加的な使用により,緑内障・白内障同時手術の長期成績は向上し,相対的な手術適応は拡大している。場合により術式として,①緑内障手術を先行させ眼圧コントロールがついてから二期的に白内障手術を行う方法,②白内障手術を先行させ二期的に緑内障手術を行う方法,③緑内障・白内障同時手術の3通りの観血的方法が考えられる。しかし,緑内障単独術後の眼圧コントロールに対する二期的白内障手術の影響,白内障単独手術の眼圧に対する影響,白内障手術後の緑内障手術と緑内障・白内障同時手術とではどちらが眼圧コントロール良好かなどの問題に関してはいまだ一定の見解が得られていないのが現状である。また症例の状態と各々の術者の経験によるところが大きく,エビデンスとはなりにくい部分もある。同時手術の適応は,二期的な単独手術の適応と密接に関係する。

 今回は,特に濾過手術であるマイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)と白内障手術について,単独と同時手術に分けて考察する。

Ⅲ.網膜・硝子体

硝子体手術器具の選択 生野 恭司
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はじめに

 硝子体手術器具の進歩はめざましく,従来から主流である20ゲージ(G)システムに加え,最近になってより小さい創口で手術が可能な25Gや23Gシステムが登場した。これらの使い分けに関して現時点では確立されたコンセンサスはなく,その線引きは術者の技量や方針によって異なる。例えば25Gシステムを好む術者は25Gシステムを多く用いる傾向があり,その逆の場合もある。また機器によっては新システムに対応しない場合があること,あるいは新規に手術器具やディスポーザブル用品を購入する必要から施設によって必ずしも選択できない場合もあろう。

 本稿ではできるだけ最大公約数的にそれぞれのシステムの使い分け方法を検討した。異なる硝子体手術システムの利点・欠点を理解することは,そのシステムの長所を引き出すことにつながると考える。

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はじめに

 糖尿病網膜症における多様な眼底所見のうち,現時点で硝子体手術の適応となっている主なものは,硝子体出血・牽引性網膜剝離・黄斑浮腫である。

 糖尿病網膜症に対する硝子体手術が行われるようになってからこの30年余の間に,硝子体手術システム・手技は長足の進歩を遂げ,それに伴い,網膜症の手術適応も拡大してきた。初期からの基本的な適応は,硝子体出血が吸収不良の場合,あるいは牽引性網膜剝離が黄斑部に及んだ場合か裂孔を併発した場合に限られていた。硝子体出血(新生血管茎の破綻)も牽引性網膜剝離も共に,線維血管増殖(病理的血管新生)による物理的な組織変形を基盤にした網膜症の終末像であり,その適応は,手術合併症のリスクを考慮して待てるところまで待とうというものであった。現在では手術のリスクが低下し成績も向上したことから,病理的血管新生の終末像に対するこれら古典的な適応は,以下の各論で述べるようにより早いタイミングやより軽い病態へとシフトし,手術の目的を失明回避にとどまらず積極的によりよい視力の維持・向上とするようになってきた。

 また,本来は血管透過性亢進の結果と考えられる黄斑浮腫は,網膜硝子体界面における病態理解の深まりから生化学的な機序に加えて物理的な要素も併せ持つことが推察され,最近では手術適応としての地位を確立した感がある。しかし,近年の網膜細胞生物学の進歩により生化学的な病態改善を目的とした内科的アプローチも可能になりつつあり,黄斑浮腫の外科的アプローチのタイミングに関しては明確なコンセンサスが得られぬまま今後見直しを迫られるであろう。

 本稿では,現在のところ硝子体手術の主な適応となっている硝子体出血,牽引性網膜剝離,黄斑浮腫という3つの臨床像につき,その病態を踏まえながら手術に踏み切るタイミングの考え方を述べる。いうまでもなく,適応の決定には臨床所見に加えて対側眼の視力,全身状態,術者の技量,患者の社会的背景などの諸要素も加味して考える必要がある。

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はじめに

 未熟児網膜症(retinopathy of prematurity:ROP)は網膜の未熟性を基盤として起こる疾患である。

 Terry1)による最初の報告以来,半世紀以上経過しているにもかかわらず,未だその発症に関するメカニズムは完全に解明されておらず,失明児を完全になくすに至っていない。そればかりか,近年の周産期医療の発達に伴いきわめて未熟な児でも生存可能となり,厚生省分類Ⅱ型に相当する重症未熟児網膜症症例が増加している。

 重症未熟児網膜症症例では,しっかりと光凝固を施行しても網膜剝離に進行する場合がある。いったん網膜剝離を発症した未熟児網膜症症例は,輪状締結術や硝子体手術を施行しても,術後視力はもちろん網膜復位率に関しても決して満足できる状況ではない2~8)

 このような状況を踏まえてか,2005年には未熟児網膜症の国際病期分類が改訂され9),わが国で以前から厚生省分類Ⅱ型として定義されていた病態が「aggressive posterior ROP」として追加定義された。

 重症未熟児網膜症のさらなる増加が予想される現況において,本稿では,未熟児網膜症に対して適切な時期に適切な治療がなされるよう,そのタイミングと治療法について,特に近年提唱されている早期硝子体手術に重点をおいて述べる。

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はじめに

 増殖硝子体網膜症(proliferative vitreoretinopathy:PVR)は,網膜剝離に伴って発生する網膜前面や後面,後部硝子体膜の表面などにおける進行性の膜形成と,膜の収縮による牽引性網膜剝離を特徴とする病態である。本症は裂孔原性網膜剝離に対する網膜復位手術における不成功の主因であり,裂孔原性網膜剝離の最も重篤な術後合併症とされてきた。一方,放置された網膜剝離,家族性滲出性硝子体網膜症,Coats病などでの自然経過で増殖性変化を伴って発生することもある1)。本症の治療は手術手技や手術装置が格段に進歩した現在でも難治であり,術前に手術対象眼の病態を正確に評価し,適切な術式を選択することは非常に重要である。

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はじめに

 「網膜静脈閉塞症の治療=手術」と図式化している臨床医は,多くはないであろう。網膜静脈閉塞症は,視力障害を伴う網膜血管障害のなかでは糖尿病網膜症に次いで多く,一般診療においてもよく遭遇する疾患であるが,網膜静脈閉塞症に対する一般化された治療指針は現在のところない。当然,手術が最も有効であるとする根拠をもった臨床研究はない。網膜静脈分枝閉塞症に対して臨床研究が行われた根拠のある治療方法は,1984年に米国で施行されたBranch Vein Occlusion Study1)(以下,BVO Study)に基づく網膜光凝固だけである。しかし,本研究は,硝子体手術がまだ,一般的ではなかった時代におけるものであり,その後,大規模な臨床研究は行われていない。

 近年の硝子体手術の進歩は著しく,積極的に硝子体手術を網膜静脈閉塞症の治療に取り入れる考え方は,わが国では主流になりつつある。本稿では,数ある網膜静脈閉塞症の治療のなかで,手術治療をどのように位置づけるべきかを考えてみたい。

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はじめに

 従来,眼外傷の分類は明確ではなく,報告間の比較検討が困難であった。近年,米国で眼外傷の分類を標準化しようとの試みがなされている1,2)。その1つであるKuhnら1)の分類は,まず眼球壁の全層損傷の有無で開放性と非開放性に分け,開放性外傷を,鈍的外力によって起こる瞬間的眼圧上昇から起こる内から外への損傷であるrupture(破裂)と,鋭的外力が外から内に直達して起こるlaceration(穿孔)とに分ける,発症機序に基づいた明確なものである。lacerationはさらにpenetrating(裂傷),intraocular foreign body(眼内異物),perforating(二重穿孔)に細分される(表1)。ここでの和訳は,河野3)の定義に従った。

 本稿は,眼外傷をKuhnの分類に基づいて分類し,検討した自験データを示しながら,その手術適応,タイミングなどについて解説する。

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はじめに

 眼内炎は術者としてどうしても避けて通りたいものであり,患者としてもどうしても避けてもらいたい合併症の1つである。もし,不幸にも眼内炎になってしまっても,何とか視力低下せずに回復してもらいたいと願うものである。その眼内炎の治療は1995年にEndophthalmitis Vitrectomy Study(以下,EVS)の指針1)で明確な治療法として確立され,現在の眼内炎治療はそれに大きく沿うものとなっている。そのEVSのなかで述べられているものは,

 1)硝子体手術は光覚弁の症例のみで効果があり,手動弁以上は緊急の硝子体手術は必要ないこと

 2)抗菌薬の全身投与は効果がないこと

である。

 EVSの治療法はバンコマイシンとセフタジジムの眼内投与が中心で,ある程度の視力予後を期待できる。EVSでも使用しているバンコマイシンは1980年代後半より眼内炎に対して使用し始めた2)。グラム陽性菌による眼内炎が多く,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下,MRSA) などの耐性菌にも効果がある抗菌薬投与としては妥当なもので,眼内炎治療における抗菌薬の中心である。

 では眼内炎に対する治療は,このバンコマイシンを中心とした薬物療法だけに頼っていいものなのであろうか。硝子体手術を治療の本幹に据えて治療を行った杏林アイセンターのデータと比較して考えていきたいと思う。

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はじめに

 硝子体手術の術後視力予後に影響する最も頻度の高い合併症として,術後の白内障の進行が知られている1~4)。とりわけ50歳以上の患者においては,硝子体術後5年以内での白内障の発症率は実に80%以上にものぼることが報告されており,硝子体単独手術よりも白内障手術を同時に施行したほうが理にかなった術式ではないかと思われる5~8)。しかし,まだ水晶体囊外摘出術(extra-capsular cataract extraction:ECCE)が白内障手術の主流であった時代では,白内障手術自体による術後炎症や合併症の頻度は決して少ないとはいえず,硝子体手術との同時手術による手術負荷の増大や前眼部炎症の後眼部疾患への影響などの理由から,1990年前後まで白内障・硝子体同時手術(以下,同時手術)の適応はごく一部の症例と一部の術者に限られていた。また,水晶体を除去する方法も,経毛様体扁平部水晶体除去術(pars plana lensectomy:PPL)とECCEのいずれを選択するかについて諸家による議論の絶えないところであった5~8)

 同時手術の適応拡大は,1990年代後半より急速な進展をみせ始めた9)。それには,超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsification and aspiration:PEA)というすばらしい術式の確立とともに,切開幅の縮小やフォルダブルレンズの開発などが大きな支えとなっていた10)。ここ10年間の同時手術のブレイクスルーは超音波白内障手術の技術革新が重要な契機となっている。現在では大多数の施設において,硝子体手術といえば,超音波白内障手術と硝子体手術の同時手術のほうがむしろ主流になっているのではないだろうか11~14)

 一方,硝子体手術そのものに関していえば,さまざまな手術器具の開発と手術手技の改良が手術侵襲の軽減と手術成績の向上をもたらし,黄斑疾患などではよりよい視機能の改善を目ざして,比較的に早期から手術治療に積極的に取り組めるようになったのが大きな進歩である。さらには,3ポートシステムが確立されてから久しく大きな変化のなかった術式に,最近になって新しい進展がみられた。すなわち,経結膜無縫合硝子体手術という比較的に低侵襲な手術スタイルの出現である(図1)。23ゲージ(0.63mm)や25ゲージ(0.50~0.55mm)のマイクロカニューラを介して行う経結膜硝子体手術は,従来の白内障手術の技術革新と相乗効果を産み出し,同時手術のなかにも新たな手術適応と術式選択の幅が出てきたと思われる15~18)。本稿では,最近の同時手術の手術適応,術式選択(組合せ)を自験例のデータを踏まえて述べる19)

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はじめに

 白内障手術は安全性が高く確立された術式であり,また多くが術後に視力の改善を得られることが世間一般に周知されているだけに,合併症が生じたときの患者の苦痛は大きい。特に網膜硝子体合併症は手術による治療を要することが多いうえ,症状が不可逆的となって固定する可能性があるため,治療方針とタイミングを誤らないようにする必要性が高い。本稿では,眼内炎を除く主な網膜硝子体合併症について治療のポイントを述べる。

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はじめに

 近年,アトピー性皮膚炎の増加に伴い,白内障や網膜剝離の合併が増加してきている1)。特に網膜剝離は通常の網膜剝離に比べ難治性である。通常の網膜剝離ではバックル手術,硝子体手術とも初回復位率は90%前後,最終復位率は100%に近いが2,3),アトピー性網膜剝離では初回復位率75.2%,最終復位率92.6%とかなり劣る4)。また,初回復位を得られなかった場合は,増殖硝子体網膜症(proliferative vitreoretinopathy:以下,PVR)の悪循環にはまり再手術を繰り返すことがある。

 本稿ではアトピー性網膜剝離に対する手術加療に対する術前評価,手術適応,術式の選択,それぞれの手術手順について述べる。

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はじめに

 ウイルス性網膜炎のなかで硝子体手術治療が有用な疾患として,急性網膜壊死(acute retinal necrosis:ARN),進行性網膜外層壊死(progressive outer retinal necrosis:PORN)およびサイトメガロウイルス網膜炎(cytomegalovirus retinitis:CMVR)が挙げられる。進行性網膜外層壊死およびサイトメガロウイルス網膜炎はエイズなどの免疫不全患者の合併症として知られており,欧米においてはこれらに対する硝子体手術の報告は多数みられるが,わが国では未だ患者数は多くないようである。

 急性網膜壊死は1971年に浦山ら1)によって初めて報告された。彼らは,高度な炎症のあと網膜に無数の裂孔が生じ,自然経過では全例が網膜剝離を発症しほぼ失明に終わるとしている。その後の研究で急性網膜壊死はヘルペスウイルスの網膜感染が原因であることが明らかにされた。したがって,急性網膜壊死の治療はヘルペスウイルスに対する抗ウイルス薬治療が第一義的に重要である。しかし薬物治療のみでは頻度の高い合併症である網膜剝離を抑制することは難しいため,硝子体手術が治療成績の向上に有用である場合がある。

 近年,手術機械と手術手技の進歩によって低侵襲の硝子体手術が可能になった。急性網膜壊死の治療においても,過去には手術を躊躇していた炎症期に積極的に硝子体手術を行うことによって病変の拡大を止め,炎症を抑制し,網膜剝離を予防するとの報告もみられる2~4)。本稿では,炎症期に硝子体手術を行うことによって治療成績向上が見込まれる急性網膜壊死に対する手術適応および術後管理などについて述べる。

眼内腫瘍の治療選択 後藤 浩
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はじめに

 眼内腫瘍は臨床的に診断が確定してもすべての症例に治療の適応があるわけではなく,特に良性腫瘍では視機能に影響がない限り,治療を必要としないことも多い。良性,悪性を問わず,治療を行うことになった場合の外科的治療法としては,腫瘍のみを切除して眼球を温存する局所切除術と眼球摘出術に大別することができる。一方,眼内腫瘍ではこのような手術療法以外にも光凝固や冷凍凝固,放射線療法,化学療法といったさまざまな治療の選択肢がある。特に最近では,ぶどう膜悪性黒色腫や網膜芽細胞腫といった悪性度の高い眼内腫瘍に対しても,外科的治療法以外の眼球温存療法の適応が拡大しつつある。

 本稿では眼内腫瘍に対する治療の適応や時期,手術療法の実際,さらに外科的治療以外の方法についても紹介する。

Ⅳ.角膜

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はじめに

 全層角膜移植術(penetrating keratoplasty:PKP)は角膜の上皮,実質,内皮の全部の層を切除し,ドナー角膜の全層を移植する手術である。シンプルな術式で施行しやすいため,広く行われている。ただ,手術適応となる角膜において,上皮,実質,内皮のすべての層に障害がある角膜というのは稀であり,昨今では,障害のある層のみを交換する術式が全層角膜移植術に代わる術式としていくつか提案されている。例えば,実質に混濁があるが内皮機能は保たれている角膜に対する深層表層角膜移植術(deep lamellar keratoplasty:以下,DLKP),内皮機能不全の角膜に対するdeep lamellar endothelial keratoplasty(以下,DLEP),Descemet's stripping with endothelial keratoplasty(以下,DSEK)などである。これらの術式は,角膜の全層ではなく部分を交換するという意味で,角膜パーツ移植などと呼ばれる。DLKPでは術後に角膜内皮に対する拒絶反応がない,DLEPやDSEKでは切開創が狭く惹起乱視が少ない,再手術が容易などの多くの利点を有するために,徐々に広まりつつある。

 しかし,いずれの術式も,全層角膜移植術に比較すると手術手技の習得により時間がかかる,一部の術式では特殊な機材が必要などの理由から,すべての施設で全層角膜移植術に取って代わっているというわけではない。全層角膜移植術とこれらパーツ移植の術式が並存しているのが現状であると考えられる。こうした現状を踏まえつつ,全層角膜移植術の適応および術式について以下に述べる。

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はじめに

 角膜移植は,透明であるべき角膜の混濁や菲薄化による角膜形状異常を改善することが目的である。角膜混濁が内皮細胞代償不全によって起こる水疱性角膜症には,ドナー角膜の内皮細胞を移植する全層角膜移植(penetrating keratoplasty:以下,PKP)が,主として行われてきた。しかし,内皮細胞機能が保たれている場合には,表層角膜移植(lamellar keratoplasty:以下,LKP)で対処できる可能性がある。

 LKPには,術後内皮性拒否反応がないこと,ドナーの内皮細胞が必要なく保存角膜でもよいこと,虹彩前癒着などの内眼性合併症のないことなど角膜移植としての利点は多い。手術原理は表層角膜実質を切除し,この欠損部分に見合ったドナー角膜片を充填することである。このとき角膜実質の切開面が不整であれば,実質接合面に形成される瘢痕も大きなものになり,十分な術後視力回復が得られにくくなる。これがLKPの唯一最大の欠点である。

 深層角膜移植術(deep lamellar keratoplasty:以下,DLKP)はLKPの最大の欠点であった術後視力不良の改善を図るために,ホスト側の病的実質をすべて除去し,少なくとも瞳孔領は均一で滑らかなデスメ膜のみにすることにより,術後瘢痕形成を最小限にしようとする手術法である1)

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はじめに

 角膜上皮の幹細胞は角膜輪部の基底層に存在すると推定されている。幹細胞の特異的なマーカーは同定されていないが,細胞周期が長く,高い分裂能を維持している細胞の存在が深部角膜輪部に確認され1),また臨床的にも角膜輪部が角膜上皮の供給源であることがわかってきた2)。角膜上皮は角膜の透明性維持に必要であるため,角膜輪部の障害は視機能低下につながる場合がある。角膜輪部の障害には多岐にわたる原因によるさまざまな程度が考えられ,これらを正確に把握し,適切で必要最低限の治療計画を立てる必要がある。

 本稿では輪部移植術について,その適応と術後の管理を述べる。培養輪部上皮シートを移植する方法は,他項を参考にされたい。

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はじめに

 眼表面は角膜上皮および結膜上皮により構成され,光学的な視機能と眼球最表面としてのバリア機能を担っている。種々の角結膜上皮症の病態により角膜上皮幹細胞や結膜上皮細胞が疲弊すると,眼表面再建時に上皮幹細胞や代用上皮細胞の移植が必要となる。また広範囲の腫瘍切除での手術的な上皮欠損に対しても同様の再建が必要となる。角膜上皮移植術としては先に記述されているドナー角膜を用いた角膜上皮形成術や輪部移植が一般化した術式である。

 近年では培養した上皮シートを移植する再生医療的な新しい再建法が考案され,臨床応用され効果が得られている。この新しい治療法により,いままでは難治性であったStevens-Johnson疾患群や眼類天疱瘡などに対しても治療の道が開けてきた。本稿では新しい培養粘膜上皮移植の適応と術式選択の実際と考え方について解説する。

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治療的角膜移植の難しさ

 角膜穿孔や難治性の角膜感染症に対して行われる角膜移植を治療的角膜移植と呼ぶことが一般的である。“光学的”とも称される視力回復を目的とした通常の角膜移植と異なり,いくつか難しい面がある。まずその問題点について考えてみたい。

1)ドナー不足

 治療的角膜移植では急いで手術する必要に迫られることも少なくない。常に保存角膜を持っていたり,近くのアイバンクに依頼すれば直ちにドナーを手に入れることができる施設は限られている。

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はじめに

 結膜手術は角膜手術に比べるとこれまで比較的マイナーな存在であった。しかし内科的には難治な疾患でも外科的にアプローチすることで良好な治療効果が得られることが多いため,結膜手術が注目を集め盛んに行われるようになってきた。例えば,結膜弛緩症といった不定愁訴の原因疾患も外科的にうまく治療できることが知られるようになってきている。特に,quality of life(QOL)の向上という点からみて結膜手術の重要性は次第に増してきている。ここでは結膜手術に踏み切るタイミングとそのポイントについて解説してみたい。

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はじめに

 眼外傷は,症例ごとにその受傷機転,病態あるいは障害の程度が異なり,それぞれの症例に最も適した治療法を迅速に選択し実行しなければならない。すなわち,それぞれの症例が手術を要するのか保存的療法でよいのかを見極めることと,手術が必要と判断した症例ではどのタイミングで行うかが予後を決める重要な因子の1つとなる。一般に外傷では手術が必要となる症例が多く,薬物療法は感染予防や炎症の沈静化などを目的とした補助的な例が多い。また,眼外傷では,明らかな所見が角膜あるいは結膜といった前眼部にみられたとしても,打撲による鈍的外力による眼内各組織の障害の可能性や,自覚症状はなくとも異物の飛入(眼内異物)などあらゆる障害の可能性を念頭において診察する必要がある。

 本稿では,角膜裂傷や熱化学腐食など角膜を中心に生じる種々の外傷に対する初期対応と手術適応を決めるうえで重要な所見を提示し,手術に踏み切るべきタイミングを明確にしたい。

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はじめに

 屈折矯正手術は,基本的に健常な角膜に手術を施行する。また屈折矯正手術希望者は,インターネットなどで情報を得てから受診する人も多く,術後の見え方への期待は高い。患者さんが満足できるように,適応と術式選択は慎重にしなければならない。

 何のために手術を受けたいのか,眼鏡・コンタクトレンズが嫌だから受けたいとか,あるスポーツをしたいからなど(特に格闘技かどうか),動機を確認する。その他,職業,夜間に車の運転をするのか,普段は眼鏡またはコンタクトレンズを併用しているのか,全身疾患の有無,妊娠をしていないか,向精神病薬の内服をしていないかなど屈折矯正ガイドライン1)に沿った質問をしながら,希望者のキャラクターをつかんでいく。ガイドラインに適した症例で,スクリーニング検査では異常がなければ,手術の利点・欠点を理解していただいたうえで,その方の生活環境や生活習慣を考慮に入れて術式を選択する。

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はじめに

 角膜移植術の適応となる場合にはいつでも,白内障の有無を評価する必要がある。逆に,白内障手術を予定する場合には常に角膜の状態を評価しなければならない。白内障と角膜混濁を合併している場合には,同時手術をすべきか,まず角膜移植を行って二期的に白内障手術をすべきか,判断に迷うことは多い。また,超音波白内障手術が進化してきた今日では,逆に白内障手術を先に行って,二期的に角膜移植を予定することも症例によっては選択されると考える。

 白内障と角膜混濁の同時手術としては全層角膜移植術,水晶体囊外摘出術,後房眼内レンズ挿入術のトリプル手術が基本である。ただし近年では,角膜移植術のトレンドはパーツ移植(層別移植)に移行してきており,超音波白内障手術の安全性も高まっていることから,角膜移植と白内障の同時手術での術式選択は非常にバラエティに富んだものになってきている。

 本稿では,同時手術のメリットとデメリットから同時手術の適応を考えていく。またその際の術式選択についても述べていくこととする。

翼状片手術の適応と術式選択 堀 裕一
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翼状片とは

 翼状片とは,結膜組織由来の線維組織が結膜から角膜へ侵入しているもので,一種の良性腫瘍である(図1)。多くは鼻側から角膜へ侵入するが,稀に耳側からや両側から侵入する症例もみられる。翼状片の多くは三角形を呈しており,最も角膜中央部に近く三角形の頂点に当たる部分を「頭部」と呼び,球結膜側の血管の豊富な部分は「体部」と呼ぶ。

 発生原因は不明であるが,紫外線や粉塵,その他機械的刺激が原因で異常な結膜組織が増殖し角膜へ侵入するといわれている。疫学的にも熱帯地方や屋外労働者に多いことから,これらの要因が関連している可能性は高いと思われる。

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はじめに

 羊膜が難治性オキュラーサーフェス疾患の眼表面再建に用いられるようになって約10年が経過し,いまでは羊膜移植も多くの施設で行われている。

 羊膜は胎盤組織の一部で,生体内の基底膜のうち最も厚い。羊膜は上皮再生のための基質としてはたらき,炎症・新生血管の抑制作用,癒着防止作用があるとされ,また抗原性が低く,移植後の免疫学的拒絶反応を起こさない。さらに,羊膜は帝王切開時に大量に入手でき,凍結保存が可能である。このような利点を生かし,他科領域では古くから手術に応用されてきた。眼科領域でも羊膜を用いた手術によって,眼類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群などの瘢痕性角結膜上皮症,化学傷,熱傷,再発翼状片,角膜穿孔,結膜腫瘍,緑内障術後の濾過胞漏出など,従来きわめて難治であった疾患の治療成績は飛躍的に向上した。また,従来角膜移植を必要とした疾患に対しても,羊膜移植により,治癒あるいはドナー角膜を確保する時間を稼ぐことが可能となり,ドナー不足のわが国ではその恩恵は大きい。

 羊膜移植の有効性については数多くの報告がある1~3)。しかし,羊膜移植は,その適応,術式,術後管理が的確に行われなければ,時に予期せぬ合併症を招くこともある。本稿では羊膜移植の適応疾患,手術手技,奏効機序について概説したい。

 なお,羊膜移植はヒトの生体組織の移植手術であり,各施設の倫理委員会の承認を受けて行う必要がある。

Ⅴ.眼瞼,斜視

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はじめに

 霰粒腫は,眼瞼に生じる無痛性の硬結として大昔から知られている疾患である。一般眼科診療で「瞼が腫れた」との主訴で来た患者の多くに眼瞼の硬結を触知し,霰粒腫と臨床診断する機会が毎日のようにある。

 しかし多くの教科書で霰粒腫とは,「瞼板に生じる慢性炎症性肉芽腫」と記載されており,いまひとつピンとこないのが現状である。よく理解できないから治療方針が決められないし,ましてや炎症なのにどうして手術するのだろうかと疑問もわいてくる。

 そういう状態を脱却するには,まず霰粒腫の病態と構造を理解すべきである。粉瘤などの疾患と同様,霰粒腫は貯留囊胞である(図1)1)

 なお,病理組織学的に囊胞とは通常上皮成分で裏打ちされたものであるので,貯留囊胞は厳密には真の囊胞ではない。病理の専門医と話すときは言葉の定義に注意する。

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はじめに

 斜視手術は近年,交代性上斜位(dissociated vertical deviation:DVD)に対する下斜筋前方移動術,固定内斜視に対する筋移動術など新しい術式の開発が進んだ。しかし,術後成績には術者の斜視手術の際の定量とそれぞれの患者における手術のタイミング,術式の選択が大きく影響している。本稿では最も頻度の高い小児の内斜視,間欠性外斜視,成人の麻痺性斜視を中心に,いつ,どのタイミングで,どの術式を選択するのがベストかに焦点をしぼり解説する。

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甲状腺眼症とは

 甲状腺眼症とは文字どおり甲状腺疾患に伴う眼科的異常で,多彩な症状を示すが,1 眼窩内の脂肪組織の炎症による眼球突出(図1),2 外眼筋炎による眼球運動障害(図2),3 眼瞼挙筋の炎症または交感神経の反応性亢進による眼瞼後退(図3)が基本的な病態である。兎眼および角膜障害,視神経障害などはこれらの基本的な病変に続発して生じると考えれば,それぞれの病態が理解しやすいであろう(表1)。これらの病変はすべてが同時に存在し,さらにいずれもが高度の症状を示す場合もあれば,いずれかのみが目立つこともある。

 若年者では女性に多く,眼球突出を示すことが多いが,眼球運動障害は少ない傾向にあるのに対して,40代以降では眼球運動障害が高度で,眼球突出は比較的軽度であることが多い1,2)。この年齢層でもやはり女性に多いものの,若年者における眼球突出ほどの性差はなく,男性にも多くみられる。甲状腺疾患の男女比を考えると,眼球運動障害はむしろ男性に発症しやすいともいえる。

Ⅵ.涙器・眼窩

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はじめに

 成人の涙道閉塞に対する手術術式を適切に選択するためには,はじめに涙道閉塞の原因,状態,そして流涙の種類を理解しておかなくてはならない。

 涙道閉塞の原因は,原発性と続発性の2つに分類することができる。原発性涙道閉塞では明らかな原因は不明で,さまざまな程度の炎症または線維化が存在する1)。続発性涙道閉塞は感染性,炎症性,腫瘍性,外傷性,機械的の5つに分類され2),これらの要因が複雑に絡み合っている。

 涙道閉塞の状態に関して,機能的閉塞と器質的閉塞の2つの状態が存在する3)。機能的閉塞では,涙道の連続性は保たれているにもかかわらず,通過障害が存在する。すなわち,通水は可能であるが生理的導涙が不能となっている状態である。器質的閉塞は,何らかの原因で涙道の連続性が絶たれた状態である。

 流涙は,導涙性流涙と分泌性流涙とに分類される。導涙性流涙は導涙機構の障害によって生じ,その原因は涙道の閉塞,涙道の異所性開口,導涙機能の減弱,消失などである4)。導涙機構の障害は,ホルネル筋(眼輪筋涙部)の収縮5)が減弱・消失するために生じる。分泌性流涙は,涙液分泌反射の反射弓が刺激されて流涙を生じたものである3)。導涙性流涙と分泌性流涙では治療方針がまったく異なるため,適切な検査を行い,両者を鑑別することが必要である。

 以下,診察,術式選択のポイントをその流れに沿って説明する。

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はじめに

 先天鼻涙管閉塞は,小児の眼疾患のなかでも頻度の高いものであるが,自然治癒するものから難治のものまである一方,対処法にも施設による差がみられる1~6)。多くが乳幼児であり,治療には家族の理解や協力が必要である。大切なポイントは,個々の症例での病態をしっかり把握したうえで対処することである。

眼球摘出術の適応と選択 柏木 広哉
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はじめに

 診断技術,治療技術の進歩により,現在はできる限り眼球を温存する考えが主流となっている。したがって,眼球摘出術は最終的な手段となり,適応疾患は少なくなってきている。しかしながら,眼球摘出術に踏み切るかどうか苦慮する症例に遭遇するのも事実である。適応疾患として,悪性腫瘍,絶対緑内障,感染症,交感性眼炎,外傷などが挙げられる。今回当センターで経験した症例を提示し,主として腫瘍が原因の眼球摘出について述べる。

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はじめに

 眼窩腫瘍は悩ましい疾患群である。それは次の3点(triad)に集約される。①眼窩疾患は稀かつ多彩で癌が含まれる。②眼窩手術と眼科手術は異質である。③眼窩腫瘍の治療方法は経過観察から眼窩腫瘍摘出術,さらには全身薬物療法まで広範である。

 本稿では最も頻度の高い眼窩リンパ球増殖症(悪性リンパ腫と反応性リンパ組織過形成)および特発性眼窩炎症(いわゆる眼窩偽腫瘍),そして稀だが治療のタイミングに注意すべき疾患に内容を絞り,triad形式で眼窩腫瘍の診断,方針,治療のタイミングを述べる。

基本情報

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臨床眼科
60巻11号 (2006年10月)
電子版ISSN:1882-1308 印刷版ISSN:0370-5579 医学書院

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