臨床眼科 79巻10号 (2025年10月発行)

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特集　第78回日本臨床眼科学会講演集［8］

原著

結膜MALTリンパ腫の初回治療選択における抗体療法について篠原　優里子 , 佐々木　香る , 山本　優一 , 尾辻　剛 , 野田　百合 , 今井　尚徳 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1243-1249

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要約　目的：結膜MALTリンパ腫治療における抗体療法を含む初回治療について，後ろ向きに検討する。

対象と方法：2019〜2024年に関西医科大学附属病院および同総合医療センターで診療した結膜MALTリンパ腫20例25眼の各治療法における臨床経過を診療録に基づいて後ろ向きに検討した。

結果：症例の初診時年齢は68±16歳，性別は男性が7例，女性が13例，両眼性は5例，片眼性は15例であった。初回治療としてリツキシマブ全身投与（抗体療法）を行った6眼のうち3眼（50％）では効果不良であり，追加で放射線治療が行われていた。初回治療および追加治療として放射線治療を行った15眼のうち14眼（93％）では腫瘍の縮小を認めた。再発を認めた症例は1眼であり，放射線治療とともに抗体療法が追加され，腫瘍の縮小を認めた。無治療経過観察を行った4眼中4眼（100％）では腫瘍サイズは不変であった。また，病変を外科的に完全切除（以後，外科的切除）した3眼中3眼（100％）は再発しなかった。

結論：結膜MALTリンパ腫の初回治療では抗体療法の効果は限定的であった。一方，放射線治療や外科的切除の有効性が再確認され，重篤な副作用は認めなかった。また定期的なフォローを必要とするが，経過観察も治療の選択肢の一つと考えられた。治療選択においては，他科との情報共有のもとに十分な患者説明が重要である。

前房水PCRによるウイルス量の変化が治療方針決定に有用であった急性網膜壊死の3症例藤井　達也 , 木村　芽以子 , 中村　明日香 , 碇　莉有 , 二宮　以信 , 大内　亜由美 , 海老原　伸行 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1250-1258

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要約　目的：急性網膜壊死（ARN）は主に水痘帯状疱疹ウイルス（VZV），単純ヘルペスウイルス（HSV）1型および2型によって生じ，急速に進行し視機能を脅かす疾患である。前房水strip PCRは高い感度と特異度を示し，迅速に原因ウイルスの特定を行うことができる。今回，ARNの診断とウイルス定量に前房水strip PCRが治療方針決定に有用であった3例3眼を報告する。

症例1：45歳，女性。角膜裏面に豚脂様角膜後面沈着物を認め，眼底には4象限にわたる黄白色の滲出斑を認めた。前房水から6.4×10⁵copies/mLのHSV-1が検出された。ホスカルネットナトリウム（ホスカルネット）硝子体内注射を週2回行うとウイルス量は1週ごとに半減〜1/4に減少し，7回で2.5×10³copies/mLまで減少した。現在に至るまで網膜剝離は発症していない。

症例2：76歳，女性。角膜裏面に豚脂様角膜後面沈着物を認め，眼底は3象限にわたる黄白色の滲出斑を認めた。ホスカルネット硝子体内注射2回施行後，前房水から5.1×10⁶copies/mLのVZVが検出された。4回注射後は1.3×10⁶copies/mLまで減少した。計6回のホスカルネット硝子体内注射を行ったが，裂孔原性網膜剝離を発症した。術中の前房水PCRは1.5×10²copies/mLであった。

症例3：63歳，女性。角膜裏面に豚脂様角膜後面沈着物を認め，眼底は視神経乳頭鼻側と鼻下側の周辺網膜に黄白色病変を認めた。前房水から1.3×10⁶copies/mLのVZVが検出された。ホスカルネット硝子体内注射3回注射後3.2×10⁵copies/mL，5回注射後1.0×10⁴copies/mL，計6回のホスカルネット硝子体内注射を行い，1.5×10²copies/mLまで減少した。現在に至るまで網膜剝離は発症していない。

　3症例ともアシクロビル点滴15mg/kg/回1日3回，プレドニゾロン40〜60mg内服/日，バイアスピリン100mg/日内服，ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼6回/日の治療を併用している。

結論：前房水strip PCRはARNの診断，病勢の把握に有用である。

間欠性外斜視の眼位検査における1時間片眼遮閉の効果について山川　護 , 臼井　千惠 , 林　孝雄 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1259-1266

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要約　目的：間欠性外斜視は，融像力の影響で最大斜視角を検出できないことがあり，治療前には片眼遮閉で融像除去眼位を測定する必要がある。今回，遮閉前後の眼位を比較し，遮閉後変化が大きい症例の特徴を検討した。

対象と方法：対象は，帝京大学医学部附属病院眼科で初回手術を受けた間欠性外斜視628例。方法は，1時間片眼遮閉後に遠見または近見で5Δ以上の増減をみた群（増加群・減少群）と5Δ未満の不変群に分け，遮閉前後の眼位と運動面分類の変化を調べ，眼位に影響を与える因子として遮閉前斜視角，輻湊，屈折，網膜対応，年齢の関与を検討した。

結果：遠見より近見で増加群が多く（p＝0.001），遠見では不変群が増加群よりも多かった（p＝0.000）。運動面の分類は，90.5％は分類に変化を認めず，その多くが基礎型であった。眼位に影響を与える因子については，遮閉前斜視角は25Δ未満の症例が25Δ以上の症例に比べて遠近ともに遮閉後の変化量が大きく（p＜0.01），輻湊は眼前8cmを超えて輻湊できる症例の近見遮閉後変化量が8cmまで輻湊できない症例に比べて有意に大きかった（p＜0.01）。一方，屈折，網膜対応，年齢は有意な差はなかった。

結論：間欠性外斜視の遮閉後眼位は近見での増加例が多く，特に遮閉前斜視角が25Δ未満の症例や眼前8cmを超えて輻湊できる症例で遮閉前後の眼位変化が大きかった。

運転外来受診後の追跡調査（第2報）—運転を継続していた症例の特徴岩坂　笑満菜 , 國松　志保 , 平賀　拓也 , 佐藤　菜摘子 , 千葉　るい , 黒田　有里 , 伊藤　誠 , 髙橋　政代 , 溝田　淳 , 井上　賢治 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1267-1273

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要約　目的：ドライビングシミュレータ（DS）施行後の運転追跡調査を実施し，運転を継続した患者の特徴を検討した。

対象と方法：運転外来を受診した215例に対し，視力検査，Humphrey視野検査（HFA24-2），運転調査（1週間の運転時間，過去5年間の事故歴の有無）およびDSを施行した。DSでは14場面における事故の有無を記録し，さらに据え置き型視線計測装置にて視線の広がりを求めた。DS施行後1年以上経過した100例（平均年齢63.7±12.9歳）を対象に，DS施行後の運転時間，自動車事故の有無，運転中止または減少の理由を調査した。

結果：100例中73例が運転を継続していた。運転継続群は中止群と比較して視力良好眼の視力，視野良好眼のHFA24-2のMD値が良好で（p＝0.011，p＝0.024），IVF下半視野の平均網膜感度が有意に高かった（p＝0.0006）。また，運転継続群は，DS事故件数が少なく（p＝0.013），水平方向の視線の広がりが大きかった（p＝0.049）。運転継続群73例中24例（32.9％）は，DS施行後に運転時間を減らしていた。また，運転継続群73例中18例（24.7％）がDS施行前の過去5年間に事故を起こしていたが，DS施行後は軽微な事故が2例に認められたのみであった。

結論：運転外来を受診した視野障害患者の約7割が運転外来での指導を受けた後も安全に運転を継続しており，DSを用いた評価と指導が安全運転に有用であると考えた。

翻転されなかった内境界膜上に黄斑上膜が発生したことにより初回閉鎖が妨げられたと考えられた黄斑円孔の1例久保田　大智 , 嶌嵜　創平 , 浅野　泰彦 , 恩田　秀寿 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1275-1279

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要約　目的：翻転されなかった内境界膜上に黄斑上膜が発生したことにより初回閉鎖が妨げられたと考えられた黄斑円孔の1例を報告する。

症例：61歳，女性。左眼黄斑円孔の診断で近医より紹介され受診した。初診時の左矯正視力は0.4，眼圧16mmHg，眼軸長24.85mm。Stage 2の黄斑円孔を認めたため，内境界膜翻転法を併用した水晶体再建術併用硝子体手術を施行した。硝子体腔を空気置換し術後腹臥位を継続したが黄斑円孔開存を認めたために，100％ SF₆ガス0.5mLを硝子体内に注入し腹臥位を継続した。しかし，円孔閉鎖が得られず，光干渉断層撮影にて円孔周囲に膜状組織を認めたため再度硝子体手術を施行した。再手術時には剝離した膜状組織は硬く張りがあり，それを黄斑円孔上に翻転し，そのうえに分散型眼粘弾剤を注入し，18％ SF₆ガスで眼内置換して終了した。再手術後は黄斑円孔の閉鎖が得られた。

結論：翻転した内境界膜が術後に元の位置に戻り，そこに黄斑上膜が発生したため黄斑円孔の初回閉鎖が妨げられた可能性が考えられた。確実に黄斑円孔を閉鎖するには内境界膜翻転後の工夫と，病態にあった術式選択が必要である。

眼内レンズ強膜内固定術後に創閉鎖不全と増殖硝子体網膜症をきたしたApert症候群の1例橋本　直樹 , 納富　昭司 , 神川　文音 , 久保　夕樹 , 沖田　絢子 , 塩瀬　聡美 , 石川　桂二郎 , 園田　康平 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1280-1285

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要約　目的：眼内レンズ亜脱臼に対して強膜内固定術を行ったApert症候群の術後合併症について報告する。

症例：60代，男性。幼少期にApert症候群と診断されており，左白内障手術の既往があった。左眼内レンズ亜脱臼の手術目的に九州大学病院を紹介された。右−7.0D，左−12.5Dと両眼に強度の斜乱視を認めており，左眼の強主経線上に角膜切開で主創口を作製し，眼内レンズ強膜内固定術を行った。術後，角膜創の閉鎖不全による房水漏出を認めた。複数回の角膜縫合を行ったが，十分な創閉鎖が得られず，脈絡膜剝離および硝子体出血が出現したため，術後21日目に硝子体手術を施行した。強角膜縫合により創口閉鎖は得られたが，眼底には脈絡膜剝離に伴う網膜剝離を認め，硝子体切除および眼圧維持を目的にシリコーンオイル注入を行った。術後いったんは網膜復位を得られたものの，増殖性硝子体網膜症に至った。

結論：強度の斜乱視を伴うApert症候群の内眼術後に創閉鎖不全および増殖硝子体網膜症を合併した症例を経験した。

超広角走査型レーザー検眼鏡で水尾-中村現象を捉えられた小口病の1例松井　遼 , 新井　陽介 , 秋山　英雄 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1286-1291

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要約　目的：小口病は常染色体潜性遺伝の疾患で，先天停在性夜盲の一種である。眼底は剝げかかった金箔様と呼ばれる特徴的反射を呈するが，長時間の暗順応後にそれが消失する水尾-中村現象が知られている。本邦で超広角走査型レーザー検眼鏡により水尾-中村現象を捉えた報告は少なく，今回筆者らは超広角走査レーザー検眼鏡により，3時間の暗順応前後で鮮明に水尾-中村現象を捉えられた症例を経験したので報告する。

症例：59歳，女性。家族歴に特記すべき所見はなかった。左眼の飛蚊症で近医眼科を受診したところ，両眼の網膜血管周囲に滲出斑様の所見を認め，精査加療のため群馬大学医学部附属病院眼科へ紹介された。

所見：初診時矯正視力は両眼とも1.2，眼圧は右14.5mmHg，左17.0mmHgであった。前眼部は問題なく，両眼とも軽度の皮質白内障を認めた。両眼底には広範囲に金箔様の反射がみられた。光干渉断層計では金箔様反射移行部にellipsoid zoneの不整を認めた。初診時より10年ほど前から夜盲，羞明の自覚があった。全視野網膜電図では，錐体反応は正常，桿体反応は消失型であった。以上から小口病を疑い，3時間の暗順応前後に超広角走査型レーザー検眼鏡を施行すると，水尾-中村現象を鮮明に捉えられた。

結論：超広角走査型レーザー検眼鏡で水尾-中村現象を捉えた症例を経験した。超広角走査型レーザー検眼鏡は同現象の観察に有用である。

アムスラーチャートを契機に診断に至った黄斑前膜を伴うAZOORの1例白川　雄基 , 鎌尾　浩行 , 後藤　克聡 , 水川　憲一 , 三木　淳司 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1292-1299

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要約　目的：急性帯状潜在性網膜外層症（AZOOR）は，光干渉断層計（OCT）でみられるellipsoid zone（EZ）の異常により診断が容易となったが，EZの異常を引き起こす他の網膜疾患を伴うと診断が困難となる。今回，アムスラーチャートでの暗点検出を契機に診断に至った黄斑前膜を伴うAZOORの1例を経験したので報告する。

症例：67歳，男性。4日前からの左視力低下を主訴に近医を受診したところ，左眼底異常を指摘され川崎医科大学附属病院に紹介され受診となった。矯正視力は右1.5，左0.9，眼圧は右18mmHg，左17mmHgであった。限界フリッカ値は右40Hz，左39Hz，対光反射は正常，アムスラーチャートで両眼の暗点と左眼の変視を認めた。OCTで左眼に黄斑前膜と中心窩下のEZの不鮮明化を認めた。暗点の原因としてAZOORを疑い多局所網膜電図を施行したところ，両眼の視野異常に一致する振幅低下を認めたため黄斑前膜を伴うAZOORと診断し経過観察した。1か月後の矯正視力は右1.5，左1.2で，両眼の暗点は消失し，左眼中心窩下のEZは回復した。

結論：黄斑前膜によりEZの異常を引き起こすとAZOORの診断が困難となるが，その鑑別にアムスラーチャートが有用な場合がある。

同一創に再発した濾過胞関連感染症の1例河合　諒 , 盛　秀嗣 , 近江　正俊 , 切石　達範 , 石本　敦子 , 今井　尚徳 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1300-1304

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要約　目的：線維柱帯切除術（TLE）後に，stage Ⅲaの濾過胞関連感染症（BRE）を発症し，濾過胞温存のうえ硝子体手術を行ったが，4年7か月後に同一創に再発した1例を経験したので報告する。

症例：77歳，女性。右眼開放隅角緑内障に対してTLEを行った。TLE後経過は良好であったが3年後に右視力低下を主訴に再診した。再診時，右矯正視力0.3，眼圧12mmHgで濾過胞の白濁，前房蓄膿，フィブリンの析出を認めたため，BRE（stage Ⅲa）と診断した。濾過胞温存のうえ硝子体手術を施行し，術後感染はコントロールされた。また眼圧も9〜18mmHgに維持されており経過良好であった。濾過胞は漏出なく，耳上側に作製されており感染のリスクは低いものであったが，硝子体手術施行4年7か月後に同一創部にBRE（stage Ⅲa）を認め，右視力は眼前手動弁，眼圧33mmHgであった。同一創部の再発であったため濾過胞切除のうえ硝子体手術を行った。術後感染は落ち着いたが，緑内障点眼を追加するも十分な眼圧下降は得られなかった。再発から約1か月半後にバルベルト緑内障インプラント手術を施行し，濾過胞切除後10か月時点で眼圧13mmHgまで下降している。

結論：初回BRE時に濾過胞を温存した場合には，再発をきたすことがあり注意が必要である。

結膜下膿瘍を伴う強膜炎を初発症状として関節リウマチと診断された1例後藤　景子 , 小林　崇俊 , 大須賀　翔 , 水野　博史 , 高井　七重 , 田尻　健介 , 武市　有希也 , 児玉　昴己 , 延藤　綾香 , 喜田　照代 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1305-1312

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要約　目的：強膜炎は種々の原因で生じるが，原因疾患が判然としないこともしばしば経験する。当初，結膜下膿瘍を伴う強膜炎であることから感染性強膜炎と考えたが，のちに関節リウマチと診断された1例を経験したので報告する。

症例：52歳，女性。既往歴として約30年前に両眼の網膜復位術を施行。以前からIgM腎症，MPO-ANCA陽性のため内科にてステロイド内服中であった。X年3月に右眼の充血，疼痛のため強膜炎と診断された。全身疾患に併発した強膜炎が疑われ，精査のため内科入院となった。眼窩蜂窩織炎疑いから抗菌薬の点滴投与が行われたが，強膜炎は徐々に悪化。全身精査では新たな病変はなく，眼局所のみの炎症と診断された。結膜下膿瘍が出現し，膿から黄色ブドウ球菌を検出した。排膿後に炎症は改善したが，バックル感染を疑い結膜切開するも，新たな排膿はなく炎症は沈静化していると判断した。退院後，X年10月になり充血および疼痛が再燃したため，バックル感染の再燃を疑いバックルを抜去した。しかし炎症は改善せず，非感染性の強膜炎を疑い，セレコキシブを処方したところ炎症は軽快した。その後，X＋1年3月になり両手の手指の腫脹，関節痛が出現。内科にて関節リウマチと診断され，現在治療中である。

結論：当初は感染性強膜炎と考えたが，一連の経過から非感染性強膜炎を併発したと考えられた。結膜下膿瘍の原因は判然としなかったが，経過からバックル感染の可能性も示唆された。

超音波乳化吸引術後に発症したepithelial downgrowthの1例尾崎　有紗 , 原田　一宏 , 上野　智弘 , 川村　朋子 , 加藤　晧一 , 加藤　整 , 内尾　英一 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1313-1318

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要約　目的：今回，小切開超音波乳化吸引術（PEA）後に発症したepithelial downgrowth（眼内上皮増殖）の1例を経験したので報告する。

症例：83歳，女性。2022年12月に前医でPEA，眼内レンズ挿入術を行った。術後の経過は問題なかったが，10か月経過した2023年10月に右視力低下を自覚した。前医を受診し右眼の極端な縮瞳と虹彩面上に異常血管を認めたため，福岡大学病院に紹介となった。初診時の右視力は20cm/手動弁であり，眼圧は16mmHgであった。瞳孔はほぼ閉鎖しており灰白色の膜様構造物があり，隅角には上方のみ異常血管を認めた。

結果：瞳孔閉鎖による視力低下を認めたため，瞳孔形成術を行ったが，術後3か月で再度瞳孔閉鎖をきたした。虹彩面上の灰白色の膜様組織と強角膜創部に間隙があったことから，epithelial downgrowthを疑い，再度瞳孔形成術，膜様組織の除去，ジアテルミーによる熱凝固を組織学的に行った。組織学的検査では重層の上皮組織を認め，epithelial downgrowthによる瞳孔閉鎖，虹彩面上への結膜組織の増生と考えられた。右眼の最終視力は（0.7）であり，現在眼内に結膜組織の再増生はみられない。

結論：Epithelial downgrowthは小切開PEAの長期経過後にも発症する可能性がある合併症として考慮すべきである。

両眼の著明な結膜浮腫を生じた特発性眼窩炎症の1例堀田　明俊 , 瀧原　祐史 , 小島　祥 , 高橋　枝里 , 井上　俊洋 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1319-1325

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要約　目的：眼窩炎症の鑑別診断は多岐にわたる。今回，両眼の著明な結膜浮腫を生じ，当初，甲状腺眼症が疑われた特発性眼窩炎症の症例を経験したので報告する。

症例：20代，女性。主訴は急性発症の両眼結膜浮腫と眼痛。前医での頭部MRI所見から甲状腺眼症が疑われ熊本大学病院眼科（当科）を紹介され受診した。既往に特記事項なし。当科初診時の矯正視力は右0.6，左0.5で，両眼とも対光反射正常で視野障害はなかった。両眼の結膜浮腫は著明で，Graefe徴候，Dalrymple徴候は両眼陰性，第一眼位で複視があり，眼球運動障害を認めた。前医でのMRI結果を再評価したところ，筋付着部の腫脹は強くなかったが，外眼筋で腫大していたのは主に両外直筋および右上直筋と左内直筋であった。血液検査では，甲状腺機能は正常で，抗甲状腺刺激ホルモン（TSH）受容体抗体陰性であった。その他の血液検査，胸腹部骨盤CTなどから眼窩蜂巣炎，IgG4関連眼疾患，サルコイドーシス，膠原病，炎症性腸疾患，悪性リンパ腫なども示唆されず特発性眼窩炎症と診断，ステロイドパルス施行した。その後，結膜浮腫，眼球運動障害，頭部MRI所見などは改善し，約5か月間かけてステロイドを漸減・中止したが再発はなかった。

結論：両眼の著明な結膜浮腫を生じた本症例の鑑別診断において抗TSH受容体抗体，外眼筋腫大部位，眼痛の有無の検討が甲状腺眼症との鑑別において有用であった。ステロイド投与への良好な反応からも特発性眼窩炎症と考えられたが，その治療に際して慎重なステロイド漸減を行う必要性があった。

再発を繰り返し異なる治療経過となったMOG抗体関連疾患の2例橋爪　衛 , 松永　寛美 , 小関　昭仁 , 森下　直樹 , 金子　仁彦 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1326-1332

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要約　目的：ミエリンオリゴ糖蛋白質抗体関連疾患（MOGAD）は，2023年に診断基準が確立した新たな中枢神経系の炎症疾患である。その経過中に約80％が視神経炎を呈し，再発を繰り返すことが知られている。今回筆者らはMOGADの2症例を経験したので報告する。

症例：症例1は右視神経炎の既往がある24歳，男性。右眼球運動時痛と視力低下を主訴に焼津市立総合病院眼科（当科）を初診した。初診時視力は右（0.06），左（1.0）。Humphrey視野検査（HFA）でのmean deviation（MD）値は右眼 −27.98dB，左眼 −1.45dBであった。症例2は46歳，男性。3週間前からの両眼球運動時痛，左視力低下を主訴に当科を初診した。初診時視力は右（1.0），左（0.15）。HFA MD値は右 −26.98dB，左 −31.80dBであった。

所見：2症例とも血液検査にてMOG抗体陽性，アクアポリン4抗体陰性であり，MOGADと診断された。症例1はステロイドパルス療法（IVMP）後に再発したため，血漿交換療法を行ったところ改善した。現在に至るまで再発はない。最終視力は左右ともに（1.0），MD値は右 −4.09dB，左 −1.13dBであった。症例2はIVMPにて改善したが再発し，IVMPおよび免疫グロブリン大量静注療法にて改善した。半年後に再発し，IVMPおよび血漿交換療法を施行した。最終視力は左右ともに（1.0），MD値は右 −7.86dB，左 −23.28dBであった。

結論：MOGADのステロイドに対する治療反応性は良い。しかし，再発を繰り返しやすく，ステロイド反応不良例の治療法は確立されていない。

今月の話題

Schlemm管拡張型緑内障手術杉原　一暢 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1213-1218

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　緑内障の新しいMIGSの術式として，Schlemm管の拡張を意識した手術が施行できるようになった。Hydrus緑内障ステントはインプラント留置を伴い，確実なSchlemm管拡張を目指す。STREAMLINE Surgical Systemは，ビスコカナルプラスティを行う。ともに主流出路からの房水流出促進を目的とした手術である。新しいこれらの術式について概説する。

＊本論文中，動画マークのある箇所につきましては，関連する動画を見ることができます（公開期間：2028年10月）。

連載　Clinical Challenge・67

視野異常を主訴に来院した網膜色素上皮炎渡辺　芽里 , 蕪城　俊克 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1208-1211

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症例

患者：51歳，男性

主訴：左の視野異常，霧視

既往歴：特記事項なし

家族歴：特記事項なし

現病歴：3日前から左眼の内側の視野欠損と霧視を自覚し，近医眼科を受診した。左眼のぶどう膜炎を認め，自治医科大学附属病院（以下，当院）へ紹介となった。

連載　やり方・見方のコツを伝授！スキルアップ眼病理・7

結膜母斑から発生した悪性黒色腫加瀬　諭 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1220-1223

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今回のポイント

●結膜悪性黒色腫は異型細胞を伴う結膜母斑から発生することがあり，母斑細胞よりも核異型が強く，核の大小不同が際立つ。

連載　今日から実践！ドライアイA to Z・7

マイボーム腺機能不全は生活習慣病？須磨﨑　さやか 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1224-1228

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◉マイボーム腺機能不全（MGD）は，導管上皮の過角化や腺細胞の変化といった専門的なメカニズムに加え，食事や喫煙，デジタル機器の使用など日々の生活習慣が複雑にかかわっています。実際，LIME研究会が2017年に長崎県平戸市度島で行った住民検診の結果，脂質異常症の内服をしている，というのがMGDの3つのリスク因子のうちの1つでした。MGDは「目のメタボ」ともいわれるほど，生活習慣と深くかかわりのある疾患です。ぜひ，最後までご覧ください！

臨床報告

近視性黄斑部新生血管に対するラニビズマブバイオシミラーの先行医薬品との効果比較江口　諒 , 野々垣　諒 , 田村　一真 , 太田　光 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1229-1234

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要約　目的：近視性黄斑部新生血管（MNV）の治療において，ラニビズマブ硝子体内注射（IVR）とラニビズマブバイオシミラー硝子体内注射（IVRBS）の治療成績を比較すること。

方法と対象：本研究は後ろ向き観察研究であり，名古屋大学医学部附属病院で未治療の近視性MNVと診断され，抗血管内皮増殖因子薬による治療を受けた患者を対象とした。2021年1月〜2022年8月にIVRを開始した26例26眼（IVR群）と，2022年9月〜2024年2月にIVRBSを開始した20例20眼（IVRBS群）を比較した。治療開始前，1か月後，3か月後の最高矯正視力（BCVA），中心網膜厚（CRT），中心脈絡膜厚（CCT），および注射回数を評価した。

結果：平均BCVAはIVR群で治療開始前0.43±0.37，3か月後0.27±0.27であり，有意な改善を認めた（p＜0.01）。また，IVRBS群でも治療開始前0.40±0.41，3か月後0.25±0.34であり有意な改善を認めた（p＝0.04）。平均CRTはIVR群で治療開始前308.3±96.0μm，3か月後244.9±59.6μmであり，有意な減少を認めた（p＜0.01）。IVRBS群も治療開始前281.2±86.9μm，3か月後243.7±62.3μmであり，有意な減少を認めた（p＜0.01）。3か月時点での平均注射回数およびBCVA，CRT，CCTの変化量において，IVR群とIVRBS群間に有意差はなかった。また，全症例の検討において，再治療を要する症例で治療開始時のCRTが有意に高いことが示された。

結論：IVRとIVRBSは，近視性MNVに対する治療において同等の有効性を示した。治療開始前のCRTが高い症例では短期間で再治療が必要となる可能性がある。

眼科領域専門雑誌の「症例報告」における日付の匿名加工化大庭　紀雄 , 丹沢　慶一 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1235-1241

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要約　目的：眼科領域和文誌の「症例報告」における日付匿名化の実態を調査する。

対象と方法：眼科専門6誌の「症例報告」について，過去3年間（2021〜2023）における日付記載法（暦年表記，非暦年表記，日付匿名表記）の割合，過去15年間（2010〜2024）の日付匿名表記の実態をそれぞれ調べる。

結果：過去3年間の「症例報告」742件における病歴日付の記載は，暦年表記171件（23.0％），非暦年表記383件（51.6％），日付匿名表記188件（25.3％）に類別され，日付を匿名加工化して記載した「症例報告」が四半分を占める。2010年に遡って過去15年間に公表された「症例報告」3,459件における日付匿名表記は，326件（9.4％）である。初出は2011年，最初の数年は微々たるものであったが，2017年（10件）頃から年々増加して，2024年には66件に達している。「症例報告」全体に占める日付匿名表記「症例報告」の割合も2020年頃から増加の一途をたどっている。こうした推移は各雑誌に共通である。病歴における各種事象や経過の日付は，X年，20XX年，201X年，202X年，X月，X日，Y年といったXYZの記号を組み合わせて表記した事例が大多数である。

結語：「症例報告」における日付の匿名表記は近年のトレンドとして注目すべきである。新しい表記法が症例報告の学術的価値にいかに影響するかについて今後の検討課題である。

今月の表紙

網膜血管腫徳本　美成 , 蕪城　俊克 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1212

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　症例は26歳，女性。当院受診の1年前に褐色細胞腫摘出術の既往がありvon Hippel-Lindau病の診断が下されている。

　初診時（撮影3年前）の視力は右0.1p（0.2），左1.2（1.5），眼圧は両18mmHgであった。右眼視神経乳頭部に横2.5乳頭径×縦3乳頭径大の赤橙色の腫瘤を認めた。OCTでは腫瘤内容は実質性であり，周囲に網膜分離を伴っていたが網膜剝離は認めなかった。前医にて血管内皮増殖因子阻害薬の硝子体内注射を半年ごとに受けており，当院でも倫理委員会の承認のもとにベバシズマブ硝子体内注射を継続している。現在まで，腫瘤の大きさに変化はなく視力ならびに眼圧は維持できている。

Book Review

今日から使える医療統計　第2版神田　善伸 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1274

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　医療統計解説書のベストセラー，『今日から使える医療統計』の待望の第2版が刊行された。本書は皆さんご存じ，大阪公立大学大学院医療統計学の新谷歩先生の著書である。

　新谷先生は米国ヴァンダービルト大学から帰国されて以来，日本の生物統計学の脆弱な基盤を改善するために教育的活動に熱心に取り組まれている。多くの医師が感じる医療統計の高い壁。本書を読むことでその壁が徐々に崩れ落ち，視野が広がっていく。そんな一冊である。

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目次 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1204-1205

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欧文目次 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1206-1207

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学会・研究会　ご案内 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1333-1337

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アンケート用紙 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1340

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次号予告 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1341

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あとがき稲谷　大 79巻10号 , 2025年10月 , pp.1342

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　生成AIは日々進化を続けています。ChatGPTも8月に入り，ついにバージョン5へとアップデートされました。実際に文章を生成させてみると，その自然な流れに驚かされ，もはや私が「あとがき」を執筆しなくても良いのではないかと思うほどです。私がChatGPTを使って特に重宝しているのは，英文メールの翻訳とその返信，そして興味のある英語論文の翻訳です。結局のところ，私の思考は日本語で行われているため，どれほど英語を読んでも，英文→和訳→日本語で理解→日本語で返答→英訳というプロセスを経る必要があります。以前から，英文を読むと疲れる，あるいは表面的にしか理解できないと感じていました。その原因は，しっかりと和訳をしていないために思考の回転が落ちていたことにあると気づきました。しかし，英文メールや英語論文をChatGPTに入力すれば，瞬時に和訳が提示され，斜め読みでも要点を確実に把握できます。さらに，日本語で作成した返信文をそのまま入力すれば，自然で美しい英文に変換してくれます。その結果，外国の先生方から「レスポンスが早い」と褒められることも増えました。長年，日本人として抱えてきた英語コミュニケーションの弱点が，ようやく克服できるかもしれない——そう実感しています。

基本情報

臨床眼科
79巻10号
(2025年10月発行)

電子版ISSN：1882-1308 印刷版ISSN：0370-5579 医学書院

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