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はじめに
糖尿病網膜症における多様な眼底所見のうち,現時点で硝子体手術の適応となっている主なものは,硝子体出血・牽引性網膜剝離・黄斑浮腫である。
糖尿病網膜症に対する硝子体手術が行われるようになってからこの30年余の間に,硝子体手術システム・手技は長足の進歩を遂げ,それに伴い,網膜症の手術適応も拡大してきた。初期からの基本的な適応は,硝子体出血が吸収不良の場合,あるいは牽引性網膜剝離が黄斑部に及んだ場合か裂孔を併発した場合に限られていた。硝子体出血(新生血管茎の破綻)も牽引性網膜剝離も共に,線維血管増殖(病理的血管新生)による物理的な組織変形を基盤にした網膜症の終末像であり,その適応は,手術合併症のリスクを考慮して待てるところまで待とうというものであった。現在では手術のリスクが低下し成績も向上したことから,病理的血管新生の終末像に対するこれら古典的な適応は,以下の各論で述べるようにより早いタイミングやより軽い病態へとシフトし,手術の目的を失明回避にとどまらず積極的によりよい視力の維持・向上とするようになってきた。
また,本来は血管透過性亢進の結果と考えられる黄斑浮腫は,網膜硝子体界面における病態理解の深まりから生化学的な機序に加えて物理的な要素も併せ持つことが推察され,最近では手術適応としての地位を確立した感がある。しかし,近年の網膜細胞生物学の進歩により生化学的な病態改善を目的とした内科的アプローチも可能になりつつあり,黄斑浮腫の外科的アプローチのタイミングに関しては明確なコンセンサスが得られぬまま今後見直しを迫られるであろう。
本稿では,現在のところ硝子体手術の主な適応となっている硝子体出血,牽引性網膜剝離,黄斑浮腫という3つの臨床像につき,その病態を踏まえながら手術に踏み切るタイミングの考え方を述べる。いうまでもなく,適応の決定には臨床所見に加えて対側眼の視力,全身状態,術者の技量,患者の社会的背景などの諸要素も加味して考える必要がある。
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