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さまざまな訴えをもって受診された患者さんを前に,細隙灯顕微鏡や検眼鏡を中心とした基本的な眼科検査と近年著しく進歩してきた眼科検査機器を用いて,私たち眼科医は眼球や眼球付属器のほとんどすべての部位の形態や機能の変化を知ることができます。全身疾患との関連を疑う場合,時には他科との連携も必要です。これら多くの眼科的観察や検査の結果を統合して,訴えを説明するのに最も合理的な診断名を求めます。当然同じような所見や検査結果を生む異なる疾患を鑑別することが大切で,そのためには十分な知識と経験が必要です。このようにして適切な診断を下しますと,次はどの治療法を選択するかが問題となります。医療の基本はやはり薬物を用いて疾患を治癒せしめることではないかと私は考えます。しかしながら,診断がつき次第手術療法を選択する疾患もたくさんあります。眼科診療の1つの特徴は,その診療のなかで薬物治療と手術治療を適切に選択し適切な時期に手術を実施できることではないかと考えます。
ぶどう膜炎や感染症の治療は,ほとんどの例で薬物による治療がまず選択されます。一方,外傷や網膜剝離などでは手術治療が第一選択です。薬物による治療は感染予防や炎症の鎮静化の目的で補助的に用いられます。これらの主として薬物治療を行う疾患群と主として手術治療を行う疾患群の間には,治療の過程で薬物治療を継続するか手術に踏み切るかの選択を迫られる多くの例をしばしば経験します。緑内障の治療では,薬物による眼圧下降をまず試み,十分に眼圧を下げられないときに手術が一般に選択されます。しかし複数の抗緑内障薬を用いて眼圧が何とかコントロールできてはいるものの,中毒性角膜症で角膜の状態がきわめて悪化している症例を経験します。このような症例では,たとえ薬剤で眼圧がコントロールできるとしても,良好な視機能を維持するためには思い切って外科的に手術を選択すべきかもしれません。角膜感染症の治療でも,ほとんどすべての症例で,適切な薬物を第一選択として治療を開始しますが,抗菌薬や抗真菌薬などの投与量を増やしても種類を増やしても角膜潰瘍が鎮静化しない症例があります。薬剤の過剰投与による角膜への影響や全身的に肝臓や腎臓への影響を考えたとき,思い切って治療的角膜移植術を行い,感染巣を除去することも考慮しなければなりません。感染などの炎症のある眼に対する角膜移植術は禁忌であると教科書的には述べられていますし,私たちも一般には炎症眼に対して角膜移植を行いません。薬物治療継続によるリスクと手術治療による利点を天秤にかけながらいつ手術に踏み切るかということを判断するのは,治療の過程できわめて重要です。
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