作業療法ジャーナル 54巻8号 (2020年7月)

増刊号 精神科作業療法

刊行にあたって 岩根 達郎
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 1974年(昭和49年)に精神科作業療法が診療報酬化してから半世紀が経過しようとしている.この間,精神科医療・保健福祉を取り巻く環境は大きく変化し,作業療法が果たすべき役割も,実践内容も,それに応じた変化を求められている.

 今世紀に入ってからは2004年(平成16年)9月に策定した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」において,「入院医療中心から地域生活中心」という理念が明確にされ,さまざまな施策が行われ,OTもそこに関与してきた.2018年度(平成30年度)からスタートした厚生労働省の「第7次医療計画」には,5疾病として精神疾患も明記された.メンタルヘルスという言葉も広く国民が知る言葉となり,人が生きていく中で,心の健康がとても重要なものであるとの認識が普及してきた.

第1章 総論

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はじめに

 精神の病や障害は人類の誕生と共にあり,身体の病や障害のように目に見えないため,人々は,精神の病や障害を,魂,霊魂,憑き物,霊媒,祟り,霊,守護霊,生き霊,霊能等,正体がわからない怪しい不思議な力をもっているものとの関連が深いと捉えていた.

 精神の病や障害に対する記述は,紀元前1550年ごろに記されたエジプトの医学パピルス,エーベルス・パピルスで,現在はドイツのライプツィヒ大学図書館に収蔵されている.その医学パピルスのBook of Heartsと呼ばれる章に,うつ病や認知症のような精神障害についての詳述がみられる.その医学パピルスによると,古代エジプトでは精神を肉体と同じように捉えていたことがうかがえる.

 わが国でも,奈良時代の『養老律令』(718年)に記録が残されており,それによると,精神障害は「癲狂」と呼ばれ,人道的に保護されていたようである.精神障害は,平安時代には「物狂い」,江戸時代には「きちがひ」,「乱気」,「乱心」といった言葉が使われている.杉田玄白が『解体新書』(1774年)で初めて用いた「神経」という言葉は,明治以降に西洋医術が普及してから広く使われるようになった.

 現在,世界的に広く使われている精神障害という言葉は,「精神の病」,「心の病」ともいわれるが,本格的に研究がされるようになったのは19世紀に入ってからである.

 その処遇や治療も,初期には催眠療法から始まり,精神分析,認知行動療法,自律訓練法と催眠,暗示から派生した手法が主で,1950年代の精神薬の開発により投薬治療が次第に主流となっている.動向をざっくりと振り返り,これからの精神科作業療法はどうあればいいかを考えてみよう.

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はじめに

 「理学療法士及び作業療法士法」1)において“「作業療法」とは,身体又は精神に障害のある者に対し,主としてその応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため,手芸,工作その他の作業を行なわせることをいう”と定義されている.日本作業療法士協会(以下,OT協会)では,作業療法における最近の対象者の広がり,対象者にとっての意味ある作業を提供していく使命等が強調され,2018年(平成30年)5月26日の社員総会において,新しい定義「作業療法は,人々の健康と幸福を促進するために,医療,保健,福祉,教育,職業などの領域で行われる,作業に焦点を当てた治療,指導,援助である」が承認された2).2つの定義から,作業療法は作業に焦点を当て,対象者の応用的動作能力や社会的適応能力の回復や促進を図るため,援助,指導を行うものといえる.

 本稿では,近年の精神保健医療福祉の歴史的変遷からの学びを整理し,上記の定義も踏まえ,これからの精神科領域においてOTが果たすべき役割を,いくつかの視点で考察する.

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はじめに

 「智に働けば角が立つ.情に棹させば流される.意地を通せば窮屈だ.兎角にこの世は住みにくい」夏目漱石の『草枕』冒頭よりの引用である.いろいろな解釈があるようだが,いわゆる「知・情・意」のバランスの難しさを指しているのではないだろうか.人は生まれてから死ぬまで,このバランスの中で右往左往して一生を終える.

 心の健康とは,どういう状態を指すのだろうか.病気にならないこと(?)とすると,心の病気とは,どういう状態なのか.「DSM-5」,あるいは「ICD-10」等の診断基準に該当する者が病気と診断されるが,その境界線は明確なものではなく,人はその線をまたいで連続的に分布する.医学モデルに基づけば,その線の向こう側は治療対象となり,診療ガイドラインにしたがって治療を行う.「こちら側は病気ではないので,お引き取りいただく」というわけにもいかず,苦しんでいる人を診察室で目の前に見た場合,うつ病を満たさないなら,適応障害と診断をつけて,何とかその苦痛を軽減できないかと思い悩む.一方,幻覚妄想状態の患者さんを見ると,幻覚妄想をとるため抗精神病薬を飲んでもらう.幻覚妄想はとれても,患者さんの顔は浮かない.PANSS(Positive and Negative Syndrome Scale)1)は大幅改善だが,こちらはすっきりしない.精神症状の改善だけでは,治療をしている実感は得られない.

 医療の現場では,リカバリーという用語が曖昧な概念のもとで用いられている.大きく,客観的な症状や社会機能レベルでの回復を意味する「クリニカルリカバリー(clinical recovery)」と,主観的な満足感を反映する「パーソナルリカバリー(personal recovery)」に分けられるが,両者は必ずしも相関しない.社会機能レベルが向上すれば満足感が得られるか,というと必ずしもそうではない2).治療者は得てして前者に目が行きがちだが,患者さんにとってより重要なのは後者であろう.近年は,疾患にかかわらず社会機能レベルは認知機能との関連性が示唆されているが3,4),主観的満足感は認知機能より感情的側面による影響が大きい.さらに,主観的満足感に寄与する要因については個人差が大きく,相対的な概念であり,基準の経時的変化や環境の影響,薬物による副作用等,さまざまな要因が絡むため,正確に評価するのが難しい.

 個人的な要因としては,レジリエンス5),一般的因果律志向性6),敗北者的信念(defeatist belief)7)等が関連している.敗北者的信念とは,“成功確率を過少に見積もる”,わかりやすくいうと,“何をやってもどうせうまくいかない”とネガティブに思い込む傾向を指す.敗北者的信念の評価に用いられるDAS(The Dysfunctional Attitudes Scale)は,日本語版の信頼性,妥当性の検証が2007年(平成19年)に行われている8).Grantら9)は,これまで認知機能障害と陰性症状,社会機能低下との関連性が,研究によってばらつく要因として,敗北者的信念が認知機能障害と陰性症状や社会機能低下との間の介在因子として,その一因となっていることを実証した.たとえば,統合失調症患者さんの場合,認知機能障害のために,児童期より学校等で失敗体験を繰り返すことで,次にも同じように失敗をすることを予測し,思考の転換がうまくできないと,そういう思いが信念として身につくこととなる.何かをすれば失敗すると考えれば,何もする気は起きなくなり,社会機能が低下するばかりか,主観的満足感もそがれる可能性がある.社会機能と主観的満足感の関連性においても,敗北者的信念や体験的陰性症状は調整因子として影響を及ぼしている可能性がある.すなわち,敗北者的信念が強い人は,社会機能レベルが高くなっても主観的満足感の向上につながらない,といったことはありそうである.敗北者的信念,体験的陰性症状は,社会機能レベルばかりでなく,主観的満足感の向上につながる鍵概念として,重要な治療ターゲットと考えてよいのだろうか.しかし,そもそも認知機能障害が要因となって継時的に敗北者的信念が強化されてくるとしたら,もっと早期に介入することで,社会機能や主観的満足感の低下を止められるのではないだろうか.

 一方,個人的要因の他,主観的満足感は,たとえば少し前の自分や,周囲の人たちとの比較等,相対的関係性によって変化する.そのため,患者さんを取り巻く生活環境やその変化に十分注意を払う必要があるが,一人の治療者ではとても手が回らない.多職種連携による,医療モデルを超えた包括的な支援体制は,患者さんの主観的満足感を視野に入れた場合には必須のものとなる.

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はじめに

 世界保健機関(WHO)による「国際疾病分類第11版」(ICD-11)は,2018年5月に施行版が公表され,2019年5月の世界保健機関(WHO)総会で承認された.2022年の発効が予定され,現在準備が進められている.そのうち精神科領域である“06 Mental, behavioural or neurodevelopmental disorders”(精神,行動または神経発達の症群)では,各診断項目のコードとカテゴリ名,簡易な記述,特定用語,除外診断がweb上1)で公表されており,また一部のカテゴリについては診断ガイドライン案も提示されている2).日本精神神経学会は,フィールドスタディへの参加等,ICD-11の作成に全面的に協力するとともに,病名の日本語訳(日本語病名)を作成している.本稿では精神科領域におけるICD-11の特徴およびICD-102)からの主要な変更点3)について述べる.

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はじめに

 米国精神医学会(American Psychiatric Association:APA)は,2013年5月に精神疾患の診断分類体系であるDiagnostic and Statistical of Mental Disorders(DSM)の第5版1)(DSM-5)を発表した.前回の改訂版(DSM-Ⅳ,1994年)以来,19年ぶりの改定となり,数多くの改訂がみられた.ここでは自閉スペクトラム症の新設,双極性障害の独立や物質使用障害の再編等,従来の診断カテゴリーから大幅な変更が施された部分を中心に概説する.

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地域包括ケアシステムとは1)

 団塊の世代が75歳以上となる2025年に向け,単身高齢者世帯や高齢者夫婦のみ世帯,認知症高齢者の増加が予測される中,高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで,可能なかぎり住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,図 11)の地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築が重要な政策課題となっている.

 人口は横ばいだが75歳以上人口が急増する大都市部,75歳以上人口の増加は緩やかだが人口は減少する町村部等,高齢化の進展状況には大きな地域差が生じている.そこで地域包括ケアシステムは,保険者である市町村や都道府県が,地域の自主性や主体性に基づき,地域の特性に応じてつくり上げていくことが求められている.

第2章 時期別の作業療法

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はじめに

 精神病床の平均在院日数は2018年(平成30年)末の報告では274.7日とされ,10年間に52.5日短縮したものの,全病床の平均29.1日と比較すると極端に長い1).一方で新規入院患者の入院期間は短縮傾向にあり,約90%が1年以内に退院している1).スーパー救急病棟や急性期治療病棟では3カ月以内の退院が目指されやすく,作業療法においても長期在院者に加えて急性期の短期入院患者を対象とする機会が増えている.しかし,退院した患者の再入院率は退院後6カ月時点で約30%,1年時点で約37%と高い水準にあり1),短期入院治療の充実と再発・再入院予防,地域移行・定着に向けた支援が求められる.本稿ではこうした動向を踏まえつつ,統合失調症患者に対する短期入院治療を想定した作業療法のあり方を述べる.

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はじめに

 精神科救急病棟では,幻覚・妄想,興奮,錯乱等の状態で入院するため,非自発的入院として,対象者自身は自分の意思とは無関係に入院に至っているケースが多く存在することを念頭に置いておく必要がある.

 筆者が精神科救急病棟での作業療法に従事する中で,日々の流れの早さに困惑することが多々ある.それはただ短期入院という客観的時間だけの問題ではなく,対象者の状態の変化,疾患の多様性,従事するOTが専属ではなく兼務となっており常に病棟の状況を把握できない等,さまざまなことを要因とした主観的時間の早さが考えられる.これらは従来の画一的な集団プログラムを淡々とこなしているだけでは解決することはなく,目の前の対象者個々に合わせたかかわりや作業療法を提供しないと解決しないことが経験の中でわかりはじめている.宇田1)は,集団プログラムに参加し,精神機能・身体機能・生活能力等の向上,改善を図ることも重要だが,病状が改善したからといって退院後の地域生活や就労が円滑に進むわけではないと述べている.本稿では,これからの精神科救急病棟での作業療法の役割と課題について,事例を通してまとめたい.

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はじめに

 回復期・維持(生活)期をどのように定義するかは大変難しい.そして,対象者がどこで生活しているのか,という点でも,さまざまな状況があると思われる.「回復期・維持(生活)期の対象者は安定しており,生活の質や幅を広げる支援が中心となる」ともいえない.環境要因で容易に急性状態に陥ってしまう状況を,われわれは何度となく経験してきている.

 ここでは,この不安定な要素も加味しながら,病院から地域へ支援する作業療法と,地域生活を訪問で支援する作業療法の2つに分けて,作業療法の目的と実際を,事例も含めて紹介する.

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はじめに

 岡山県精神科医療センターは,一般的な精神医療に加えて,急性期治療,児童思春期治療,司法精神科治療等の機能をもつ病床数252床の精神科病院である.当院は,積極的な薬物療法を行うとともに,多職種チームを組んで対応することで早期の退院を目指しており,2018年度(平成30年度)の病院全体の平均在院日数は56.9日(司法入院棟を除く)であった.3カ月以上の入院が必要な対象者は,重度・慢性入院棟にて加療を継続している.筆者は2年前よりその重度・慢性入院棟を担当している.

 本稿では,当入院棟のかかわりが奏効した事例を紹介した後,入院が長期化する要因の考察,および治療抵抗性統合失調症への積極的な薬物療法であるクロザピン(商品名:クロザリル錠)服用者に対する多職種協働の取り組みや,地域への伴走支援の実際,併存問題の評価や対処,難渋している課題等を述べる.長期化する事例は複雑で,いまだ課題は山積状態だが,ありのままをお伝えしたい.なお,文中に紹介する事例は,複数の類似のエピソードを組み合わせた架空事例である.また,本稿の報告にあたり,当院倫理審査委員会の審査を受けている.

第3章 疾患別の作業療法

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はじめに

 近年,わが国の保健医療福祉分野において依存症対策は急速に進んでいる.例を挙げると,依存症対策総合支援事業,アルコール健康障害対策基本法,再犯防止推進計画における薬物依存を有する者への支援(刑の一部執行猶予制度等),第五次薬物乱用防止五か年戦略,ギャンブル等依存症対策推進基本計画等がある.ゲーム依存症についても,厚生労働省にて,ゲーム依存症対策関係者連絡会議が開催されている.

 また,診療報酬制度で依存症に特化したものとして,重度アルコール依存症入院医療管理加算,依存症集団療法等があり,必要な職種としてOTも明記されている.

 依存症は脳機能障害であり,慢性疾患に位置づけられ,老若男女問わず,多くの身体疾患や社会問題とも複雑に絡み合っている.しかし,潜在者数に対して適切な治療支援を受けている者の数は大変少ないともいわれる.

 本稿では,こうした背景のもと,OTはどのように依存症を理解し作業療法を提供すればよいのか,そのポイントについて筆者の見解を述べる.

2 統合失調症 森元 隆文
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はじめに

 統合失調症は,本邦の精神科通院患者の16%,同入院患者の51%を占める(平成29年厚生労働省患者調査),作業療法の主な対象疾患である.本稿では,統合失調症の疾患概論と作業療法実践について述べる.

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はじめに

 World Health Organization(2012)による調査1)では,うつ病(major depressive disorder:MDD)は2023年にはすべての疾患におけるdisability adjusted life year(DALYs)の1位になると予測されている.さらに,MDDは再発率の高い精神疾患であることが報告されており,2003年より全米で実施されたSequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression(STARD)による大規模臨床試験では,MDD患者に対して薬物療法や精神療法等を段階的に複数併用しても,約1/3の患者は寛解しなかったことが明らかになった2).また,うつ病治療では他疾患との鑑別の重要性が指摘されており,特に双極性障害(bipolar disorder:BP)との鑑別診断は最も重要である.MDDの外来患者に対して,あらためて構造化面接を施行したAkiskalら3)の研究では約6割が双極Ⅱ型障害であったと報告し,また,Goldbergら4)の報告では,MDD患者を対象とした15年間の縦断的調査においても,約4割の患者に躁病エピソードもしくは軽躁エピソードが認められた.診断が適切に行われなければ,治療ガイドライン5,6)に基づいて適切な薬物療法や精神療法,リハを行ったとしても効果は期待できない.また,MDDやBPには不安障害7)やパーソナリティ障害8),発達障害9)の併存が指摘されるようになり,その他にも長期間にわたって寛解に至らない患者も多く,治療の妥当性の検証が年々重視されている.

 うつ病治療では,通常の治療に反応せず,なかなか寛解しない,もしくは回復に至らない患者を,一般的には“難治性うつ病もしくは治療抵抗性うつ病(treatment-refractory depression or resistant depression:TRD)”と見なす10,11).しかし,TRDの背景にはさまざまな要因が関連しており,治療抵抗性,治療不耐性,偽難治性の側面を考慮しなければならず,その病態には,薬物療法,診断,併存疾患,重症度,心理社会的要因,治療アドヒアランス等,数多くの要因が関与している12,13).したがって,従来の治療では効果が認められないからといって,すべての患者がTRDであるとはかぎらない.

 これらの研究が報告される中,2013年に改訂された「精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition:DSM-5)」14)では,気分障害の分類が解体され,「抑うつ障害群」と「双極性障害および関連障害群」は独立した分類となった.しかし,2015年に改訂された「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, 11th Revision:ICD-11)」15)では,MDDとBPの分類はDSM-5に同調した内容になっているが,気分障害(症)の項目は解体されておらず,これらの議論は現在も続いている.

 本稿ではDSM-5とICD-11の分類を踏まえたうえで,MDDとBPを中心に,気分障害に対する作業療法の意義と治療について解説する.

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神経症性障害の疾患概論

1.精神病性障害の歴史的変遷

 長く精神医学で用いられてきた神経症という病名は,DSM-51)やICD-112)では採用されておらず,DSM-5では不安症群(恐怖症,不安症),強迫症および関連症候群,心的外傷およびストレス因関連障害群,解離症群,身体症状症および関連症群に,ICD-11では,不安または恐怖関連症群,強迫症または関連症群,ストレス関連症群,解離症群,身体的苦痛症群または身体的体験症群(という案)に分類されている.

 歴史的には,器質性疾患や内因性疾患(統合失調症や気分障害等)ではない心因性疾患が神経症とされていた.精神分析の創始者であるFreudは,「無意識の葛藤が原因となる」,「(精神病に比べて)現実検討に影響がないレベルの精神疾患」という病因論や病態水準論の視点から神経症を定義した.長くこの考えが採用されていたが,診断の信頼性を高めるために明確な基準を設定した操作診断が登場したことや,脳科学の発展で神経症のいくつかの疾患において生物学的要因の解明が進んだことで,DSM-ⅢやICD-10からは精神病と神経症という二分法は用いられなくなった.それでも,ICD-10等では神経症性障害という病名は採用されていたが,DSM-5およびICD-11では神経症という分類は用いられなくなった.

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はじめに

 皆さんは,街で過度にやせ,今にも倒れそうになりながら歩いている女性を見かけたことはあるだろうか.日本も欧米の文化の影響を受け,SNSやメディアを通してダイエット関連グッズの広告を目にしない日はない.また「クレプトマニア(窃盗症)」について取り上げられた記事を読まれたことはないだろうか.そうした方々の中には「摂食障害=eating disorder:ED」(機能的な摂食障害と区別するため,中枢性摂食異常症とも呼ばれている)を患っている方が一定数おられ,近年では精神科外来をはじめ,心療内科,クリニック,小児科等において受診が増加傾向にある.

 では,「摂食障害」と聞いて,どのような症状を思い浮かべるであろうか.食事をうまくとることができない症状をもちあわせており,慢性化すれば治りにくく,最悪の場合死に至ることもある疾患であることはご存知かと思う.体重や体型に強いこだわりをもち,体重が増加し体型が変化することに対し極度の不安・恐怖を抱き,体重が増加することを防ぐために食事量の制限,自己誘発性嘔吐,下剤・利尿薬等の医薬品の乱用,絶食や過剰な運動といった行動を認める疾患である.

 厚生労働省が運営する「みんなのメンタルヘルス総合サイト」1)によると,摂食障害全体は1980年から20年間で約10倍の増加がみられ,特に1990年代後半の5年間だけで,神経性やせ症(anorexia nervosa:AN)は4倍,神経性過食症(bulimia nervosa:BN)は4.7倍と急増しているという.医療機関に進んで訪れるのは一部であるため,実際はもっと多いと推定される.その背景には欧米文化の「やせ」が礼賛され,「やせ」への憧れが助長されてきた影響が考えられる.現在の臨床場面では,精神障害や発達障害の併存等,摂食障害の病態はより多様化し複雑になっている.

 ここまで「摂食障害」と表記してきたが,一方で「摂食症」2)という名称についても少し触れておくことにする.世界保健機関(WHO)の「国際疾病分類」が約30年ぶりに改訂され,最新版のICD-11が導入される予定である.その際の日本語表記として従来の「摂食障害」をやめて「摂食症」が採択される見通しであるようだ.野間2)は,“「摂食障害」という名称について,その病をもつことの苦しみがこれっぽっちも伝わらず,「食行動が障害されている」という事実を述べたに過ぎない.それに対して「摂食症」なら,より日常語に近いため,食事が乱れながらもそれを抱えて生きている患者自身の姿が透けて見えそうな気もする”と述べている.その点では,OTも病がありながら,自分らしく人生を歩む方の日常生活のサポートをする立場として,「摂食症」という名称に一票いれたいところだ.ただ,本稿では,共通理解のためにも,あえて「DSM-5」(The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed)3)を基に「摂食障害」の呼称を使用する.

 OTも,医療機関をはじめ,高齢者施設,療育の現場,就労の場,行政,災害現場等,さまざまな分野で国境をまたいで活躍する職種の一つとなった今,「摂食障害」という疾患についても知識を深めておきたい.

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診断名とその本態

 広汎性発達障害(pervasive developmental disorders:PDD)とは,いわゆる“自閉症”を指すICD-10〔International Classification of Disease:疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版(2016)註1)〕での診断名である.この同じ疾病に対してDSM-Ⅴ〔Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:精神障害の診断と統計マニュアル第5版(2013)〕では自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)という名称をつけている.

 2つの診断名があると,疾病の内容に違いがあるような印象を受けるが,分類体系が異なるだけで,両者がカバーする範囲には大差がない.PDDは小児自閉症,アスペルガー症候群,特定不能の群を総称する上位概念になっているが,ASDでは,それらが下位の類型として分類されておらず,それらを一つのものとして内包する概念となっている.スペクトラムという語は「同じ仲間と見なせる」ことを意味しており,多様な類型をとり得るが同じ根をもつ群としてこの疾病を包括的に捉えた診断名といえる.

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はじめに

 筆者は単科精神科病院に勤めている.当院では1985年(昭和60年)から児童精神科外来を開始,2009年(平成21年)から関連クリニックで,「診察場面ではできない精神科作業療法のような集団活動を利用したリハをしてほしい」という医師の依頼により小中学生を対象とした発達教室をOTが立ち上げ,現在は精神科ショートケアプログラムとして月1回多職種で実施している.発達教室終了後は,精神科デイケアの思春期・青年期対象の早期リハコースに移行する方や,精神科(大人)に通院しながら生活している方,短期入院しつつ働いている方もいる.

 近年,発達障害に限らず,児童から成人への途切れのない支援が課題とされているが,本稿では広汎性発達障害の方々(児童と成人)への当院の実践について紹介する.

第4章 精神科作業療法のフィールド

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 外来作業療法,精神科デイケア両者ともに外来者を対象とした,病院等の精神科医療機関で実施されているリハ機能である.外来者が利用できるリハとしては同じと考えてもよい.精神科作業療法の枠組みであるか,精神科デイケアの枠組みであるかの違いである.本来は提供するサービスに大きな違いはないが,運用によってはさまざまなかたちでのサービスが提供可能となる.基本的には精神科作業療法でできて,デイケアでできないことはない.デイケアでできて,精神科作業療法でできないこともないと考えていい.やりにくいことはあるかもしれないが,基本的には「どう運用するか」で解決することができる.一方で,より,その構造や機能を活かし,最大限の効果を対象者へ提供するためには,両者のポジティブな側面を活用することが重要である.

 精神科医療機関におけるリハは,それぞれの所属機関のスタイルや地域からの要請等によって,さまざまな役割が期待されて存在している.どういった役割であれ,リハ施設としては,対象者が「いい感じに生きる」ことに役立つものでなければならない.対象者の主観的幸福について真摯に向き合うこと,正しいことばかりではない精神科医療に対してそれを自覚し,誠実にモニタリングし,必要なものは改善に向けて動き続けることが重要だと筆者は感じている.人は慣れることができる生物であり,OTも習慣化することで日々の作業(業務)を容易に行えるようにもなる.しかし,ともすれば無批判にルーティン業務を実施することにもなってしまう.自分が作業療法として実施していることが,何につながりどうなっていくのか,患者さん個人だけでなく,組織だけでもなく,これからの精神科医療の未来を考えていく中で,どのようにしていくべきなのかのモニタリングとメンテナンスを欠かしてはならない.

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はじめに

 2004年(平成16年)に策定された精神保健医療福祉の改革ビジョンでは,「入院医療中心から地域生活中心へ」のスローガンのもとに,長期在院患者の地域移行・定着が推進されてきた1).すでに1960年代に脱施設化が進められた米国や英国では,精神障害者の地域生活を支えるためのコミュニティケアが発展しており,中でも訪問支援が精神障害者の再入院を抑制し,臨床状態を改善するとして普及している2,3)

 米国では1970年代に,最重度の精神障害者に対して多職種チームが積極的に訪問するAssertive Community Treatment(ACT)が開始された4).ACTでは医療や生活支援等の包括的サービスが提供され,訪問頻度,職員構成,利用者の参入基準等を示したフィデリティが存在する.英国においても1980年代後半にACTが取り入れられた5).さらに英国では早期介入チーム,在宅治療チーム,積極訪問チーム等に機能分化した訪問チームの設置が推進され6),2009年時点で約700チームが設置された7)

 本邦では精神科訪問看護(以下,訪看)がコミュニティケアの中心を担ってきた.訪看にはフィデリティや機能別チームはなく,多様な患者層に幅広いケアを行う特徴がある8,9).訪看は,看護師(以下,Ns)の他,OT,精神保健福祉士(以下,PSW)が実施できるが,多職種チームによる訪看は十分普及していない10).そのため訪看におけるOTの役割や多職種連携の方法について,職種間でコンセンサスが得られていない可能性がある.そこで本稿では訪看について概説したうえで,訪看におけるOTの役割と多職種との連携方法を検討する.

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はじめに

 わが国の自殺率の高さは,いうまでもなく深刻な社会問題の一つである.精神科領域だけにとどまらず,地域を含めどの分野でも自殺未遂者や自傷経験者に出会う可能性はあるのだが,「かかわるのに躊躇する」,「どう接したらいいかわからない」という悩みをしばしば耳にする.「自殺」,「自傷」という言葉に特殊性を感じ,触れてはいけない,触れるのが怖いと感じているのかもしれない.

 本稿では日本の自殺・自傷の現状を大まかに示した後に,われわれが行っている研修会の紹介を通じて,OTの現状や対応のヒントを述べたい.また当院での取り組みや事例をお伝えし,今後の臨床の足がかりとしていただきたい.

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はじめに

 2005年(平成17年)に施行された「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下,医療観察法)は,15年の節目を迎えている.筆者らはこれまで複数の施設にわたって多職種チームの一員として臨床に従事してきた.本稿では,医療観察法における作業療法を概観するとともに,筆者らが臨床の中で出会ってきた対象者やチームのスタッフ,全国のOTに教わったことも含めて述べたい.

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はじめに

 2005年(平成17年)7月,「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下,医療観察法)の施行に伴い,指定医療機関(入院・通院)にOTが配置されるようになり,司法領域における精神科作業療法が本格的に展開されるようになった.いわゆる触法精神障害者に対する社会復帰の促進のための取り組みである.

 この動きから2年後の2007年(平成19年)に監獄法が廃止され,「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」が現名称の「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」(以下,刑事収容施設法)に改正された影響もあり,刑務所等の矯正施設においては,OTが非常勤職員(外部講師等)として,受刑者の社会復帰に関与してきた.そして,2019年度(令和元年度)から,いくつかの刑務所等の矯正施設において,常勤OTの採用が開始されはじめている.矯正施設においては,さまざまな疾患や障害を抱える受刑者の多様化や高齢化等の課題があり,常勤OTの採用の動きは,その対策でもある.OTによる効果的なかかわりが期待されているのである.

 筆者は,民間の精神科病院での勤務経験を経て,法務省の保護観察所において社会復帰調整官として医療観察対象者にかかわり,現在は,保護観察官として保護観察対象者にかかわっている.

 本稿では,「刑事司法・触法領域の作業療法」として,まず,刑事司法手続きの流れと各領域の作業療法の対象や状況を確認する.そのうえで,刑務所等の矯正施設におけるOTの取り組みに焦点を当てて展開したい.また,矯正施設出所後の更生と地域生活の支援を担う保護観察所において,筆者のようにOTの保護観察官が誕生していることにも触れることとしたい.なお,本稿における意見に関する部分は筆者の私見である.

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はじめに

 現在,施行されている「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(以下,障害者総合支援法)の成立までの流れ,法律のポイント,その中でOTがどのように活躍しているかについて説明していく.

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はじめに

 筆者(金川)は,精神科医療法人にてOTとして,精神科デイケア3年,就労移行支援事業所11年,現在は再び精神科デイケアに勤務している.この間,医療から働く職場まで,就労支援にかかわる現場をおおむね経験をしてきた.精神障害者を取り巻く一般就労の状況がここ10年で大きく変化していることは,筆者だけでなく,臨床にかかわる人間の多くが感じていることである.担当している方から「働きたい」という気持ちを聞いたとき,「病状が悪くなるからやめておいたほうが……」と言っていた時代から,「どうやったら実現できるだろう」と共に考える時代へと変わった.すべてがそうとはいかないかもしれないが,当事者自身が前向きに考えることができるようになり,OT自身もそれに前向きに向き合うことができるようになった.この背景には,ダイバーシティー等,社会情勢の変化,制度や施策の拡充,社会資源の増加,支援技術の向上等,さまざまな要因が重なり合って,急速に変化を遂げてきたことがある.先述したことに触れながら,精神障害者の就労支援の実際を説明し,OTに何ができるのかを述べたい.

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はじめに

 精神科に限らず,作業療法の対象者には合併する疾患が複数になることは少なくはなく,そのような状態を複合慢性状態(multiple chronic conditions)と呼ぶ1).病院や専門職の機能分化が加速する今,このような複数の疾患を合併する患者に対する連携のモデルを図 1のように捉えることができる.縦列モデルは優先度の高い問題(疾患から)から順次専門的対応を行い,並列モデルは複合的な問題に対し,専門的な対応が同時進行する2).OTが出会う対象者の多くは,心理面,身体面のいずれかのみの障害ではない.本稿で述べる複合疾患のある人への対応を意識し,チームで,場合によっては1人で並列モデルによりかかわることもある.本稿では,精神疾患,身体疾患いずれか,あるいは両方に複数の疾患が重なる事例の作業療法についてまとめる.

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はじめに

 竹田綜合病院精神科(以下,当科)は,2007,2008年度(平成19,20年度)に厚生労働省障害者保健福祉推進事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト),2009,2010年度(平成21,22年度)に福島県精神障がい者地域生活移行特別対策事業を受託し,地域移行支援活動を行い,248床の精神科病床を,病院建て替えを契機に144床までに削減した.この活動を通し,市町村や保健福祉事務所,グループホーム(以下,GH)等の福祉関係者,相談支援事業所,就労支援関係者等との協働関係,ネットワークを構築することができた.この取り組みは以後,2014年(平成26年)に会津精神保健福祉連絡協議会にて保健医療福祉の連携強化を目的とした精神保健福祉に関するワーキンググループへと発展した.地域生活患者が増えれば当然,救急のニーズも増大するため,会津地域における精神医療の基幹病院として会津若松市の24時間相談支援事業,県の精神科救急情報センター等との連携のもと,24時間365日救急体制を確立した.また,二次医療圏である会津・南会津地方において,身体合併症を有する精神科患者の受け入れを行っている.2013年(平成25年)に福島県より当院は認知症疾患医療センターの指定を受け,会津地域の中核病院として急性期の認知症患者を受け入れている.院内の緩和ケアチームに精神科医師・公認心理師も所属している.2016年度(平成28年度)からは当院が立ち上げた精神科コンサルテーション・リエゾンチーム(以下,精神科CLT)に加わり,活動を開始した.総合病院の特徴を活かし,精神疾患と身体疾患を合併した患者にも十分に対応できる体制になっている.今回は,急性期から退院を念頭に置いたリハについて,リハ部,精神科,こころのリハ課,精神科CLTの取り組みを紹介する.また,精神科CLTでかかわった患者を通じて,当院の精神科作業療法に求められる役割を述べる.

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はじめに

 災害は忘れたころにやって来ると先人たちは戒めとして慣用句を残しているが,近年の地震・台風や豪雨による被害等の発生状況を考えると,災害はわれわれにとっては忘れる暇などないほど身近で,日常生活に切実で多大な影響を直接的に及ぼす存在であり,災害時の医療体制をいかに支援するかは重要な課題である.本稿執筆中の2020年(令和2年)3月現在も,新型コロナウイルスの感染が,全世界においてその猛威を振るい,混乱を招いている状況下にある.

 本稿では,災害派遣精神医療チーム(disaster psychiatric assistance team:DPAT)について概要とその意義を述べ,筆者の経験からDPATにOTがかかわることの意義と価値を考えてみたい.

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はじめに

 2020年(令和2年)春は新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により,私たちは活動制限を余儀なくされた.日常生活や仕事に大きな影響を受け,今後経済的な不況も含めて,深刻な状況に直面することが予想される.今回の新型コロナウイルス感染症のような災害では,日本全国すべての人が被災者となるが,局所的な地震や噴火,風水害等の大災害時は,その地域で生活している人であれば医療福祉等の従事者も含め,程度の差はあれ被災者となる.原発事故後の放射線や新型コロナウイルス感染症等に対するこれまで経験したことのない不安感を軽減することは難しいことであるが,災害時にも自身や家族の日常生活を可能なかぎり維持できるように常日ごろから備えておく必要があると感じている.

 筆者は9年前に東日本大震災と原発事故を経験した地域である福島県浜通りのNPO法人に所属し,精神科訪問看護の業務に携わっている.当法人は「福島県立医科大学心のケアチーム」の活動が前身となり,震災後約1年の2012年(平成24年)1月に開設され,現在は4事業(相馬広域こころのケアセンター,地域活動支援センター,相談支援事業所,訪問看護ステーション)を運営している1).こころのケアセンターは,福島県精神保健福祉協会ふくしま心のケアセンターからの委託業務も含め,仮設住宅や復興公営住宅等の訪問,福祉事業所の支援者支援,各地域のサロン活動,ひきこもり支援(居場所づくりとして「ぼちぼっちサロン」,「チャレンジクラブ」),独居男性向け集団活動(主にアルコール依存症者を対象とする「男性の集い」)等を行ってきている.地域活動支援センターは相談支援事業所も兼ねて,対象者の福祉事業所やサービスの利用計画相談,集団活動等を行っている.筆者の所属する訪問看護ステーションは,通常の精神科訪問看護チームと精神障がい者アウトリーチ推進事業(震災対応型)チームの2つに分かれて業務を行っている.2020年3月現在,法人内には,看護師,保健師,精神保健福祉士,社会福祉士,臨床心理士等,コ・メディカルスタッフ約20名中,OTは2名所属し,こころのケアセンターに1名,訪問看護チームに1名(筆者)配属されている.

 筆者が現在の職場へ入職したのは東日本大震災から5年後の2016年(平成28年)であるが,現地では仮設住宅が少しずつ撤去され,市営住宅や復興公営住宅等へ転居が始められていたころであった.また,震災当時,精神科病院に入院中の方々が県内外に転院を余儀なくされたが,地元への帰還を希望する方を支援するマッチング事業が行われはじめていた.

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はじめに

 日本におけるひきこもり者数は,15〜39歳で約54万人1),40〜64歳で約61万人2)とされ,社会的課題に発展している.ひきこもりとは,さまざまな要因の結果として社会的参加を回避し,原則的には6カ月以上にわたって,おおむね家庭にとどまり続けている状態を指す現状概念である.原則として統合失調症の陽性,あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが,実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきである3)

 精神科領域のOTは,ひきこもり経験者の支援に携わる機会があるが,それは彼らが医療機関を受診し,精神科診断を受けた後である.われわれは,ひきこもりの解消には医療の枠組みを超えた予防的観点からの介入が必要と考え,2016年(平成28年)に京都精神科分野勉強会(SIG)内にひきこもり支援ワーキンググループを設置し,2018年(平成30年)には京都府作業療法士会ひきこもり支援OTチーム(以下,OTチーム)を発足した.

 本稿では,ひきこもりの概論と現状,OTチームの活動実績を報告し,精神科領域のOTがひきこもり支援に従事する機会や方策を検討するための一助とすることを目的とする.

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精神科作業療法とスポーツ

1.スポーツ施策

 1964年(昭和39年)の東京オリンピックを前に,1961年(昭和36年)にスポーツ振興法が制定された.目的(第1条)は,“国民の心身の健全な発達と明るく豊かな国民生活の形成に寄与すること”,スポーツの定義(第2条)は,“運動競技及び身体運動(キャンプ活動その他の野外活動を含む.)であつて,心身の健全な発達を図るためにされるもの”であった.ちょうど,OTが誕生〔1965年(昭和40年),理学療法士及び作業療法士法〕したころであり,精神科作業療法では,すでに卓球,バレーボール,ソフトボール等が行われていた時代である.2011年(平成23年)には,スポーツ振興法が全面的に見直され,スポーツ基本法が制定された.スポーツの基本理念として“幸福で豊かな生活を営むことが人々の権利であることに鑑み,国民が生涯にわたりあらゆる機会とあらゆる場所において,自主的かつ自律的にその適性及び健康状態に応じて行うことができるようにする”とし,さらに“障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう,障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をしつつ推進されなければならない”と,障害者スポーツについても規定された.

 また,スポーツの定義については,スポーツ基本法では“心身の健全な発達,健康及び体力の保持増進,精神的な充足感の獲得,自律心その他の精神の涵(かん)養等のために個人又は集団で行われる運動競技その他の身体活動であり,今日,国民が生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営む上で不可欠のもの”と定義づけしていて,世界大百科事典(第2版)では“スポーツとは,競争を中心とする〈近代スポーツ〉,楽しさを中心とする〈ニュー・スポーツ〉,民族的なアイデンティティや儀礼を中心とする〈民族スポーツ〉,癒しや瞑想を中心とする〈瞑想系身体技法〉,健康を志向する〈体操・ダンス〉,自然との接点を求める〈野外スポーツ〉などの総称である”としている.

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地域社会を「再編集(Re-edit)」する

 地域社会は生きている.筆者は常日ごろからそう感じている.多様な人や暮らしのある地域社会において,ある人の想いから始まったことから,多数の市民が主体的変化を起こしはじめると,ある人の暮らしと価値観が少しだけ変わる.その少しの暮らしの変化を経験した人は,他の人の少しの想いに寄り添うことができるようになり,それが多数の市民の力を駆り立てる原動力となって,別の誰かの暮らしを少し変える力になる.その繰り返しが,多くの価値観や暮らしに影響を与え,その地域で文化として根づいていく.

 また,サステナブル社会の実現に向けた,エシカルでユニバーサルな地域デザインは,多様な住民や地域コミュニティが,自らが抱く「こうあってほしい」という希望に基づき,有機的なつながりを求め,人や物が動き流れる.そこから,新しい価値観や知識が生まれ,人や社会が育つ.地域は,これらの循環を起こし続けている.今ある暮らしや地域社会を壊さずに,新たな価値観や最適性を生み出す.既存の作業を「再編集(Re-edit)」する視点がそこにある.

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はじめに

 障害者総合支援法の「地域移行支援・地域定着支援」という障害福祉サービスの存在は,入院患者にはどのくらい伝わっているのだろう.また,障害福祉サービス事業所・精神科病院・行政等で支援にかかわるスタッフは,そのサービスを入院患者にどのように伝えているだろうか.入院患者自身はどのように受け止め,入院患者自身はそのサービスの対象になっていると実感はあるのだろうか? 入院患者には「退院促進・退院支援」の表現のほうがわかりやすく,なじみもあると思うが,勘違いしてほしくないのは,「このサービスを使わないと,退院できない」ということではないし,このサービスを利用しなくとも退院する人も多くいるということである.このことはお伝えしておきたい.

 実際に入院患者に退院のことを聞いてみると,「住み慣れた家の生活に戻りたい」,「20年も入院したKさんが退院したので自分も退院したい」,「戻る家がないけれど,退院できるの?」,「グループホームってどんなところ?」,「一生,精神科病院に入院していたい」,「家族に反対されて,退院は難しい」と,おのおのの思いを吐露してくれる.それらの言葉は,同じような経験をしているピアサポーターによって導き出されることも多い.ピアサポーターは,支援過程でわれわれ支援者の協働者でもある.

 本稿では退院意欲の有無や入院年数の長さにかかわらず,すべての入院患者が「地域移行支援・地域定着支援」の対象者であることを前提とし,医療と福祉が協働で取り組む体制整備やピアサポーターと協働した支援についてお伝えしたい.

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目次

次号予告

編集後記 長野 敏宏
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 精神保健医療福祉の「改革」が叫ばれて久しい.2004年(平成16年)9月に出された「精神保健医療福祉の改革ビジョン」からの話ではない.日本でも世界でも,ずっと以前から,その方法また方向性もさまざまであるが,改革がスタートしては頓挫したり,大幅に見直したりすることが繰り返されている.その中でも,日本の「改革」は残念ながら遅れていると言わざるを得ない.しかし,理想郷をモデルに取り組もうとしても,真に「精神疾患を患っても安心して暮らし続けられる社会」をつくり上げられた地域は世界中に存在しない.

 2019年,10年ぶりにイタリア北部の4州を訪ねる機を得たが,決して理想郷とは思えなかった.この分野では,現在,もしくは将来もずっと,それぞれが生きる場所で,その時のベストを尽くし続けるしかないと確信している.その中で,日本の作業療法の“今”をまとめた増刊号を,岩根達郎先生の多大なるご尽力で発刊することができた.感謝申し上げたい.

基本情報

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作業療法ジャーナル
54巻8号 (2020年7月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0915-1354 三輪書店

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