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はじめに
World Health Organization(2012)による調査1)では,うつ病(major depressive disorder:MDD)は2023年にはすべての疾患におけるdisability adjusted life year(DALYs)の1位になると予測されている.さらに,MDDは再発率の高い精神疾患であることが報告されており,2003年より全米で実施されたSequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression(STAR*D)による大規模臨床試験では,MDD患者に対して薬物療法や精神療法等を段階的に複数併用しても,約1/3の患者は寛解しなかったことが明らかになった2).また,うつ病治療では他疾患との鑑別の重要性が指摘されており,特に双極性障害(bipolar disorder:BP)との鑑別診断は最も重要である.MDDの外来患者に対して,あらためて構造化面接を施行したAkiskalら3)の研究では約6割が双極Ⅱ型障害であったと報告し,また,Goldbergら4)の報告では,MDD患者を対象とした15年間の縦断的調査においても,約4割の患者に躁病エピソードもしくは軽躁エピソードが認められた.診断が適切に行われなければ,治療ガイドライン5,6)に基づいて適切な薬物療法や精神療法,リハを行ったとしても効果は期待できない.また,MDDやBPには不安障害7)やパーソナリティ障害8),発達障害9)の併存が指摘されるようになり,その他にも長期間にわたって寛解に至らない患者も多く,治療の妥当性の検証が年々重視されている.
うつ病治療では,通常の治療に反応せず,なかなか寛解しない,もしくは回復に至らない患者を,一般的には“難治性うつ病もしくは治療抵抗性うつ病(treatment-refractory depression or resistant depression:TRD)”と見なす10,11).しかし,TRDの背景にはさまざまな要因が関連しており,治療抵抗性,治療不耐性,偽難治性の側面を考慮しなければならず,その病態には,薬物療法,診断,併存疾患,重症度,心理社会的要因,治療アドヒアランス等,数多くの要因が関与している12,13).したがって,従来の治療では効果が認められないからといって,すべての患者がTRDであるとはかぎらない.
これらの研究が報告される中,2013年に改訂された「精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th edition:DSM-5)」14)では,気分障害の分類が解体され,「抑うつ障害群」と「双極性障害および関連障害群」は独立した分類となった.しかし,2015年に改訂された「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, 11th Revision:ICD-11)」15)では,MDDとBPの分類はDSM-5に同調した内容になっているが,気分障害(症)の項目は解体されておらず,これらの議論は現在も続いている.
本稿ではDSM-5とICD-11の分類を踏まえたうえで,MDDとBPを中心に,気分障害に対する作業療法の意義と治療について解説する.
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