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はじめに
皆さんは,街で過度にやせ,今にも倒れそうになりながら歩いている女性を見かけたことはあるだろうか.日本も欧米の文化の影響を受け,SNSやメディアを通してダイエット関連グッズの広告を目にしない日はない.また「クレプトマニア(窃盗症)」について取り上げられた記事を読まれたことはないだろうか.そうした方々の中には「摂食障害=eating disorder:ED」(機能的な摂食障害と区別するため,中枢性摂食異常症とも呼ばれている)を患っている方が一定数おられ,近年では精神科外来をはじめ,心療内科,クリニック,小児科等において受診が増加傾向にある.
では,「摂食障害」と聞いて,どのような症状を思い浮かべるであろうか.食事をうまくとることができない症状をもちあわせており,慢性化すれば治りにくく,最悪の場合死に至ることもある疾患であることはご存知かと思う.体重や体型に強いこだわりをもち,体重が増加し体型が変化することに対し極度の不安・恐怖を抱き,体重が増加することを防ぐために食事量の制限,自己誘発性嘔吐,下剤・利尿薬等の医薬品の乱用,絶食や過剰な運動といった行動を認める疾患である.
厚生労働省が運営する「みんなのメンタルヘルス総合サイト」1)によると,摂食障害全体は1980年から20年間で約10倍の増加がみられ,特に1990年代後半の5年間だけで,神経性やせ症(anorexia nervosa:AN)は4倍,神経性過食症(bulimia nervosa:BN)は4.7倍と急増しているという.医療機関に進んで訪れるのは一部であるため,実際はもっと多いと推定される.その背景には欧米文化の「やせ」が礼賛され,「やせ」への憧れが助長されてきた影響が考えられる.現在の臨床場面では,精神障害や発達障害の併存等,摂食障害の病態はより多様化し複雑になっている.
ここまで「摂食障害」と表記してきたが,一方で「摂食症」2)という名称についても少し触れておくことにする.世界保健機関(WHO)の「国際疾病分類」が約30年ぶりに改訂され,最新版のICD-11が導入される予定である.その際の日本語表記として従来の「摂食障害」をやめて「摂食症」が採択される見通しであるようだ.野間2)は,“「摂食障害」という名称について,その病をもつことの苦しみがこれっぽっちも伝わらず,「食行動が障害されている」という事実を述べたに過ぎない.それに対して「摂食症」なら,より日常語に近いため,食事が乱れながらもそれを抱えて生きている患者自身の姿が透けて見えそうな気もする”と述べている.その点では,OTも病がありながら,自分らしく人生を歩む方の日常生活のサポートをする立場として,「摂食症」という名称に一票いれたいところだ.ただ,本稿では,共通理解のためにも,あえて「DSM-5」(The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed)3)を基に「摂食障害」の呼称を使用する.
OTも,医療機関をはじめ,高齢者施設,療育の現場,就労の場,行政,災害現場等,さまざまな分野で国境をまたいで活躍する職種の一つとなった今,「摂食障害」という疾患についても知識を深めておきたい.
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