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はじめに
2020年(令和2年)春は新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により,私たちは活動制限を余儀なくされた.日常生活や仕事に大きな影響を受け,今後経済的な不況も含めて,深刻な状況に直面することが予想される.今回の新型コロナウイルス感染症のような災害では,日本全国すべての人が被災者となるが,局所的な地震や噴火,風水害等の大災害時は,その地域で生活している人であれば医療福祉等の従事者も含め,程度の差はあれ被災者となる.原発事故後の放射線や新型コロナウイルス感染症等に対するこれまで経験したことのない不安感を軽減することは難しいことであるが,災害時にも自身や家族の日常生活を可能なかぎり維持できるように常日ごろから備えておく必要があると感じている.
筆者は9年前に東日本大震災と原発事故を経験した地域である福島県浜通りのNPO法人に所属し,精神科訪問看護の業務に携わっている.当法人は「福島県立医科大学心のケアチーム」の活動が前身となり,震災後約1年の2012年(平成24年)1月に開設され,現在は4事業(相馬広域こころのケアセンター,地域活動支援センター,相談支援事業所,訪問看護ステーション)を運営している1).こころのケアセンターは,福島県精神保健福祉協会ふくしま心のケアセンターからの委託業務も含め,仮設住宅や復興公営住宅等の訪問,福祉事業所の支援者支援,各地域のサロン活動,ひきこもり支援(居場所づくりとして「ぼちぼっちサロン」,「チャレンジクラブ」),独居男性向け集団活動(主にアルコール依存症者を対象とする「男性の集い」)等を行ってきている.地域活動支援センターは相談支援事業所も兼ねて,対象者の福祉事業所やサービスの利用計画相談,集団活動等を行っている.筆者の所属する訪問看護ステーションは,通常の精神科訪問看護チームと精神障がい者アウトリーチ推進事業(震災対応型)チームの2つに分かれて業務を行っている.2020年3月現在,法人内には,看護師,保健師,精神保健福祉士,社会福祉士,臨床心理士等,コ・メディカルスタッフ約20名中,OTは2名所属し,こころのケアセンターに1名,訪問看護チームに1名(筆者)配属されている.
筆者が現在の職場へ入職したのは東日本大震災から5年後の2016年(平成28年)であるが,現地では仮設住宅が少しずつ撤去され,市営住宅や復興公営住宅等へ転居が始められていたころであった.また,震災当時,精神科病院に入院中の方々が県内外に転院を余儀なくされたが,地元への帰還を希望する方を支援するマッチング事業が行われはじめていた.
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