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はじめに
精神の病や障害は人類の誕生と共にあり,身体の病や障害のように目に見えないため,人々は,精神の病や障害を,魂,霊魂,憑き物,霊媒,祟り,霊,守護霊,生き霊,霊能等,正体がわからない怪しい不思議な力をもっているものとの関連が深いと捉えていた.
精神の病や障害に対する記述は,紀元前1550年ごろに記されたエジプトの医学パピルス,エーベルス・パピルスで,現在はドイツのライプツィヒ大学図書館に収蔵されている.その医学パピルスのBook of Heartsと呼ばれる章に,うつ病や認知症のような精神障害についての詳述がみられる.その医学パピルスによると,古代エジプトでは精神を肉体と同じように捉えていたことがうかがえる.
わが国でも,奈良時代の『養老律令』(718年)に記録が残されており,それによると,精神障害は「癲狂」と呼ばれ,人道的に保護されていたようである.精神障害は,平安時代には「物狂い」,江戸時代には「きちがひ」,「乱気」,「乱心」といった言葉が使われている.杉田玄白が『解体新書』(1774年)で初めて用いた「神経」という言葉は,明治以降に西洋医術が普及してから広く使われるようになった.
現在,世界的に広く使われている精神障害という言葉は,「精神の病」,「心の病」ともいわれるが,本格的に研究がされるようになったのは19世紀に入ってからである.
その処遇や治療も,初期には催眠療法から始まり,精神分析,認知行動療法,自律訓練法と催眠,暗示から派生した手法が主で,1950年代の精神薬の開発により投薬治療が次第に主流となっている.動向をざっくりと振り返り,これからの精神科作業療法はどうあればいいかを考えてみよう.
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