別冊整形外科 1巻76号 (2019年10月)

  • 文献概要を表示

は じ め に

 大腿骨近位部骨折は,複数の内科合併症を抱えたmultimorbidityな高齢者に好発する.彼らの大多数はフレイルであり1),入院中に誤嚥性肺炎,転倒,せん妄などの多くの合併症を発症する.その対策として,米国ではホスピタリストによるco-managementが広く浸透している2~4).英国では,大腿骨近位部骨折に対して老年専門医が術前評価を行うシステムが確立している5).わが国でも,先進的な病院は初療時より内科とコラボレーションするシステムを採用している5,6)

 一方当院では,整形外科が大腿骨近位部骨折患者の主科となる.そして整形外科医が術前検査を行い,適時各診療科にコンサルトし,手術を執刀し,周術期管理を行い,転院を調整する.この古典的なシステムの問題点は,整形外科医が全身管理をするには荷が重い症例も含まれていることである.整形外科医が内科への転科を希望しても,その決定権は内科医にある.彼らが首肯しなければ,転科転棟は実現しない.

 本稿の目的は,大腿骨近位部骨折患者の主科についての当院の現状と,整形外科医が転科を希望した患者の特徴を調査することである.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 近年本邦においては,国策として病院機能分化が推進されており,急性期,回復期リハビリテーション,療養型に細分化されている.このうち,急性期病院は外傷や疾患が発症した直後の治療を行う.当院は22の診療科と638床の病床を有する県下随一の総合病院であり,宮崎市の急性期病院としての役割を担っている.

 当科もほかの急性期病院整形外科同様に,手術的治療にその力の大半を注いでいる.そのため手術を効率よく行うための病床管理が要求されている.一方,急性期病院にも保存的治療を受ける患者が一定数入院している.これまでに個々の疾患に対する保存的治療の報告は散見されるものの,急性期病院整形外科病棟における保存的治療について総括した報告は渉猟した限りない.本稿の目的は,地方都市の急性期病院整形外科病棟における保存的治療の実態調査を行うことである.

運動器疾患に対する保存的治療――私はこうしている Ⅱ.保存的治療にあたっての診断,支援機器,診療体制

  • 文献概要を表示

は じ め に

 日本の総人口は2015年10月1日現在1億2,711万人で,そのうち65歳以上の高齢者人口は3,392万人であり高齢化率は26.7%と世界最高である1).日本は現在世界トップレベルの長寿国であるが,平均寿命の延伸だけでなく,健康寿命を平均寿命に近づけることが重要である2)

 健康寿命の延伸のためには,小児期からの運動器に関する正しいケアが重要となることがある.骨折や捻挫などの強い症状を呈する外傷,障害などは,生徒が自主的に受診し適切な治療を受ける可能性が高い.しかし,運動器疾患の中には無症候性のため適切なタイミングで医療機関受診が行われず治療タイミングを逃してしまうものがある.たとえば思春期特発性側弯症は,痛みなどの症状がなく進行する場合があり,適切なタイミングで治療を受けるためには検診などで発見することが重要となる3)

 本邦の身体に対する学校健康診断は1888年に実施された活力検査が始まりとされている.1897年には活力検査が改められ,学生生徒身体検査規定が公布された.1958年には脊椎カリエスの増加を背景に「側弯症にも注意すること」とされ,1994年にはスポーツ障害の増加を背景に「四肢の状態に注意すること」とされたが法的な強制力はなかった.2016年に学校保健安全法が改正・施行され,側弯症に加えて四肢に対する運動器検診が法的強制力をもち,義務化された.当大学では2007年よりつくば市内の一部の小中学校で整形外科医が中心となり運動器検診を行っていたが,2016年の法改正を受けて,イラスト入りのマークシート式問診票を用いた大規模な運動器検診を開始した.

 本研究の目的は,2016年度運動器検診結果,マークシート式問診票の感度・特異度,身体所見と運動器疾患との関連性を報告することである.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 慢性的に疼痛が続く運動器疾患においては,治療のアドヒアランスが向上し,セルフケアのモチベーションを継続する工夫が必要である.これまでにもリウマチ日記などの患者記載情報を主治医と共有することによる病状把握や,手紙を用いて活動性や栄養状態を医療従事者と共有することによるサルコペニアの防止効果が示されてきた1).しかしながら健康情報の多様化により,アナログな手法や通信手段では膨大な情報蓄積,処理が困難になってきたことから,情報をさらに処理,搭載できる仕組みが必要になってきた.そこで目をつけたのがスマートフォンのアプリケーション(アプリ)である.本邦に限らず世界的にスマートフォンの普及率は高く,その活用は医療,セルフケアの領域においても広く展開されている.スマートフォンを用いることによるメリットは,情報蓄積機能,蓄積した情報を送付,受信する通信機能,高精度のセンサリング機能,自律的なデータ解析機能を有していることなどがあげられる.加えてスマートフォンの普及が進んでいることから,使用する際に新たなデバイスを用意する必要がなく,アプリをダウンロードするだけで使用可能であることも大きなメリットである.そこで本稿においては,慢性運動器疾患のアドヒアランスが向上するスマートフォンアプリの開発を通してその意義の検討を行う.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 腰椎分離症は椎間関節突起間部に生じる疲労骨折である.発育期の運動選手に発生することが多く,中学生になって盛んになる部活動との関連も指摘されている1).診断方法はかつては単純X線が中心となっていたが,その診断率は非常に低く2),臨床的に用いるには信頼に足るものではなかった.昨今ではMRIの普及で早期発見可能となり3),治療導入も早期化したため保存的治療の成功率も向上した.

 腰椎分離症の早期発見が可能となり治療への移行も早くなったものの,治療の効果判定ならびに治癒判定の基準に関する共通の見解は得られていない.その理由の一つとして,腰椎分離症は痛みなど自覚症状が乏しく,身体所見は必ずしも病状を反映していないことがあげられる4).また画像所見も治療効果の指標として用いるにはCTには被曝,単純X線には診断精度がデメリットといえる.治療の効果判定が曖昧となると,コルセット着用のエンドポイントや競技復帰の時期に関する見解がわかれる.MRIにおける骨髄浮腫は骨折部の治癒機転の活動性を反映する5)とされ,骨折治癒の判断基準として有用であるとする報告6)にならい,われわれはMRIによる骨髄浮腫の消失を運動再開の基準として用いてきた.本稿では,その妥当性を検証したため報告する.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 近年のがん患者数の増加により,腫瘍専門医だけでなく一般整形外科医もがん患者を診療する機会や,がん患者の骨転移診療にたずさわる機会が増加している.本稿では,当科で2016年より開始した骨転移専門外来の診療データをもとに,骨転移集学的治療における整形外科へのニーズと役割について考察した.

運動器疾患に対する保存的治療――私はこうしている Ⅲ.保存的治療各論

  • 文献概要を表示

は じ め に

 健康に日常生活を送ることができる期間を示す健康寿命は,男性で72.1歳,女性で74.8歳と,平均寿命と比較して男性で約9年,女性で約12年の差がある.日常生活に制限が生じ,さらに増悪すると要支援,要介護になる可能性が高くなる.要支援,要介護の原因として,運動器疾患・外傷は脳卒中を抜いて第1位である1)

 上記のような背景から,2007年に日本整形外科学会から「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」の概念が提唱された.ロコモとは,運動器の障害が原因で移動機能の低下をきたした状態と定義され,進行すると要介護のリスクが高まる.超高齢社会を迎え,要介護対策が喫緊の課題となっている現在,国民のロコモ認知度向上,ロコモ予防,ロコモへの介入をいかに行うかということは重要なテーマである.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 筆者は30年来サッカー・フットサルの現場に帯同しているが,近年それらフットボールの現場において,「趾分かれ」のシューズ,ソックス(図1)や各種インソール,さらには「有害な関節の動揺性を制御する」という本来の目的とは異なると判断せざるをえない「非定型的」テーピングなどを目にする機会が非常に多くなった.チームに支給されたストッキングを自らカットしソックスやシューズなどにフィットさせる場面もごく日常的に経験するようになった(図2).ストッキングとソックスの色が異なることはサッカー・フットサルの規定上認められないので,マスキング目的のためだけのテープも存在するほどである.

 これらの効果,エビデンスを選手側に確認したところ,「足趾の活動の独立性を確保する」,「プレー中にシューズ内のソールを把持するため」などの返答が多かった.当然のことながら,これらに対する裏づけ,エビデンスは十分とはいいがたく,漫然と施行している例も多いと考える.一方で,コストやサプライヤーに対する「マナー」の観点も含め,可及的すみやかにエビデンスを提供することが重要と思われる.

 本研究の目的は,高校生年代の男性フットボール選手108例に対して前述のテーピングやソックス,インソール使用に関する予備調査を行い,その結果約20%もの頻度で習慣的,継続的に施行されていた足アーチ部,趾間部の「非定型的」テーピングの効果を検討し,現場に対するフィードバックを考察することである.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 関節内注射は,薬物の経口投与や皮膚から吸収させる保存的治療とメスを入れる手術的治療の間に位置づけられる治療法といえる.関節内注射に使われる薬剤はステロイドホルモンとヒアルロン酸が主であったが,最近では多血小板血漿(platelet-rich plasma:PRP)など,新しい治療法もある.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 多血小板血漿(platelet-rich plasma:PRP)は,自己末梢血を遠心分離して得られる血小板を多く含む血漿分画の総称である.欧米ではさまざまな運動器疾患に対して頻用されており,本邦でもアスリートに対するPRP療法のメディア報道をきっかけに関心が高まっている.しかしながら,PRP療法のエビデンスは確立されているとはいいがたい.その背景に,PRP療法の適応や対象疾患の重症度,使用している「PRPの質」や注射方法などが異なっており,単純な比較ができないことがあげられる.そのため,われわれは「PRPの質」に注目し,病態に応じたPRPの使い分けを提唱してきた.本稿では,「PRPの質」とその使い分けについて,われわれの経験を含めた国内外の現状をふまえて詳述する.

  • 文献概要を表示

はじめに―新たな積極的保存的治療としてのPRP治療

 整形外科医にとって,日常診療でいかに患者の痛みの軽減や除去ができるかが腕のみせどころである.多くの患者はできるだけ少ない通院回数での治療対効果(治療パフォーマンス)を望んでおり,特に外来においてそれが重視されているといっても過言ではない.疼痛軽減の手段として,運動器組織損傷の修復を目的に行う再生医療の一種である多血小板血漿(platelet-rich plasma:PRP)治療は有効であるが,その中でもPRPの「質」と「投与方法」を重視した「多数点一回法での組織損傷部投与による運動器エコーガイド下PRP治療」1)が,従来の関節腔内投与に比べよりPRP治療の臨床成績を向上させることがわかってきている.

 運動器エコーガイド下PRP治療の適応部位として,当院では膝関節,肩関節,肘関節,足関節,股関節が多い.それぞれ当院で施行した代表的な疾患に対し,本法による治療成績として,疼痛の改善度合いを検討する.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 われわれは,整形外科治療として,多血小板血漿(platelet-rich plasma:PRP)療法および第二世代のPRPといわれているplatelet-rich fibrin(PRF)に早くから着目し,2015年10月に本邦ではじめて認可されて以降,膝関節鏡下半月板修復術,難治性腱炎治療の際に使用している.さらに,2018年6月1日付で変形性膝関節症に対するPRPの関節内投与の認可も新たに取得し,変形の進んだ症例に対してもヒアルロン酸(HA)やステロイド注射にとってかわる治療と期待して施行している.

運動器疾患に対する保存的治療――私はこうしている Ⅳ.上肢疾患に対する保存的治療

  • 文献概要を表示

は じ め に

 一般診療でよく耳にする「五十肩」とは学術的には凍結肩といわれており,特に誘因なく発症する一次性肩関節拘縮を指す1).一般的に保存的治療によく反応する予後良好な疾患といわれている2)が,保存的治療に抵抗する症例も存在し,時に治癒までに数ヵ月~数年必要な場合もある3).難治例には鏡視下関節授動術(arthroscopic capsular release:ACR)が行われるが,① 入院が必要であるうえに,② 高額な医療費がかかる,③ 感染のリスクがある,などの欠点がある.近年,皆川はエコーガイド下に斜角筋ブロックを行った後で非観血的関節授動術を行ういわゆるサイレント・マニピュレーション(silentmanipulation:SM)を報告している4)(図1)が,この手技は入院を必要としない簡便な方法であり,上記のリスクは存在しない.われわれは,このSMの治療成績とACRの成績を比較検討したので報告する.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 わが国の大規模コホートROAD studyにおいて,1,535例の手指X線像の結果から,40歳以上においては少なくとも左右いずれかに画像上の母指手根中手(CM)関節症が男女問わず50%でみられることが明らかになった.また,86%でいずれかの指に画像上の変形性遠位指節間(DIP)関節症を有することが報告された1,2).他の研究から有症状例は画像上の変形性指関節症の約1/6~1/10と考えられるが,無症候性の変形性指関節症の患者がかなりの数にのぼることは重要な知見であると考えている.手の変形性関節症の危険因子は高齢,女性,家族歴,手を使う職業,肥満,手の外傷の既往があげられる1,2)

 2007年に欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatic Diseases:EULAR),2012年に米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR),2016年パンアメリカンリウマチ学会,2014年英国国立医療技術評価機構(National Institute of Health and Care Excellence:NICE)などのガイドラインが発表されている3~7)

  • 文献概要を表示

は じ め に

 手指骨折は日常診療で多くみられる骨折であり,多くの場合保存療法が試みられている.しかしながら本骨折は,治療上,変形癒合や手指拘縮などさまざまな合併症が生じやすい.本稿では,手指骨折に対し受傷した手指と隣接する手指とのテーピングによる保存療法を試みたため,その治療手技を紹介するとともに治療成績を報告する.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 母指手根中手(carpometacarpal:CM)関節は第1中手骨と大菱形骨が形成する鞍関節の多軸関節であり,屈曲伸展,内転外転,回内を複合的に行うことで母指の対立運動を可能にしており,把持などの粗大動作とピンチなどの巧緻動作の双方で日常生活において重要な役割をはたしている1)

 母指CM関節症は,CM関節の関節軟骨が摩耗し,痛みをきたす疾患で,中高年女性に好発する一次性の変形性関節症であり,両側罹患が多いことが知られている2).治療の第一選択は保存的治療であり,外用,内服,注射,装具療法が選択される.保存的治療で十分な効果が得られない場合には手術的治療が行われるが,術式はさまざまである3)

 本稿では保存的治療の中でも装具療法に着目する.母指CM関節症に対する装具療法の目的は,不安定になった母指CM関節を制動して可動域を制限し,局所安静効果により痛みを軽減することである3).装具を使用すると必然的に母指CM関節の可動域が減少し,対立動作を制限することになる.結果として患者は日常生活での不便を訴えることが多い.

 母指CM関節症の装具は,生活の妨げにならないようさまざまな素材や形状が使用されているが,大きく分けてプラスチック製の硬性装具と布などを組み合わせた軟性装具がある4,5).硬性装具は固定力が強いものの,フィッティングがわるいと疼痛や皮膚トラブルの原因となりうる.一方,軟性装具は比較的良好なフィッティングを得やすいが,固定力が不十分であることが多い.

 われわれはクロロプレンゴム(ネオプレン)製装具を用いてカスタムメイドCM関節軟性装具を作製した6).ネオプレンはウェットスーツなどで使用されるゴム素材で,適度な柔軟性と固定性があり,立体的なカスタムメイドもしやすい.さらに,耐水性も備えている.適度な固定性は保ちながら,既製品よりもフィッティングに優れた装具が治療に有用であるか否かを検討した.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 ばね指に対する腱鞘切開術は良好な成績が報告されている1).しかし手術を希望しない患者や,多数指罹患患者においては手術的治療が必ずしも容易ではない場合があり,保存的治療の重要性は明白である.保存的治療としては安静や装具療法,ステロイド注射が現在の主流である.安静や装具療法は簡便な方法であるが,家事や仕事に従事する患者にとっては実践が必ずしも容易でない場合もある.また,ステロイド注射の有効性が報告されている2)が,注射に伴う痛みを嫌い,注射に抵抗感を示す患者も多い.

 そこでわれわれは,ステロイド注射時の苦痛を軽減する注射手技を行うとともに,近年保存的治療として有効性が報告されている徳永法の一つであるA1 pulleyストレッチを実践しており,本稿で紹介する.

運動器疾患に対する保存的治療――私はこうしている Ⅴ.下肢疾患に対する保存的治療

  • 文献概要を表示

は じ め に

 筋損傷は,スポーツ現場でトレーナーやドクターがみる機会の多いスポーツ傷害で,すべてのスポーツ外傷の10~55%を占める.病態としては直達外力による筋打撲傷(muscle contusion)と介達外力によるいわゆる肉ばなれ(muscle strain)がある.急性期における治療は,いわゆるRICE[Rest(安静),Icing(冷却),Compression(圧迫),Elevation(挙上)]処置が一般的で,亜急性期から慢性期では理学療法,物理療法,装具療法,薬物療法,トレーニング指導などが行われるが,肉ばなれの場合,競技復帰までに数週間から数ヵ月を要すること,復帰後の再受傷率が高く,選手は競技からの長期離脱を余儀なくされ,治療に難渋することもしばしばである.従来行われてきたRICEや薬物療法(消炎鎮痛薬の内服)は症状緩和のための対症療法であり,筋損傷の病態に対する生物学的修復をめざした治療法ではない.

 われわれは,肉ばなれの積極的保存的治療の開発を目指して,競技復帰までに期間を要し再受傷率の高い腱膜損傷を伴う肉ばなれに対し,超音波ガイド下多血小板血漿(platelet-rich plasma:PRP)局所注射を行っている.本治療法について,症例や画像の評価法,注射方法などを文献的考察を交えながら紹介する.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 多血小板血漿(platelet-rich plasma:PRP)は,血小板中に含まれる多種の成長因子を放出し損傷組織の治癒を促進すると考えられており,欧米を中心にアスリートのオーバーユース腱障害に対して広く使われている1)

 基礎研究では,PRPは関節軟骨に対してTGF-βシグナル伝達機構によって軟骨欠損部を線維性軟骨に置き換えることや細胞外基質を産生し生物学的な足場を作製することが報告されている2,3)

 このようなメカニズムに基づいて,PRPの変形性膝関節症(膝OA)への臨床応用が進んでいる.Raeissadatら4)は,PRP関節内注射がヒアルロン酸関節内注射よりも症状を軽快させ生活の質(quality of life:QOL)を向上させたことから,一般的な治療法に反応しなかった膝OA患者には試してみる価値のある保存的治療法であると述べている.しかし,どのような膝OA患者に対してPRP関節内注射が効果的であるかについては,統一した見解にいたっていない.

 筆者は,PRPがアスリートやオーバーユース障害に効果があることから膝OA患者の中でも運動習慣のある者に対して特に効果があるという仮説を立て4週間の前向き調査を行った5).その結果,週2回以上運動しており,持続時間が30分以上で,継続期間が1年以上の運動習慣あり群の改善率は,運動習慣なし群に比べて有意に優れていた(p=0.022).このため,運動による負荷は膝OAに対するPRPの効果を高めると報告した.

 しかし,運動習慣の有無は定性的な因子であり,運動量には個人差がある.そこで本研究では,定量的な因子である年齢,罹患年数,性,body mass index(BMI),Kellgren-Lawrence(K-L)分類6),超音波診断装置(US)で計測された半月板逸脱長とPRPの効果を比較した.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 近年,変形性膝関節症(osteoarthritis of the knee:KOA)に対して多血小板血漿(platelet-rich plasma:PRP)関節内注射による除痛,炎症抑制,軟骨再生効果が示唆されており1,2),本邦におけるPRP療法は普及しつつある.さまざまなPRP精製キットも発売されており,精製方法により含有する血球成分や液性因子の組成も異なる.PRPは含有する白血球成分によってpure PRPまたはleucocyte-poor PRP(LP-PRP),leucocyte-rich PRP(LR-PRP)に大別される3).最近では,LR-PRPの中でもさらにサイトカインなどが濃縮されたautologous protein solution(APS)も注目されている4)

 当院では再生医療等安全性確保法にのっとり,第二種再生医療等提供計画として2018年9月より自由診療で膝関節疾患に対するPRP療法を開始した.APSキット(Zimmer Biomet社,Warsaw)[Z群]とセルエイドPタイプ(JMS社,広島)[J群]の2種類の分離キットを採用しており,Z群ではLR-PRP(APS),J群ではLP-PRPが精製される.

 2018年7月に健常者10例を対象に運用テストを行い,その後,2018年9月からKOA患者にPRP療法を行っている.現在,われわれは得られたサンプルを用いてZ群,J群間における液性因子の組成や効果の差異を検討しており,本稿では文献的考察を加えてその研究結果を報告する.なお,本研究は東海大学医学部臨床研究審査委員会の承認を得て実施した.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 高齢者に多い変形性膝関節症(膝OA)は,ロコモティブシンドロームの原因となる疾患である.関節軟骨の変性を基盤とした非炎症性の疾患であり,罹患者は国内で約2,530万人といわれている.男女とも年齢とともに有病率は上昇し,80歳以上の有病率は男性で50%,女性で80%以上と考えられている.治療としては運動療法,薬物療法,装具療法などの保存的治療が行われている.しかしながら,疼痛が改善しない患者も多く見受けられる.

 そこでわれわれは,患者教育を中心とし,さまざまな工夫を行いながら患者一人一人にオーダーメイド治療を行っている.本稿では,副作用が少ない治療薬である漢方薬,ノイロトロピン,ロコアテープ,足底板の作製や患者教育による治療効果を評価,検討した.これらの臨床成績と治療の工夫に関して報告する.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 アキレス腱断裂に対する保存的治療は,手術的治療と比較し再断裂発生率が高いため,特にアスリートや若年者の場合には選択されないことが多い.しかし,その一方で手術的治療と同程度に再断裂率を低下させることができたという報告も多く,アキレス腱断裂に対し保存的治療と手術的治療のどちらを選択すべきか一定の見解が得られていない.筆者は自らがアキレス腱断裂を受傷し短下肢装具を用いて保存的に治療した経験から,アキレス腱断裂に対し積極的に保存的治療を行っている1).本稿では筆者の行っている短下肢装具を用いた保存的治療の詳細を,MRIを用いた経時的な修復過程を交え紹介するとともに,アキレス腱断裂に対する保存的治療の有用性と治療成績に影響すると思われる因子を検討する.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 第5中足骨基部骨折に対しては,一般的に保存的治療が多く行われ,さまざまな外固定法が推奨されている1).しかしながらそれら外固定法に関しては,長期固定による弊害のほかに,本邦においては靴の脱着を必要とする居宅環境,生活習慣に伴う不具合などが考えられる.今回,本骨折に対しUスラブ型ギプス副子を用いた外固定法を試みた.治療手技について紹介するとともに,その治療成績から本治療法の有用性を検討した.

運動器疾患に対する保存的治療――私はこうしている Ⅵ.脊椎,骨盤疾患に対する保存的治療

  • 文献概要を表示

は じ め に

 環軸椎関節回旋位固定(atlantoaxial rotatory fixation:AARF)は,軽微な外傷や扁桃などの腫脹に伴い発症することが報告されている.しかし,その治療方法や経過のまとまった報告は少ない.本研究の目的は,AARFの治療経過を検討することである.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 頚椎症性神経根症は予後良好な疾患である1)ため,保存的治療が第一選択となる.これまで,頚部装具固定による局所安静と各種薬物治療の併用が原則とされ,十分な除痛効果が得られない場合には頚部神経根ブロックが行われてきた.頚部神経根ブロックは主として透視下で実施されてきたが,患者に苦痛(再現痛誘発)を与えることと験者,被験者ともに放射線にさらされることが不可避の問題であった.また,血管誤穿刺や神経障害などの重篤な合併症のリスクも高い2~6)とされ,安易に選択できる治療手段ではなかった.

 一方で,近年の超音波装置の発達にともない,超音波ガイド下で各種医療行為を安全かつ正確に実施することが可能となった.超音波装置を頚部神経根ブロックに用いることで神経根周囲および針刺入経路の血管を可視化することが可能となり,血管誤穿刺が回避可能となった.また,標的神経根の同定が容易となったためブロック針の刺激による再現痛を得る必要性がなくなり,患者に苦痛を与えずに神経根ブロックを実施できるようになった.神経根周囲の薬液注入量も調節可能であり,標的神経根の確実なブロック効果を得ることができ,責任高位診断の精度も向上している.

 われわれは,当院で実施している超音波ガイド下頚部神経根ブロックの手技を紹介するとともに,安全性と有効性,注意点について検討したので報告する.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 後縦靱帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)は時に重篤な脊髄症を引き起こし,手術的治療を必要とする.また,脊髄損傷患者においてはOPLL合併例が多いとされ,靱帯骨化の存在は脊髄損傷発症のリスク因子となる1).しかしながら,大きな靱帯骨化を有しながらも長期間無症候または軽症で経過する患者も一定数存在する.本稿では,当院で保存的治療で長期間経過観察している無症候例および軽症例の画像所見の特徴について報告する.また,頚椎OPLLの保存的治療,自然経過および手術の適切なタイミングについて文献的考察を行う.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 化膿性脊椎炎は主に血行性感染によるものが多く,菌血症に伴う全身感染症の一環であると考えられる.治療の基本は抗菌薬投与と局所の安静による保存的治療である.しかしながら治療の明確な基準がなく,治療終了の判断に難渋し,再燃を繰り返し,重篤な敗血症をきたすこともある.本稿では当院で行っている保存的治療について,治療成績とともに報告する.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 わが国は超高齢化社会まで目前であり,骨粗鬆症性脊椎椎体骨折患者も増加の一途である.本骨折は日常生活動作でも発症することの多い骨折であり,外傷歴がない場合には新規椎体骨折を見逃さないためにMRI検査は必須である.治療はコルセットが選択されることが多いが,各施設でさまざまなものが使用されているのが現状で,治療法も確立されていない.MRI診断においても,STIR画像が高信号であれば新規骨折とされているが必ずしもそうではない.

 本稿では,骨粗鬆症性脊椎椎体骨折のMRI診断と,椎体骨折に対し当院で使用している装具前方を硬性,後方を軟性としたハイブリッド半硬性コルセット(以下,HS-H/C)による治療成績を検討した.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 日本における骨粗鬆症性椎体骨折(osteoporotic vertebral fracture:OVF)は60歳以上の女性に多く発生している1).外傷の既往がないことが多い,重症感がなく救急外来を受診しても早期に診断されないことがある,単純X線2方向撮影による画像検査では診断しづらいといった問題が指摘されている.また単純X線2方向撮影で診断しづらい骨折が遷延癒合や偽関節へ移行する危険性があることも指摘されている2).われわれは,初期診断や治療の遅れと動的因子の関与3)が手術介入を必要とするOVF増加の一因になっていると考えた.そこで2012年4月より高齢者のOVFを疑った場合,入院による精査と安静[側臥位を推奨し,ベッドアップは30°未満,ただしびまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH)骨折はベッドアップ30°で固定]を指示し,その間にCTおよびMRIによる骨折型の評価と悪性腫瘍や化膿性脊椎炎などの感染性疾患との鑑別を行い,OVFが確定し2週間の安静による疼痛の軽減を確認後,Jewett型硬性体幹装具着用下に離床を許可する単一のプロトコルで保存的治療を行ってきた4~6).装具は,痛みとX線動態撮影7)で椎体の不安定性が消失するまで約12~24週間装着としている4~6)

 原発性OVFに対する本プロトコルの骨癒合率は78~83%と報告4~6)してきたが,続発性OVFに対する有用性は不明であった.副腎皮質ステロイド(glucocorticoid:GC)は,続発性骨粗鬆症,すなわちステロイド性骨粗鬆症(glucocorticoid induced osteoporosis:GIO)を引き起こし,骨折リスクが高くなることが広く知られている8).7.5mg/日以上の内服で脆弱性骨折のリスクが著しく上昇することが指摘されている9)が,われわれが渉猟しえた限り,OVF後の保存的治療に対するステロイド投与の影響について明らかにした報告はない.

 本研究の目的は,続発性OVFに対するわれわれの保存的治療プロトコルの有用性を明らかにすることである.

  • 文献概要を表示

はじめに―運動器疾患保存的治療の背景

 病院は,医師あるいはコメディカルも含めてスペシャリストとジェネラリストということを考えていかなければ,今後の広い視野の上に立つ医療は不可能であると考える.スペシャリストを目標にした,いわば病院の形態変化が大学病院,総合病院に求められよう.この方向性はわるいことではないが,結果として患者無視の病院側の対応が問題となろう.たとえば,「あなたが手術的な治療を受ける希望がないならば,この病院にくる必要はありません」などと患者の気持ちなどまったく考慮しない医師もあるやに聞く.患者は途方に暮れてしまう.

 筆者の専門は整形外科であるから,外科医療について触れておきたいと思う.かつて「外科医はメスで勝負する」,「切って切って切りまくる」,「神の手」などといわれた時代があった.筆者の大嫌いな言葉であり,表現である.最近はできるだけ侵襲の少ないレスインベイシブな方向性が打ち出され,関節鏡視下手術やロボット手術,遺伝子治療,再生医療などの方向性が求められている.ナノマシンといわれる材料の進歩も,遺伝子治療など細胞レベルでの治療がそのターゲットであるように思われる.当然のことながら外科医にとってもベーシックサイエンスについての理解が要求される.低侵襲性の治療をおし進めていくと究極的には外科医は必要なくなるのであるが(奇形や外傷などは決してなくならないので外科医は必要である),外科医療を残すかたちでの将来展望を外科医としては忘れてはならないと考えている.したがって,十分保存的治療も考え対処できる外科系医師も要求されよう.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 仙腸関節障害の大部分は,不意の外力や繰り返しの衝撃で生じた仙腸関節の不適合による機能障害(仙腸関節障害)であり,後方靱帯の部分的過緊張により侵害受容器が刺激され疼痛が発生すると考えられている1).多くの症例では数回の仙腸関節ブロックや関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach:AKA)-博田法2)により段階的に痛みが軽快するが,症状の再燃や日常生活動作(ADL)が改善せず社会復帰などの目途が立たない症例が存在する.そこでわれわれは難治性の仙腸関節障害を効率よく治療するために,独自の理学療法を症例ごとに組み合わせて施行している.方針として,最初に仙腸関節周辺の靱帯に対する治療を行って疼痛軽減を図る.しかし,筋の過敏性が強く,靱帯そのものへのアプローチが困難である場合がある.このような症例で,腰椎椎間関節などの隣接関節の関節拘縮や下肢のタイトネスが認められる場合には,まずこの治療を優先的に行う.これにより多くの場合,過敏性が低下して,仙腸関節周辺靱帯の治療が可能となる.そして,疼痛レベルの改善に合わせて筋収縮訓練を追加することにより,仙腸関節を安定化させ持続的な疼痛軽減を図る.

 本稿では,当院で行っている仙腸関節障害に対する5つの理学療法を症例堤示も併せて紹介する.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach:AKA)-博田法は,博田節夫医師が開発した徒手療法で,関節運動学と関節神経学に基づき,関節の遊び,関節面の滑り,回転,回旋などの関節包内運動の異常を治療する方法,および関節面の運動を誘導する方法である1).腰殿部痛の原因となる仙腸関節機能障害をはじめ,全身の滑膜関節を治療対象としており,各関節の機能障害が改善すると,関節原性の疼痛・しびれが消失する.急性および慢性腰痛症に対するきわめて有効な治療法であることがエビデンスとして示されている2,3).AKA-博田法では,仙腸関節機能障害の改善を主軸としているが,治療対象は全身の滑膜関節であり,股関節も治療対象に含まれている.

 末期変形性股関節症は,高度な股関節可動域制限,疼痛のために日常生活で歩行困難などの大きな支障を生じるが,有効な保存的治療は明らかではない.手術的治療を望まない患者は多いが,有効な保存的治療がないために最終的に人工股関節全置換術(THA)が行われる.われわれは,末期変形性股関節症を有していても,AKA-博田法による仙腸関節機能障害の改善で股関節痛の軽減や歩容,QOLの改善が得られる症例をしばしば経験する4).この臨床的事実は変形性股関節症の病態を考えるうえで非常に興味深い.本稿では,AKA-博田法で5年以上の継続治療を行った末期変形性股関節例を提示し,仙腸関節機能障害と変形性股関節症との関連について考察する.

運動器疾患に対する保存的治療――私はこうしている Ⅶ.小児整形疾患に対する保存的治療

  • 文献概要を表示

は じ め に

 側弯症は,おおまかに先天的な椎骨の形態異常(奇形椎)のある先天性側弯症,奇形椎はないが脳性麻痺,二分脊椎,脊髄空洞症,筋ジストロフィー,脊髄性筋萎縮症,神経線維腫症,Marfan症候群,Ehlers-Danlos症候群,骨系統疾患など1,2)なんらかの基礎疾患(症候群)に基づく症候性側弯症,その他原因不明の特発性側弯症に分類される.その中で神経筋性側弯症は,症候性側弯症の中の脳性麻痺などの上位運動神経疾患や脊髄性筋萎縮症などの下位運動神経疾患,筋ジストロフィーなどの筋疾患に伴う側弯症に分類されることが多い.神経筋性側弯症の原因は,進行する体幹バランス障害に導かれる脊椎で活動する筋力の機能障害3)といわれているが,いまだ不明である.神経筋性側弯症は,神経筋疾患の約90%4)に発生し,思春期特発性側弯症の約1~2%1)と比較すると高く,また骨の成熟が終わったあとも進行する症例が多い.また,心疾患,呼吸器疾患,消化器疾患などを伴うことが多いため,装具療法や手術的治療を行ううえで合併症が多く,治療に難渋することが多い.本稿では,当院で行っている神経筋性側弯症に対する装具療法とその治療成績について紹介する.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 仙骨翼疲労骨折は1984年に最初に報告され1),発生頻度は高くないとされている2).仙骨翼疲労骨折の主症状は腰痛であるが,腰痛を訴える発育期運動選手は腰椎分離症であることが多い.特に発育期の男性のうち腰痛で受診する6割以上の症例が腰椎分離症を有していたと報告されており3),腰痛の原因診断としては腰椎分離症を検索することが一般的である.また発生年齢に関しても,仙骨翼疲労骨折のレビューでは18歳未満は29例中わずか4例であり4),腰椎分離症に比べ発症年齢は高く発育期の発生は多くないといえる.そのため発育期運動選手の仙骨翼疲労骨折の症例報告は,国内外通じて散見する程度である.われわれは,当院を受診した発育期仙骨翼疲労骨折例を解析したので報告する.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 発育性股関節形成不全(DDH)は,1970年代前半までは発症率が2~3%と高率であったが,Ishidaが提唱したコアラ抱っこなどの育児指導が普及したことで,その後の発症率が0.2~0.3%まで減少した1).一方,発症率が低下した近年では,DDHの一般認識の低下,健診医の診断力低下などにより診断遅延例が散見され全国的な問題となっている2).また,適切な時期にリーメンビューゲル(Rb)法を行っても10~15%程度で整復が得られない症例が存在する.当科では3歳未満の乳幼児未整復DDH例に対して,overhead traction(OHT)法による緩徐整復を行っており,原則観血的整復術を行っていない.2016年からは入院期間の短縮により保護者の負担を軽減する目的で,自宅で水平牽引を行うホームトラクションを導入しているので紹介する.

運動器疾患に対する保存的治療――私はこうしている Ⅷ.有害事象と対策,予防

  • 文献概要を表示

は じ め に

 整形外科手術は,静脈血栓塞栓症(deep venous thrombosis:VTE)の高リスクである.日本整形外科学会『症候性静脈血栓塞栓症予防ガイドライン2017』1)では,これまでのガイドラインと異なり,予防対象は無症候性VTEを含むすべてのVTEではなく,症候性VTEおよび致死性肺血栓塞栓症となっている.VTE発症リスクの高い症例において,グレードAとして「個々の症例のVTE発症リスクと出血リスクのバランスを検討し,理学的予防法または薬物予防のいずれか,または両者を選択することを推奨する」とある.

 理学的予防法としては,早期離床の推奨に加え,弾性ストッキング,間欠的空気圧迫(intermittent pneumatic compression:IPC)装置が使用されている.下肢自動運動の重要性も知られているが,術後は創部痛やモチベーションの点で実際には困難である.そこでわれわれは,床上で効果的に下肢自動運動を行う機器である床上下肢自動運動器Leg Exercise Apparatus(LEX)[図1a]を開発した2~5).本稿ではその概要を述べる.

  • 文献概要を表示

は じ め に

 術後せん妄は高齢患者にときおりみられる症状であり,発症すると機能回復の低下,在院日数の延長,死亡率の上昇などにつながることが報告されている1~3).近年,せん妄発症の原因の一つとして低栄養が重要であるということが報告されている4~6).われわれも成人脊柱変形患者の栄養状態をprognostic nutrition index(PNI)を用いて評価し,術前のPNIが50未満である場合が術後せん妄の有意なリスクであるということを報告した7).PNIは1984年にOnoderaらにより報告された栄養評価の指標で,血液検査のアルブミン(g/dl)と総リンパ球数(/μl)を使って簡便に算出できる(PNI=10×アルブミン+0.005×総リンパ球数)8).Tokunagaらは参考値として直腸癌患者でPNIが45.5以上の場合5年生存率は90.5%であるのに対して,45.5未満の場合は57.8%にまで低下すると報告している9).これらの結果にもとづき,現在当科では術前にPNIが50未満の場合,手術の数ヵ月前から医師と栄養士による栄養介入を行ってから手術を行うこととしている.本稿ではその代表症例について報告する.

基本情報

24334316.1.76.cover.jpg
別冊整形外科
1巻76号 (2019年10月)
電子版ISSN:2433-4316 印刷版ISSN:0287-1645 南江堂

文献閲覧数ランキング(
3月30日~4月5日
)