精神医学 62巻5号 (2020年5月)

増大号特集 精神科診療のエビデンス—国内外の重要ガイドライン解説

特集にあたって 鈴木 道雄
  • 文献概要を表示

 経験と直感に基づく医療からevidence-based medicine(EBM)への転換は,医療における近年の最も大きな変化のひとつである。EBMの発展と普及に伴い,本邦でも数多くの診療ガイドラインが作成・公表されており,また日本医療機能評価機構では,質の高い診療ガイドラインの普及を目的に,EBM医療情報事業(Minds)を展開している。Mindsでは,診療ガイドラインを「診療上の重要度の高い医療行為について,エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価,益と害のバランスなどを考量して,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義している(https://minds.jcqhc.or.jp/s/about_guideline)。本特集では,精神科領域でも非常に多数の診療ガイドラインがある中で,内容が新しく現在の使用に適し,日常診療で参照すべきものをなるべく過不足なく選び,その領域の専門家による解説を付している。また,作成中や近日中に公開予定の,有用性が高いと思われるガイドラインをコラムとして取り上げた。

第1章 診療ガイドラインの基礎知識

  • 文献概要を表示

はじめに

 臨床医にとって,診療ガイドラインはどのようなものか—「ガイドラインに書いてあることなど,目の前の患者に当てはめられるわけがない」,「ガイドライン通りに診療しないと何かあった時,患者に訴えられる」など,診療ガイドラインをめぐるさまざまな意見を耳にする。もちろん,診療ガイドラインは目の前の患者の治療方針を教えてくれる明快な便利本ではないが,多忙な臨床医が最新のエビデンスを収集し,それをアップデートしていくことは難しく,臨床医や患者に分かりやすい形にまとめ,治療選択に関するエビデンスを提供し,治療推奨を示してくれる診療ガイドラインは便利なツールである。本稿では,臨床医が上手に診療ガイドラインを活用することを念頭に,まず診療ガイドラインの基本について概説し,診療ガイドラインの質を吟味する上で重要となる評価のポイントについて述べる。

  • 文献概要を表示

はじめに

 筆者は,主に患者から医療者の過失があったために損害を被ったと主張されて起こされる損害賠償請求を,病院・医療者側の代理人として対応している弁護士である。

 本項では,医療者の方々に対して,医学系学会などが作成した診療・診断ガイドラインが医事紛争という法的な場でどのように使用されているのかについて解説したい。

第2章 統合失調症

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・本ガイドラインは,統合失調症の薬物治療について,医師と患者さん・ご家族・支援者による,臨床場面での意思決定支援を目的として作成されている。26の臨床疑問(clinical question)について,エビデンスに基づき,エビデンスレベルと推奨を記載している。読者対象は,専門医としており,文章は専門的なものとなっている。統合失調症の治療は薬物療法のみによらず,心理社会的治療も含めて包括的に行うべきものであるということを前提としつつも,現在入手可能なエビデンスの均質性を考慮して,薬物療法に特化したガイドラインとなっている。

 ・本ガイドラインと内容は同じであるが,患者さん・ご家族・支援者を読者対象とし,平易な文章でまとめたものとして,『統合失調症薬物治療ガイド—患者さん・ご家族・支援者のために—』がある。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・統合失調症を持つ成人(18歳以上)の治療や支援を対象としており,専門家や精神障害当事者(以下,当事者),家族に向けたものとして開発されている。

 ・薬物治療だけに焦点を当てるのではなく,英国の精神保健サービスシステムを前提として,統合失調症のケア全体を包括的に言及している。

 ・統合失調症の疾患経過の時間軸に基づき,①統合失調症の予防,②初回精神病エピソード,③統合失調症の急性期エピソードと危機介入,④リカバリーの促進と将来のケアの4段階で構成されている。

EBPツールキット(SAMHSA) 大島 巌
  • 文献概要を表示

EBPツールキットのポイント

 ・統合失調症など重い精神障害のある人たちを中心にニーズのあるすべての国民が,必要時にはいつでもEBPを利用できるよう,サービス提供体制・実施体制を整えること,それによってEBPプログラムの実施・普及を進めることが導入の目的である。

 ・サービス提供体制・実施体制を整えるために,まず実践的に有用で皆が共有できるEBPの標準的効果モデルを定式化・標準化する。その上で,そのモデルの実施にかかわるさまざまな立場の関係者(stakeholders)が,各自の立場でEBP実施・普及に関与するのに役立つ実施・普及のツール(用具)を提供している。

 ・対象者は,統合失調症を中心とする重い障害のある人たちである(他領域のEBPの実施・普及にも同様のツールキットは必須)。EBPツールキットの提供を受けるのは,EBPにかかわるさまざまな立場の関係者である。具体的にはプログラム実践家,実施機関の管理者,行政関係者・プログラム出資者,プログラム利用者・家族などが対象となる3)

 ・プログラム実践家への効果を明らかにしたランダム化比較試験(RCT)の効果評価研究は行われているが4),エビデンスの蓄積は十分ではない。サービス提供体制・実施体制を整えることが狙いとなるため,連邦政府が提供するツールキットの信頼性は高く,そのために活用も促進される。

  • 文献概要を表示

 統合失調症患者のリカバリーを考える上で,身体的な健康が維持されることは不可欠な要素の1つである。精神科領域では,各関連学会において各精神疾患の治療ガイドラインが盛んに作成されているが,合併する身体疾患に関して他領域の学会と共同で作成されたガイドラインはこれまで存在しなかった。日本精神神経学会のガイドライン検討委員会において,「統合失調症に合併する肥満・糖尿病の予防ガイド」作成が起案され,日本糖尿病学会,日本肥満学会に協力を求め,3学会合同による作成が実現した。

 日本糖尿病学会では,エビデンスに基づく「糖尿病診療ガイドライン」1)を3年ごとに,一般内科医やメディカルスタッフ向けの「糖尿病治療ガイド」2)を2年ごとに,患者・家族向けの「糖尿病治療の手びき」を3年ごとに作成し,日本肥満学会でも,一般医・メディカルスタッフ向けの「肥満症診療ガイドライン」3)を作成している。統合失調症患者の肥満・糖尿病予防に関しては,国内のエビデンスがきわめて少ないが,わが国の文献をできるだけ中心にして,海外の文献も参考にしながら,「予防ガイド」として一般精神科医やメディカルスタッフ向けにまとめることとした。肥満・糖尿病予防の一般論的記載は,上記2学会の診療ガイドラインや治療ガイドを積極的に引用している。しかし,利用できる精神科関連のエビデンスが限られ,エキスパート・コンセンサスの域を出ないものも多いことから,通常のガイドラインで記載されているエビデンスレベルや推奨グレードの表示は,今回あえて行っていない。

  • 文献概要を表示

 新たな生命を授かる妊娠・出産は,妊産婦やその家族にとってきわめて喜ばしい事柄である一方,周産期は精神疾患の発症や再発が生じやすく,さらに欧米では妊産婦の自死が重大な問題として取り上げられてきた。2017年わが国でも,自死を遂げた妊産婦は東京23区で2005〜2014年の10年間に計63人(妊娠中20人,産後43人)に上り,周産期死因の約7割を自死が占めており,10万人妊産婦あたり8.5人と諸外国と比してきわめて高いこと,が報告された1)。本報によると,自死を遂げた妊産婦の約半数は何らかの精神疾患として加療を受けており,周産期における精神疾患の再発・悪化が自死のきっかけとなった可能性が考えられる。また未治療群の約半数は育児に関する悩みを周囲が確認して,受診を勧めていたが,本人が精神科診療を拒否して自死に至っていた。

 妊産婦の主要死因は精神障害を背景とする自死であること,加えて児の養育環境への影響も鑑みると,妊産婦の精神障害対策は喫緊の課題である。このような背景のもと,2017年に改訂された「自殺総合対策大綱」に妊産婦への支援の重要性が明記され,同年から産後うつ病健診事業が開始された。2018年発表された「成育基本法」で妊産婦の心身の健康を確保することの重要性が盛り込まれ,第7次地域医療計画には,「精神疾患を合併した妊産婦への対応ができる総合周産期母子医療センター」の整備が明記され,同年の診療報酬改定でも精神疾患併存の妊産婦にかかわる連携指導料や妊娠・分娩管理加算が新設された。

  • 文献概要を表示

 米国精神医学会(American Psychiatric Association:APA)による統合失調症患者の治療ガイドラインであり,2019年12月に最新ドラフト1)が公表されている。完成版は,要約版や患者・家族向けの内容などとともに,2020年夏に公表が予定されている。

 本ガイドラインの全体目標は,治療の強化により,統合失調症に伴う種々の疾病負担,死亡率,心理社会的および健康上の問題を低減することである。本ガイドラインでは,患者中心の治療原則が繰り返し述べられ,評価や治療は可能な限り患者との協働によって決定され,患者にとっての個人的および社会文化的な重要性を包含すべきであることが強調されている。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・全章が一体となって体系化されている。うつ病の体系知を持つことで初めて軽症例の治療もよりよく行える,という理解に立って書かれている。

 ・エビデンスに基づいた記載と,エキスパートコンセンサスに基づいた臨床上重要となる記載からなる。

 ・治療方針の決定において,当事者や家族,専門家とともに双方向で決定する手法である「共同意思決定」(shared decision making:SDM)をより円滑に進めるための情報提供の役割も担う。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・5〜18歳の児童青年期に生じたうつ病の判別と医学的管理を目的としたガイドライン。

 ・2005年9月に発行された同ガイドライン(CG28)を大幅改訂し,新ガイドラインとしてまとめられたもの。

 ・段階的ケアモデルに基づいて,児童青年期のうつ病の検出とアセスメントを改善しつつ,軽度から中程度および重度のうつ病患者に対する効果的な治療を推進することを目的としている。

 ・想定されている利用者は,①メンタルヘルスケアの専門職,②メンタルヘルスサービスの提供者やその責任者,③児童青年期のうつ病患者とその家族・支援者である。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・「疾病負荷とケアの原則」1),「精神療法」2),「薬物療法」3),「神経刺激療法」4),「補完代替医療」5),「特別な患者(児童思春期,女性,高齢者)の治療」6)の6つのパートからなる。

 ・多くのガイドラインが基準としているAppraisal of Guidelines for Research & Evaluation Ⅱ(AGREEⅡ)やGrading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluations(GRADE)systemに従うのみならず,エキスパートオピニオンを組み入れた独自の評価で推奨を決定している7)

 ・エビデンスレベルは1から4に分類される。治療選択の順位はエキスパートオピニオンも臨床的有用性を認めるという前提において,第一選択治療はエビデンスレベルが1または2以上,第二選択治療はレベル3以上,第三選択治療はレベル4以上のエビデンスが存在するというルールがある。

 ・想定している利用者は一般の精神科医や精神医療の専門家である。

第4章 双極性障害

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・この双極性障害治療ガイドラインは,臨床経験のある精神科医が参考にすることを想定しているが,いかなる臨床研究の結果(エビデンス)にも限界があることを知った上で,ガイドラインを参考にすべきである。

 ・ガイドラインは医師の治療裁量権をしばるものではない。患者の症状は一人ひとり異なるものであり,患者の病前性格も,置かれた社会環境にも違いがある。どのような治療が最善なのかは主治医のきめ細かな診立てと総合的な判断によるべきである。逆に,ガイドラインに沿って治療しさえすればそれで十分だ,とする考えが誤解であることは論をまたない。

 ・エビデンスに乏しいとしても,心理社会的療法は薬物療法と並んで重要な治療である。医師-患者関係の構築,患者や家族の苦悩への共感と支持,その時々の症状や患者の抱える問題に対する専門家としてのアドバイスなどは治療の基盤をなすものである。この治療ガイドラインは,このような姿勢をもって治療にあたる医師にこそ有用なものである。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・双極性障害という多様で複雑な疾患について,有効性,安全性,忍容性に関する膨大なエビデンスをまとめ,臨床医に対して明確で分かりやすい推奨事項を提案することを目的として作成された。

 ・各治療薬のエビデンスは,レベル1から4までに分類され,最終的な推奨レベルを,それらのエビデンスレベルと安全性および治療に関連した気分スイッチのリスクより,第一選択薬,第二選択薬,第三選択薬,推奨されない治療薬として示している。

 ・多くの患者で維持療法が必要となることより,急性期の治療薬を選択する際に,維持療法での有効性と安全性を考慮すべきであるとしている。

第5章 不安症・パニック症 ①不安症

S3 guideline for anxiety disorders 大坪 天平
  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・S3 guideline for anxiety disordersは,パニック症(panic disorder:PD),広場恐怖(agoraphobia:AG),社交不安症(social anxiety disorder:SAD),全般不安症(generalized anxiety disorder)を対象に作成された診療ガイドラインである。

 ・不安症の第一選択薬は,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)および選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin noradrenalin reuptake inhibitor:SNRI)である。第一選択薬が効果不十分な場合,別の薬物療法に変更する。

 ・すべての精神療法のうち,認知行動療法(cognitive behavioral therapy:CBT)は最も高いレベルのエビデンスによって支持されている。精神療法の二次治療としては力動的精神療法が推奨される。

 ・精神療法,薬物療法のいずれかの効果が不十分な場合は,他の治療法またはその併用に切り替えるべきである。

第5章 不安症・パニック症 ②社交不安症

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・このガイドラインの目的は,社交不安症(social anxiety disorder:SAD)の認知,評価,治療についての推奨を作成することである。これにより,1.SADの治療やサービスについてアクセス(利用方法)や対応を改善する,2.SADの心理的,心理社会的治療について評価する,3.SADの薬物療法について評価する,4.前記を統合し,SADの経過におけるケアについて最良の助言を行う,5.英国のNational Health Service(NHS)の要件に合致した推奨の作成を通して最良の臨床実践を実現すること,とされる。

 ・対象は,児童青年期および成人のSAD患者,そのケアにかかわる一次,コミュニティ,二次,三次,その他の保健専門家であり,産業保健サービス,社会サービス,独立セクターの活動についてはカバーしていない。

第5章 不安症・パニック症 ③全般不安症/パニック症

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・本ガイドラインは,成人(18歳以上)の全般不安症(generalised anxiety disorder:GAD)およびパニック症(panic disorder:PD)患者を対象として,両疾患のより良好な機能とより低い再発可能性に関連する症状の完全な除去(寛解)の達成を目的として作成された。

 ・学会により作成される他のガイドラインと異なり,公的機関によって作成された。

 ・さまざまな治療法(医療技術)に対して,「医学的効果(患者にとっての最適選択)」と「経済的コスト」の両面から最も適切な治療手順の評価を行い(=エビデンスの評価だけでなく,費用対効果を明示する),ガイドライン作成グループの構成員としても医療・技術専門家だけでなく,患者および介護の代表者が入っている。

 ・想定される利用者は,医療従事者,患者,患者家族および支援者とされ,さらにその内容はプライマリ・ケア医までの対応に重点が置かれている。

第5章 不安症・パニック症 コラム

  • 文献概要を表示

 海外では不安症と強迫症に関する診断および治療のガイドライン(本稿では合わせて診療ガイドラインと呼ぶ)が発表され,日常診療の指針となっている。しかし,残念ながら日本ではこのような診療の標準を示すガイドラインがこれまで発表されてこなかった。海外の診療ガイドラインを日本で利用しているのが現状であるが,日本で未承認の薬物や日常臨床では利用できない心理社会療法が海外のガイドラインには含まれている。したがって,日本の診療の現状にあわせた適切な診療ガイドラインの開発が必要である。

 海外の不安症ガイドラインでは,ベンゾジアゼピン系抗不安薬はできるだけ使わずに,SSRIや一部のSNRIを第一選択薬に推奨している1)。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は,依存性,認知機能障害,転倒,自動車運転ができない,などの有害な副作用を有するため,可能であれば他のより安全な依存性のない治療薬を選ぶべきであるという考えが欧米の標準的な不安症治療の考え方である。幸い,SSRIには依存性はなく,一部のSSRIを除くと十分に注意した上で自動車運転も可能である。数年前からベンゾジアゼピン受容体作動性の抗不安薬と睡眠薬の不適正使用が保険診療の面から制限されるようになっているが,むしろ学会のガイドラインが適正使用を推進するべきであると考える。さらに,認知療法・認知行動療法は不安症や強迫症の保険診療として現在承認され,まだ容易とは言えないが,日常の治療として利用可能となっているので,このような精神療法と薬物療法を統合したガイドラインが必要である。

第6章 パーソナリティ障害 ①境界性パーソナリティ障害

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・ガイドラインの目的は,BPDの成人,BPD症状を示す若年者,学習障害(learning disability)とBPDを持つ人に対して治療の供給,各種サービスの提示,効果的な臨床的管理を実施することである(学習障害があれば,学習障害サービスチームの専門家にコンサルテーションを行うべきであり,学習障害が中等度以上ならBPDの診断は避けるべきだとされる)。

 ・BPDの特性から,治療を提供する英国の国民保健サービス(National Health Service:NHS)と他のサービスとの効果的な連携と全体の統括・管理が重視される。

 ・Quality Adjusted Life Years(QALYs)といった指標を使って経済的効果の評価が行われている。

第6章 パーソナリティ障害 ②反社会性パーソナリティ障害

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・本ガイドラインは,一般精神医療や司法精神医療において反社会性パーソナリティ障害を持つ者に治療的介入,対応,予防を行う際に推奨される。

 ・本ガイドラインは,精神医療,社会福祉,刑事司法システムにおいて反社会性パーソナリティ障害者に提供されるさまざまなサービスに広く適応される。

 ・本ガイドラインは,反社会性パーソナリティ障害者の持つ怒り,苦悩,不安,うつなどの感情に適切に対処し,犯罪や反社会的行為が減少することを目的としている。

 ・本ガイドラインは,医療専門職,反社会パーソナリティ障害当事者,家族,ケアラー(Carer)注1)が使用することを想定している。

第7章 心的外傷後ストレス障害/急性ストレス障害

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・主に小学生年齢以上の子どものトラウマ診療について,臨床の第一線を担う小児科医や精神科医,および,精神保健福祉領域の専門職を対象に,簡潔に診療の全体像が把握できることを主眼にまとめられた。

 ・子どものPTSD治療の第一選択として海外のガイドラインで推奨されているトラウマフォーカスト認知行動療法(trauma-focused cognitive behavioral therapy:TF-CBT)のエッセンスも記載されている。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・メンタルヘルス専門職のために,PTSDの各治療法の治療水準をまとめたものである。

 ・有効性のエビデンスが豊富なトラウマ焦点化心理療法や薬物療法などに限らず,これまでPTSDやトラウマ関連障害に適用されてきたさまざまな治療法についても取り上げ,それぞれの領域のエキスパートによる各技法の詳しい解説と,治療効果に関する網羅的レビューによるエビデンスを呈示している。

 ・PTSD治療だけでなく,成人と子どもの診断評価および早期介入に関する章も設けている。

 ・エビデンスのレベルはコードシステムによりレベルA(質の高いRCTにより効果検証)からレベルF(最近開発され実証研究はまだない)までの6段階で示されている。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・精神保健の専門家,司法機関,教育機関,非政府組織(NGO)など,PTSDを患っている人,あるいは,患う可能性のある人の働く組織の従事者,組織運営にかかわる人,PTSDの罹患者,患う可能性のある人自身,家族,ケア提供者,一般市民に向けて書かれている。

 ・各医療技術や施策について医学的効果(患者にとっての最適選択)と経済的効果(費用対効果)の両面からの評価を示している。

 ・人々は自分自身のケアの方針策定に参加する権利を有しているという前提に立ち,性差,性志向,性転換の有無,年齢,住居がないこと,難民や難民申請者,不法移民,疾病罹患者の平等が保たれることに関心を払って作成されている。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・米国心理学会によるガイドラインであり,多くの心理療法を検証している。また薬物療法についての評価も行っている。

 ・ガイドラインを作成する手法に注意を払っており,総合的,実証的で透明性が高く,厳密である。一方大部で分かりにくい。

 ・成人のPTSD治療についてのガイドラインである。

  • 文献概要を表示

 心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)は,災害や事件,事故といった危機的な出来事に見舞われた方への初期対応として,多くの国際機関やガイドラインで推奨されている支援方法である。ストレス・災害時こころの情報支援センターでは,WHOが中心となって作成したガイドラインの翻訳,研修会の導入などを行い,国内でのPFA普及を行っている。詳細は,https://saigai-kokoro.ncnp.go.jp/pfa.htmlをご参照いただきたい。このガイドラインは,災害現場や難民キャンプなどで実務に携わる支援者の要望から誕生し,その特徴は文化の違いに配慮しつつ世界中どこでも使用できるように作られていることと,精神保健の専門家だけが対象ではなく,多職種からの使用を見込んで作られている点にある。医学的疾病モデルではなく,社会的サポートモデルからのメンタルヘルスケアに重点が置かれており,活動原則はP+3L「準備(prepare),見る(look),聞く(listen),つなぐ(link)」ときわめてシンプルだが,押し付けがましくなく被災者を傷つけずに支援することができるよう,コミュニケーションスキルやレジリエンスを引き出すかかわり方が多く盛り込まれている。かつては心理的ディブリーフィングのような,被災者の感情や反応をむやみに聞きだす方法がPTSD発症などの予防になると考えられていたが,のちの研究を経て現在では心理的ディブリーフィングはむしろ害を与え得るとして国際的に否定され,PFAが推奨されている。また,支援者自身のケアが取り入れられていることも,現場従事者から支持される理由の1つとなっている。

 WHO版PFAでは,ガイドラインに基づいた研修会が開発されており,座学だけではなく,ケースシナリオを用いたディスカッションやロールプレイなど,実践を意識したワークも含めて構成されている。研修を受けるにあたって経験や知識,事前の準備は必要なく,誰でも受講することが可能である。日本では普及を始めた2012年から2019年11月末現在までの間で,研修会や講演会の参加者数は1万3千人を超える。導入から7年経った今も自治体やさまざまな団体/組織からの問い合わせや開催要請が途絶えない背景には,近年の大水害や巨大台風のように,いつ,どこで,誰が巻き込まれるか分からないという,災害への危機意識の高まりがあるだろう。

第8章 発達障害 ①自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・①エビデンスの重視,②エキスパートの参画,③国民の関与,④独立性,適切な議論と透明性,⑤レビューの実施,⑥社会的価値観や公正性への配慮,⑦先進的な方法論という原則に基づき作成されている。

 ・18歳以上の成人期ASDを対象としている。

 ・成人期ASDの評価,診断および介入について,患者ケアを最適化することを目的としている。

 ・医療関係者だけでなく,平易な文章で書かれているため一般市民も利用者として想定されている。

 ・エビデンスの強さは特に書かれていないが,臨床上重要ではあるがエビデンスが不足しているテーマには「研究への推奨」が示されている。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・ASDに関するNICEガイドラインは19歳以下を対象にしたAutism spectrum disorder in under 19s:recognition, referral and diagnosis(CG128),Autism spectrum disorder in under 19s:support and management(CG170)と成人を対象にしたAutism spectrum disorder in adults:diagnosis and management(CG142)の3つのパートに分かれている。

 ・19歳以下のASDの当事者,家族,支援者を対象にしており,医学領域で大きな関心を集め,BMJ1,2)などでも紹介されている。自閉症の支援者,当事者,保護者など関係者の意思決定に大きな影響を与えており,医師,心理職,福祉職など自閉症支援者の多くはガイドラインの内容を共通認識として持っている。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・ADHDの臨床像が明確に表現されている。身体的基盤因が重視され,養育の課題論,親責任論を明確に退けている。

 ・「心理社会的治療の重視」が明確化されている。また,病態の重症度に応じ,心理社会的治療の施行期間を調整する必要が述べられている。薬物療法に至るまでの期間がかなり長く設定されている。

 ・抗ADHD薬の選択の仕方(現在はグアンファシンが登場し3剤からの選択になる),適応外使用薬についての説明と同意の重要性に触れている。

 ・治療目標論が表現されている。障害の症状改善ではなく,患者の自己形成に付言している。また,患者のパーソナリティ形成への視点が盛り込まれている。

第9章 摂食障害

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・摂食障害治療ガイドラインは,日本摂食障害学会の監修により,2012年に刊行された。このガイドラインの対象読者は,摂食障害の治療に携わる精神科医,心療内科医,小児科医,心理士,看護師,養護教諭などで,日本の専門家が実際に行っている摂食障害の診断から治療が,系統立ててまとめられている。日本人患者を対象としたエビデンスが不十分であることや,欧米でエビデンスのある治療法をそのまま日本で行うことが難しいことなどから,治療の推奨度は示されておらず,診療に有用な情報提供と位置付けされているものである。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・ガイドライン1)は全40ページで,推奨事項,背景,今後の研究への推奨で構成されている。表1にガイドラインの構成を示す。一方,概要,摂食障害の一般的特徴や疫学などを含む序論,ガイドラインの作成根拠を掲載した970ページに及ぶフルガイドライン2)もNICEホームページからダウンロード可能である。

 ・対象者は,精神科医やかかりつけ医(general practitioner:GP)など医療の専門家だけでなく,行政,教育および司法関係者を含めたサービス提供者,加えて患者本人や家族を対象とすると明記されている。ただし,まず登録しているGPで診察を受け,そこから紹介を受けてはじめて病院を受診できるというGP制度など,英国独自の公的医療制度下での使用を前提としている。

  • 文献概要を表示

 摂食障害に関するNICEガイドライン初版の発表後,英国では,神経性やせ症重症例の“underfeeding”(栄養補給不良)による死亡例が注目された時期があった。特に,摂食障害専門病棟や精神科病棟では対応できずに内科に依頼した事例に死亡例があることが問題とされた。内科でも精神科でも再栄養症候群の危険性がよく知られるようになり,栄養補給に慎重すぎる場合があることなどが原因だと考えられた。これを踏まえ,英国精神医学会の専門家グループが死亡例の情報を集め,内科とも討議した後に作られたのが,MARSIPAN(Management of Really Sick Patients with Anorexia Nervosa)であり,現在は第2版(2014年)となっている。小児科年齢用にはJunior MARSIPANがある。栄養補給不良だけでなく再栄養症候群についても記述がある。通常,ガイドラインの作成は,治療効果のあるものを探す視点で作られるが,死亡例を詳細に検討し,経過を悪化させた要素を提示することも重要であろう。日本国内でも,死亡例の情報の集積と経過の検討が必要だと思われる。

第10章 認知症

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・「治療」に限定せず診断や診断後の介入,サポートについて具体的に言及した「診療」ガイドラインである。

 ・認知症診療において不可避である,合併症や医学管理上問題となる事項の解決法をより具体的に提示した。

 ・非Alzheimer型認知症や内科的疾患について言及した。

  • 文献概要を表示

マニュアルのポイント

 ・一般病院に通院あるいは入院中の認知症および認知症が疑われる患者に対する実践的かつ具体的な対応マニュアルである。

 ・ポケットサイズで携帯に便利であり,多忙な業務中でもすぐに参照できるよう使い勝手に配慮して作成されている。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・本ガイドラインは,治療・対応を行う上での標準的な指針であり,すべての適切な治療またはケアの方法を網羅しているわけではない。

 ・具体的に設定された質問または問題のみに対応したものである。

 ・特定の治療を義務付けるものではない。

 ・専門的判断に代わるものではない。

 ・患者の個人差を考慮していない。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・認知症とともに生きる人々を支援するスタッフを教育するとともにケアラーを支援するための推奨事項を作成することによって,ケアを改善することを目的としている。

 ・対象者は①認知症とともに生きる人々をケアし,サポートする保健医療福祉専門職,②認知症の保健医療福祉サービスの監督者および提供者,③NHS,または認知症とととともに生きる人々にケアを提供するためにNHSや社会サービス事業者と契約を締結している住宅関係機関,民間およびボランティア機関,④認知症とともに生きる人々,その家族,ケアラーである。

 ・前文には作成の背景が記されており,第1章に作成委員,第2章に推奨の強度,第3章に作成方法が解説されている。第4章は推奨事項の総覧で,第5章〜第19章に領域ごとのエビデンス/推奨事項の解説がある。

 ・全体を通して「認知症患者」という用語は一切使用されず,「認知症とともに生きる人々」という用語が統一して使用されている。これは,本ガイドラインがパーソン・センタード・ケアの理念に下支えされたものであることを示している。

  • 文献概要を表示

 本ガイドラインは,本間昭らによる初版1)の改訂版であり,日本老年精神医学会のホームページから無料でダウンロードできるので参照されたい。

 さて,BPSD対応が困難な場合,精神科にその対応が委ねられる。もちろん非薬物療法が優先され,やむを得ず隔離や身体拘束も必要になるが,さらに抗精神病薬を使わざるを得ないこともある。精神科医はBPSD治療の最後の砦といえる。

第11章 せん妄

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・がん医療に携わるすべての医療従事者が適切な一次的ケアを提供できることを目的に,成人がん患者のせん妄に関する診療行為を対象としたガイドラインである。せん妄の診断や薬物療法,非薬物療法,家族へのケアに関する臨床疑問9項目を検討している。

 ・財団法人日本医療機能評価機構が運営するEBM普及推進事業Mindsによる「診療ガイドライン作成マニュアル」に則り作成された。作成にあたり,臨床疑問ごとにシステマティックレビューを行い,バイアスリスクを評価し,エビデンスレベルを決定する作業を進めている。

 ・効果の指標はせん妄の改善(持続期間の短縮,重症度の低下)においているが,終末期のせん妄においては,せん妄自体の改善は困難であり,その際のケアのゴールはせん妄の治癒ではなく,苦痛の緩和や療養生活の質の維持・向上にある。そのことから,推奨の作成では,せん妄の指標だけではなく,患者および家族の安寧やQOLの維持・向上を含めた総合的な判断となっている。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・せん妄診療について,現場の医療者のニーズに応えることを目的にしている。

 ・対象疾患はせん妄,利用者は現場の医療者である。

 ・日本総合病院精神医学会のせん妄研究グループDELIRIA-Jによる成果,エビデンスを網羅するために行ったシステマティック・レビューを踏まえつつ,ランダム化比較試験(RCT)の守備範囲外である実臨床の感覚を重視している。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・医学的な緊急事態に直結するにもかかわらず,見逃されたり,不適切な治療が行われやすいせん妄の適切な同定,診断,予防および管理の方法を改善するためのガイダンスを提供している。

 ・せん妄の予防に関して20に及ぶ臨床疑問を設定し,系統的な文献検索を行い,費用対効果も加味して推奨事項を述べている。3章では,Key messages of the guidelineとしてエッセンスを記載し,4章では,推奨事項をまとめている。

 ・18歳以上の入院患者,長期施設ケアの患者を対象としており,18歳以下の若年者,終末期患者,薬物やアルコールの中毒または離脱の患者については該当しない。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・慢性不眠症に対する適切な症状評価,治療の要否判定,睡眠衛生指導,薬物療法,非薬物療法,維持治療,休薬を目指した出口戦略についてのアルゴリズムを示した包括的なガイドラインである。

 ・睡眠薬治療は単剤・常用量使用が原則であり,安易な多剤併用療法や長期使用は避けるべきである。

 ・非薬物療法の認知行動療法は単独療法も睡眠薬との併用療法も有効性が示されているため,可能であれば実施を検討することが望ましい。

 ・不眠症状と日中の機能障害が十分に改善した場合は,睡眠薬を継続すべきか,休薬を目指すべきかについては,共同意思決定により決定することが望ましい。

第13章 てんかん

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・てんかん診療にあたる一般医の指針として,2010年に作成された「てんかん治療ガイドライン2010」の改訂版である。成人および小児てんかんの診断,治療および予後について簡潔にまとめられている。

 ・2018年版では新しい抗てんかん薬に関する記述を更新,追加した。

 ・外科治療に関する3つのクリニカル・クエスチョン(CQ)については,GRADEシステムを用いたシステマティック・レビューを行った。これらには推奨グレードとエビデンスの評価を記載し,エビデンスの解説を行われている。一方,それ以外のCQでは「要約」として,専門家の総合的意見を記載し,解説されている。

 ・近年,注目されている自己免疫性てんかんの一つである抗NMDA受容体抗体脳炎についても新たに取り上げられている。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・てんかんのタイプごとの抗てんかん薬の推奨も行われているが,医療コストの評価も推奨度に取り入れられている。

 ・てんかん診療のプライマリ・ケアから二次医療までを幅広くカバーしている。

 ・利用者は医療専門職から教育者まで幅広く想定されており,対象も小児から成人およびその家族まで全域にわたる。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・2001年にまとめられた「アルコール・薬物関連障害の診断と治療のためのガイドライン」以降,更新のなかった物質使用障害の最新の診断治療ガイドラインである。

 ・物質使用障害「軽症者」の診断治療にも視点を向けている。

 ・アルコール依存症への「飲酒量低減」も治療目標になり得る点を盛り込んでいる。

 ・物質使用障害の専門家だけでなく,物質使用障害を専門としない精神科医や他科の医師,レジデントも活用できるように,物質使用障害の対応について症例を挙げて解説している。

 ・物質使用障害治療のエキスパートらによるコンセンサスガイドラインである。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・アルコール使用障害(AUD)のケアや治療の質の改善を目的とする。

 ・エビデンスに基づいた薬物療法に焦点を当てているが,薬物療法に限らずAUDの薬物療法に必要な評価や治療計画に関連した項目も含まれている。

 ・ガイドラインの作成に当たって,各ステートメントのメリットと有害性が評価されて信頼水準が同定されており,推奨の強さ(grading of recommendations assessment, development and evaluation)が明示されている。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・ニコチン,アルコール,違法薬物,処方薬を含む幅広い薬物を扱っており,薬物乱用・依存治療の必要な患者に起こるさまざまな問題を扱おうとするヘルスケア提供者,家族,その他の関係者に必要な資源を提供するものである。

 ・数ある研究論文から,信頼性の高いエビデンスに基づいた基本的な薬物乱用・依存症の治療について提示している。エビデンスの強さや推奨度は記載されてないが,効果的治療の13の原則など,基本的で重要な点について治療の専門家でなくても理解しやすいように配慮されている。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・治療は,患者のニーズに応じて,アウトリーチ,診断,簡易介入,入院・外来治療,薬物療法・心理社会的治療,療養施設,リハビリテーション,社会復帰治療などを提供するが,治療環境は,受診しやすく,治療促進的で,文化・宗教的な違いに寛容でなければならない。

 ・治療は,患者の人権と尊厳を尊重し,治療の内容および治療開始と終了は患者の意志によって決定されるべきである(患者にその能力がある限り)。

 ・薬物使用障害患者は,犯罪者として司法制度の中で対処されるのではなく,健康問題(精神疾患)として治療体系の中で対処されるべきである。

 ・科学的に検証され,国際的に評価が確立された治療(特に薬物療法と心理社会的治療)が採用されるべきである。

 ・青少年,子供,高齢者,女性(特に妊婦),性的サービス就労者,性的マイノリティー,少数民族(文化的,宗教的含む),服役者などには,それぞれの事情を考慮した治療プランが立てられるべきである。

 ・治療プログラム,実施手順などは,絶えずエビデンスに基づいて更新され,倫理的・医学的に管理・運営されなければならない。同時に,治療チームの責任者は,治療スタッフの疲労にも気を配り,チームが機能するように気を配らなければならない。

 ・治療システムは,精神科的支援だけでなく,社会的支援(住居,就労,法律的支援),他の医学的ケア(肝炎やHIVなどの感染症)などの包括的支援が求められる。支援は,まず治療計画を立案・実行し,成果を評価し,改良を加える。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・精神科救急医療現場における医療実践のための包括的ガイドライン。項目によるが,医師(精神科,精神科以外),看護師,その他医療従事者などが活用可能。総論,受診前相談,興奮・攻撃性への対応,薬物療法,自殺未遂者対応の5章からなる。

 ・他に,規制薬物関連精神障害に関する独立した別冊がある(初版2007年1月19日版,改訂2011年4月4日版)。

 ・全般にエビデンスに基づくがレベルは非明示。推奨度は本文の語尾により,最小限必要(minimum)「〜ねばならない」「〜のこと」,最適(optimum)「〜が望ましい」,中間に属する選択可能(optimal)と思われる項目「〜べきである」の3段階を設定している。

 ・コンテンツの多くで厚生労働科学研究の成果を引用している。

第15章 その他 ②自殺・自傷行為

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・ガイドラインという名がつけられてはいるが,医学的な診断や治療を行うための診療ガイドラインではない。

 ・対象として想定されている利用者は,日常的に学生と接触する一般の大学教職員,クラス担任や研究指導教員,大学の相談機関のカウンセラー,保健管理施設の医療スタッフ,そして,大学の方針を統括する立場にある執行部の教職員である。

 ・1項目が2ページと読みやすく,また,各項目は「学生支援の3階層モデル」(後述)に即して書かれているため,それぞれの立場の教職員が,自分はどこを読んで対応すればいいのかが分かりやすい構成となっている。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・自殺対策は世界が緊急に果たすべき責務であるとの認識を示し,自殺対策にかかわるすべての関係者がただちに行動を起こすことを呼びかける文書である。

 ・自殺は社会の努力で防ぐことのできる公衆衛生上の課題であり,すべての国で取り組むべき優先順位のきわめて高い政策課題である。

 ・自殺対策を成功に導くためには,多部門の協力によるアプローチが大切であり,すべての国は,包括的な手法を用いて,それぞれの国の実情に応じた対策を推進する必要がある。

 ・WHOの精神保健行動計画2013-2020において,2020年までに各国において10パーセントの自殺死亡率の減少を目標として設定している。本ガイドラインはこの目標を達成するためにすべての国にただちに自殺対策戦略の構築と実施を求めるものである。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・自傷行為をする8歳以上の人に対する,長期的な心理的治療と管理についてのガイドラインであり,自傷行為(単一および再発の両方のエピソード)へのケアと支援の質を改善することを目的としている。

 ・自傷行為そのものではなく,その背景にあるニーズやリスクを丁寧に評価し,ケアプランやリスク管理プランをともに立てることが介入の主軸である。このためには利用者(自傷行為をする人)と提供者(ヘルスケアとソーシャルケアの専門家)の良好な関係性の構築や,関係機関との連携が不可欠である。

 ・3〜12回で構成される心理的介入プログラムの提供が推奨される。

第15章 その他 ③その他

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・性別違和を訴える者に対する診断と治療のガイドラインである。

 ・1997年に初版が発行された。初版から精神科,産婦人科,泌尿器科,形成外科などの複数診療科が医療チームを結成して行う包括的な治療について記載されている。

 ・エビデンスに基づく治療法の推奨というより,性別違和を持つ当事者に対して法的,倫理的に妥当な医療のあり方を提示しているものである。また,身体的治療を行う際の診療科間の連携手順書のような役割を持つ。

 ・初版から精神科的な診断と治療のアプローチに加えて,ホルモン療法,乳房切除術,性別適合手術について記載されていたが,2012年に改訂された第4版では思春期を迎えた小児への身体的治療である二次性徴抑制療法が追加され,18歳からとされていたホルモン療法開始年齢を一部引き下げた。2018年4月から,このガイドラインに沿ってGID学会の認定施設で行われた手術は保険診療の対象となっている。

  • 文献概要を表示

ガイドラインのポイント

 ・プライマリ医師,メディカルスタッフなど,主として慢性疼痛患者の診療に携わっていない医療者にも幅広く利用してもらうことを目的に作成された。

 ・痛みに関連する7学会が協働して作成にかかわった。

 ・Mindsの診療ガイドライン作成の手引きやAGREE Ⅱに則り,推奨度を1〜2の2段階,エビデンスレベルをA〜Dの4段階に分け,実臨床に即したClinical Question(CQ)を設定し解説している。Ⅰ章の総論では慢性疼痛の概念や分類,診断,治療の評価方法が述べられ,Ⅱ章以降では現在本邦で実施されている主な治療法を5つに分けて解説されている。

 ・治療法に対する推奨度とエビデンスレベルについては,疾患特性などを考慮した後述する4つの病態に分けて付与されている。

--------------------

目次

次号予告

バックナンバーのご案内

読者アンケート

奥付

基本情報

04881281.62.5.jpg
精神医学
62巻5号 (2020年5月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月23日~11月29日
)