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はじめに
高次脳機能障害とは,運動麻痺や感覚障害,認知症では説明のつかない中枢神経系の障害による言語,認知,動作の異常のことで,脳卒中,外傷性脳損傷(traumatic brain injury;TBI),低酸素脳症,脳炎,脳腫瘍などで生じる。以前のわが国では,外見上は健常者と相違ないが日常生活や社会生活に制約があり,適切な医療や社会的支援が受けられずに困窮している多くの高次脳機能障害者が存在した。2001年から高次脳機能障害支援モデル事業が開始され支援対象者を明確にするための行政的診断基準14)が作成され,2006年には支援事業を全国展開するに至り,医療・福祉両面での支援は大きく進展した。診断基準の要点は,客観的に確認できる脳病変があり,主症状は記憶障害,注意障害,遂行機能障害,社会的行動障害の4つである。半側空間無視(unilateral spatial neglect;USN)や失語症は広義の高次脳機能障害に該当するが,行政的診断基準には失語・失行・失認が主症状であるものは該当しない。
高次脳機能障害者が職場復帰・社会復帰をする際には,自動車運転再開を望む者が多いが,わが国では運転適性に関する判断基準は明確ではない。道路交通法第103条では免許の取消し・停止の病気を定めており,高次脳機能障害は,主に道路交通法施行令第33条の2の3で示す「自動車等の安全な運転に必要な認知,予測,判断又は操作のいずれかの能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する病気」に該当する。警察庁丁運発第185号の中には,「一定の病気に係る免許の可否等の運用基準」11)が別添され,安全な運転に支障を来す一定の病気などとその運用基準(表1)が明記されている。
本稿では,まず,高次脳機能障害者に対する運用基準の解釈を解説する。次に,運転に関わる高次脳機能と適性評価に有用とされる机上課題やシミュレータ評価,事故・違反などに関する海外報告を紹介する。最後に我々が作成した自動車運転再開の指針を紹介し,運転再開評価の手順をまとめる。
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