増大号特集 精神科診療のエビデンス—国内外の重要ガイドライン解説
第5章 不安症・パニック症
コラム
—日本不安症学会/日本神経精神薬理学会—不安症・強迫症診療ガイドライン
井上 猛
1
Takeshi Inoue
1
1東京医科大学精神医学分野
1Department of Psychiatry, Tokyo Medical University, Tokyo, Japan
pp.593
発行日 2020年5月15日
Published Date 2020/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405206077
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海外では不安症と強迫症に関する診断および治療のガイドライン(本稿では合わせて診療ガイドラインと呼ぶ)が発表され,日常診療の指針となっている。しかし,残念ながら日本ではこのような診療の標準を示すガイドラインがこれまで発表されてこなかった。海外の診療ガイドラインを日本で利用しているのが現状であるが,日本で未承認の薬物や日常臨床では利用できない心理社会療法が海外のガイドラインには含まれている。したがって,日本の診療の現状にあわせた適切な診療ガイドラインの開発が必要である。
海外の不安症ガイドラインでは,ベンゾジアゼピン系抗不安薬はできるだけ使わずに,SSRIや一部のSNRIを第一選択薬に推奨している1)。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は,依存性,認知機能障害,転倒,自動車運転ができない,などの有害な副作用を有するため,可能であれば他のより安全な依存性のない治療薬を選ぶべきであるという考えが欧米の標準的な不安症治療の考え方である。幸い,SSRIには依存性はなく,一部のSSRIを除くと十分に注意した上で自動車運転も可能である。数年前からベンゾジアゼピン受容体作動性の抗不安薬と睡眠薬の不適正使用が保険診療の面から制限されるようになっているが,むしろ学会のガイドラインが適正使用を推進するべきであると考える。さらに,認知療法・認知行動療法は不安症や強迫症の保険診療として現在承認され,まだ容易とは言えないが,日常の治療として利用可能となっているので,このような精神療法と薬物療法を統合したガイドラインが必要である。
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