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心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)は,災害や事件,事故といった危機的な出来事に見舞われた方への初期対応として,多くの国際機関やガイドラインで推奨されている支援方法である。ストレス・災害時こころの情報支援センターでは,WHOが中心となって作成したガイドラインの翻訳,研修会の導入などを行い,国内でのPFA普及を行っている。詳細は,https://saigai-kokoro.ncnp.go.jp/pfa.htmlをご参照いただきたい。このガイドラインは,災害現場や難民キャンプなどで実務に携わる支援者の要望から誕生し,その特徴は文化の違いに配慮しつつ世界中どこでも使用できるように作られていることと,精神保健の専門家だけが対象ではなく,多職種からの使用を見込んで作られている点にある。医学的疾病モデルではなく,社会的サポートモデルからのメンタルヘルスケアに重点が置かれており,活動原則はP+3L「準備(prepare),見る(look),聞く(listen),つなぐ(link)」ときわめてシンプルだが,押し付けがましくなく被災者を傷つけずに支援することができるよう,コミュニケーションスキルやレジリエンスを引き出すかかわり方が多く盛り込まれている。かつては心理的ディブリーフィングのような,被災者の感情や反応をむやみに聞きだす方法がPTSD発症などの予防になると考えられていたが,のちの研究を経て現在では心理的ディブリーフィングはむしろ害を与え得るとして国際的に否定され,PFAが推奨されている。また,支援者自身のケアが取り入れられていることも,現場従事者から支持される理由の1つとなっている。
WHO版PFAでは,ガイドラインに基づいた研修会が開発されており,座学だけではなく,ケースシナリオを用いたディスカッションやロールプレイなど,実践を意識したワークも含めて構成されている。研修を受けるにあたって経験や知識,事前の準備は必要なく,誰でも受講することが可能である。日本では普及を始めた2012年から2019年11月末現在までの間で,研修会や講演会の参加者数は1万3千人を超える。導入から7年経った今も自治体やさまざまな団体/組織からの問い合わせや開催要請が途絶えない背景には,近年の大水害や巨大台風のように,いつ,どこで,誰が巻き込まれるか分からないという,災害への危機意識の高まりがあるだろう。
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