臨床雑誌整形外科 69巻6号 (2018年5月)

特集 脊柱靱帯骨化症研究の進歩

編集にあたって 大川 淳
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 臨床雑誌『整形外科』では,1993年に第44巻増刊号,2004年に『別冊整形外科』No. 45として脊柱靱帯骨化症を特集しています.1993年増刊号の目次をみると,脊柱靱帯骨化症の成因からはじまって,病理・生化学,前駆状態,MRI,実験動物モデル,臨床経過と骨化層の進展,脊髄障害,保存的治療,手術的治療などが並んでいます.当時は現在よりも基礎研究が盛んに行われており,臨床論文がむしろ少ない印象があります.

 靱帯骨化症の研究は,厚生労働省の難病研究班として1975年から開始され,すでに40年以上が経過しています.私は現在,第8代の班長として参加しており,本増刊号では研究班での成果を中心にして特集を組みました.

Ⅰ.基礎研究

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は じ め に

 後縦靱帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament of the spine:OPLL)は,脊椎の後縦靱帯の異所性骨化によって起こる疾患である.Common disease(頻度が高い疾患)で,日本人の有病率は2~4%である.病因からみると,一次性(特発性)と二次性(症候性)に大別される1).低リン酸血症性くる病/骨軟化症などの単一遺伝子病(monogenic disease)や,副甲状腺機能低下症や末端肥大症などの内分泌異常症には高頻度にOPLLが合併する.しかし,ほとんどのOPLLは,原因不明の特発性OPLLである.

 特発性OPLLには遺伝的要因があることが知られている1,2).過去の疫学研究などから,特発性OPLLは,複数の遺伝因子と環境因子の総合的な効果で発症する多因子遺伝病であると考えられている.遺伝因子は,複数の(多くの場合,100以上の)疾患感受性遺伝子によって規定される.

 筆者の研究室では,ゲノム解析による特発性OPLLの病因の解明を進めている.全ゲノム相関解析(genome-wide association study:GWAS)を出発点に,疾患感受性遺伝子を発見し,そこからOPLLの病因・病態に切り込もうと考えている3).OPLLでは,発生部位によって遺伝的要因が異なると考えられるが,本稿では頚椎のOPLLのGWAS研究について述べる.

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は じ め に

 後縦靱帯骨化症(OPLL)は椎体の後面を縦走する後縦靱帯が骨化する疾患であり,発症原因が不明であること,したがって骨化の発生や進行を抑制するための有効な治療法が存在しないこと,骨化による脊柱管の狭窄や神経根の圧迫などにより神経症状を呈すると日常生活などにも長く支障をきたすことなどから,厚生労働省のいわゆる難病に指定されている.神経脱落症状が出現するなど,進行した症例では手術的な治療法が選択されることもあるが,骨化傾向そのものは改善されないため術後も骨化が進行し,ときに再狭窄をきたすなど,その対策は重要である.筆者らは,OPLLを自然発症する動物モデルであるtip toe walking(ttw)マウスを用いて,そのOPLL形成機構を突き止めた.ヒトのOPLLはさまざまな要因が複雑に絡まって発症していると考えられ,このマウスを用いた発見がそのままヒトOPLL患者に使えるようになるわけではないと思われるが,少なくとも靱帯が骨化する機序の一端を解明したことは,この難病の治療法開発のヒントになると考えている.

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は じ め に

 脊椎には複数の縦走する靱帯があり,個々の椎骨を縦につないで脊椎を安定化するとともに,その連係運動を保証する重要な役割をもつ.その靱帯のなかで,椎孔内前面(椎体後面)と後面に位置する二つの靱帯(それぞれ後縦靱帯と黄色靱帯)は椎孔内を縦走する脊髄に接している.その脊柱靱帯が異所性に骨化を起こすことがある.靱帯組織が小さく骨化することは,加齢によって起こりうる.しかし,ある程度以上大きくなると脊髄を圧迫し,進行すると手足のしびれ,そして麻痺にいたることもあり,脊柱靱帯骨化症となる1).現在のところ,侵襲性がきわめて高く,患者の負担の大きい脊椎手術以外に有効な治療法や発症進展の予防法が確立しておらず,手術後の再発の可能性もある.したがって患者のQOLを向上させるためにも,安全性の高い優れた薬物治療法の確立が求められている.そのためには病因の特定が欠かせない.家族性が認められることから,同疾患の原因には遺伝的要因が推定されて,原因遺伝子の探索がすすんでいる2).また疫学的には,患者の内分泌,代謝などの疾患が病因となりうると考えられている3).一方,臨床的にはメカニカルストレスがかかる靱帯部位に骨化の発症と進展が起こりやすいとも報告されている4).したがって,脊柱靱帯骨化症はさまざまな因子が組み合わさって起こる多因子疾患と考えられる3)

 そこでわれわれは,本疾患の病因を明らかにするために原点に立ち返って,そもそも骨化する実体は何かを問うことにした.それが明らかになれば,発症の機序解明への重要な手がかりが得られ,治療の標的もみえてくると考えたからである.

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は じ め に

 巻頭で述べられたように,靱帯骨化症の研究班をベースに頚椎の後縦靱帯骨化症(OPLL)の大規模なゲノムワイド関連解析(genome-wide association study:GWAS)が行われ,疾患感受性のゲノム領域が6ヵ所同定された1).そのなかの一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)の一つ,rs374810は,R-spondin2(RSPO2)遺伝子の転写開始点近傍に存在する.RSPO2はRSPOファミリーに属する分泌蛋白であるが,RSPOファミリーはWntシグナルを活性化することが知られている.Wntシグナルが骨形成を強力に促進し,また骨格形成期には軟骨内骨化を制御することも広く知られていることから,RSPO2がOPLLに関与することが強く疑われた.

 本稿では,RSPO2に関する既存の報告を紹介するとともに,OPLLの病態解明,治療法開発に関する研究班で得られた成果について概説する.

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は じ め に

 後縦靱帯骨化症(OPLL)の発症には遺伝的素因が関与することが早くから示されてきたが,その罹患率の高さからわかるように多因子性の関与であり,分子病理学的な病態解明は遅れている.本稿は,厚生労働省の主導するOPLL研究班が近年遂行した本格的「ゲノムワイド相関解析(genome-wide association study:GWAS)」が同定した6つのリスク遺伝子多型のうち,筆者の取り組んだ領域(染色体6p21.1内)について,やや個人的な感想も含めて述べさせていただく.

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は じ め に

 世界最速で超高齢化が進行しているわが国において,靱帯骨化症,骨粗鬆症およびそれに伴う骨折,変形性関節症といった運動器疾患の克服は喫緊の医療課題である.しかしながら,それらの発症機序はいまだ不明のままである.われわれは,まったく新たな視点から骨・軟骨代謝調節の分子機構を解明すべく,後縦靱帯骨化症に注目した.

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は じ め に

 脊柱靱帯骨化症は全脊椎に発生しうる異所性骨化病変であり,もっとも高頻度に遭遇するのが後縦靱帯骨化(OPLL)である.これらは脊髄圧迫をきたすことで神経障害をきたし重大な機能障害をきたすことがある.疫学的な調査では,Fujimoriら1)が報告するように,OPLLの有病率は,白人種の0.1~1.3%に比べて,黄色人種であるアジア人,特に日本人において1.9~4.3%と高く,脊柱靱帯骨化の傾向が強いことが知られている.また骨化巣は比較的発生頻度の高い頚椎だけではなく,脊髄の易損性が高く重篤な麻痺を生じうる胸椎でのOPLLを併存することも珍しくない.それらの存在を把握するのはきわめて重要と考えられる.CT出現以前,X線像での評価が一般的であった時代,頚椎OPLL患者において17.5%が胸椎に,12.6%が腰椎にOPLLが併存していることを示した2).またKawaguchiら3)は,全脊柱CTを用いて単施設における連続した178例の頚椎OPLL症例を調査したところ,過半数を超える53.4%において胸腰椎に骨化巣が併存していることを報告した.これらから多地域で多くの症例を収集し,頚椎以外のOPLLの発生予測因子を抽出することが重要と考えた.

 また脊柱靱帯のうち前縦靱帯骨化(OALL)は日本人に比較的高頻度に存在するといわれる.特にResnikが提唱した胸椎における連続した4椎体が架橋するびまん性特発性骨増殖症(DISH)の状態は臨床的に無症状のものが大半であると考えられているが,その形態学的特徴より微小外力によっても骨折が生じ,ときに重篤な麻痺にいたることが知られている.特に単純X線で診断をつけることが困難なことが多く,整形外科医の読影でも見過ごされることがあり,潜在的にDISHが存在する可能性を常に念頭におくことが重要である.しかしながら,現在までに頚椎OPLL患者にどの程度DISHが存在し,その発生高位を詳細に検討した研究はない.

 厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業・脊柱靱帯骨化症に関する調査研究班(厚労省科研費脊椎靱帯骨化症研究,JOSL study)で,協力施設において同意の得られた頚椎OPLL患者に対して全脊柱CTを撮影した患者を後ろ向きに調査し,胸腰椎におけるOPLL4),DISH5),項靱帯骨化(ONL)6)および棘上棘間靱帯骨化(OSIL)の併存率7),胸腰椎OPLLの存在予測因子の検証に加えDISHの存在高位のクラスタリング分類を用いて解析し検討したので報告する.

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は じ め に

 頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)は,後縦靱帯が骨化することにより脊柱管狭窄をきたし,進行すると脊髄障害を引き起こす疾患である.脊柱靱帯骨化症の病態の解明,特に骨化進展の把握は,治療方針や手術術式の決定を左右するため,重要な意味をもつ.

 これまでに,骨化進展については複数の報告があり,後方除圧術後には約70%の症例に骨化進展がみられること1~6),非手術例に比べ手術例でより多くの進展がみられる4,7)ことは,広く知られている.骨化進展の危険因子としては,年齢(壮年>中・高年),骨化形態(混合型・連続型>分節型),高い日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準(JOAスコア),広い脊柱管前後径などが指摘されている1~6).また,頚椎可動性が骨化を刺激し骨化進展をうながし,逆に安定化は進展を抑制するのではないかとの仮説も存在するが3,6),明確な証明はされていなかった.これまでの報告から,多くの症例で骨化巣が進展すること,手術例は非手術例より骨化進展しやすいことについては,否定する報告はないが,骨化進展危険因子は年齢を例にとっても,骨化進展との間に相関がなかったとする報告も存在し8,9),進展危険因子としてコンセンサスが得られている項目は多くない.

 その原因の一つとして,過去の多くの報告が,X線側面像よりマニュアルあるいはコンピュータ測定システムで骨化巣の計測を行っていたことがあげられる1~5,8,9).これらの計測は,長軸方向の進展評価が主であり,肩が干渉する尾側方向の進展や骨化巣幅の評価が困難であった.骨条件CTから骨化巣の長さや厚さを計測している最近の報告もあるが10,11),長さ,厚みといった二次元解析を基本としている.したがって,これまでは三次元の構造体である骨化巣を正確に評価できていなかった可能性がある.

Ⅲ.骨化症の病態

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は じ め に

 後縦靱帯骨化症(OPLL)は,本来靱帯である組織がなんらかの影響で骨組織に変化し,その結果脊柱管を狭小化して脊髄症などの神経症状を引き起こす疾患である.現在厚生労働省の難病に指定されており,脊柱靱帯骨化症研究班の班会議も組織されている.本疾患は1960年,日本で月本によってはじめて報告された1)にもかかわらず,原因はいまだ不明である.本疾患には遺伝性が認められることから,これまで疾患関連遺伝子を探る多くの研究がなされており,2014年にはGWASで6つの遺伝子の関与が明らかにされた2).一方,これまでにいくつかのバイオマーカーがOPLLとかかわっているという知見が報告されている.血清リン3)(carboxyterminal propeptide of human type 1 procollagen:PICP)4,5),intact osteocalcin4,5),osteocalcin5),insulinogenic index(インスリン分泌指標)6),leptin7),pentosidine8),sclerostin9,10)であるが,これらは血液を用いた測定でOPLLとコントロールの間で有意差が認められたものとして報告されている(表1).しかしこれらのバイオマーカーはいわゆる骨代謝,脂質代謝および糖代謝にかかわるものであり,測定項目としては一般的なものではなかった.われわれはより簡便なバイオマーカーをみつける目的で,CRPをターゲットとして研究を行った.

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は じ め に

 頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)における靱帯骨化の進展や脊髄症の悪化にはメカニカルストレスが関与すると推定されている.OPLLは可動性の大きい頚椎部に好発することや,OPLL患者から採取した靱帯由来細胞は非OPLL患者よりも伸展刺激に対して高い反応性を示し骨芽細胞への分化に関与する遺伝子発現が誘導されることが根拠として報告されている1~7).また,OPLL患者と頚椎症性脊髄症患者の日常生活習慣を比較した研究において,OPLL患者では頚椎前屈位保持時間が有意に長い傾向があることが報告されており,後縦靱帯に対する張力方向の伸展ストレスが発症に関与する可能性が示唆されている8,9).一方,OPLL患者に特有の職業はなく,重労働との関連は否定的とされている10)

 さて,なんらかのメカニカルストレスがOPLLの進展や麻痺(脊髄症)に関与するとした場合,実臨床における最大の関心事はメカニカルストレスをどのように評価するかということになる.しかし,OPLL患者ではX線側面像機能撮影で確認できるような生理的範疇を超える椎間不安定性はなく,動きの程度からメカニカルストレスの程度を推定することはできない.そこで本研究では,骨が内部応力や外からのメカニカルストレスに対応してその密度を変化させること(Wolffの法則)に注目し,CTを用いてメカニカルストレスを推定できないかと考えた.すなわち,もっとも大きな骨化巣を有する高位や脊髄障害の責任病巣付近に局所的な骨密度の増加があれば,その部位には通常よりも大きなメカニカルストレスが加わっていることを間接的に示している可能性がある.この研究仮説を検証するため,本研究では頚椎OPLL患者のCT画像を用いて椎体骨密度分布を調査し,OPLLのタイプや最大骨化巣高位との関連を検討した.

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は じ め に

 頚髄損傷の臨床において,頚椎OPLLを合併している患者に遭遇する機会は,決してめずらしくない.過去の報告を参照すると,頚椎OPLL患者においては転倒などの軽微な外傷で頚髄損傷を生じる可能性は,正常群に比較してやや高いとした報告が多い1)

 本稿では,自験例での頚髄損傷におけるOPLL患者の調査データを示し,さらに過去の論文を参照し,頚椎OPLLと頚髄損傷の関連について検討する.

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は じ め に

 頚椎後縦靱帯骨化症(cervical ossification of the posterior longitudinal ligament:C-OPLL)は,後縦靱帯の骨化により頚髄症をきたす疾患である1).手術法としては,前方除圧固定術と椎弓形成術に代表される後方除圧に大別される1,2).前方除圧固定術は多椎間で難度が高く合併症の報告もあるため,椎弓形成術が手技が容易で良好な成績も多いため選択されることが多い3~6).しかし,前方の遺残圧迫が大きい場合や圧迫高位での椎間可動性を有する場合,椎弓形成術単独では術後の後弯変形などに対応できず,前方除圧固定か後方除圧にインストゥルメントを併用した固定を追加したほうがよいという報告もみられる2,3,7,8)

 筆者らは,予後のわるいとされる山型(hill-shaped)OPLL8)のfinite element method(FEM)の三次元脊髄モデルを作成し,C-OPLLによる頚髄症の発現に静的圧迫と動的圧迫が関与することを報告した9).しかし,除圧術を行った応力解析は行っていなかったため,同モデルを使用しC-OPLLの術式に応じた頚髄への影響を検証した.

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は じ め に

 われわれは胸椎後縦靱帯骨化症(OPLL)に対して,instrumentationを用いた後方固定術を行い,臨床症状の改善とともに骨化巣不連続部の癒合と骨化巣が縮小した症例を経験した.脊椎の固定によって,不連続部の微小な動きが制御され骨化巣における応力負荷が減少したことに起因すると推測した.本稿ではわれわれの経験した症例を紹介するとともに,応力分布の変化を有限要素モデルを用いて解析したので報告する.

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は じ め に

 われわれは日本脊椎脊髄病学会モニタリングワーキンググループで経頭蓋刺激運動筋誘発電位(Br-MEP)におけるアラームポイントを検討してきた.まず疾患を絞るのではなく脊椎手術全般においてどのような傾向があるかを報告した1).しかし疾患・術式の違いによりアラームポイントは大きく異なることに気づき,日本脊椎脊髄病学会モニタリングWGは疾患別のアラームポイントを検討することにいたった.特に,胸椎OPLLは比較的まれな疾患でありOhtsukaらは胸椎OPLLの頻度を一般住民の0.8%と報告しており患者数は少ない2).また,PhamらはOPLLの保存療法で48.7%の患者が症状の増悪を認めたと報告しており3),そのため胸椎OPLLは観血的治療が選択されることが多い.本邦ではMatsumotoら4,5)が過去に胸椎OPLLに対する術後結果の全国調査を報告しており,少しでも術後麻痺増悪を減らすべき検討を行うことは急務である.われわれは2010~2011年に日本脊椎脊髄病学会モニタリング委員会による多施設調査を全国的に施行し,波形が30%以下へ低下した症例の術後麻痺の程度を調査し,MMT低下度と術中波形低下の両項目の相関を検討した結果,麻痺の臨界点がBr-MEPにおいてコントロール波形の15%であることを報告した.今回の研究の目的は,2012~2015年に同様に多施設調査を全国的に施行し,そのデータを元にBr-MEPにおける波形変化のタイミング,すなわち術中に麻痺を呈したと考えうる操作を再検討することと,胸椎OPLLにおけるアラームポイント(麻痺を未然に防ぐタイミング)を検討することである.

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は じ め に

 高齢化社会において頚椎症性脊髄症(CSM)および頚椎後縦靱帯骨化症(C-OPLL)は,頚髄の障害のため,巧緻運動障害や歩行障害が進行しQOLの低下も著しく進行し手術が必要になる症例も増加している.1988年~2012年の56,744件の脊椎手術登録データを分析したAizawaら1)の報告では1988年(892件)~2012年(3,807件)に4.3倍増加しており,特に70歳以上と80歳以上の患者の脊椎手術件数は20~90倍に増加していた.適応疾患では腰部脊柱管狭窄症,腰椎椎間板ヘルニア,CSMの順に多く,2012年時点のCSM患者の半数が70歳以上であった.頚椎症性脊髄症診療ガイドライン20152)では高齢者のCSMの臨床的特徴として罹病期間が長く,術前の神経症状の重症例が多く,手術成績が一般に非高齢者よりも劣ること,椎体すべりなどの不安定性が,非高齢者よりも強く病態に関与していること,前方すべりは,固有脊柱管前後径が広くても症状の発症に関与する場合が多いことなど,高齢者に焦点をあてた記載もある.

 脊椎手術において手術による術後神経麻痺の出現は患者のQOLを低下させるだけでなく,医療経済的にも大きな負担となる.脊椎手術の麻痺の頻度は今城ら3)の31,380例を対象にした脊椎脊髄手術調査報告によると,脊髄障害85例(0.3%),神経根障害297例(0.9%),馬尾障害50例(0.2%)と報告されている.脊髄障害をきたした85例の疾患の内訳は,腫瘍が21例(24.7%),後縦靱帯骨化症(OPLL)20例(23.5%),CSM 13例(15.3%)の順に多かった.また,神経合併症の発生頻度でみるとヘルニアが61例(0.8%),狭窄症が160例(1.1%),すべり症が41例(1.1%),靱帯骨化症が53例(3.7%),脊柱変形が側弯で31例(2.1%),後弯が15例(2.8%),骨粗鬆症性椎体圧壊が8例(1.0%)と靱帯骨化症がもっとも高かった.したがって当科でもCSMに対する通常の椎弓形成術であっても,術後神経合併症を防ぐため術中脊髄モニタリングを従来より行うことが一般的になってきた.

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は じ め に

 現在わが国では頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)に対する術式として椎弓形成術(laminoplasty:LMP)がもっとも広く行われている1).その作用機序は,頚椎後方要素を除去することによるbow-stringing effectに基づいた脊髄の後方移動により前方からのOPLLによる圧迫から脊髄を逃がすという,いわば「間接的」除圧である2).LMPの主な利点として,手技が比較的容易で多椎間の病変に対処しうることなどがあり,OPLLに対しては第一選択ともいえる術式となっている.しかし一方で症例によってはLMPのみでは除圧不足に陥る危険性が報告されている.頚椎アライメントが後弯であることや大きな骨化巣などがOPLLに対するLMPが除圧不足となる主な危険因子とされている.

 頚椎アライメントと骨化巣のサイズの2つの要素を同時にしかも非常に簡便に評価できる指標が長崎労災病院整形外科小西宏昭先生の考案されたK-lineである.K-lineはC2およびC7脊柱管前後径の中点を結んだ線で,骨化巣の頂点がK-lineに達しないものはK-line(+)と呼びLMP単独での除圧が可能であるが,骨化巣頂点がK-lineに接するまたは越えるものをK-line(−)と呼び,LMP単独では除圧不足に陥る可能性が高く,術式の検討が必須である3)

 近年の脊椎インストゥルメンテーションの発達に伴い,頚椎においてもLMP(または椎弓切除術)にインストゥルメンテーションを用いた後方固定術を併用する術式(=後方除圧固定術posterior decompression with instrumented fusion:PDF)が広く普及してきた.LMP術単独と比較して固定の併用で良好な成績が報告されている4).本稿ではK-line(−)OPLLに対するPDFの治療成績ならびに問題点につき概説する.

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は じ め に

 頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)に対する手術療法に関して,これまで前方除圧固定術(anterior decompression with fusion:ADF)と後方椎弓形成術(laminoplasty:LAMP)が広く用いられてきた1~3).一般にADFは脊髄圧迫因子が前方に存在する場合や後弯症例に有効で,前方圧迫要素に対して直接除圧を行ったうえで動的因子も除去できる点において優れた方法である.一方で手術手技の難しさ,周術期管理の煩雑さ,再建合併症の多さなどが問題となる.LAMPに代表される後方除圧術は,手技が比較的簡便である反面,間接除圧の限界,動的因子の残存,術後の後弯化,骨化成長による再発の可能性などが問題となりうる.以前にわれわれは頚椎OPLLに対するADFとLAMPの前向き比較研究を行い,高占拠率OPLLや後弯症例において,ADF施行例で神経症状改善が優れることを報告している4)

 一方,近年では,アライメント不良例や占拠率の大きなOPLL症例に対して,椎弓切除術や椎弓形成術に後方インストゥルメンテーション併用の固定術を追加した後方除圧固定術(posterior decompression with fusion:PDF)も数多く行われている.PDFでは動的因子や術後の後弯化を制御することが可能で,LAMP単独では成績不良となりうる症例にも有効性が期待できる5).当科では高占拠率OPLLに対してADFを第一選択としているが,骨化がC2以上や上位胸椎まで存在するケースや呼吸器疾患など全身的な併存症を有するケース,もしくは患者の希望など症例によってはPDFを選択している.本稿では高占拠率OPLLに対して当科で行ったPDFの手術成績を紹介する.

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 高齢人口の増加に伴い,わが国の疾病構造は大きく変化した.整形外科領域においても,高齢者の低エネルギー外傷が着実に増えつつある.非骨傷性頚髄損傷は,高齢者に多くみられ,わが国における頚髄損傷の7割を占めている.非骨傷性頚髄損傷に対しては,早期リハビリテーションを中心とした保存治療が行われているが,高齢者における予後は必ずしも良好ではない.OPLLなどによる脊柱管狭窄を伴う非骨傷性頚髄損傷に対し,受傷早期の除圧手術が有効か否かについては,いまだ結論が出ていない.この問題を解明し,新しいエビデンスを確立すべく,われわれは脊柱管狭窄を伴う非骨傷性頚髄損傷に対する早期手術と待機治療のランダム化比較試験(OSCIS試験)を開始した.本稿では,現在進行中のOSCIS試験の背景と概要について述べる.

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は じ め に

 胸椎後縦靱帯骨化症(胸椎OPLL)は頚椎OPLLよりも頻度は低いが,術前には高度脊髄圧迫による重篤な脊髄症状を呈し(図1),合併症や手術成績不良に悩むことが多い.1987年Ohtsukaらは50歳以上の日本人5,074例のX線を調査し,頚椎OPLLの頻度は3.2%,胸椎OPLL 0.8%と述べているが1),画像検査の進歩や疾患認識向上などの理由から,近年その頻度は上昇している2)

 本疾患は術後麻痺が高率であるにもかかわらず,症例集積が困難なために治療方法の検討・確立がむずかしい状況であったが,1994年度以降,4回の胸椎OPLL手術に関する全国多施設研究が行われてきた3).いずれの研究も重要な知見が集積されたものであったが,後ろ向き研究の限界があり未解決の問題が残っていた.

 そこで2011年12月より,より正確なデータを得るべく,胸椎OPLLの前向き手術症例登録を行ってきた.登録症例115例でエントリー完了し,今後の経過も前向きにデータ収集を行っていくが,本稿では,最近登録された症例を除き,周術期のデータがすべて揃った95例に関し,術式の変遷や周術期合併症について中間報告を行う.

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は じ め に

 生理的後弯が存在する胸椎において,脊髄前方に圧迫因子が存在する胸椎の後縦靱帯骨化症(OPLL)に対する手術では,脊髄前方除圧が望ましいことは論理的に疑いようがない.しかし,前方除圧術は前方進入,後方進入のアプローチにかかわらず,難易度の高い手術であり,術後の麻痺増悪などの手術合併症も多く,ごく限られた脊椎外科医のみが実施してきた経緯がある.われわれは胸椎OPLLに対する前方除圧術において,安全かつ確実なOPLLの切除あるいは浮上を可能にする後側方アプローチによる新しい手術方法を考案し,適応を選んで実施している1~3).本稿では,その手術方法と適応を中心に報告する.

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は じ め に

 頚椎後縦靱帯骨化症(頚椎OPLL)については頚椎アライメントが後弯,高度骨化占拠率,K-line(−)などの症例では椎弓形成術では十分な除圧が得られず手術成績が劣ることがわかっている.後縦靱帯骨化は脊髄を前方より圧迫すること,一般に胸椎部は後弯であることより胸椎OPLLの観血的治療は前方除圧が合理的なことは明らかである.またアプローチにおいて前方進入が合理的であると考え,当科では前方進入前方除圧術を第一選択としている.しかし胸椎の前方には胸郭があり,肺,縦隔内臓器(心臓,大血管,気管,食道)が存在し前方アプローチには技術的困難や制約があり,前方進入前方除圧の達成にはかなりの練度を必要とする.胸椎OPLLに対する前方除圧術の手術手技および合併症について解説を行い,当院の手術治療成績について紹介する.

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 胸椎後縦靱帯骨化症(胸椎OPLL)に対する手術的治療は保存的治療に比べその治療効果が高い一方,手術神経合併症発生率が非常に高率で,本邦では過去に24~33%の神経障害発生が報告されている2~5).つまり胸椎OPLLは脊椎外科医が手術的治療にもっとも難渋する疾患の一つであるといえる.胸椎OPLLでは神経合併症を回避するために術式(前方,後方法)選択などのさまざまな対策が講じられてきたが5),麻痺のない良好な成績を収めることはいまだになされていないのが現状である.

 術中脊髄モニタリングは術中に脊髄の中枢,または末梢を刺激することで,脊髄伝導路を介した誘発電位の変動を監視する機能診断法である.患者を覚醒することなく,手術中on timeに脊髄障害を察知しうる唯一の方法であり,神経合併症の多いハイリスク脊椎手術には不可欠である.最近は,モニタリングのマルチモダリティが推奨され,その成績は感度,特異度とともに90%以上の報告が多く良好である6~8).なかでも経頭蓋電気刺激誘発電位[Br(E)-MsEP]は運動路を監視することができ,ほかの脊髄モニタリング法である体性感覚誘発電位(SSEP)や経頭蓋電気刺激脊髄誘発電位[Br(E)-SCEP,D-wave]と組み合わせることでさらに高感度のモニタリングが可能となっている.

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 胸郭に囲まれた胸椎は,可動性の大きい頚椎,腰椎に比較し,加齢性変化が出現しにくいため脊髄障害は生じにくいとされる.日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄手術調査報告では,31,380例中胸椎手術は1,264例(4%)と報告されている1).胸椎後縦靱帯骨化症(OPLL),胸椎黄色靱帯骨化症(OLF)に代表される胸髄症は,一般に脊髄障害が出現すると進行がはやく,早期の対応が必要である.胸椎OLFは1920年Polgarら9)によって報告された疾患で,その発生頻度は3.8~26%とされ,胸椎OPLLに比較すると比較的頻度の高い疾患である.

 本稿では現在研究をすすめている厚生労働省難治性疾患政策研究事業「脊柱靱帯骨化症に関する調査研究」,日本医療研究開発機構(AMED)による胸椎黄色靱帯骨化症手術症例における多施設前向き研究結果を報告する.

Ⅴ.術後評価

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は じ め に

 ある治療行為の結果は医療者側からのみの評価で報告されてきた.実際には医療者側と患者側の見方はしばしばまったく異なる場合がある.患者に供与するサービス業として,また公的資源を投入する国・地方自治体からみたパフォーマンスとしてこの解離は望ましくないため,近年になって評価として患者報告アウトカム(patient-reported outcome:PRO)が重視されてきたのは当然の帰結であった.一方,医療サービスの総合的評価としては患者満足度が重要であり,米国のメディケアでは患者満足度が診療支払い費に反映されているようである1).満足度はある意味「究極のPRO」である.

 後縦靱帯骨化症(OPLL)など圧迫性頚髄症に対する頚椎椎弓形成術の手術成績は日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準(JOAスコア)や頚部脊髄症評価質問票(Japanese Orthopaedic Association Cervical Myelopathy Evaluation Questionnaire:JOACMEQ)などのPROでも調査され一般に良好とされている.筆者が関わった頚椎椎弓形成術後の患者満足度の分析を提示しつつ2~6),脊椎外科手術や医療全体の満足度に関する報告に考察を加えて紹介する.なお,満足度の医療における概念は統一されておらず7),調査法もさまざまであるが,筆者の関係した研究では一貫して以下の調査票を用いている(表1).①治癒の程度(1:たいへん満足~7:たいへん不満),②治療に対する満足度(1:たいへん満足~7:たいへん不満),③病気の状態の変化(1:きわめてとてもよくなった~7:きわめてとてもわるくなった),④同じ状況で再度手術を受けるか(1:絶対受ける~5:絶対受けない)の4項目である.

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 頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)は指定難病(特定疾患)であり症状の発症は50歳前後の男性に多く,進行すると上肢の巧緻障害や歩行障害のため就労に与える影響は大きい.進行した頚椎OPLLに対する手術的治療は比較的安定した術後成績が報告されている1~5).しかし,手術的治療による就職状況の変化を調査した報告は少ない.本稿では,頚椎OPLLに対する手術的治療が就職状況に与える影響について,独立行政法人労働者健康安全機構の2施設で手術を行った症例に対して調査を行ったので考察を加えながら報告する.

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は じ め に

 ロボットスーツHAL(Hybrid Assistive Limb)は,筑波大学システム情報系で開発された外骨格型の動作訓練支援ロボットである1,2).筑波大学附属病院では,HALを用いた機能回復治療の安全性・有効性を検証するため,脳卒中後の片麻痺患者,脊髄損傷・障害に伴う対麻痺や四肢麻痺患者の歩行訓練をHALを用いて施行してきた3~6).また,人工関節全置換術などの膝関節手術後のリハビリテーション訓練や,上肢機能障害患者の肘関節・肩関節の機能訓練にHALを導入してきた7~12).脊柱靱帯骨化症の領域においても,われわれは,胸椎後縦靱帯骨化(OPLL)に伴う重度脊髄障害患者の術後急性期の機能回復訓練に,HALを導入して治療を行ってきた.また,脊髄症術後の慢性期に歩行障害の再増悪をきたした患者に対してもHALを用いた機能回復治療を施行してきた13~19).本稿では,脊髄障害患者におけるHAL治療の実際および効果について論述したい.

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は じ め に

 内閣府の調査による平成29年度高齢者社会白書によると,65歳以上の高齢者が要介護となった原因として,「骨折・転倒」が12.2%と報告されており,「脳血管疾患」17.2%,「認知症」16.4%,「高齢による衰弱」13.9%に続く第4位を占めている.高齢化社会において健康寿命を延長するためには,転倒による外傷の予防が重要な介入ポイントとなる.

 転倒者の約10%が骨折を含む重度の外傷を受傷し,大腿骨近位部骨折,脊椎圧迫骨折,橈骨遠位端骨折などの骨脆弱性骨折が大半を占める1).欧米の先進国においては,大腿骨近位部骨折の発生数は減少傾向にあるといわれているが,一方で転倒に伴う重度の頭部外傷や,頚椎の骨折,脊髄損傷の発生率が急激に増加していることが指摘されている2,3).しかしながら,日本国内の転倒に伴う頭頚部外傷の発生頻度と,その予後に関しては不明の点が多い.

 本稿ではまず高齢者における転倒の疫学,リスク評価,およびその予防策について過去の研究を要約する.後半部分では,最近われわれが行った頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)症例を含む圧迫性頚髄症患者の転倒と,転倒に伴う神経症状悪化に関する研究について述べる.

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 頚部脊髄症の手術治療成績評価法には,1975年に策定された日本整形外科学会頚髄症治療成績判定基準(JOAスコア)1)が本邦のみならず欧米においても広く普及し使用されている.JOAスコアは頚髄症患者の詳細な観察のもとexpert opinionに基づき作成された医療者(医師)の評価法であるが,患者(受療者)立脚評価ではないこと,点数の重み付けの科学的根拠が乏しいこと,信頼性の検証がなされていないことなどが指摘されてきた.そこで2007年に日本整形外科学会は新規患者立脚型の頚部脊髄症評価法として日本整形外科学会頚部脊髄症評価質問票(JOACMEQ)を公表した2~5).JOACMEQは24の質問に対する回答から5因子[頚椎機能,上肢機能,下肢機能,膀胱機能,生活の質(QOL)]を0~100ポイントで数値化することが可能であり,JOAスコアでは評価できなかった頚椎機能[頚椎可動域(ROM),頚部痛・肩こり]やQOLを評価できる.JOACMEQを用いることで頚髄症と後縦靱帯骨化症(OPLL)の臨床成績の違いや手術治療効果に影響を与える因子をより詳細に解析することが可能となった.われわれはJOACMEQを用いて,①各種上肢機能評価との相関と術前後の経時変化,②頚椎症性脊髄症(CSM)と頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)におけるJOACMEQ経時変化(特に術前後頚部痛・頚椎機能に関する違い),③頚椎矢状面アライメントが与える影響について報告してきた.それらの研究内容について概説しJOACMEQの有用性および可能性について論じたい.

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 静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)は,急性期脊髄損傷の管理を行ううえで,肺炎,褥瘡,尿路感染症と並び予防を心がける代表的な合併症である1).American College of Chest Physicians(ACCP)は,運動麻痺を伴う脊髄損傷をVTEの高リスク群に分類している2).一方で,『日本整形外科学会症候性静脈血栓塞栓症予防ガイドライン2017』(2017年日整会ガイドライン)は,患者や医療状況の個別性を配慮した予防法を選択すべきとの考えから,2004年関連学会合同予防ガイドライン,2008年日整会予防ガイドラインで示されていた4段階のリスク分類を掲載していない3).本稿では,急性期脊髄損傷におけるVTEの疫学,リスク評価とスクリーニング,予防について当科の取り組みを紹介しながら論述したい.

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 頚椎後縦靱帯骨化症(C-OPLL)脊髄症に対する手術療法において,椎弓形成術(laminoplasty:LAMP)は比較的安全に行え,長期にわたり良好な手術成績が維持される優れた術式である1,2).ただ,神経圧迫の原因となる骨化巣は脊髄前方に位置するため,脊髄の後方移動によって間接的に除圧を得る同術式は,大きな骨化巣や後弯アライメントには適しておらず,頚椎前方除圧固定術(anterior decompression with fusion:ADF)もしくは後方除圧固定術(posterior decompression with fusion:PDF)が推奨される1,3)

 われわれは今まで,主に骨化占拠率(canal narrowing ratio:CNR)と頚椎アライメントをもとにこれら3術式を選択し,アライメント不良がない小さな骨化巣に限ってLAMPを行ってきた(図1).しかし,術前に頚椎前弯が保たれている症例に椎弓形成術を行っても,術後に後弯化を起こし,成績不良となる例が散見された.これら症例の術前危険因子がわかれば,椎弓形成術の適応をより適切に行えるであろう.

 近年,胸腰椎同様に頚椎でも頭蓋骨との関係に注目した頚椎矢状面バランスという概念が提唱され,cervical sagittal vertical axis(SVA)やTh1(C7)slopeなどの頚椎矢状面バランスパラメータが健康関連生活の質(HR-QOL)に影響を及ぼすことがわかってきた4~6).そこで本稿では,術前の頚椎矢状面バランスパラメータが術後成績に与える影響を後ろ向きに調査し,術式選択が適当であったかを再考した.

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 頚髄症に対する椎弓形成術は,全脊椎矢状面アライメント不良例では,術後臨床成績が低下すること1),術前に後弯がなくとも頚椎矢状面バランスが不良である場合,術後に頚椎後弯が発生すること2)が報告されている.頚椎椎弓形成術後の頚椎後弯は,術前に前弯が保たれていても5~30%に発生すると報告され3~5),Leeらは70%で頚椎前弯が減少したと述べている6).頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)に対する椎弓形成術は後方除圧による間接除圧であるため,術後の頚椎後弯発生は除圧効果を著しく低下させることとなるが7),術前の頚椎矢状面形態,全脊椎矢状面アライメントの関係は不明な点が多い.頚椎OPLLでは胸椎以下の骨化性病変を合併することが多く,頚髄症とは頚椎矢状面アライメントと全脊椎矢状面アライメントのかかわりが異なることが報告されている8)

 本研究の目的は,術前に後弯のない頚椎OPLL患者の術前全脊椎矢状面アライメントと頚椎局所形態,骨化形態を精査し,片開き式頚椎椎弓形成術(expansive laminoplasty:ELAP)術後後弯の発生リスクとなる頚椎形態と骨化形態について明らかにすることである.

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 脊髄の腫脹は,急性脊髄損傷,髄内腫瘍,および脊髄の炎症性病変においてよくみられるが,頚髄症ではまれである.近年,頚髄症の術後に脊髄腫脹が生じたとの報告が散見される.Nagashimaら1)は,頚髄症で脊柱管拡大術後の脊髄腫脹の1例を報告した.Leeら2)は,術後,MRI Gadolinium-diethylenetriamine pentaacetic acid(Gd-DTPA)増強像で髄内増強効果がみられ非定型脊髄腫脹を示した頚髄症6例を報告した.Cabrajaら3)は,髄内腫瘍に似た脊髄腫脹とMRI T2強調画像で非典型的な髄内高信号領域を示した頚髄症の1例を報告した.報告されている術後脊髄腫脹例では手術成績がさまざまであり,脊髄腫脹の臨床的意義は不明であった.また,頚髄症術後の脊髄腫脹例で髄内Gd-DTPA増強効果が認められたとの報告があり,術後脊髄腫脹は髄内Gd-DTPA増強効果と関連している可能性がある.

 本研究では頚髄症術後の脊髄腫脹に関し,術後急性脊髄腫脹の発生率と臨床的関連,および髄内Gd-DTPA増強効果との関係を検討した.

Ⅵ.びまん性特発性骨増殖症

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 黄色靱帯骨化症(OLF)は,Polgar1)によりはじめて報告された.黄色靱帯が骨組織により置換され,脊髄を圧迫することにより脊髄症をきたす難病である.OLFは東アジア人に多い,胸椎に好発するなどと報告されている2)が,疫学については不明な点も多く残されている.

 OLFの好発部位である胸椎は,肩や肋骨が重なるという解剖学的特徴から,特に上位胸椎においては単純X線像による評価には限界がある.一方,CTは解剖学的な制限を受けることなく骨化病変を詳細に描出することが可能であり,水平断像,矢状断像,冠状断像などの再構築画像処理も可能な優れたモダリティーである.しかし,CTには単純X線像と比べると被検者の被曝量が増えるという欠点がある.近年,放射線被曝に対する意識の高まりもあり,有病率の調査方法として一般的である住民検診などへのCT導入は倫理面からもむずかしい.

 われわれは,撮影済みの胸部CTデータを用いることで,被験者に新たな放射線被曝を強いることなく日本人胸椎OLFの分布や罹患形態,有病率などについて詳細に調査・報告し3),本誌でもこの論文についてレビューしている4).本稿では,その結果や研究手法について述べる.

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 本邦における脊椎のびまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH)の高齢者有病率は12%といわれており1),日常の臨床においても時に遭遇する疾患である.その病態は前縦靱帯をはじめとした脊椎靱帯組織の骨増殖性変化であり,転倒などの軽微な外力で骨折を起こすことが知られている.また保存的治療では骨癒合が得られにくく,診断の遅れや手術待機期間中に骨折部が転位し神経症状が悪化する場合もある2,3,4).近年MRIが比較的簡便に撮影できる環境にある施設も多く,骨折の画像診断能力が向上しているため早期に正確な診断を行い手術による内固定の必要性を判断する必要がある.DISHの診断は,Resnickらの診断基準(① 石灰化または骨化を少なくとも4椎体で連続して認める,② 罹患領域で,椎間板が比較的保持され,椎体辺縁の骨硬化などの椎間板変性を示唆する所見のないもの,③ 仙腸関節での骨硬化・骨癒合を認めない)が広く用いられており5),当院ではDISH症例に生じた胸・腰椎骨折には積極的な内固定術を行っている.当院で行った手術的治療についての臨床成績について論述する.

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 びまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH)に伴った脊椎損傷は高齢者にみられ,診断の遅れや遅発性神経麻痺の発生など,通常の脊椎損傷と比較して診療上の問題点が多い.本損傷は通常の脊椎損傷とは異なった,特殊な脊椎損傷として診療を行う必要がある.また,強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis:AS)と同様の強直した脊椎となることが多いため,ASと合わせてankylosing spinal disorder(ASD)として論じられることがある.しかし,両者は発症原因も異なることから別個に議論する必要がある.本稿ではDISHに伴った脊椎損傷について概説する.

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 びまん性特発性骨増殖症(DISH)は,1950年にForestierらが脊椎周囲を中心として全身の靱帯に骨化をきたす原因不明の疾患を強直性脊椎肥厚症(ankylosing spinal hyperostosis:ASH)と名付けて報告した1).その後,1976年にResnickらが脊柱以外の靱帯にも骨化が生じていることより,DISHとすることを提唱した2).脊椎に対する診断基準は,① 少なくとも連続4椎体以上の前外側面で骨化を認める,② 椎間板腔が比較的保たれている,③ 椎間関節が保たれており,仙腸関節に骨性強直はないことである2)

 DISHでは,広範な脊椎可動性の低下による特徴的な骨折3~5)や骨増殖による隣接した臓器の圧迫6)が報告されている.一方で,DISHの有無が腰椎変性疾患の手術成績に与える影響に関する報告はほとんどない7,8).本研究の目的は,DISHを合併した腰椎変性疾患に対して手術を施行した症例の臨床的特徴と成績を検討し,術式選択の一助とすることである.

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 びまん性特発性骨増殖症は1950年にForestierら1)がsenile ankylosing hyperostosis of the spineとして,またResnickら2)が1976年にdiffuse idiopathic skeletal hyperostosis(DISH)として発表している骨増殖性疾患であり胸椎部に好発する(これ以降DISHと用いる).DISHに関する研究では,嚥下障害を引き起こすForesiter病3)や,外傷との関連の研究は数多くの報告があるにもかかわらず,腰椎変性疾患とDISHに関連性についての研究はほとんどされていない.

 筆者らは,これまで腰椎すべり症など不安定性を有する腰椎変性疾患に対し,transforaminal lumbar interbody fusion(TLIF)などの腰椎椎体間固定術を行ってきたが,特にDISH合併の有無は認識していなかった.そのなかで短期間に複数回の再手術を要した症例を経験したことが,DISHが腰椎固定術に及ぼす影響を研究するきっかけとなった.まずその症例を提示する.

基本情報

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臨床雑誌整形外科
69巻6号 (2018年5月)
電子版ISSN:2432-9444 印刷版ISSN:0030-5901 南江堂

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