臨床雑誌整形外科 69巻7号 (2018年6月)

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は じ め に

 腰痛は特異的腰痛と非特異的腰痛に分けられる.特異的腰痛とは痛みの原因となる器質的病態が明らかな場合である.腰痛全体の80%超は非特異的腰痛といわれる1).非特異的腰痛は一次医療におけるもっとも頻度の高い疾患の一つである1).非特異的腰痛は急性と慢性に分けられる.だが急性非特異的腰痛と慢性非特異的腰痛は診療上,医学研究上の位置づけは大きく異なる.急性腰痛の90%は発症後1ヵ月以内に自己完結する1~6).急性腰痛の多くは痛みの原因が不明のまま診療が終わるので,結果として非特異的腰痛に分類される.慢性非特異的腰痛は器質的原因のための検査を駆使しても病変部位や機能異常がわからない場合である.慢性非特異的腰痛は慢性痛医学の中心的課題であり,いかなる慢性非特異的腰痛患者もはじめて腰痛を体験したときがある.急性腰痛の初期治療段階で亜急性化の傾向を発見し慢性腰痛への移行を阻止することは,一次医療の重要な役割である1,7~10)

 本稿の目的は,急性非特異的腰痛の慢性化の要因を明らかにすることである.本研究のデザインは,前向き症例集積研究である.本研究は厚生労働省による「臨床研究に関する倫理指針(平成15年7月30日,平成20年7月31日全部改正)11)」に準拠して作成した臨床研究実施要項を院内に掲示・説明した上で実施した.

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 日本医療機能評価機構は今年3月,2017年の医療事故報告件数が4,095件(前年より213件の増加)と年々増加して,過去最多であると明らかにした.こうした報告,あるいは施設内のインシデント,アクシデントの報告体制が充実してきたことにより,医療における事故の発生原因についてはかなり明らかになってきた.人の犯すミス,いわゆるヒューマンエラーは医療事故の重大な原因である.医事紛争でもこのヒューマンエラーが大きく関わっている.厚生労働省は「医療行為と刑事責任」をテーマにした有識者研究会を開いて事例検討を行っており,「うっかりミス」と表されるような軽率性と刑事事件化に注目している.整形外科は医事紛争の件数が多い診療科であり,ヒューマンエラーは整形外科医の診療においてもっとも注意して避けるべきことである.

 ヒューマンエラーは,心理学的に「行為そのものの失敗」である「スリップ(注意の失敗)」と「ラプス(記憶の失敗)」の二つと,「精神プロセスの失敗」である「ミステイク(間違い)」に分けられる.重森は,ヒューマンエラーを避けるために「いつもと違うことをする時は注意」,「同じパターンが続く時は注意」,「同時にたくさんのことには注意できない」,「不安も注意を奪う」などの注意点をあげた1).しかし,「この世に間違いをやらぬ人はない “To err is human”」という有名な言葉があるように,これも真実である.エラーの起こる背景,原因がわかっても,絶対にエラーをしないとは誰も断言できない.では,忙しい医療現場でどうやって医療の事故を防ぐのか?

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は じ め に

 頚椎前方手術は前方に圧迫性病変を認める症例や後弯症例に直接的除圧が可能であり,破綻した脊柱再建を同時に達成できる有用な術式である.周術期合併症に嚥下障害があるが,本邦において嚥下障害の発生頻度や危険因子に関する報告は少ない.本術式の術後嚥下障害の発生頻度を調査し,リスク因子の検討を行ったので報告する.

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は じ め に

 腰痛はもっとも罹患人口の多い疾患の一つであり,全人口の80%が生涯に一度は腰痛を経験するとの報告がある1)

 坐骨神経症状や高度の脊椎変形を伴う腰痛患者は,しばしば外科的治療の対象となる.一方,整形外科無床診療所を訪れる腰痛患者の多くは,坐骨神経症状や単純X線像での病変を伴わない非特異的腰痛症であり,保存的治療の対象となる.しかし,検査機材も検査時間も不十分な整形外科無床診療所では非特異的腰痛症の保存的治療の効果を多覚的かつ定量的に評価するのは困難である.

 生方ら2)は,ばねの弾性を用いた簡易な筋硬度計を用いて慢性腰痛患者の第5腰椎棘突起レベルの多裂筋の筋硬度を測定したところ,非疼痛側に比べ疼痛側の筋硬度は有意に高値であると報告した.矢吹ら3)は,腰部脊柱起立筋の筋硬度を指標として間欠牽引の効果を腹臥位で検討した.その結果,施行前の値に比して,15分間の間欠牽引後は腹臥位での筋硬度が有意に減少していた.坂口ら4)は15例の腰痛患者に徒手的ストレッチを行うことによって,腸骨稜の高さ(Jacoby線)の傍脊柱筋の筋硬度が有意に低下したと述べている.

 これらの報告から慢性腰痛患者では多裂筋の筋硬度が高く,間欠牽引やストレッチなどの保存的治療によって筋硬度は低下すると考えられる.しかし,筋硬度の低下値が自覚的治療効果と相関するのか否かは不明である.

 本研究は,非特異的腰痛症の多裂筋筋硬度測定は治療の指標となるか否かを検証する目的で,間欠牽引と骨盤周囲筋のストレッチによるRoland-Morris生活困難度指数5)の変化量と多裂筋の筋硬度変化量との相関性を検討した.

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は じ め に

 近位指節間(PIP)関節の可動域(ROM)は他指関節と比較して大きく,外傷などによるROM制限は大きな機能障害が生じる.したがって脱臼があれば解剖学的位置に整復し,可及的早期にROM訓練を開始する必要がある.本稿では過伸展型PIP関節脱臼骨折の早期運動療法の経験から適応と留意点について報告する.

私論

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 アルベルト・アインシュタインは,「常識は18歳までに身につけた偏見のコレクションである」という言葉を残しています.医学(整形外科)の常識には今でも「偏見のコレクション」が残っているのではないでしょうか?

 私が骨粗鬆症を本格的に勉強し始めたころ,「老人性の骨粗鬆症は低代謝回転型の骨粗鬆症であり,骨代謝回転の低下によって骨密度が低下する」と教科書に記載されていました.しかし,実際は高齢になると骨代謝は亢進していたのです.当時,骨粗鬆症はマイナーな分野で情報も少なく,遠くに足を延ばして専門家の講演を聞きに行きました.しかし,専門家でさえこの事実も原因も知りませんでした.仕方なく自分で骨代謝と関連する情報のデータベースを作成・解析しましたが,骨代謝亢進の原因は不明でした.データベース作成の際には腰痛のデータも入力しており,骨代謝とまったく関係ないと考えられた腰痛の有無で解析してみました.すると驚くべきことに,腰痛のある高齢者では骨代謝マーカーが有意に上昇していたのです.高齢者の腰痛と身長低下の相関に関する論文などを引用して,高齢者の骨代謝の亢進には不顕性の微小骨折が関与している可能性が高いと結論づけました.今では高齢者の骨代謝亢進と微小骨折の関連は,ほぼ常識として受け止められているのではないでしょうか?

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 播種性骨髄癌腫症(disseminated carcinomatosis of the bone marrow:DCBM)は固形癌骨転移の一亜型で,全身の骨髄腔に結節を形成することなく,びまん性に癌細胞が浸潤する病態である.播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)や溶血性貧血などの血液学的異常を高率に合併し,予後はきわめて不良とされる1,2).われわれは,原発不明癌脊椎転移の経過観察中にDCBMを発症した1例を経験したので報告する.

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 腰仙椎硬膜外脂肪腫症は,硬膜外脂肪組織が病的に増殖し馬尾神経根を圧迫する病態である1~3).その多くはステロイド投与やCushing症候群に伴う二次性の症例であり,通常緩徐な経過で腰痛,下肢痛といった症状を呈する1~4).今回われわれは特発性腰仙椎硬膜外脂肪腫症の1例を経験した.比較的まれな病態と考えたため,術中所見を含め報告し文献的考察を加える.

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 妊娠末期に一側の股関節に疼痛を発症するものとして,妊娠後骨粗鬆症や一過性大腿骨頭萎縮症に起因するものが多数報告されている.しかしながら,妊娠中であることから画像診断が敬遠され,結果的に大腿骨頚部骨折をきたすこともある.われわれは妊娠末期に両側大腿骨頚部骨折を生じた症例を経験したので報告する.

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 人工膝関節全置換術(TKA)後のpainful kneeの原因として感染,コンポーネントの設置位置異常,弛みのほか,サイクロプス症候群に代表される軟部組織のインピンジメントがある1).膝窩筋腱によるインピンジメントの報告は少なく,鏡視下に治療されたものはわれわれの報告を含めて過去に4例のみである2~4).今回,外側型膝単顆置換術(外側型UKA)後に出現した膝窩筋腱のインピンジメントによる後外側部痛に対して関節鏡視下解離術を行い,著効した1例を経験したので報告する.

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 われわれは足部コンパートメント症候群を発症した高エネルギー外傷の1例を経験したので報告する.

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 ベバシズマブは血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)に結合して血管新生を阻害する抗VEGFモノクローナル抗体であり,大腸癌,肺癌,乳癌,悪性神経膠腫などのさまざまな悪性腫瘍に対して化学療法と併用して使用されている1).有害事象として高血圧や骨髄毒性に加え,頻度は少ないが消化管穿孔や創傷治癒遷延など,特異的な有害事象に留意する必要がある1).われわれはベバシズマブ投与により生じた創傷治癒遅延に対し,外科的治療を要した2例を経験したので報告する.

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 慢性痛は,「組織損傷の通常の治癒期間を過ぎても持続する,明らかな生物学的意義のない痛み」と定義される1).慢性痛の臨床的問題点は,苦痛により持続する負情動であり,その背景には中枢神経系の可塑的変化があると考えられてきたが,有効な解析手法がなく詳細は不明であった.しかし近年,覚醒患者への急性刺激時または安静時におけるblood oxygenation level dependent(BOLD)[血中酸素レベル依存]信号変化に基づいた脳画像化,すなわち機能的MRIによる研究が発展を遂げ,健常者とは異なる慢性痛患者の脳内回路の特徴が明らかになってきた.例えば,Hashmiらは,安静時のBOLD信号の自発的変動を評価することにより,保存的治療に抵抗する慢性背部痛患者における自発痛に伴い活性化する脳領域が,痛みや報酬に関与する脳領域から情動に関与する脳領域へとシフトしていることを報告した2)

 慢性痛のさらなる病態解明や新規診断法・治療法の開発のためには動物モデルによる前臨床研究が必須である.近年,機能的MRIによる全脳の網羅的解析により,慢性痛動物モデルの脳活動変化を調べた報告が相次いだ.しかし,動物での撮像時に使用せざるを得ない麻酔薬によりBOLD信号が変化するという報告3)や,無麻酔下での撮像に必要となる馴化トレーニングがストレスとなって疼痛を修飾するという報告4)などがあり,慢性痛に特徴的な脳活動をBOLD法によって解析することの困難は解決されていなかった.そこでわれわれは,この問題点を克服するため,陽性造影剤である塩化マンガンを使用したマンガン造影MRI(MEMRI)に注目した.

問題点の検討

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は じ め に

 肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)は,初期症状が多彩なため早期診断が困難であること,ひとたび発症した際に死亡率が高いこと,などを理由に予防が推奨されている.当科では2000年以降に診療科全体として術後PTEの予防と早期発見に努めてきた.本研究の目的は,対策の成果を検証することである.

Vocabulary

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 ドラッグリポジショニングはある疾患への既存薬に新しい適応を発見する方法で,高騰する医療費を削減させる手段のひとつとして近年注目が集まっている.既存薬は臨床試験済であるため,実用化への臨床試験のいくつかを省くことができ,確立された製造工程使用でコスト削減が可能なため,新規創薬と比べ,低価格で生産できる可能性がある.現在,日本では約2,000の薬剤が使用されているが,それらの薬剤の薬理学的経路や標的の70~80%は未解明といわれており1),ドラッグリポジショニングの可能性は幅広い.

 有名なドラッグリポジショニングの例をあげると,狭心症治療薬として開発されたシルデナフィルクエン酸塩が勃起不全治療薬として使用されていることや,あざらし肢症などの先天性障害児が生まれる結果となり販売中止となった鎮静薬サリドマイドが,日本では多発性骨髄腫での効果が認められ再認可を受けたことなどがあげられる.

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は じ め に

 受傷後4週以上経過した陳旧性長母指屈筋(FPL)腱付着部断裂の一般的な治療は遊離自家腱移植であるが,筋の状態によっては良好な成績が望めない場合がある.これに対して環指浅指屈筋腱をそのまま母指末節骨にpull outし再建した症例を経験したので報告する.

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は じ め に

 Jones骨折はサッカー選手に高頻度に生じるスポーツ障害として知られている1,2).Jones骨折は第5中足骨近位骨幹部疲労骨折としての意味に加え,急性外傷としての意味で使用されることもあるが,本稿では疲労骨折の意味で使用する3).Jones骨折は,完全骨折となりプレー不能となってから治療した場合は保存的治療では遷延治癒や偽関節となる可能性があり4,5)外科的治療を要することが多く,競技の長期離脱を余儀なくされることが多い6,7).Jones骨折による長期離脱を避けるためには,選手が競技での疼痛を訴える前にJones骨折もしくはその前兆を発見し,医療介入することで完全骨折を回避することが重要である.

 われわれはJones骨折の啓発,予防,早期発見を目的として,高等学校2校と大学1校でサッカー部員を対象にJones骨折検診を施行したので報告する.

喫茶ロビー

戦争の本質とは 濵 弘道
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 2017年7月刊行の『芥川追想』(岩波文庫)所収,横須賀海軍機関学校篠崎学生,のちの終戦時厚木飛行隊篠崎礒次司令への聞き語り記録「敗戦教官芥川龍之介」は「人間芥川」を活写した出色のものに思われる.芥川が「敗戦教官」と呼ばれたのは勝利謳歌の教材を敗戦の悲話,衰亡の歴史に変えたからである.当時は第一次世界大戦のさなかである.講義中,軍港海上から響いてくる大砲の大音響に,「いまごろ,ヨーロッパではばかなことをしているだろうな?」とひとりごちし,「どうしてばかなことですか?」と気負う学生に「君にはそれが分からないのか? 『人殺し』をやっていることが,ばからしいことなのだよ」と言下に答えたという.2017年12月,フィリピン沖海底に沈んでいるのが発見された戦艦「山城」は当時の最新鋭艦であったが,見学後,彼は戦争の規模が大きくなり防御の軍備が重要になったのに,「山城」には防御の備えがないと指摘したという.若い篠崎学生の脳裏には芥川のこの防御的軍備観が強く焼きついて,後年欧州を軍事視察した際に,さらに戦後再軍備が論じられるようになっても,なお頭から離れず,日本,ドイツの敗北を考え合わせ,「天才芥川」を憶ったという.無敵海軍を誇示していたころのわが国にあって,さすがに芥川は巍然として屹立した存在だったようである.1917年ごろのことで,彼はまだ25歳であった.今からざっと100年前のことである.

 それから下って70年,1989年5月,第72回中部日本整形外科災害外科学会において笠井實人博士(写真)による特別講演「Aphorismで語る歴史と倫理」が行われた.最後に「戦争とは『人殺し』である.人の命を助けることを目的とする医者の仕事とはまったく正反対のことをやっている.軍医のやることなど,氾濫している河の水を手で汲み出しているようなものであった」という一節が示されるや,会場は大きな感動に包まれた.「人殺し」とはあまりに生々しい表現ではあるが,奇しくも芥川の表現とまったく同じ,戦争の本質を衝いた真率な言葉ではあろう.思えばそれは,4年間の中支,南支における最前線の軍医生活の中で自己相剋の末に自ずと滲み出た,全き実感であったろう.なにしろ,結核がまだ猖獗を極め,栄養不良に混合感染を併発した重篤な胸腰椎カリエスが多かった1957~1967年に,開胸して堂々と前方から徹底して病巣廓清を行い,腸骨移植による前方直達胸腰椎椎体再建術を確立した人である.当時の貧弱な医療事情を考えれば凄いことである.のみならずその後も終始倦むことがなかった.乳児筋性斜頚に対する徒手筋切り術は,多くの乳児や親達の心身両面の負担重圧をほとんど瞬時に解放する大胆かつ細心の手技であって,5,000例になんなんとする膨大な症例数にはただ粛然たらざるをえないのである.大腿四頭筋拘縮症の身体所見「尻上がり現象」の命名者たる事実も,その他数々の業績に添えられた微かな栄誉でもあろう.

連載 X線診断Q&A

X線診断Q&A 喜安 克仁 , 川崎 元敬
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Question

 症 例.84歳,女.

 主 訴:腰背部痛,両下肢筋力低下.

 既往歴:うつ病,左人工股関節全置換術.

 現病歴:自宅で転倒し,疼痛で動けなくなったため,近医に入院となった.Th11骨粗鬆症椎体骨折で入院となった.歩行訓練を行っていたが,受傷1ヵ月後に,両下肢麻痺が発生し紹介され当科を受診となった.

 身体所見:強い腰背部痛と両下肢麻痺で体動困難であった.両下肢のわずかな筋収縮と感覚低下を認めた(Frankel分類grade C).Babinski反射は陽性であった.

 X線所見:図1に他院初診時胸腰椎X線像を示す.

連載 卒後研修講座

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は じ め に

 変形性股関節症(OA)は,股関節に対する力学的あるいは生物学的な原因によって関節軟骨の変性が惹起され,引き続き関節周囲の骨変化および二次性の滑膜炎を生じて股関節の変形が徐々に進行するに伴い,疼痛,圧痛,可動域(ROM)制限,関節水腫などの症状を生じる非炎症性疾患である1).わが国での股関節症の進行度の判定には,単純X線像による日本整形外科学会股関節症病期分類が使用されており,前,初期,進行期,末期に分けられている(図1).また,OAは「整形外科専門研修カリキュラム」の中で,最低5例以上経験すべき疾患としてあげられている2).しかしながら,診療ガイドラインが発行されるまでは各医師の経験や知識で診断や治療が行われていた.『変形性股関節症診療ガイドライン』は2008年に初版が発刊され,改訂版は2016年に上梓された3).初版のガイドラインの策定におけるエビデンスとは,検索結果から選択された論文を,ランダム比較試験(RCT)やケースシリーズなどの研究デザイン,症例数,経過観察期間などからエビデンスレベルを決定していたが,最新の方法では,複数の論文からシステマティックレビューで得られた総体評価を行い,「益と害」といったプラスマイナスのバランスを考慮してエビデンスレベルを決定している.また,作成された推奨文についてもオピニオンリーダーであるガイドライン策定委員による投票で意見の一致をもって合意としている.

 本稿では,『変形性股関節症診療ガイドライン(改訂第2版)』をもとに,最新のOAに関するエビデンスについて述べる.

連載 専門医試験をめざす症例問題トレーニング

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 症 例.69歳,女.

 主 訴:左手関節部痛.

 職 業:農業.

 家族歴・既往歴:特記すべきことはない.

 現病歴:玄関マットにつまずいて転倒し,左手をついて受傷した.

 初診時所見:左手関節部の疼痛,腫脹,圧痛があり,手関節は背屈変形を認めた.

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 症 例.74歳,女.

 主 訴:腰痛.

 既往歴:糖尿病,高血圧(糖尿病,高血圧に対する治療薬継続中).飲酒や喫煙歴はなかった.

 現病歴:介護中の夫を起こそうとして腰痛が出現した.歩行は可能であったが,腰痛が持続したためAかかりつけ医を受診した.X線像では新鮮骨折はなく,急性腰痛症の診断で10日間非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を内服した(図1).下肢痛やしびれなく,歩行は安定していたが,腰痛が殿部まで広がり,再度Aかかりつけ医を受診した.精査目的でB整形外科を紹介され受診となった.

 経過1:B整形外科では硬性コルセットを作成し装着し,NSAIDsとビスホスホネート製剤の内服を開始したが,ドロップアウトし,3ヵ月に腰痛が増悪しnumerical rating scale(NRS)6,左下垂足で再受診した.X線像とMRIを図2に示す.

 経過2:B整形外科では手術適応と判断し,C病院へ紹介となった.HbA1Cは7.7であった.

連載 最新原著レビュー

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【要 旨】

 目 的:過去の報告から夏季に術後創部感染(surgical site infection:SSI)が多いことが知られており,経験の浅い医療スタッフの増加や高温多湿の気候が原因ではないかと推測されていた.しかし,医療スタッフの移動時期が夏季ではない国で術後SSIリスクの季節変動を検討した研究は,これまで存在しない.本研究の目的は,春季に医療従事者の移動が生じる日本において,脊椎固定術後のSSIリスクの季節変動を調査することである.

 対象および方法:診断群分類(diagnosis procedure combination:DPC)データベースを用いて,2010年7月~2013年3月に待機的に脊椎固定手術を受けた20歳以上の患者を調査した.入院中に生じた術後SSIに対する再手術をアウトカムとした.調査する患者背景は年齢,性別,body mass index(BMI),喫煙歴,糖尿病,悪性腫瘍,透析,入院中の輸血の有無,麻酔時間,手術部位,病院タイプ,手術施行月とした.術後SSIのリスク因子を明らかにするために患者背景を調整し多変量解析を行った.

 結 果:47,252(男性23,659,女性23,593)例(平均年齢65.4歳)を対象とした.術後SSIに対する再手術は438例(0.93%)に生じ,その発生率は4月がもっとも高く(1.25%),2月がもっとも低かった(0.62%).術後SSIに対する再手術のリスクは4月が有意に高かった[vs 2月:オッズ比1.93,95%信頼区間[confidence interval(CI)1.09~3.43,p=0.03].病院タイプで層別化を行ったサブ解析の結果,医育機関附属ではない病院においてSSIリスクの季節性変動はなかったが,医育機関附属病院において手術施行月はSSIに対する再手術のリスク因子であった.

 結 論:医療従事者の異動が夏季ではない国の日本においても脊椎固定術後のSSIリスクは季節によって変動した.

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【要 旨】

 目 的:膝内側側副靱帯浅層(superficial medial collateral ligament:sMCL)と,後斜走靱帯(posterior oblique ligament:POL)の走行と付着部の解剖学的検討を行い,解剖学的再建術に有用な各靱帯の付着部と骨性指標の位置関係を,明らかにすることである.

 対象および方法:解剖学実習用解剖体22(男性18,女性4)膝(死亡時平均年齢78歳)を使用した.皮膚,内側膝蓋支帯,鵞足を切除してsMCLとPOLを剖出し,付着部を同定し,付着部周囲にφ1.2mmのドリルでマーキングを行った.マーキングした膝をCTで撮影し3D解析ソフトを使用して3Dモデルを構築した.sMCLとPOLの付着部の位置と骨性指標との関連を分析した.

 結 果:大腿骨においてsMCLは約21mm,POLは約18mm,大内転筋結節(adductor tubercle:AT)の遠位に位置していた.脛骨側においてsMCLは脛骨稜に幅広く付着しており,POLは脛骨後内側,semimembranosus grooveの上縁内側に付着していた.

 結 論:sMCLとPOLの付着部と骨性指標との関連について解剖学的検討を行った.大腿骨側ではATが,脛骨側ではsemimembranosus grooveが再建術の際の有用な骨性指標となり得ると考えられた.

基本情報

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臨床雑誌整形外科
69巻7号 (2018年6月)
電子版ISSN:2432-9444 印刷版ISSN:0030-5901 南江堂

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