検査と技術 46巻9号 (2018年9月)

増刊号 現場で“パッ”と使える 免疫染色クイックガイド

はじめに 柳田 絵美衣
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 「どんなに材料が良くても腕のない料理人では美味しい料理は作れない.また,一流の料理人でも腐った材料で美味しい料理を作ることはできない.それは免疫染色も同じだ.」

巻頭付録

抗体一覧

1章 こんなときどうする? 免疫染色の“困った”を解決 困った① 検体組織だけが染色されない

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アセトンやアルコール固定による抗原の流出

■固定とは?

 組織や細胞は血流から切り離された途端に自己融解(autolysis)や腐敗が始まる.固定とは,その自己融解を抑えて生きていたときに近い状態の組織や細胞構造を保持するために行われる化学処理である.また生の組織は微細構造がわかりづらく,固定によって発生する人工的変化(アーチファクト)を起こすことによって,その組織の特徴を強調させ,組織特有の物質に染色性を与える.一般に病理組織標本の固定にはホルムアルデヒドなどのアルデヒド系が使われるが,エタノールやアセトンなどの有機溶剤系固定液なども使用される.

 この固定操作をいかに素早く行うかが,のちの組織標本や免疫染色,さらには遺伝子検索の質を左右する.よって固定を行うにあたっては,①固定液の種類,②固定時間,③固定温度などの条件によって多大な影響を与えるため,よく理解して用いる必要がある.

その他の問題 柳田 絵美衣
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染色中スライドが傾いていた

■原理・原因

 スライドガラスの傾きにより,抗体液が傾くことで切片周辺に存在する抗体量に差異が生じる.存在する抗体量が少なければ,抗原抗体反応に使用できる抗体量も少なくなる.そのためスライドガラス上の検体組織とコントロール切片の各周辺で存在する抗体量に差異が生じれば,両者の染色性にも差異が生じることとなる.

 図1のようにコントロール切片側に液滴(含有抗体量)が集まり,検体組織周辺の液滴が減少した場合は,コントロール切片の染色性は良好だが,検体組織は染色性が減弱し偽陰性化する可能性も考えられる.

1章 こんなときどうする? 免疫染色の“困った”を解決 困った② 陽性対照組織も検体組織も染色されない

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脱パラフィン不足

■原理・原因

 パラフィンはロウと同じく石油から分離された白色半透明の固体であるため,疎水性である.試薬や抗体溶液は水溶性であるため,疎水性のパラフィン上でははじかれてしまう.そのため,パラフィンが組織上に残存していると試薬や抗体溶液が組織や細胞に浸透できず,染色されない.

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抗原賦活処理を忘れている

■原理・原因

 ホルマリンなどのアルデヒド系(変性型)固定液での固定で生じる蛋白架橋反応による立体障害や,マスキングの影響で,抗原決定基は抗体と反応しにくくなる.抗原賦活処理には,このマスキングの原因を除去して抗原と抗体が反応しやすくする効果や,蛋白のもつ独自の立体構造(高次構造)を再構成する効果がある.

 抗原賦活処理の必要性の有無は抗原の種類によって異なるが,抗原賦活処理が必要な抗原で処理を行わないと,蛋白架橋反応による立体障害や,抗原がマスキングされたままの状態となり,抗原決定基(エピトープ)に抗体が反応できない.そのため,偽陰性となる.

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抗体の選択ミス

■原理・原因

 図1のように,抗体分子IgGは重いペプチド(H鎖:heavy chain)と軽いペプチド(L鎖:light chain)からなる.H鎖の約3/4,L鎖の半分の構造は類似性が大きいが,残りの部分の構造は分子によって大きく違っている.この部分を可変部といい,この構造の違いが対応できる抗原の選択を担う.つまり,図2のように,可変部の構造と目的の抗原が合致すれば,結合して抗原抗体反応を起こす.しかし,可変部の構造と目的の抗原が一致しなければ,結合できず抗原抗体反応は起こらない.免疫染色を実施しても,一次抗体が抗原と結合できなければ染色は陰性となる.

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抗体濃度が低い

■原理・原因

 抗体濃度が至適濃度以下の場合,希釈されることで含まれる抗体量が減り,抗原抗体反応が不十分となることで染色性が弱くなる.これらが染色ムラや偽陰性の原因となる.

洗浄に問題がある 柳田 絵美衣
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洗浄時間が長すぎる

■原理・原因

 適切な洗浄を行うことで余分な一次抗体や試薬を除去することができるため,非特異的な結合が防止できる.抗原と抗体の種類によって異なるが,抗原と抗体は解離する性質をもち,抗原抗体反応は可逆的反応といえる.そのため,過度な洗浄は抗原と結合している抗体までも洗い流してしまうことがある(図1).その結果,抗原と結合している抗体が減り,その後の二次抗体の結合や発色も減弱してしまう(図2).

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発色剤の色落ち

■原理・原因

 発色剤の種類によっては,エタノールやキシレンなどの有機溶剤の可溶性で発色後に色落ちするものがあり,偽陰性を示す場合がある.

その他の問題 柳田 絵美衣
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過酸化水素処理によってエピトープが破壊されている

■原理・原因

 抗原の種類によっては,過酸化水素により抗原決定基(エピトープ)の構造が破壊される性質を有しているため,一次抗体が抗原に結合できなくなる.そのため,偽陰性化してしまう.

1章 こんなときどうする? 免疫染色の“困った”を解決 困った③ 染色にムラがある

検体処理に問題がある 山田 寛
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切片の厚さにムラがある

■原理・原因

 薄切切片の作製は通常3〜4μmの厚さで行われる.しかし,ミクロトームのネジの緩みや滑走台の歪み,ミクロトーム刃の品質,ブロックの冷やし方など,多くの原因で切片に薄切ムラが現れる.これは薄切の際にブロックの切り始めから,切り終わりまでの間にパラフィンの膨張率が変わったり,ミクロトーム刃がブロック上で動いてしまったりすることが原因である(図1).

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加熱処理後の部分的乾燥

■原理・原因

 加熱による抗原賦活処理の原理は,

①メチレン架橋が切断され,ポリペプチド鎖が伸展する

②冷却により伸展したポリペプチド鎖が本来の形に再構成される(図1)

 ことによると考えられており,本来の形に再構成することを再フォールディングという.蛋白は,変化を加えられたときに本来もつ構造に戻ろうとする性質をもっているため,ホルマリンによるさまざまな結合を加熱処理で緩和させることで,蛋白の性質を利用して本来の構造に近い状態に戻している.

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抗体の混和不足

■原理・原因

 一次抗体を希釈して使用する際に,希釈用の緩衝液と一次抗体が混和不十分だった場合,溶液内の濃度が不均一になる.溶液内において,一次抗体の濃度に差が生まれると,組織や細胞上に載せた溶液も濃度が不均一となり,抗原抗体反応に差が出てしまう.つまり,反応する抗体が不足していると,抗原抗体反応が十分にできないため,抗体濃度が高い部分では濃く染まり,抗体濃度が低い部分では薄く染まってしまう.

染色工程に問題がある 柳田 絵美衣
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染色中の気泡の影響

■原理・原因

 円状に染色が抜ける現象(染色スポット)は,免疫染色の染色工程時に,切片上に発生した気泡が原因であると考えられる.これは抗原抗体反応時,標識抗体反応時,発色剤による発色時などのインキュベーション中に発生し,染色に必要な反応が正しくされなかったと考えられる(図1).

1章 こんなときどうする? 免疫染色の“困った”を解決 困った④ バックグラウンドが強い

固定に問題がある 柳田 絵美衣
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固定液による抗原性の流出

■原理・原因

 病理検査において主流であるホルマリン固定とアルコール固定では,固定の原理が異なる(表1).ホルマリンはアルデヒド基をもち,蛋白・ペプチド鎖に架橋形成を生じることで抗原を固定する.

 アルコールは有機溶剤系と呼ばれ,蛋白の凝固沈殿を起こして抗原を固定する.固定力,形態の保持には架橋剤が優れ,抗原性の保持には凝固剤が優れているが,組織片の収縮が強く,抗原物質の不動化能力は変性型固定液には劣る.ホルマリン固定では,目的の抗原をあるべき場所にとどめておくことができるが,固定力が強すぎるため,抗原自身の性質に変化が起こる.それとは逆に,アルコール固定では,抗原自身の性質は保持できるが,固定力が弱いために抗原をとどめておけず,流出する場合がある.

抗原に問題がある 柳田 絵美衣
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抗原がもともとある

■原理・原因

 免疫グロブリンや補体などは組織中や血中に多く含まれているため,組織や細胞全体に抗原が存在する.それらが免疫染色時に抗体と抗原抗体反応を起こし,組織や細胞全体にDAB(3,3’-diaminobenzidine)発色による着色を起こす.

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抗原賦活処理が強すぎる

■原理・原因

 過剰な抗原賦活処理は,目的の抗原以外をも賦活化してしまい過染色の原因となる.加熱処理による抗原賦活化では,処理時間が長いほど賦活処理は強くなり,使用する緩衝液の選択でもpH6.0クエン酸緩衝液よりもpH 8.0 EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)液を使用した場合に賦活強度が増す.

反応条件に問題がある 柳田 絵美衣
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一次抗体の濃度が高すぎる

■原理・原因

 一次抗体の濃度が濃すぎると,抗原の有無に関係なく非特異的に抗体が組織や細胞上に残存してしまう.その残存した余分な抗体にも二次抗体や発色剤が反応・結合していき,非特異的な部分にもDAB(3,3’-diaminobenzidine)発色の着色が起こる.

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内因性ペルオキシダーゼによる影響

■原理・原因

 好中球,好酸球などは内因性ペルオキシダーゼ活性,また赤血球ヘモグロビンは偽ペルオキシダーゼをもつため,HRP(horseradish peroxidase)系発色剤が反応し,発色してしまう(図1).図2は血管内に存在する血球がもつ内因性ペルオキシダーゼや偽ペルオキシダーゼにDAB(3,3’-diaminobenzidine)反応し,茶褐色に色づいている.

 ホルマリン固定パラフィン包埋切片では,ブロック作製までに熱やさまざまな薬品により,内因性のペルオキシダーゼ活性は減弱しているが,凍結切片や細胞診検体は生体内の状態に近いため,ホルマリン固定パラフィン包埋切片に比べて内因性ペルオキシダーゼ活性が非常に強い状態にある.そのため,凍結切片や細胞診検体を用いる場合,内因性ペルオキシダーゼのブロッキングは,時間をかけてしっかり行う必要がある.

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乾燥吸着

■原理・原因

 切片上に載せた抗体溶液が乾燥し水分が蒸発した場合,抗原の有無に関係なく,抗体が切片全体に吸着してしまう.たとえるなら,海水を蒸発させた後に残る塩と同じ現象である.

 吸着した抗体に二次抗体,発色剤が結合,反応することで切片全体がDAB(3,3’-diaminobenzidine)発色により着色されてしまい,偽陽性像を示すため,診断の妨げになる可能性が高い.

1章 こんなときどうする? 免疫染色の“困った”を解決 困った⑤ 切片の剝離が激しい

薄切に問題がある 山田 寛
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薄切時のメス傷

■原理・原因

 パラフィンブロック薄切時,組織に石灰化や縫合糸などが含まれていると,ミクロトーム刃に傷が入る.そのまま薄切を続けた場合,薄切切片にメス傷が入る(図1).その切片をそのまま免疫染色に利用すると,脱パラフィン工程時や熱賦活,酵素処理などの前処理段階や染色時に,メス傷の部分から切片がめくれ剝がれてくる.

検体処理に問題がある 山田 寛
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固定液浸透不良

■原理・原因

 固定の良し悪しはその後の染色や遺伝子検索の質に多大な影響を与える(1章 p.920-926参照).素早く固定液に漬けることが大事であるが,ただ漬ければよいというものではない.固定液の量,固定容器と臓器の大きさの関係,固定促進法など,素早く臓器の中心まで固定液が浸透するようにしなくてはならない.もし浸透不足が起こった場合,その後の処理でパラフィン浸透不良などを引き起こし,切片が剝がれやすくなる.また,染色ムラなどの染色不良標本が出来上がるため,一口に固定といってもさまざまな工夫が必要である.

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抗原賦活処理が強すぎる

■原理・原因

 抗原賦活処理を行うと,切片は熱や圧力などの物理的ダメージや,酸やアルカリ,蛋白分解などの化学的なダメージを受けることとなり,切片が縮小したり,細胞が溶解したり,スライドガラスから剝離したりする原因となる.特に,骨や歯などの硬組織はガラスに貼りつきにくく,少しの衝撃でさえ剝離を起こすことが多い.

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乾燥不足

■原理・原因

 スライドガラス上に切片を載せた後の乾燥が不十分な場合,スライドガラスと切片の間に水分が残存する.その水分がゆっくりと蒸発していくと,スライドガラスと切片の間に空洞ができる(図1).この空洞により,切片がスライドガラスから浮き上がっている部分は白っぽく見える(図2).

 免疫染色では,抗原賦活処理での加熱や圧力,洗浄時の振動や緩衝液の表面張力により,切片は物理的なダメージを多く受ける.そのため,スライドガラスと切片との間に隙間があると,剝離のきっかけとなり切片が剝離してしまう.

2章 目でみる 免疫染色良い例・悪い例

検体の取り扱い 山田 寛
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切片の保管温度の差による染色性の比較

■薄切後の抗原劣化

 スライドガラスに拾われた切片は通常,伸展器などでよく乾燥した後にすぐに染色を行う.しかし,研究や検討などで薄切後すぐに染色せずに,数日後から長ければ数カ月後に染色することもある.このとき,同様の抗体,方法で染色しても,薄切直後の切片を用いた染色結果と数カ月後の切片を用いた染色結果では,染色強度や染色性に違いがみられることがある.このことから,パラフィン切片においても,経時的な抗原性の減弱(失活)があることがわかる.これは長期保管によって抗原が空気と接触し酸化することや,熱や紫外線などの影響があるためとされている(図1).

機器の取り扱い 柳田 絵美衣
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伸展時の温度,時間による比較

■切片の伸展温度による染色性の差

 切片を伸展する際の伸展器の温度によって染色性に差異がみられる.図1aは40℃で20分間伸展した場合の染色性であり,腎尿細管に染色性が確認できる.図1bは伸展温度70℃で20分間伸展した場合である.図1aと比較して,染色性が低下していることがわかる.

 生卵に熱を加えると変性しゆで卵になる現象は,“熱変性”と呼ばれ,蛋白に熱を加えることで構造が変化している.抗原も蛋白であるため,高温で加熱されると変性する.

染色工程 柳田 絵美衣
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核染色の色出し強度による染色性比較

■色の位置関係と補色

 色相環とは,スペクトルの色を波長の順に赤色から紫色まで並べ,赤色と紫色の光を種々に混合した色でスペクトルの両端をつないで連続した色の環を作ったものである(図1).対角線に位置する色調同士は“補色”と呼ばれる関係であり,互いの色調を引き立て合う相乗効果をもつ.つまり,補色関係にある色調同士でメリハリが生まれ,両者の色がはっきり認識できる.

 免疫染色での核染色(カウンター染色)は,①背景の組織構築を把握するために行う,②免疫染色での陽性像を観察しやすくするために行うことが主な目的である.そのため,発色の色調を引き立てる性質をもつ“補色”の関係にあたる色調で核染色を行う必要がある.

試薬の取り扱い 柳田 絵美衣
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一次抗体の希釈濃度による染色性の比較

■低濃度の一次抗体で染色した場合

 抗体濃度が至適濃度以下の場合,希釈されることで含まれる抗体量が減り,抗原抗体反応が不十分となるため,染色性が弱くなる.つまり,染色ムラや偽陰性の原因となる.

その他 柳田 絵美衣
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特異的・非特異的な核の染色性の比較

■核移行

 核移行とは,ある特定の症例でみられる遺伝子の変異により起こる現象である.遺伝子変異や欠失などでβ-cateninが分解されずに,そのまま核に移行するとされている(図1).そのため,通常であれば細胞膜に陽性となる染色が,核移行をしている場合,免疫染色を行うと核に陽性像を示す.つまり,図2a,bは染色性には問題はなく,正しい染色結果であるといえる.デスモイド以外に,膵臓でのSPN(solid pseudopapillary neoplasm)やメラノーマなどでも同様の染色性がみられる.

3章 免疫染色に強くなる! 免疫染色の極意

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形態だけでは鑑別が難しい症例こそ,免疫染色が生きる!

 免疫染色の目的として,すぐに思い浮かぶのは“組織型の診断”ではないだろうか.病理診断において,基本となるのはもちろんHE(hematoxylin-eosin)染色での組織像であるが,それだけでは組織型を診断できないことも多く,そんなときこそ免疫染色の出番である.

細胞診検体 山田 寛
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LBC固定液の成分が免疫染色にも遺伝子検査にも影響する!

 細胞診の固定は95%エタノール液(図1a)が主流であったが,近年,LBC(liquid based cytology)固定液を用いることで,細胞変性や乾燥の防止,細胞診標本の複数枚作製や長期保存などのメリットがうたわれている.しかし,LBC固定液はメーカーにより組成が違い,細胞形態や免疫染色の染色性に少なからず影響を与えるため,代表的な製品の組成の違いによる染色性の差を供覧する.

硬組織 今川 誠
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脱灰液は“蛋白に優しい”キレート溶液を選択すべし!

■キレート溶液

 キレートとは,ギリシャ語で“カニのはさみ”の意味である.キレートははさみで金属イオンを挟むような構造をとることから,キレートと金属イオンの反応は“キレート反応”と呼ばれる.キレート溶液のエチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid:EDTA)は,代表的な脱灰液である.EDTAは選択的に金属イオン(カルシウムイオン)と配位結合することで,脱カルシウム(脱灰)作用を生じる.つまり組織中のカルシウムイオンのみが除去されるので,蛋白に対しては影響を及ぼさない.そのため,長時間の脱灰処理を行っても組織への障害は少なく,免疫組織化学の染色性は担保される(図1).

抗原賦活処理 中村 広基 , 柳田 絵美衣
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賦活方法の選択は慎重に!

 熱処理賦活に用いる賦活溶液と加熱方法の組み合わせにはさまざまな方法(表1)があり,膜蛋白を可溶化する界面活性剤(Tween®20など)を賦活溶液に添加することで,抗体の浸透性を高めて賦活能を上げることも行われている.これらの賦活溶液を,マイクロウエーブや電気ポット,圧力釜,オートクレーブなどで一定時間加熱して熱処理賦活を行う.

抗体(選択) 丸 喜明 , 柳田 絵美衣
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よい抗体の条件は“高感度・高特異度”そして“扱いやすさ”!

 現在の病理診断において,免疫染色は組織型鑑別や治療薬の効果予測などを行ううえで欠かすことのできない技術である.したがって,目的とする抗原に対する適切な抗体を選択することが重要である.本稿では抗体の“感度・特異度”と,扱いやすさにかかわる“動物種”について解説する.

抗体(保管) 柳田 絵美衣
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抗体の取り扱いPoint 4カ条!(図1)

■Point 1

 低濃度の蛋白は,変性や失活速度を促進する.抗体の希釈は使用直前に行うべし!

DAB取り扱い 中村 広基
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免疫染色の発色は,安定性の高いDABが基本

■DAB

 3,3’-ジアミノベンジジン(3,3’-diaminobenzidine:DAB)を用いた発色は,酸化還元酵素である西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase:HRP)によってDABが酸化・重合反応を起こし発色する機序を利用している.二次抗体に標識されたHRPがDAB試薬中の過酸化水素を分解し,生じた活性酸素がDABを酸化重合することにより茶褐色の沈殿が生じる1)(図1).二次抗体が結合した細胞の器官でこの沈殿が発生し,陽性部分が染着されることで対象となる抗原を検出する.染着したDABは,後の工程で用いられる水やアルコール類,キシレンなどの溶媒に耐性で,染色後標本も至適保存環境では長期間の保存が可能である.また,DAB試薬を構成するDAB液や過酸化水素液などの調整前の試薬液も冷蔵保存状態で比較的安定であり,染色試薬としては管理が簡単である.

 このように,DABは安定な物質であり,免疫染色で用いるグレードは安価であるため,免疫染色の発色基質として多用されている(図2).しかし,DABは膀胱癌を引き起こすことが知られているベンジジンの誘導体であり,DAB自体も国際がん研究機関により発癌性を示す可能性が指摘されている危険な物質である2).そのため,使用や廃棄は慎重に扱う必要がある.

核染色 柳田 絵美衣
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免疫染色の核染色にはマイヤーのヘマトキシリンを使用せよ!

 免疫染色の核染色といえば“ヘマトキシリン”だが,ヘマトキシリンではなく“メチルグリーン”を用いる施設も存在する.メチルグリーンはDNAと反応するため,核酸の染色に用いられていると考えられる.

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外部コントロールが染色者のミス疑惑を晴らす!

■検体切片と染色コントロール用切片は同じガラス上で染色する

 染色コントロールは,検体切片が“正しく染色されたのか”を判定・証明する目的で用いるため,検体切片と同じガラス上で染色することが重要となる(図1a,b).別々のガラス上で染色すると,“抗体のアプライ忘れ”“反応時間のズレ”などでガラス1枚1枚での染色条件が異なる可能性がある.

器具・機器 柳田 絵美衣
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世界のスライドガラス事情 親水性が好まれるのは日本だけ!

■免疫染色で使用するのはコーティングガラス

 現在,免疫染色を目的に開発されたスライドガラスが数多く販売されている.自動免疫染色装置による非特異的な染色ムラを抑制し,親水性や切片の伸展性,切片との強い接着力に優れ,さらに短時間での未染色標本の乾燥なども特徴としている.

 HE(hematoxylin-eosin)染色などとは異なり,免疫染色では染色の工程で加熱や加圧などの物理的刺激や,酸や塩基などの化学的刺激を受ける場面がある.それらの刺激により,切片がスライドガラスから剝離しやすくなる(1章 p.994参照).そのため,免疫染色では切片の剝離を防止するために,必ずコーティングガラスを使用する.コーティングガラスは,細胞表面が負電荷を有していることを利用しており,正電荷を有している物質をガラス表面に塗布することで細胞との接着を強めている.塗布する物質としては,ポリ-L-リジンやアミノシランなどが用いられている.また,コーティングガラスを使用しても,スライドガラスと切片の間に水分が残存していると,その隙間から切片が剝離する場合があるので,確実に水分を乾燥させて取り除いてから,スライドガラスと切片を接着させる必要がある(1章 p.996-997参照).

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免疫染色の意外な染まり方で症例の鑑別ができる!?

 免疫染色では“抗体がどの細胞のどの場所に染まるのか”を理解することが大事なのだが,通常では染まらない“いつもと違う”部分に染まることが特徴となる症例もある.こうした症例に実際に出会ったときに戸惑わないように,ぜひいくつか押さえておいていただきたい.

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水溶性封入剤での封入時には10円玉とネイルのご用意を!

■水溶性封入剤を使うケース

 免疫染色で水溶性封入剤を使用するかどうかは“発色剤”の性質で決まる.有機溶剤で色落ちしてしまう性質をもつ発色剤(1章 p.946-947参照)を使用して発色した場合は,発色後に水洗し,水溶性封入剤で封入する.

 水溶性封入剤には,グリセリンゼラチン,アパチーのゴムシロップ,水溶性高分子ポリマー封入剤などがある.自然材料であるグリセリンゼラチンやアパチーのゴムシロップは,手軽に入手・使用することができるが,長期保存を目的とする場合は水溶性高分子ポリマーを用いた封入剤を使用するとよい.

4章 ポイント解説 免疫染色の原理

用手法 柳田 絵美衣
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原理・種類

■標識物質と発色剤

 酵素抗体法(免疫染色)は特異的反応を用いて,組織や細胞内の抗原性をもつ物質の局在を証明する免疫組織化学染色の手法の1つであり,抗体に酵素を標識する方法である.主に用いる酵素は西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase:HRP)とアルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase:ALP)であり,各酵素に対応した発色剤がある.病理診断に用いる免疫組織化学染色は,HRPを標識酵素と3,3’-ジアミノベンジジン(3,3’-diaminobenzidine:DAB)で発色する方法が主流である.その他に酸ホスファターゼ,ガラクトシダーゼ,グルコースオキシダーゼなどがある.現在では,図1のようにさまざまな色調の発色剤が登場している.

自動染色装置 柳田 絵美衣
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国内で使用されている自動染色装置 徹底解剖

■自動染色装置の比較

 近年,患者の遺伝子や蛋白を調べ,患者に応じた治療方法を選択する個別化医療が進展し,特定の標的分子の発現を前提とした分子標的治療薬が開発され,治療薬の選択に用いられる診断薬などの重要性が認識されるようになっている.

 個別化医療のなかでも,疾患などに関連するバイオマーカーを利用し,医薬品の投与対象患者を特定する目的で使用される体外診断用医薬品を“コンパニオン診断薬”と呼ぶ.コンパニオン診断薬の性能は,医薬品の有効性および安全性に直結するため,コンパニオン診断薬には高い精度管理が求められている.

多重染色 柳田 絵美衣
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重染色の手順

■免疫多重染色

 現在,免疫組織化学染色(以下,免疫染色)は病理診断,病理検査において重要な役割を果たしており,現在に至るまでに多くの技術的改良がなされた結果,多種多様な手法や応用法が存在している.そのなかでも免疫多重染色は同一切片・同一細胞上で複数の抗原局在を同時に検出し,それらの相互関係を証明することが可能な応用法の1つである.

 免疫多重染色には蛍光抗体法多重染色と酵素抗体法多重染色があり,前者は以前から研究の場で幅広く使われている.感度も高く,信頼性の高い方法であるが,診断病理の現場ではほとんど用いられていない.その理由として,暗視野顕微鏡での観察が必須であるため,組織構築(背景)の確認が困難であることが挙げられる.それに対して酵素抗体法多重染色は,明視野顕微鏡での観察が可能であるため,組織構築の観察・確認が容易である.しかし,電子的なマージが可能である蛍光抗体法とは異なり,対象とする複数の抗原の局在が重なる,または近接している場合には共発現の評価が困難となる.さらに,手技が煩雑で所要時間が長いことから,酵素抗体法多重染色も診断現場では敬遠されてきた.

巻末付録

Column

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 病理検査専門の検査会社に勤めていた頃,用手法で免疫染色を行っていた.多い日では湿潤箱を高々と積み上げ,200枚ほど染めることもあった.染色し終わった標本は,まず自分で全て染色性のチェックをする.その後,必ず上司(社長)のところへ持って行くことになっていた.そこで何が始まるかというと……ここからが関所である.1枚1枚,上司が顕微鏡でチェックをしながら私に問う.「この抗体は正常細胞では何が染まる? 何の鑑別に使用する? 細胞のどの部分が染まる? この切片は何の組織で,何が染まっている? 抗原賦活処理は何をした? 希釈倍率はどのくらいで染めた?」と,1枚ずつ時間をかけて問答を繰り返すのである.答えられなければ,もちろん「戻って調べてきて,もう一度持ってきなさい」と,突き返される.当時は,その数十分,数時間が緊張と恐怖でただただ苦痛であった.いま思えば,あんなに多忙な上司が何時間も時間を割いてくださっていたのだから,上司にとってもある意味苦痛だっただろうと思う.それを数年間毎日繰り返していたおかげで,いまではある程度の抗体については賦活処理法や染色の陽性像,鑑別症例が頭の中に入っている.

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 よく「免疫染色がうまくなるコツは?」なんて質問を受ける.その場合は,「目的の抗原と使用する抗体の性質を把握すること」「条件設定が柔軟にできるようになること」「原理を知り,ポイントはしっかり押さえておくこと」など,あたかももっともらしい答え方をするが…….ここで本音を言いたい.

 免疫染色がうまくなるコツは“愛情”と“イメージトレーニング”だ! “3度の飯より免疫染色が好き”が私を表すのに最もふさわしい表現だ.免疫染色をすることが楽しくてたまらない.抗体の知識が増えることがうれしくてたまらない.経験が増えていくことに興奮する.そんな毎日だった.

Column.3 免疫染色の未来は明るい!
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 私が臨床検査技師として多くを学び,多くを得た地である兵庫県で,臨床検査技師会から『免疫染色の染色サーベイ』のお仕事をいただいたことがある.まずこのサーベイに参加してくださる施設を募り,参加施設に未染色標本を送り,その標本を染めていただく.その染色結果を病理医と私が鏡検し,染色性を評価するという役目を仰せつかったのである.1年目にHER2,2年目にD2-40,3年目にはKi-67を染色テーマとした.サーベイの方法は,各抗体メーカーにも同じ未染色標本を染色してもらい,その抗体メーカーの抗体を使用している施設の標本と比較するというものである.抗体メーカーでは,その抗体に適した推進プロトコールが存在しており,その通りに染色されている.つまり,その抗体を使用して染色するにあたり,最も適切な染色性が得られていると考え,染色評価の見本とした.

 HER2に関しては染色条件やプロトコールが確立されているため,“そこまで見本の標本との差や,施設間での差は出ないだろう”ということで1年目はHER2となった.ところが,いざやってみると…….

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 近年,分子標的治療薬の進歩が顕著である.従来の抗癌剤は増殖能の高い細胞を攻撃するため,正常であっても増殖能の高い骨髄や粘膜などの臓器も傷害を受け,副作用が現れる.頭髪が抜ける副作用もこのためである.しかし,分子標的治療薬は標的を狙って抑える(攻撃する)ため,副作用が少ないことが特徴として挙げられる.この分子標的治療薬の適応か否かも,免疫染色の結果から導くことができる.現在,免疫染色は病理診断の補助的手段としてだけでなく,患者の治療薬・治療方針選択の一助としても重要な役割を担っている.

 また,近年患者検体から癌の原因となる遺伝子を見つけだす“クリニカルシーケンス”も始まった.癌は複数の癌遺伝子や癌抑制遺伝子の変異が積み重なって発症へつながる.この癌の発症にかかわる重要な遺伝子はドライバー遺伝子と呼ばれ,ドライバー遺伝子から産生される蛋白の機能を抑えることで治療するのが分子標的治療薬である.分子標的治療薬は日本では原発臓器別に使用できる薬剤が決められている.例えば,トラスツズマブ(ハーセプチン®)は乳癌と胃癌にのみ使用が認められており,保険適用で治療することができる.しかし近年,ハーセプチン®の投与により腫瘍が縮小した肺癌症例が海外で報告された.それに伴い,“臓器別ではなく遺伝子異常に基づいて薬剤が選択されるべきだ”という考えが生まれた.

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 “三度の飯より免疫染色”を掲げていた私の愛が,あるとき国境を越えることとなった.日本の免疫染色,病理診断を伝道するというお仕事をいただいたのである.どこへ伝道?ということだが,縁あってバングラデシュ第2の都市チッタゴンへ.

 バングラデシュは世界の中でも最貧国の1つであり,大学病院ですら物資,人材,資金全てが不足している.“免疫染色!? ぜひとも教えてくれ!”と,キラキラとしたまなざしで見つめられ懇願されたものの,それどころではない.パラフィンも,ミクロトームの替え刃を買う資金もなく,パラフィンブロックはHE染色標本を一度作製してしまうとその直後に溶かし,次の患者のブロックを作るために再利用するありさまである.ミクロトームの刃を交換していないため,傷だらけでボロボロ.固定時には飲食物の空き瓶に少量のホルマリンらしき透明の液体が入れられているが,組織片は1/3程度の高さまでしか液体に浸っておらず,上部2/3は乾燥状態.いつから固定? 乾燥? されているかも不明であった.彼らがHE染色と主張する染色も安物で粗悪な試薬を使用しているため,染色後の色調も変.固定の影響なのか試薬の影響なのか……原因追及さえ難しい.そんな免疫染色どころではない現場にがくぜんとしたことを覚えている.

Column.6 イギリス免疫染色修行
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 猛烈に忙しい小さな病理専門の検査会社から,ドッシリとした大学病院の病理部に入職して半年,そのギャップに耐えられなくなった私は,いきなり教授室へ飛び込みこう申し出た.

 「修行に出たいです!苦労がしたいです!海外に修行に出させてください!」

Column.7 論文は世界共通の名刺!
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 免疫染色一筋で突っ走ってきた私は,オリジナルの免疫多重染色技術の論文をThe American Journal of Surgical Pathology誌(臨床の診断病理に関する雑誌では頂点の雑誌にあたる)に投稿し,採用された〔Yanagita E, Kamoshida S, Imagawa N, et al : Immunohistochemistry-based cell cycle detection (iCCD) : a novel system to visualize cell kinetics on formalin-fixed paraffin-embedded tissues. Am J Surg Pathol 36:769-773,2012〕.

 内容は免疫三重染色.細胞周期G1,M/G2/S期,アポトーシスにある細胞を酵素抗体法で染め分けたのは世界初!.これにより,正常と悪性の細胞状態が把握できるようになった.ちなみにこの三重染色は全工程で6時間ほど要する全用手法なのだ.毎晩夜中まで免疫三重染色のプロトコールを繰り返し,全く知識のない遺伝子の勉強をし,わからない英語と格闘……やっと書き上げた論文であった.

Column.8 YANA4誕生秘話
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 紹介した肺癌の鑑別を目的とした免疫多重染色“YANA4”は,私が考案したものである.論文を投稿するにあたり,この重染色のネーミングについて,“肺Lung,腺癌と扁平上皮癌Adenocarcinoma,SCCで……LAC?”,“TTF-1とNapsin A,p63,CK14だから……TNPC?”と,重染色の内容を全て網羅できるよう考えを巡らせたものの,ピンとこなかった.

 “動物や昆虫や星は発見者の名前を付けるじゃないか!”ということで,“YANAGITA+4種類の抗体”ということから“YANA4”と名付けたのである(実に短絡的).とりあえず,考案者と抗体数が組み込まれた名前となったが,正直言ってしまえば,考案者の名前なんてどうでもいいことである.上司にも「う〜ん.最近は人の名前を付けたものは,あまり認められないよ?」と言われたが,そのまま投稿! 査読者からは「What does “YANA” mean?」とのコメントが来た.何か意味があるのかと思うのが当然であろう.私が査読者でも同じ質問をすることだろう,と納得.上司からも「やっぱり名前変更したら? 肺癌とか腺癌とか扁平上皮癌とか免疫重染色とか,関係する単語の頭文字にしようよ」とのご意見をいただいた.正しい! 上司が正しい! でも,“諦めません,(雑誌に)載るまでは!!”

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目次

基本情報

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検査と技術
46巻9号 (2018年9月)
電子版ISSN:1882-1375 印刷版ISSN:0301-2611 医学書院

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