胃と腸 18巻8号 (1983年8月)

今月の主題 大腸sm癌

序説

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 大腸の内視鏡的ポリペクトミーが一般的に行われるようになってから早くも10年近くの歳月が経過した.当初は本法によって早期癌がこれほど多数発見されるようになろうとは,誰も予想しなかったのではないだろうか.ところが今や内視鏡的ポリペクトミーが大腸早期癌の診断と治療にとって必要不可欠となったことは議論の余地がないと思われる.

 大腸早期癌の中でもm癌の取り扱い方については,ポリペクトミーのみで根治が期待できるという点で意見が一致しているが,sm癌の取り扱い方については不明なことが多く,的確な治療方針の立てられないのが現状である.ポリペクトミーを行っていて一番悩まされるのは,実はsm癌に出会ったときであるのは,経験した方なら誰も異論はないだろう.ポリペクトミーが普及するにつれてこの問題はますます大きくなってきているにもかかわらず,各人の症例数は決して多くはないので,各人各様に悩み,治療方針を決定せざるを得ないという状況が日本ばかりか世界中で起きていると思われる.われわれの知りたいのは,ポリペクトミーされたsm癌に,どのような所見があったらどの程度の率の転移の可能性があるかということであり,腸切除を追加しないで済ませうるための条件は何かということである.

主題症例 A 内視鏡的ポリペクトミー後に経過観察している例

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 〔症例〕53歳,女性.1976年11月ごろより便に血液付着を認めたが痔出血として放置していた.1978年1月,某病院にて直腸指診により,肛門近くのポリープ病変を指摘され,精査を希望し来院した.内視鏡にて肛門より5cmに広基性ポリープを確認し(Fig.1a),明らかなⅡc様陥凹を認めないためポリペクトミーを施行した.1.7×2.2cmと大きく,分割切除も考慮したが,基部にわずかにくびれを有し,絞り込みが可能であったため一期的に切除した.この結果広い焼灼潰瘍を生じた(Fig.1b).

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 〔症例〕70歳,男性.以前より呼吸機能障害のため外来治療を受けていたところ,約1力月前より易疲労感,息切れがひどくなり,Hb 4.6g/dlの貧血が認められて精査のため,1973年8月2日当院に入院した.胃X線検査,胃内視鏡検査により,胃穹窿部に直径約5cm有茎性のポリープが,また大腸X線検査,大腸内視鏡検査により,S状結腸口側部に直径1.5cm亜有茎性不整形ポリープが認められたが,呼吸機能障害のため両病変とも同年9月14日内視鏡的に切除された.病理組織学的検索の結果,大腸のポリープはsm癌で癌の先進部は断端に達しており,摘除は不完全と判断されたため,開腹して大腸癌としての郭清切除手術の適応とされたが,重篤な呼吸機能障害と本人の希望により,そのまま経過が観察された.切除後貧血も輸血と増血剤で回復,元気に家業に励むことができるようになった.4年3カ月後に行われたバリウム注腸X線造影検査では,ポリープ切除部位に異常を認めず,4年10カ月後に行われた血液諸検査でも,血糖値の上昇以外には異常を認めなかった.切除後6年して不幸にも事故により不慮の死を遂げたが,死亡時まで病変の再発を思わせる症状はなかった.

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 〔症例〕T. M.,49歳,男性,会社員.受診1年前に他院にて注腸X線造影を受けS状結腸ポリープを指摘されており,自覚症状は無かったが,精査のため1978年9月に来院.家族歴,既往歴に特記すへきことはない.理学的検査,一般臨床検査にて,特に異常を認めなかった.

 注腸X線造影所見(Fig.1)S状結腸に約2cmの有茎性,球状のポリープを認め(A),更に,約8cm口側の下行結腸に約9mmの有茎性,球状のポリープ(B)を認めた他は異常なし.

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 〔症例〕70歳,主婦,1978年8月乳癌の術後照射のため当科入院.同年10月2日ルーチンの注腸X線検査で,S状結腸に無茎性隆起を認め,翌日内視鏡的ポリペクトミーを施行した.Ⅰs型のsm癌で断端に癌を認めず,36日後の内視鏡による摘出部の生検でもGroup Ⅰであり経過観察した.約1年半後の注腸X線検査でポリープ摘出部に隆起を認めるも全身状態悪く放置した.1981年4月22日婦人科にて子宮筋腫の手術時,S状結腸腫瘤を認め,同部を切除した.

 注腸X線所見〔①1978年10月2日:Fig.1〕腹臥位の二重造影で,S状結腸に2×1.5cmの比較的丈の低い広基性隆起を認める.表面は軽度結節状を呈しているが陥凹は認めない.〔②1980年5月23日:Fig.5〕背臥位の二重造影でポリープ摘出部に山田Ⅰ型の表面平滑な1×1cmの隆起を認める.

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 〔症例〕63歳,女性.既往歴・家族歴に特記すべきことなし.1970年,粘液便の中に少量の血液が混入したため当院受診.直腸鏡にて肛門縁より13cmの部位に,有茎性の隆起性病変を認め生検を施行した.その後,病変より出血が止まらないため電気焼灼を受け,その際,隆起性病変の大部分も脱落した.

 生検材料の組織診は高分化型腺癌で,一部では粘膜下組織に浸潤していた.16日後の直腸鏡検査では瘢痕化し,smearの細胞診で癌細胞は陰性であり,以後,年1回の経過観察が指示された.1年後,2年後の検査(注腸および直腸鏡)で異常は指摘されなかった(Fig.1a,bの矢印の病変は当時チェックされていない).しかし,3年後に血便が出現し,1973年12月の直腸鏡と注腸検査(Fig.1c)にて,直腸~S状結腸に腫瘤を認め再発と診断し,翌年1月,低位前方切除術が施行された.

主題症例 B 内視鏡的ポリペクトミー後に腸切除した例

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 〔症例〕29歳,女性.13歳時虫垂切除術,29歳時子宮ポリープ切除術の既往あり.1973年12月下血.大腸X線検査にて直腸に隆起性病変を認め(Fig.1),内視鏡検査施行.直腸の亜有茎性ポリープと診断(Fig.2),内視鏡的ポリペクトミーを施行した.回収されたポリープは30×20mmで,表面平滑,一部顆粒状,発赤を伴っていた.組織所見(Figs.3,4)はcarcinoma in adenomaで,癌は一部smに達し,また癌巣は切断端より5mm以内に存在していたため腸管の部分切除を追加した.

 切除標本肉眼所見 切除された直腸(Fig.5)の肛側断端近くに約8×8mmの小ポリープを認め,表面は小結節状を呈していた.肉眼的にはポリペクトミーによる潰瘍,あるいは潰瘍瘢痕を認定できなかった.

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 〔症例〕65歳,女性.下血を主訴として来院.内痔核治療後,下血消失するも便潜血グアヤック法3回陽性にて注腸造影施行.注腸造影にてS状結腸に2個のポリープ(Fig.1)と結腸憩室症が認められた.大腸内視鏡検査では肛門縁より約25cmのS状結腸に1.4×1.2cm大のshort stalk型のポリープが認められた(Fig.2).またこのポリープの口側5cmと肛門側10cmに0.5cm大の2個の小ポリープ(short stalk)と散在性の左側結腸憩室が観察された.これら3個のポリープはいずれもポリペクトミーにて摘除された.

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 〔症例〕54歳,男性.無症状であったが,入間ドックの注腸造影にて直腸・S状結腸部ポリープを指摘された(Fig.1).大腸内視鏡検査では肛門縁より15cmのRs部に,表面に陥凹を有する1.0×0.5cm大のbroad based sessile型のポリープが観察された(Fig.2).

 摘除ポリープの病理組織学的検索では,断端近傍までのmassiveな癌浸潤の認められたsm癌(高分化型腺癌)であり,ew(+)であった(Figs.3,4).また腺腫部分は認められなかった.このためR2の直腸前方切除術が施行された.

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 〔症例〕56歳,女性.頸髄神経鞘腫にて整形外科に入院中,偶然直腸ポリープを発見された.大腸内視鏡検査で肛門縁より10cmの直腸後壁に1.5×1.0×0.5cmの広基性で中央に陥凹のあるⅡa+Ⅱc型隆起陥凹性病変が観察され(Fig.1),内視鏡的に摘除された(Fig.2).

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 〔症例〕56歳,女性.排便時に1度だけ鮮血が出たとのことで来院,指診で痔が認められるが念のため大腸検査を施行する.1981年8月26日,注腸X線検査.9月30日大腸内視鏡検査,生検.11月19日ポリペクトミー(1回目),11月26日ポリペクトミー(2回目)観察のみ,12月19日腸切除術(東京女子医大).経過良好にて現在健在.

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 〔症例〕51歳,男性.下血と便通異常を主訴とし某医を受診.S状結腸の隆起性病変を指摘され,ポリペクトミー目的にて当科を紹介され来院した.注腸X線像では口側S状結腸に径約1cm大の亜有茎性ポリープを認めるがX線像では良悪性は判然としない(Fig.1).内視鏡像(Fig.2)では同様に亜有茎性のポリープであるが表面に多少の凹凸不整を認め,また色調の変化などより悪性も示唆されたが,完全生検の意味を含めて1976年3月5日経内視鏡的ポリペクトミーを施行した.

 ポリープは1.3×1.0cm大で,Fig.3はそのルーペ像,Fig.5は切除断端部の拡大像である.Fig.4に示すように,腺腫の部分は切除断端の周囲にわずかに認めるのみで,ポリープのほとんどは癌組織であり,ly(-) v(-)であったが,癌は既にsmまで深く浸潤し,かつFig.5にみられるように切除断端から1mmしか離れていず,癌の残存ならびにリンパ節転移の可能性も否定できない.したがってこの1カ月後にR2のS状結腸の追加部分切除を行った.Fig.6はその切除標本で,矢印がポリペクトミーの跡である.肉眼的にはわずかな瘢痕を認めるだけで,病理組織学的検索でも癌の残存やリンパ節転移も認められなかった.

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 〔症例〕67歳,男性.肛門出血を主訴として来院.

 注腸造影所見 直腸S状部に拇指頭大の亜有茎性ポリーフを認めた(Fig.1).

 内視鏡所見 表面凹凸不整,分葉状の山田Ⅲ型ポリープを認め,直ちに内視鏡的ポリペクトミーを施行した(Fig.2).

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 〔症例〕56歳,女性.肛門出血を主訴に来院.

 注腸造影所見 S状結腸に拇指頭大の有茎性ポリープを認めた(Fig.1).

 内視鏡所見 表面は比較的平滑で出血を伴う山田Ⅳ型ポリープを認め,直ちに内視鏡的ポリペクトミーを施行した(Fig.2).

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 〔症例〕64歳,男性.1977年7月新鮮血便を認め来院.注腸造影(Fig.1)にてS状結腸に長径1cm前後の山田III型ポリープ様病変を認めた.ポリペクトミーによる完全生検の目的で入院.

 内視鏡所見(Fig.2)では表面顆粒状でびらんを伴う.ポリペクトミーのためスネアをかけたところ通電前に抵抗なく切断された.翌日の内視鏡検査では,中心に陥凹を残し,ポリープの残存を認めた.ポリペクトミーされた標本(Fig.3)は,1.1×1.0cmで,図に示すように大部分が高分化型腺癌で,切除端にも浸潤を認めたため,粘膜下層への浸潤を考え,2度目のポリペクトミーを行わず外科的に腸管切除およびリンパ節郭清術を施行した.切除標本(Fig.4)では,残った腫瘍は1.0×0.7×0.5cmで分葉状,表面は平滑,中心に陥凹を認めた.

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 〔症例〕26歳,女性.下血を主訴として来院.

 注腸X線検査にてS状結腸に表面が凹凸不整な亜有茎性の隆起性病変を認めた(Fig.1).内視鏡検査(Fig.2)ではS状結腸にやや分葉傾向のある亜有茎性の腫瘤を認めた.生検を4カ所行ったところ,すべてGroup IVと診断された.大きさは27×20mmであった.

 Fig.3およびFig.4はポリペクトミー標本の弱拡大および強拡大像で,ポリープのほぼ全体に高円柱上皮から成る乳頭状腺管が形成され,ごく一部には扁平上皮の性格を示すところも認められた.おおむね粘膜層内を占めるが,一部粘膜下層にも浸潤している.以上より深達度smの高分化型腺癌と診断した.粘膜下層内に浸潤像を認めるためS状結腸切除術を施行した.

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 〔症例〕68歳,女性.家族歴として叔父が胃癌死.30歳から痔疾,65歳から高血圧症の既往あり.2~3年前から排便時に肛門出血が時々あったが痔と思い放置した.1981年4月初めから出血が頻回となり,4月16日当院を訪れた.

 直腸診で肛門輪から3~4cm奥前壁に,やや可動性のある拇指頭大の隆起を触れ,易出血性であった.大腸X線所見は,肛門輪から4cmの直腸前壁に15×20mmの境界明瞭な円形の隆起性病変を示し,広基性で大きいことから癌を疑った(Fig.1).大腸ファイバー所見は,Ⅱa様隆起で表面凹凸し,易出血性のびらんを有し(Fig.2),3個採取した生検すべてに癌を認め,うち1個にはsmへの浸潤を疑った.当院では,sm癌は原則的に根治手術の適応としており,強力に手術を勧めたが,患者が固く拒否したため6月2日内視鏡的にpiecemeal polypectomyを行った.

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 〔症例〕68歳,女性.家族歴としてそれぞれ肝臓癌死,子宮癌死した姉がいる.6カ月前肛門出血があり,某院で痔と診断され加療を受けていたが,3カ月前に再び出血があり,脱肛の手術を受けた.1977年9月,某院で直腸鏡により肛門輪から15cmにポリープを指摘され,9月26日当院へ紹介された.

 大腸X線検査で,直腸に23×20mm大の亜有茎性不整隆起を認め,表面無構造で潰瘍形成が疑われ直腸癌と診断した(Fig.1).10月25日内視鏡的ポリペクトミーを施行し,18×14×10mm大の半球状腫瘍を摘除した(Fig.2).

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 〔症例〕61歳,主婦.家族歴,既往歴に特記することなし.1977年11月末から肛門出血を認め,出血持続のため翌年1月中旬来院.注腸X線検査,大腸内視鏡検査にて直腸ポリープと診断した.

 注腸X線所見(Fig.1)肛門から2cm,右壁に亜有茎性ポリープを認め,早期癌と診断した.

 大腸内視鏡所見(Fig.2)肛門より2cmの部位に大きさ1.5cmの亜有茎性ポリープを診断しポリペクトミーを行った.

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 〔症例〕40歳,女性,会社員.家族歴に特記事項なし.36歳時卵巣腫瘍にて卵巣・子宮摘除術を受けている.1978年7月初旬肛門出血を認め受診.注腸X線検査で肛門より18cmのS状結腸に大きさ2cmの亜有茎性ポリープを認め(Fig.1a),内視鏡像(Fig.2a)は表面比較的平滑で広基性のポリープであった.ポリペクトミー標本(R-230337)の病理組織所見はadenocarcinoma papillotubulare with muconodular patternで,検索範囲で切除断端癌陰性であるが(Fig.3),粘膜下層のごく近くまで粘液産生のある癌の浸潤がみられた(Fig.4).ポリペクトミー14日後のX線像では小潰瘍形成のみであった(Fig.1b).5ヵ月後の内視鏡所見では局所に再発の徴候なく,ポリペクトミー部位は粘膜集中を伴う潰瘍瘢痕の像を呈していた(Fig.2b).生検組織所見(R-230463)(Fig.5)では一部に粘液を含む肉芽組織が認められるが,明らかな癌細胞は認められなかった.しかし,この生検所見から粘液産生を伴う癌の浸潤も考えられることは,ポリペクトミー標本の組織所見とあいまって慎重な経過観察を要した症例であったが,1979年11月肛門出血が出現するまで来院はなかった.

 1979年11月26日ポリペクトミーの1年4カ月後に行った内視鏡検査(Fig.2c)ではS状結腸のポリペクトミー部位に一致して1/3周を占めるBorrmann 1型の腫瘍を認め局所再発と診断した.生検組織所見はadenocarcinoma papillotubulareであった.注腸X線検査所見(Fig.1c)ではS状結腸に大きな腫瘤陰影を認めた.同年12月24日S状結腸切除術を行った.肝転移は左・右葉共に2個ずつ認め,いずれも拇指頭大であった.切除標本(0-17761)(Fig.6)で腫瘍は4.0×3.5cm,Borrmann 1型で,表面は絨毛状,膠様を呈し,一部扁平な部分もみられる.組織標本のルーペ像(Fig.7)で深部にはmuconodular patternを示す部位があり,癌は漿膜にまで浸潤しssβ,脈管侵襲ssV(+)も著明である.Fig.8は拡大組織像で粘液産生の強い分化型腺癌である.

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  〔症例〕68歳,男性.1976年5月より排便時に便のまわりに血液が付着することに気付く.注腸X線検査でS状結腸にポリープを認めた(Fig.1).同年7月31日大腸ファイバースコープ検査で肛門輪より18cm口側に,表面に小さな凹凸があるが中心陥凹がない亜有茎性のポリープを認めたのでポリペクトミーにより切除した(Fig.2).大きさは20×18mmであった.

 病理組織学的所見 ポリープは腺腫部分を認めず,またその表面には中心陥凹や潰瘍性変化のない高分化型腺癌であった.粘膜筋板は癌により大部分破壊されて消失していることからsm癌で,かつmassive invasionを伴うものと考えられた(Fig.3).また粘膜下層にリンパ管侵襲(ly1)を認めた(Fig.4).摘出標本の切断端には癌はなかった.リンパ管侵襲(ly1)のため第3群までのリンパ節の郭清とS状結腸切除を追加した.

主題症例 C 隆起型sm癌と診断しポリペクトミーを行わず腸切除した例

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 〔症例〕52歳,主婦.家族歴,既往歴に特記すべきことなし.1981年6月初旬より,便に血液が混じるようになったため,同年8月,当院受診.注腸検査にてS状結腸部に茎を有する約3cm大の隆起性病変が認められた(Fig.1).更に,大腸内視鏡検査にても同部に,表面凹凸不整な隆起性病変が認められた(Fig.2),生検の結果は高分化型腺癌であった.その大きさより,sm癌の可能性を強く疑われ,同年10月19日,S状結腸部分切除術を施行された.

 切除標本肉眼所見 Fig.3は,新鮮S状結腸切除標本である.切除断端肛門側より1cmの所に有茎性の隆起性病変(polypoid lesion)がみられ,その大きさは2.4×2.3×2.3cmである.

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 〔症例〕61歳,女性.血便を主訴として来院.注腸X線検査で下行結腸中央部に管腔をほぼ占める,表面顆粒状の有茎性隆起性病変を認めた(Fig.1).内視鏡検査では表面に顆粒状凹凸のある有茎性の腫瘤を認め(Fig.2),一部発赤びらんを呈し,生検にてGroup V と診断された.CTスキャン,腹部超音波検査,血管造影検査などで肝左葉にも腫瘍を認めたため,下行結腸部分切除術と共に肝左葉切除術を同時に施行した,術中,腸管壁周囲にリンパ節を触知せず,他臓器にも異常を認めなかった.

 大腸の切除標本では,最大径3.5cmの暗赤色を帯びた有茎性隆起性病変が認められ,その表面は顆粒状の凹凸が著明であった(Fig.3).Fig.4は大腸切除標本の弱拡大像である.頭部は異型の強い腺腫で占められ,その一部に粘膜下層まで浸潤した癌を認めた.茎は正常粘膜に覆われ,浸潤像はなかった.癌の部分の強拡大像(Fig.5a)では,高円柱状の絶細胞が腺管を形成し,増殖像を呈している.

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 〔症例〕42歳,男性.排便時出血を主訴として来院,直腸鏡検査にて肛門縁より3cm離れた直腸後壁に3cm大の有茎性隆起性病変が発見され,生検にて癌と診断された.病変の大きさからみてsm癌の可能性も考えられたので,本例に対してはポリペクトミーをせずに,1975年1月16日直腸切断術を施行した.

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 〔症例〕60歳,男性.1972年にS状結腸癌切除術施行後現在まで経過観察している症例である.(1972年のS状結腸癌の病理診断は,高分化型腺癌,ly(+),v(-),リンパ節転移陽性で,同一標本内にsm癌,粘膜内癌,良性腺腫を各々1個含んでいた.)

 1981年11月,術後定期に施行しているコロノスコピーで脾彎曲部にFig.1のような中央にⅡc様の陥凹を有する軽度の粘膜の盛り上がりを認めた.生検診断は印環細胞癌であった.術前に施行した注腸X線検査ではFig.2のごとく隆起を認めた.術後検査では胃その他の臓器に異常なく肝転移もなかった.

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 〔症例〕48歳,女性.既往歴,家族歴に特筆すべき事項なし.1978年秋ごろより排便時に,紙に付く程度の新鮮な肛門出血をするようになり,1979年6月,当院を受診.便潜血反応陽性のほかには一般検査で著変なく,CEAは1.3ng/mlで異常を認めなかった.直腸指診で腫瘤を触れ,直腸鏡検査にて肛門縁よ5cmの後壁に示指頭大で無茎の隆起性病変を認め,中央部に浅い陥凹を確認した(Fig.1).

 生検の組織診で高分化型腺癌が証明された.バルーン直接圧迫法(阿部)による注腸X線検査では,直腸下部の後壁に24×19mm大の無茎性病変を認め,その表面は凹凸不整で,かつ中央部にわずかな陥凹が存在したため早期大腸癌と診断した(Fig.2a).しかし中央陥凹の部は狭いため,Ⅱa+Ⅱc型とはせず,Ⅱa型早期がんと診断した.次に,深達度診断に関しては,無茎で中央部に陥凹を有すること,および側面像(Fig.2b)で腸管固有の辺縁に陥入所見を認めたため,m癌ではないと診断した.その結果,腹・仙骨式直腸切除術が施行された.

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 〔症例〕67歳,男性.水様下痢を主訴として当院受診.注腸造影(Fig.1)では肛門縁より約10cmの部位に拇指頭大,亜有茎性の隆起性病変が指摘され,大腸内視鏡検査(Fig.2)では,病巣の中央に陥凹が認められ悪性病変が疑われた,生検にて乳頭状腺癌と診断された.茎の幅が広く内視鏡的ポリペクトミーの適応とならず,低位前方切除術,リンパ節郭清術が施行された.

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 〔症例〕67歳,男性.姉が72歳のとき大腸癌で死亡.下血と上腹部痛を主訴として来院.胃透視と胃内視鏡で胃角後壁にIIcの病変が見出された.同時期に施行された注腸X線(Fig.1)で,S状結腸に3個のポリープが認められた.最も肛門側に近い30×30mm大の隆起性病変が,sm癌もしくはBarmann 1型の進行癌を疑われた.大腸ファイバースコープでは短い茎を有する30×30mmの,頂上が経度に陥凹する不整形のポリープが認められた(Fig.2).進行癌が疑われたためポリペクトミーは断念した.手術は胃亜全摘(R2)と前方切除(R2)が施行された.術後経過は良好で,約1カ月で退院した.

 S状結腸の切除標本をFig.3に示す.Fig.4にsm癌のルーペ像を示した,矢印の部でsm浸潤が認められた.Fig.5に胃角後壁に認められたIIc病変を示した.組織型はadenocarcinoma tubulare,well differentiated,sm(+)であった.胃のリンパ節を含め大腸のリンパ節に転移は認められなかった.

主題症例をみて

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 大腸sm癌の主題症例を選び出すに当たって,A群からは転移が起きてもよさそうなのに再発が起こらなかった例および予想どおり再発が起こった例を,B群からは転移陽性例,局所遺残例を,C群からは転移陽性例を中心に選出するように心掛けた.アンケート用紙の記載のみに頼った選別であったので,どのような症例が出てくるか多少心配であったが,提出された症例をみるとほぼ目的にかなった例が出揃ったと思われる.症例の写真,組織像を眺めれば,どのような形態,大きさ,浸潤度のものに転移が起こっているかの実態が理解できよう.症例の選出に当たってこれらの点には全く留意していないので,無茎性で大きな,massive invasionのあるsm癌に転移が多いという特徴は決して人為的なものではないと考えられる.一方,これはと思うような症例で転移が認められなかったり,こんな病変でと思われる例に明瞭な転移が認められることが,これらの症例からも明らかにうかがえる.例外はあるにせよ,広基性でsmへの癌浸潤がmassiveに認められるsm癌は,やはりポリペクトミーのみでは不十分であることは確実なようであり,2cm以下の有茎性でsmへの浸潤が軽度な場合には,転移の危険がほとんどないと考えておいてもよいと思われる.

 症例をみて気になることは,注腸造影,内視鏡検査による形態の記載と,組織標本上の形態が違う例が少なくないことである.標本上は明らかに広基性であるのに内視鏡的には亜有茎と判定されていたりするのは,どちらを採用すべきであろうか.sm癌の形態と転移の危険性とは無関係ではないようであるので,一度よく検討してみる必要があるように思う.

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 大腸sm癌の特集に各施設から寄せられた貴重な症例を,主にX線診断の立場から見せてもらった.率直な印象として,大腸の隆起性病変についての形状診断と深達度診断が不十分であるように思われた.過去の試行錯誤の時代の症例だったり,紙面の制約があるためと思われるが,かつての胃隆起性病変の診断の場合に比べ,大腸早期癌の診断にはなお検討の余地が残されているように思われる.

 ところで,大腸では胃の場合に比べて,有茎性病変でもかなり癌であることが多く,また有茎性の大腸早期癌ではm癌かsm癌かの深達度診断は不可能であることは周知のとおりで,筆者も同じ見解である.しかし,有茎性でない大腸の隆起性病変の場合には,形状診断にもっと力を注ぐべきであろう.呈示された症例をみて気にかかることは,亜有茎と診断されている例が意外に多いことである.X線写真が載っている25例中,10例は亜有茎と記述されている.本来,亜有茎という用語はあいまいさが残る用語であり,幾つかの例では,くびれがあれば亜有茎とされている.しかし,くびれと茎とは形態的には異なるはずである.両者は厳格に区別されるべきであろう.両者は“頭を振る現象”の有無で鑑別できる.すなわち,この現象は茎があってはじめて生じるもので,単なるくびれがある病変ではみられない.また,この“頭を振る現象”をみるには,体位変換をしたり,バリウムを移動させて,頭部の動きの有無をみればよい.

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 早期大腸癌のうちsm癌の病理学的にみた特徴像と,治療方針の決定および予後判定に役立つ病理学的因子は何かということが当面の問題である.近年経肛門的ないしは内視鏡的ポリペクトミーの普及によりsm癌の発見率は上昇傾向にある.ポリペクトミーの適応とその材料の組織学的な検索結果からsm癌と判定された症例の臨床的な取り扱いに対し,病理学的検索に携わる病理医の立場からいかに示唆に富む情報を臨床医に与えられるかということが重要である.

 まず,肉眼形態別にみたsm癌の頻度は早期大腸癌を母数にしてどの程度であるかということを検討した.国立がんセンター開設以来1982年9月末までの約20年間に扱われた早期大腸癌は114症例138病巣である.このうち51病巣(36.9%)がsm癌であるが,肉眼形態別にみると,Ⅰ型早期大腸癌のうち有茎性のものをⅠpと亜分類したところ19.1%,つまり約8割はm癌であった.これに対し無茎性のⅠs型早期大腸癌では52.5%と過半数がsm癌であった.Ⅱa型では36.8%とやや低率であるが,Ⅱa+Ⅱc型となると91.0%と高率であった.これらの結果を参考にして,大きさ,部位,生検組織所見,患者の一般状態などを臨床的に綜合して,いかなる方法で処置するかを決定すべきであろう.

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 大腸早期癌の診断に取り組んで間もない頃,手本になる文献と言えば,Spratt&AckermannのSmall primary adenocarcinoma of the colon and rectum(JAMA 179: 337,1962)ぐらいだった.この文献が病変の形態を単に記載するだけでなくシェーマで表しているところが気に入って,繰り返し読んではじっとながめて時間を過したことを思い出す.また,有茎性の病変で肝転移を認めたというManheimerの症例報告が気になって,図書館でN Engl J Med(272: 144,1965)を必死になってさがしたのもこの頃である.今,ここに見事に編集された大腸sm癌の特集を目にするとき,この道の先達の偉大さを思いつつも,これが既に先達の業績の模倣ではない新しい世界を築いていることを実感する.これは立派なアトラスとして通用する.

 “他人の材料で仕事をしている”という編集者に対する謗りはこの種の企画には常につきまとうものだが,一方,欧米の先達の業績を越えたと判断できるだけの材料の集積は,これだけの施設が1つの目的のために個々の利害を無にして協力してはじめて可能になったものであることを忘れてはなるまい.1研究者,1施設という単位での自己主張が研究発表の基本であることは当然のことだが,対外国という場合には今やこのような方法を是としなければならない時代が来ているのだと思う.

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 大腸ポリープの治療として,最近,ポリペクトミーが盛んに行われている.言うまでもなく,ポリペクトミーは大腸部分切除に比べれば外科的侵襲と患者の負担が少なく患者にとっては好ましい治療法であるが,ポリープが粘膜下組織へ浸潤している癌であってその粘膜下組織における癌の量が少なく,そしてポリペクトミー断端に癌がない場合に,ポリペクトミーに引き続いてすぐに腸の部分切除を行うかどうかが問題となる.アンケート調査からⅠp,Ⅰsp,Ⅰsに対する治療法をみると,A:B:C群は約1:1:2である.A群,つまりポリペクトミー後に経過観察の行われた例が,種々の理由で手術のできなかった例が含まれているにしても,意外に多いように感じた.

 ポリペクトミー断端に癌がなく,その粘膜下組織における癌の量が少ない場合は,統計的に癌の取り残しの確率が,そして所属リンパ節転移の率が極めて低い.しかし,そのポリペクトミーによって癌が完全に除去されたという保証はないし,その確率は患者にとっては実感的に高いものである.ポリペクトミーによって粘膜下組織へ浸潤している癌であることがわかった場合,どのような病理組織所見のときに経過観察をせずに腸の部分切除を行うべきであろうか?

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 武藤(司会) 本号は大腸のsm癌だけを取り上げて特集を組んだわけですが,3年前(15巻4号)の“大腸の早期癌”の特集ではm癌とsm癌の両方を扱いました.実は編集委員会で3年の間に何か進歩があったか問題になりましたけれども,診断面とか治療面でそう飛び抜けて変わったことはなかったのではないかという意見が多かったわけです.

 ただ,この数年間に内視鏡的なポリペクトミーが非常に盛んに行われるようになり,そこでsm癌が診断され,それをそのまま腸の再切除をしないで放っておくか,あるいは,腸切除すべきかがいつも問題になっている.この特集で,結局どういう状態のsm癌のときに特にリンパ腺の転移や肝転移を来しやすいかが少しでも浮き彫りにされればということで,症例を集めて珍しい,あるいは典型的な症例を掲載するという企画になりました.

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 原発性虫垂癌は50歳台,60歳台の癌年齢に発生することが多いが,今回われわれは29歳の男子に発生し,限局性の腹膜偽粘液腫を形成した虫垂粘液性囊胞腺癌の1例を経験したので報告する.

症 例

患 者:29歳,男性,

主 訴:回盲部痛.

家族歴:特記すべきことなし.

既往歴:9歳時,腹膜炎として入院したことがある.

現病歴:1981年7月初めより時々回盲部痛があり,同部の圧痛を自覚していた.7月17日,悪寒,熱発などはないが同部にかなりの疼痛があり某医を受診,白血球増多(9,900)および回盲部に手拳大の腫瘤を指摘され抗生物質の投与にて軽快した.7月21日,経口小腸大腸造影検査にて回腸末端部に腫瘤による圧排所見と,不整の縦長の潰瘍を思わせる陰影が認められ,7月23目精査のため当科を紹介され入院となった.この間,便通および便の性状には特に変化を認めなかった.

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 われわれは腸結核に上行結腸癌の合併がみられたまれな症例を経験したので,そのX線内視鏡所見を中心にして報告する.本症例の大腸癌は,一般にみられる大腸癌と少し形が異なっていたので,腸結核に合併した大腸癌の形態的特徴について,報告例を集め検討した.

症 例

患 者:山○サ○,62歳女性.

主 訴:嘔吐.

既往歴:左乳癌手術(13年前).

家族歴:特になし.

現病歴:1981年11月18日夕食後,突然2回嘔吐した.近医を受診し,胃X線検査を受けたが異常所見は認められなかった.下腹部痛,下痢など腸疾患を疑う症状はなかったが,注腸X線検査を受けたところ異常所見があり本院を紹介された.

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 大腸の炎症性疾患(以下IBDと略す)の中には原発性の大腸癌,特にびまん浸潤型癌1)と鑑別が極めて困難な症例があり,診断,治療の決定に難渋する場合がある.本例は直腸に約8cmの長さにわたって狭窄があり,術前IBDとびまん浸潤型癌との鑑別に苦慮し,術後に直腸のCrohn病とされた興味ある症例であったので,若干の考察を加えて報告する.

症 例

患 者:37歳,男性,タイヤ販売修理業.

主 訴:便秘.

既往歴:4年前急性腸炎? 発熱,下痢,嘔吐で10日間入院.

家族歴:父親胃癌.

現病歴:1980年4月までは1日1回の便通を認めていたが,次第に便秘となり6月には下剤を服用しないと便通を認めなくなった.1ヵ月前からは粘液,血液が便に付着し,軽い下腹部痛を伴うようになった.発熱はみられず,体重減少は6カ月間に2kgであった.

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 腐しょく性胃炎の報告は決して少なくないが,形態学的に詳細に経過を観察した報告は極めてまれである.われわれはアルコール痛飲後自動車用バッテリー液を誤飲した患者について,保存療法にて治癒せしめ胃X線および内視鏡にて追跡しえたので報告する.

症 例

患 者:71歳,男性.

主 訴:心窩部痛を伴う吐lf[L.

家族歴:特記すべきものなし.

既往歴:69歳,腰椎骨折.

現病歴:1982年5月19目,焼酎を痛飲後,午後8時30分ごろ,焼酎と誤って自動車用バッテリー液を約200ml飲み,その直後より赤褐色の吐物を約500ml嘔吐し,また激しい心窩部痛を訴えたため,同日午後10時25分,本院へ緊急入院した.

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欧文目次

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 本書の前身は“Alimentary Tract Roentgenology”の第2版である.第1巻と第2巻は1973年に出版された.その後,CTと超音波(US)の出現と核医学の進歩に促されて,1979年に“Alimentary Tract Radiology”と改題されて,第3巻が追加出版された.通算すると2,354頁になる.

 本書は2巻19部,98章,2,494頁から成り,大きく改訂されている.執筆者は136名にのぼり,大多数は米国であるが,欧米の著名な学者をよりすぐっている.わが国からは3名が加わっている.豪華な大冊である.

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 Misao Takeda氏の消化器細胞診のアトラスが出版された.数頁をめくって,まずシマッタと思った.この領域の細胞診に関しては,特に内視鏡を用いた方法はわが国の専売特許のつもりでいたが,いつの間にかアメリカの人が英文でこの分野の本を出してしまったからである.

 先ずMisao Takeda氏であるが,わが国では細胞診専門家としてはなじみが薄い.英文で手紙を出したら日本語で返事が来た.竹田節氏は1956年(昭和31年)横浜市大卒業後,渡米,ジェファーソン医大で勉学,米国の病理解剖学および臨床病理部門の専門医試験に合格し,1961年(昭和36年)ごろから消化器系の細胞診に従事しておられた由である.この間一時帰国されて,横浜市大中央検査室を設立され,また1976年に帰国され,ジェファーソン医大に留学された大阪成人病センターの田村,遠藤先生の協力を得たと言われる.事情を知れば,やはり日本製であった.

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 Nitrite and nitrosamines in gastric juice: Risk factors for gastric cancer?: P Schlag, R Böckler, M Peter (Scand J Gastroenterol 17: 145~150, 1982)

 N-ニトロソ化合物は,少なくとも動物実験で胃癌をつくることが証明されている最も強力な化学的発癌物質の1つである.またヒトの胃癌の病因論においても関連があると言われる.この化合物やその前駆物質は,飲食物によって胃に到達する.疫学的研究は,環境内でのこれらの物質の発生と胃癌の頻度との間に相関のあることを示唆した.N-ニトロソ化合物は,胃の中でもつくられる.胃液は通常ニトロ化しうるアミンを十分に含有するので,N-ニトロソ化合物の形成は,胃内のpH,細菌などの触媒物質と亜硝酸塩の濃度によって影響を受ける.著者らは,患者の空腹時胃液のpHと亜硝酸塩濃度を測定したところ,正常者と表層性胃炎,消化性潰瘍患者では有意の差はなかったが,萎縮性胃炎では,pH,亜硝酸塩濃度共に著明に上昇し,両者が相関するのを認めた.空腹時胃液中のニトロソアミン濃度も同様に,正常,消化性潰瘍,表層性胃炎の間では有意の差はなく,萎縮性胃炎では著明に上昇し,亜硝酸塩とニトロソアミンの間に明らかな相関をみた.

編集後記 中村 恭一
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 蠕動という一定方向の運動を行う大腸,薄い粘膜筋板を有する大腸管壁,薄い粘膜筋板の表面を覆う粘膜,そして一様な構造の粘膜から発生する癌あるいは腺腫という限局性の腫瘤.これだけの条件があると癌あるいは腺腫は,その発育の早期段階では,粘膜筋板のひきつれを伴った外界(腸管腔)への限局性突出物として認められるようになるのは至極当然のことであろう.それを内視鏡的に治療しようとするポリペクトミー,これもまた自然の成り行きである.しかし,ここにはポリペクトミーの適応という問題が残されている.癌が粘膜筋板という1つの境界を越えている揚合の対処についてである.

 本号はその問題について考えるということを目的として編集されたものである.多くのsm癌症例,そして現場で毎日その問題と対峙している諸先生による座談会,上記問題を考えるための材料と考え方はここに出そろったように思われる.これを契機として,この問題の経験的,主観的ではない定量的な裏づけのある解決が望まれるところである.

基本情報

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胃と腸
18巻8号 (1983年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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