胃と腸 18巻7号 (1983年7月)

今月の主題 潰瘍性大腸炎―治療と経過を中心に

主題

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 厚生省の潰瘍性大腸炎調査研究班(班長:土屋周二,1973~75)により“潰瘍性大腸炎の薬物療法指針(案)(代表:井上幹夫)”が発表されてから37年を経過し,そろそろその改正が問題となりつつある.一方,昨年は奈良で“炎症性腸管障害の成因と治療に関する国際シンポジウム”が開催され,これを機会に潰瘍性大腸炎の内科的治療についても幾つかの情報が得られつつある.ここでは,これらや厚生省の炎症性腸管障害調査研究班(班長:白鳥常男,内科治療分科会長:渡辺晃,1979~ )(以下厚生省研究班と略す)の調査成績を中心に,内科的治療の最近の動向について解説する.

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 潰瘍性大腸炎の治療は重大な合併症のないかぎり保存的に行うのが原則であるが,内科的治療が奏効しない難治例に対しては,ためらうことなく外科治療を行うこともまた必要である.欧米においては,最近10年間に激症例,重症例に対して手術が行われる頻度が増加しており,またより早期に行われる傾向にあるという1).これは手術適応と手術時期がしだいに明確にされつつあること,完全静脈栄養(total parenteral nutrition,以下TPN)などによって術前術後管理が向上したこと,外科技術の向上,より機能的な人工肛門の開発などによるものと考えられる1)

 本邦では本症が外科的手術の対象となる頻度は報告によって大きな差はあるが,20~30%前後とされている2)3).その中で内科医にとって最も難しい問題は,保存的療法で十分な効果を上げえない場合,どの時点で手術に踏み切るかということであり,その点に関して検討された報告も散見される4)5).基本的には効果的かつ十分な治療を行って,それが無効であると判明するまでは手術すべきでなく,また無効であるにもかかわらず漫然と長期にわたって内科的治療を続けてはならない,と言えよう.

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潰瘍性大腸炎の外科治療の歴史

 潰瘍性大腸炎の外科治療の歴史は19世紀の後半に始まり,最近30年間で目覚ましい進歩を遂げた.1948年Miller1)らが穿孔を起こした潰瘍性大腸炎患者に対し,一期的に部分的結腸切除と回腸瘻造設術を行ったところ,良好な結果が得られたことから,以後結腸切除,回腸瘻造設術が盛んに行われるようになった.Scarborough (1955)2),Brooke (1954)3),Cooper (1956)4),Goligher (1961)5),Waugh(1964)6),Daly(1968)7)らがその後数多くの良好な成績を報告し,この術式が確立された.この術式は一期的に結腸を切除するため,中毒症や蛋白漏出を防ぎ,全身状態の改善をもたらすということで有用である.しかし,この術式に対してもいろいろな見解が示され,回腸瘻造設と亜全結腸切除を一期的に行い,二期的に直腸切除を行うのがよいとするものや,一期的に全大腸切除と回腸瘻造設がよいとするものもみられた.回腸瘻術式の確立により潰瘍性大腸炎の治療は長足の進歩を遂げたが,反面永久人工肛門の障害が出現してきた.回腸瘻よりの排便のコントロールの困難性,回腸瘻周囲の皮膚びらん,回腸瘻よりの腸脱出などがこれらの障害として取り上げられた.この問題を解決すべく試みられたのがKockのcontinent ileostomy8)である.現在この術式は欧米で多く用いられ良好な成績を収めている.

 一方,本症に対し,自然肛門温存術式も人工肛門造設術と並行して行われた.1901年,Lilienthal9)によって回腸S状結腸吻合術が報告されて以来,この術式が用いられるようになった.1953年,自然肛門温存術式の推奨者であるAylett10)は,回腸S状結腸吻合より回腸直腸吻合のほうが有利と考えた.Aylettの術式は全結腸切除,回腸直腸吻合術であり,これにprotective loop ileostomyを加えたものである.以後Aylett11)は1966年に300例,更に1974年12)に443例の回腸直腸吻合術の成績を報告し,90%の成功を得たとしている.この回腸直腸吻合術もAylettのようにほとんどの症例に行っている施設もあるが,Adson13)らのように10%の施設もある.Table1は諸家の回腸直腸吻合術の例数と頻度を示した.このように欧米の施設によって頻度が違うのは回腸直腸吻合術には,①残存直腸の再燃,再発,②縫合不全などの合併症,③残存直腸の癌化,という問題を抱えていることによるようである.そこで近年上記の問題,特に直腸粘膜温存による再燃・再発・痛化の問題に対する解決策として直腸粘膜を抜去して回腸肛門吻合を行う術式が注目されてきている.この方法は1948年Ravitch22)により報告されたが,結果はあまり良好でなかった.次いでSoave23)がHirschsprung病の治療に直腸粘膜抜去法を行って良好な成績を上げたことにより,この手技を本症の術式に利用しようとして行われてきた.最近Martin24)は結腸を全摘し,直腸粘膜を肛門側から歯状線口側1cmまで温存し,残りの直腸粘膜を剝離,歯状線より1cm口側にて回腸肛門吻合を行い良好な成績を報告している.以後Peck25),Fonkalsrud26),Telender27),宇都宮28)らにより種々改良がなされ,症例数も増加しつつある.

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 非特異性直腸炎(idiopathic proctitis)が潰瘍性大腸炎の範疇に入る疾患か否かについては賛否両論があり,直腸炎から典型的な潰瘍性大腸炎に移行する例の存在を理由に,両者が同一範疇に含まれるという考え1)~4)と,移行は認められず両者は全く異なる疾患であるという考え5)6)が対立している.わが国においてもこの問題には賛否両論があることに変わりはない.この機会に,われわれが外来において診断,治療した直腸炎患者の経過をもとに,現時点における直腸炎と潰瘍性大腸炎との関係について検討を加えてみたい.

 直腸炎の中には様々な原因によるものが含まれるが7),潰瘍性大腸炎に含まれる直腸炎を潰瘍性大腸炎型直腸炎(uc型直腸炎),潰瘍性大腸炎と関係のない直腸炎を非潰瘍性大腸炎型直腸炎(non-uc型直腸炎)と呼ぶことにする.

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 いわゆる,潰瘍性大腸炎(以下UCと略)のvariantとして,“直腸型”あるいは“潰瘍性直腸炎”または“非特異性直腸炎”と呼ばれる,原因不明の直腸粘膜の慢性非特異性炎症性疾患については,従来,様々な問題が提起されてきた.ここでは,まず,その形態的変化の範囲が狭く,かつ軽度であることや,またその“selflimited”な性状から,診断面に多少の問題があると思われるので,本症の診断的問題点を明らかにしてみたい.次に本症のentityに若干の考察を加えてみる.

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 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis,以下UCと略)は成書的には病変は直腸から始まり,漸次,口側へと進展し,肛門側ほど変化が強いとみなす見解が支配的である.しかし現在の進歩した検査法と診断能とで検討すると,必ずしもそうではない例を多く経験する.ところで,病変には病型と病期があり,腫瘍が非可逆的変化であるのに比し,炎症性疾患は程度の差はあれ,可逆的であることが多い.特にUCは再発・再燃を繰り返す率が高い疾患であるため,UCの経過をX線学的に論じる場合には,どの病型で,どの病期に撮られた写真であるかを常に考慮しておかねばならない.実際,UCを初発時の早期からその成り立ちを観察することは難しく,日常の診療でUCと診断されている例の多くは,検査時には既にかなりの日数を経ており,また何回も再発・再燃を繰り返した例の一時期,病態の一断面をみているにすぎない.だからUCの本態を追求するには,多くの症例を集めて,各断面を埋め合わせると共に,1つ1つの例については経過を経時的または遡及的に検討し,断面をつなぎ合わせることが重要である.これは時間的要素を重視した診断学の概念が加わっており,X線病態学の分野に属すると言えよう.幸いなことに本邦では,西沢,狩谷らにより理論化された注腸二重造影法1)の普遍化と共に,10年を越えるUCの経過観察例も次第にその数が増してきており,その中で狩谷2)は最近,病変の固定化という概念を唱えはじめている.本稿では1年以上の間隔で2回以上の注腸検査が施行された例(以下,経過例)にて,注腸X線像の推移を経時的,または遡及的に検討を加え,その変化が結腸と直腸とで差があるか否かを,対比して検討したので,その結果を報告し,UCの本態,自然史の一端を明らかにしたい.

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 大柴(司会)本日は潰瘍性大腸炎(以下UCと略します)の病因論を主体としてお話をいただきます.

 病因論に関しまして,免疫学的なアプローチが最近非常に進歩しているわけです.そのへんに関して武藤先生からお願いいたします.

Case of the Month

Early Gastric Cancer, Type Ⅱc
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 A 51 year-old woman visited Tokyo Medical College Hospital on December 13, 1982 for detailed examination of her gastric abnormality which had been suspected of malignancy by mass survey.

 Endoscopy with GIF-Q done on December 13, 1982 revealed a shallow depressed lesion of the mucosal membrane with converging folds on the posterior wall of the incisura region. The converging folds were interrupted at the margin of the lesion. The diagnosis of IIc type early cancer was made. Biopsy was positive for cancer (signet-ring cell carcinoma).

胃と腸ノート

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 1967年,私がシカゴ大学で食道ファイバースコピーを始めたころ,同僚が食道の白色斑点を“leukoplakia”とか“hyperkeratosis”と呼んでいるのを聞いた.それは決してまれなものでなかったことを思い出す.1970年日本へ帰ってみると,食道の早期癌が関心の的になっていた.その早期病変とはどんなものか,あるいは前癌病変はどんなものかが私の関心事となった.

 leukoplakiaと言うと,子宮頸癌の前癌状態として有名である.食道の白斑もシカゴ大学でleukoplahiaと呼ばれていたし,古い文献では確かにこのような白斑をleulcoplakiaとかhyperkeratosisと呼び,前癌状態と考えられ,また口腔内のleukoplakiaに似ていると言われている.さて,この白斑は本当に前癌状態なのだろうか.その当時私は,この自斑を片っぱしから生検し,follow-upすることが食道の早期癌を見付ける1つの方法かもしれないと考えていた.しかしながら,生検の病理レポートでは,著変なしと報告されることが多く,異型性を示唆する所見は得られなかった.初めに考えたようにどうも前癌病変などではなさそうだと気付きはじめたが,その後もその内視鏡所見を,つい“leukoplakia”とレポートに記載する習慣を持ち続けたのである.

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 このたび第3回エクアドル消化器病学会の招きを受けて,エクアドルを訪れる機会に恵まれた.聞くところによると,この国を訪れた消化器病関係の日本入はあまりないとのことなので,エクアドルについて少しばかり紹介してみたい.

 エクアドルは南米大陸の北西部にあり,北はコロンビア,東および南はペルーに接している.太平洋上約1,000kmにあるガラパゴス諸島はダーウィンの進化論で有名である.この国は日本の本州と九州を合わせたほどの面積で南米で2番目に小さい.国土は海岸地帯(コスタ),高原地帯(シエラ),東部熱帯森林地帯(オリエンテまたはアマゾナス)の3地域に大きく分かれ,それぞれ地勢,気候などを著しく異にしている.

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大空の鏡のごとき桜かな 虚子

 “花下遊楽”の季節となり,大阪城の桜も満開となった4月11日より3日間,第69回日本消化器病学会総会は山本祐夫会長のもとに,豪華な大阪ロイヤルホテル,NCB会館の2会場で開催された.今回は肝部門の講演が過半数を占めたが,われわれは主として消化器部門を中心に講演を聴いた.

 第1日目はワークショップ“消化器疾患と腸内細菌叢”(司会 下山孝・白鳥常男両教授)が開かれた.本企画は本邦における腸疾患への関心の増加に伴い,現在までの腸内細菌叢に関する知見を整理しようとする意図で開かれ,時期的にも高く評価されるものと思われたが腸内細菌のサンプリング,培養,同定などから,吸収不良症候群,大腸癌,ポリープ,細菌性下痢,薬剤性下痢などの病態と細菌叢の関連まで,あまりにも内容が多岐にわたり,演者数も多数となり,ややディスカッションの盛り上がりを欠き,残念な感じがした.嫌気性菌培養は,ほとんどの施設が,光岡教授らの方法を用いておりサンプリングでは,糞便をhomogeneousにすることの大切さを教えられたが,小腸細菌叢に関するデータにはまだ再現性に問題があり,小腸細菌叢と病態との関連が明らかになるには,なお時日を要すると考えられた.また,腸内細菌叢の民族差も,近々,より明らかにされるものと期待される.吸収不良症候群に関しては,bacterial overgrowthに伴う胆汁酸の脱抱合を扱った演題があったが,observationの1つとしては理解できるものの,主因と断定した点には疑問が残った.最近臨床的に話題となっているantibiotic-associated colitisに関しては,出血性腸炎にはKlebsiella oxytoca,偽膜性腸炎にはClostridium difficileの役割が注目を浴びているが,“induce”ではなく“associate”であり,起炎菌としての評価,病因的意義づけは,今後の臨床と基礎とが一体となった慎重な検討が必要となろう。なお,Cl.difficileの毒素の検出に簡便なLatex凝集反応が利用できるということは,日常診断上,われわれには有益なニュースであった,潰瘍性大腸炎については,Bacteroidesとの関わりを示唆した臨床的,実験的な報告もあり,更なる検索が待たれる.

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 今年度の消化器病学会総会は医学会総会とほぼ時を同じくして大阪で開催された.会場となった大阪ロイヤルホテルは,近代的な装いのなかにも落ち着いた風格を有しており,伝統のある本総会には格好の会場のように思われた.しかも,今総会の会場数が11に及んだにもかかわらず,その多くがこのホテル内で開けたため,会場を移動する時間が少なくて非常に助かった.

 肝(胆)の演題は研究範囲が広く多方面にわたるため発表数も多く,一般演題だけでも245に及んだ.しかも会長の主たる研究分野が肝であためか,肝に関する研究の到達点と問題点を浮き彫りにしようとする意気込みが強く感じられた.具体的には会長講演において免疫性胆汁うっ滞を,特別講演に特発性門脈圧充進症を配し,シンポジウムには免疫性肝障害を,ワークショップには胆道狭窄の問題を,そしてポスターシンポジウムには肝硬変成因の問題と肝癌の病態診断・治療に関する問題をテーマとしていた.更に,主題ポスターに肝癌,肝と免疫,肝硬変を設定していた.まさに肝オンパレードで第2日目の午後は肝(胆)に関するテーマが5会場にもまたがっていた.すべてを聞けるわけではないが自分で聞いたり,他の会員の話を聞いてみても,それなりに成功したように思われる.

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 第69回日本消化器病学会総会は,大阪市立大の山本祐夫教授を会長に,4月11日から3日間,ロイヤルホテル(9会場)とロイヤルNCB会館(2会場),合わせて11会場で開催された,総会の前日には1日中降り続いた雨も上がり,総会の3日間は好天に恵まれ,まだ雪の残る寒い北海道からはるばるやってきた筆者には誠に快適な3日間であった.学会に当てられた2つの建物の間の距離が短く,会場探しのために地図を広げながらウロウロすることもなく便利であったが,何しろ,11会揚での発表が同時進行なので,聞きたい演題発表の時間が重なることもしばしばあり,これも大きな学会につきものの宿命とあきらめなくてはならない.いかにたくさんの演題を“消化”するかに努力された主催者の御苦労が偲ばれた.

 本総会で膵に関する発表は,一般演題が50題とポスター29題の合わせて79演題であり,その中から筆者の印象に残ったものについて触れてみたい.学会2日目,膵(肝疾患との相関)のセッションでは,高橋達氏(新潟大)が,アルコール性肝障害例の膵病変にっいて,膵外分泌の機能,形態の両面から種々検討したところ,ERCPでは異常を認めないが,高率にPFDの異常低値がみられたという.従来のアルコール肝障害と膵障害が共存しないという既成概念に一石を投じたものと評価したい.今後この観点からの検討が期待される.膵腫瘍マーカーに関する発表は13題あり,POA,CEA,RNase,Ferritin,Elaetase Ⅰなどの膵癌診断の有用性についていろいろな角度からの検討がなされた.残念ながら現在のところ肝癌におけるα-Fetoproteinのような地位を占める特異性の高い膵腫瘍マーカーは見当たらない.しかしながら,新しい消化管腫瘍関連抗原CA-19-9のRIA(国立がんセンター,大倉ら)や糖蛋白体分析による膵癌診断の試み(昭和大,柳沢ら)など,今後の研究の発展を期待したい.このほか,ヒト膵癌培養細胞を用いての,細胞遺伝学的研究(京都府立大,森田ら)やマウス単クローン性抗体作製の試み(東北大,小針ら)など,膵癌に対する新しい基礎的アプローチとして評価したい.

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 汗ばむような好天に恵まれ,第25回日本消化器内視鏡学会総会が5月19日から3日間,東京,京王プラザホテルで開催された.

 長尾房大会長が意図され目標に掲げた3つの柱が企画された.病態解明のための新しいアプローチ,内視鏡的治療の限界と対策,21世紀への機器開発の夢であり,この考え方はシンポジウム,パネルをはじめとし,一般演題やそのほかの講演にも生かされ,いろいろと示唆に富む内容であった.

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 今回,われわれは胃内に50ヵ所以上の癌の多発を認め,しかもその過半数が長径5mm以下の微小癌であった胃癌の1症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

症例

 患 者: 45歳,男性.

 主 訴: 嘔気,項部痛.

 既往歴: 特記すべきものなし.

 家族歴: 父親,脳卒中.

 現病歴: 1980年1月初めより,空腹時に嘔気を覚え近医受診,胃潰瘍と言われ投薬を受けていた.一方,10月末ごろより時々首筋の疼痛があったが,11月22日ごろより痛みが激しくなり,11月29日入院した.

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 十二指腸癌はまれな疾患で,以前の報告では診断時に既に手術不能例が多く,山形ら1)は1940年から1967年.までに経験した十二指腸癌16例中9例が摘出できたと報告している.しかし最近は診断技術の進歩によって早期十二指腸癌の報告も多くなってきた.今回われわれは,胃集検の間接フィルムで要精密検査とされた無症状の腺腫内癌の形態を示した早期十二指腸癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

 患  者: 34歳,男性,地方公務員.

 家族歴: 母方の祖父が食道癌にて死亡.

 既往歴: 11歳のとき急性腎炎.

 現病歴: 1978,79年に胃集団検診を受け,1979年には精密検査で,びらん性胃炎と診断されるも,十二指腸の病変は指摘されなかった.1981年の胃集険の間接フィルムで十二指腸下行部の陰影欠損という所見で要精密検査とされ,当科を受診し入院となった.体重減少,腹痛,タール便,発熱,黄疸など自覚症状はなかった.

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 成人の腸重積症による腸閉塞の診断で緊急開腹術を施行.術中所見および切除標本の病理学的検索により,いわゆる内翻したMeckel憩室が先進部となり5筒性の腸重積症の原因となったと考えられ,憩室壁の粘膜下層~漿膜下層にかけて,異所性の幽門腺類似腺管および島部を含む膵組織の迷入を認めた1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

症例

 患  者:32歳,男(職業:大工).

 主  訴:腹痛,嘔吐.

 既往歴,家族歴:特記すべきことなし.

 現病歴:幼少時より月に1度ほどの頻度で原因不明の腹痛を訴えることがあったが,短期間で寛解するため放置していた,1980年7月5日の朝食摂取後強度の腹痛を覚え,内服薬の投与にて症状は一時寛解したが,午後に再び症状が増強したため,精査の日的で某院入院.症状は翌6日には消失し,胃透視,注腸透視,胆囊造影などの諸検査が行われたが,特に異常は指摘されなかった.しかし,時々軽度の腹痛を覚えることがあり,7月22目の夜間に再び嘔吐を伴った強度の腹痛が出現し,腹部単純X線検査にて異常ガス像,水平面像を認め,腸閉塞症の診断のもとに7月23目手術目的で江戸川病院外科へ転院となった.

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 虚血性大腸炎は比較的高齢者に多いとされている.今回われわれは血液透析中の20歳の女性患者に発生した虚血性大腸炎の1例を経験したので報告する.

症例

 患  者:20歳,女性.

 主  訴:下血.

 家族歴:特記すべきことなし.

 既往歴:1976年蛋白尿を指摘されたが,そのまま放置していたところ1978年4月になり全身倦怠および意識障害の出現をみたので東北大学第2内科に入院し,慢性腎不全と診断され腹膜灌流,次いで血液透析を受けるに至った.

 現病歴:その後引き続き某腎クリニックにおいて定期透析を受けていたが,1980年9月20日より上腹部痛があり,鎮痙剤を服用していた.9月22日,いつものように定期透析を受け帰宅したところ,上腹部痛が増強し同時に2度の排便をみたが,2度目の便は暗赤色調であったので某病院に入院した.

Coffee Break

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 膵癌そのものと共に,癌による二次的膵炎が日常最も多く行われている胃X線ならびに内視鏡所見に反映し,胃外性圧排像としてチェックしうることを前回書きました.

 膵の異常をチェックするのに従来はERCP,血管造影,最近では超音波,CTでないと不可能であろうと考えられていました.アミラーゼ高値と同様,燈台下暗しの譬のごとく,全く身近な所に,膵の異常をチェックするものがあったわけです.このことは非常に重要なことであって,わが国で最も多い胃癌に対してまず胃X線ならびに内視鏡検査が行われますが,胃内病変の有無については,真剣に検討され,早期胃癌が続々と発見されてきています.胃生検の加わった現今では,異常病変がたとえ直径5mm以下であっても,的確な胃生検によって術前確実に診断されています.このように胃内病変に対しては,微細な変化に対しても神経質すぎるくらいに注意が向けられていますが,胃の外からの影響については,案外無関心であったといって過言ではありません.実際,胃体部小彎の胃外性圧排像を示す胃X線写真を研究会で供覧しても,この所見を見逃したり,たとえこの所見を指摘しても大した意義を与えずに済ますことが多いことを経験しています.

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 胃のいわゆる異型上皮巣1)2)は腺腫(tubular adenoma)3)4),Ⅱa-subtype5),腺腫性ポリープ6)など種々のカテゴリーで扱われ,その病理総論的な本体,胃癌との関係などに未解決の問題を残している.そしてこれらの問題を扱ううえで,組織学的に腺癌とどう識別するかが1つの隘路である.例えば異型上皮巣からの癌発生といった症例に関して,それは最初から癌ではなかったかという議論がしばしばつきまとうが,これなども結局は同様の問題に帰着するであろう.

 腺癌とそれ以外の異型腺管の識別,この問題を扱った多くの先達が指摘したことは,細胞の異型だけでなく,腺管構築の異常に着目することの必要性であった.実際,腺癌が癌性腺管(carcinomatous gland)と称すべき構築異常を伴うことは広く認められるところで,「胃癌取扱い規約」7)ではこれを“構造異型(SAT)”と名付け,重要な診断の手掛かりとした.しかし具体的に癌性腺管とはどのようなものか,その形態学的原則は示されず,判断は見る者の直観に委ねられた.腺構築の問題は本来三次元に属しており,二次元的組織像では見通しが立ちにくいことが原因であろう.そこでわれわれは癌性腺管の骨格を明らかにすべく,胃腺癌の各型から復構解析を試みた8).今回はこれを基礎として異型上皮巣の三次元構造を解析したので,それが腺癌,特に高分化型とどのような点で異なり,あるいは共通するかを述べたいと思う.なお異型上皮の発生母地とされる腸上皮化生粘膜についても検討を行った.

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 胃の異型上皮巣が,三次元構造から良性腫瘍性の性格を備えた腺腫であること,および吻合数(P1)の点で腺癌と異なることを著者は述べている.しかし,本論文では研究対象および対照群があまりにも少ないので,本論文の成績が一般化されるだろうかという疑問が第1に起こる.例えば,腺腫は隆起型のみが対象となっているが,陥凹型では構造はどうなるのか,高分化型腺管腺癌はⅡc型のみが対象となっているが,隆型起では構造がどうなっているのか.腸上皮化生巣の構造は成熟上皮部のみが対象となっているが,びらん部や潰瘍縁に出現する幼若上皮部ではどうなっているのか,などである.

 第2に,著者が言う“胃腺腫の巨大腺塊”は乳頭構造に相当すると考えられるが,これは腺腫と腺癌で三次元構造に差があるかどうかを明らかにすべきと思うのですが.以上の点について,御意見を伺いたい.

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欧文目次

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 医学生,レジデント,あるいは消化管疾患を専門としたいという内科・外科・病理医などから,大腸の疾患を勉強するためにはどの本が最適か? と問われた場合には,躊躇することなく本書を推薦する.その理由は3つある.

 すなわち,まず第1に,多数の大腸疾患に対して,それらを知るための基礎となる病理そして臨床的事項が必要かつ十分に記載されていて無駄がない.更には本書の題名ともなっているように,その内容は常に他疾患との関連において述べられている.例えば大腸の潰瘍性病変の診断の基本について,潰瘍性大腸炎を鑑別診断の出発点に置く,つまり,それを前提としてそこから思考を進めていくことであると著者が述べているように,著者の明晰な頭脳の中に形成されている潰瘍性病変の診断のためのdecision treeの部分部分を随所にみることができる.

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 Endoscopic transmission of hepatitis B virus: G. G. Birnie, et al (Gut 24: 171~174, 1983)

 KP,50歳男性のアルコール肝硬変症例で9月30目消化管出血にて受診し,内視鏡により食道静脈瘤破裂と診断された.SBチューブ挿入と8パック輸血で止血したが,第9病日に黄疸・肝性脳症が出現し,第34病日に死亡,剖検により小結節肝硬変に重篤な急性肝炎を併発したと診断された.3カ月前も含め本例の過去のHBs抗原は陰性であったが今回入院時はs抗原・e抗原とも陽性であった.

編集後記 大柴 三郎
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 潰瘍性大腸炎(以下UC)特集の小委員会で本誌の特徴をできるだけ生かし診断学および鑑別診断を考慮したが,以前の特集以上に新しい見解が出そうもないという意見が強く,経過と治療を中心とし,病因論に関しては座談会で取り上げようと決定された.

 従来UCの初期像に関しては寛解期の像から推定されてきているが,あくまで治癒期または瘢痕期の所見であり初期像ではない.UCの初期像が探求されたとき再び診断学が塗り代えられるべきであろう.日常臨床の場で血便を主訴とし速やかに内視鏡・X線検査が施行され,アフタ様潰瘍や直腸炎の所見がみられるが,ごく短時日で自然治癒あるいは数日の治療で治ってしまうような病変に遭遇する.非特異性直腸炎と言われる病変であろう.

基本情報

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胃と腸
18巻7号 (1983年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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