胃と腸 18巻9号 (1983年9月)

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 過去においても,現在においても,胃癌の診断を論ずる場合の常套手段は確定診断がなされた症例,あるいは手術が施行された症例に基づいて,その診断過程を逆追跡し,診断成績を検討する方法である.単に発見した癌の数や個々の症例の質によって診断の優劣を競うのであれば,このような方法にも意義は認められよう.しかしながら,胃癌のスクリーニング法としてX線か内視鏡かの二者択一を迫られるような,かつては想像もしなかった局面を迎えている現状においては,発見した癌の数や症例の質を吟味すると同時に,癌が発見されてきた背景を詳細に分析することが必要であると思われる.

 1981年6月,オフィスコンピューターを導入しようと思い立ち,消化管のX線および内視鏡診断の情報処理を行う計画を練ったのは,胃癌が診断されてくる背景,言い換えれば,一定期間内に行われたすべての検査(X線,内視鏡)について,時間の要素を加味した診断の流れを把握したいという願望があったからである.

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 早期胃癌の定義と肉眼分類が定められ,早期胃癌診断に対するX線検査体系が確立されてから20年余りが経過した.その間にX線診断の技術は飛躍的な進歩を遂げ,今日残された課題は,微小癌とⅡb型早期癌の診断およびスキルスの早期診断のみであるとまで言われるようになった.しかし,日常の臨床の場では必ずしもそのように水準の高い診断が行われているとは限らない.内視鏡器機の改良に伴う診断技術の順調な伸びに比べて,最近のX線診断の停滞ぶり,荒廃ぶりを指摘する声は,むしろ盛んになりつつあるのが現状である.そのような時期に,早期胃癌に対するX線診断の実態を浮き彫りにすると共に,問題点を明確にしておくことは,今後のX線診断の発展のために意義あることと考える.

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 かつて,早期胃癌の1例,1例を診断するたびに体験できた,背筋のゾクゾクするような喜びと緊張感は,どうも最近の若い医師には感じられないようであり,年輩者にもそういう気持が少なくなってきた.早期胃癌が診断できて,ごくあたりまえになってきた.早期胃癌診断学の標準化時代と言えるのであろう.

 いまでは,微小胃癌やⅡbの診断に,この病変はもしかするとという胸の躍るような気持を押さえきれないのは,われわれの問題意識がここに集中してしまっているためであろうか.しかし,早期胃癌の診断そのものが,実際に容易になったかと言えば,必ずしもそうではないし,生検の助けがなければ,内視鏡診断そのものは,以前よりずいぶん粗雑になっているのではなかろうか.早期胃癌研究会の症例検討でも,私自身が味わっている実感である.

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 生検診断能を客観的に評価することは極めて難しい.なぜならば,生検採取された標本に癌が証明されなければ,その病変は癌と診断されないことが多いからである.そこで生検診断を云々する場合には,勢い診断された側からの評価,つまり癌と診断された症例を中心とした一方的な評価になってしまい,真の生検診断能をみるという立場からすると,いかにも不十分な感をまぬがれないのである.今回,著者らはこの点を十分考慮しながら,早期胃癌における生検診断過程の実態を,まず病巣の形態別に胃内各部位における一般的な生検診断成績から分析し,次に,生検診断が特に重要となるⅡb型(以下Ⅱb)や微小胃癌の診断の現状をみることで,この実態に少しでも迫ってみようと思う.

 胃生検診断の問題点

 生検組織片を採取する行為において,何よりも基本となるものは,生検部位targetの認識であろう.言い換えれば,1つの粘膜変化を見付けてその変化に対して狙撃生検をしようとする行動ができるかどうかである.これは内視鏡器種および生検装置の性能を語る以前の問題であろう.より多くの早期胃癌,とりわけⅡbやⅢ型,微小癌(≦5mm)といったものを発見するためには,この基本認識が特に重要であることは論を待たない.だから内視鏡検査に従事する医師は,常にこれをより高度のレベルで維持することが何よりも大切である.そのうえで,生検診断そのものが現在当面している個々の問題点を考察する必要がある.

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 生検材料や手術材料を取り扱う病理医にとって早期胃癌の臨床診断の正確さには目を見張るものがある.これは,偏に胃癌が多いわが国の実情を反映した近年のX線,内視鏡,生検などの診断学の目覚ましい進歩とその普及によるものである.その正確さゆえに,われわれ病理医が生検材料のGroup分類に困難を感じたとき,臨床側にX線・内視鏡的情報を教えてもらうことはしばしば経験することである.

 翻って,手術材料からみた臨床診断の実態を検討することも,近年目覚ましく進歩した早期胃癌診断学の反省ということだけでなく,その時代における限界と将来の診断学の進むべき方向を示すのに,1つの手掛かりを与えるものと考えられる.本稿では,病理肉眼的診断の立場から,早期胃癌臨床診断の現状について述べ,次いで陥凹型ならびに隆起型早期癌と類似した病変の肉眼的鑑別に触れると共に鑑別診断困難例を呈示する.

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 西沢(司会) 本日は早期胃癌診断の現状,特に早期胃癌診断に至る診断過程についてお話を聞かせていただきます.早期胃癌の肉眼分類ができてからもう20年経過し,その間,X線,内視鏡生検診断にもかなり変遷がありましたが,それぞれの位置づけも,この20年間に大分変わってきたと思います.しかし,実際には患者さんに一番楽なX線検査を,まずルーチン検査として行い,それから内視鏡,生検というのが,大体の方式だろうと思います.その診断過程の中で,現時点においてどういうことが問題点であるかを浮き彫りにさせることができれば,今日の座談会の目的は達すると思います.

 最初に総論的に丸山先生から,癌研のコンピューターによる診断過程のデータをお話し下さい.

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 原発性十二指腸癌は比較的まれな疾患であるが最近,低緊張性十二指腸造影法や十二指腸内視鏡検査法の進歩により,その報告例は少しずつではあるが増加の傾向にある.しかし,胃癌に比して十二指腸癌は進行癌が多く,早期癌の報告例は極めて少ない.最近,われわれはX線および内視鏡検査によって癌を疑い,切除標本の病理組織学的検索にて粘膜内癌と診断した症例を経験したので併せて本邦報告の16例について検討を加えて報告する.

 症 例

 患  者: 58歳,主婦.

 主  訴: 上腹部不快感.

 現病歴: 1980年3月,成人病検診にて肝機能検査の異常を指摘され,某医にて通院治療中であったが,検査所見の増悪を来し,7月,本学第3内科に入院した.入院後のルーチン検査として施行された上部消化管X線検査にて十二指腸球部の隆起性病変を発見され,生検にてGroup Ⅳと診断されたため,手術の目的で同第2外科へ転科した.

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 Cronkhite-Canada症候群は主として中年以後に発症し,外胚葉性変化(皮膚色素沈着,爪萎縮,および脱毛)を伴う非遺伝性の消化管ポリポーシスで,極めてまれな疾患である.最近われわれはCronkhite-Canada症候群の患者の胃ポリープに腺扁平上皮癌と腺管腺腫の発生をみた1例を経験し,剖検の機会を得たので若干の文献的考察を加えて報告する.

 症 例

 患  者: 70歳,男性.

 主  訴: 食欲不振,体重減少,脱毛,爪萎縮.

 家族歴,既往歴: 特記すべきことなし.(特にポリポーシスを有するものはいない.)

 現病歴: 1979年11月ごろより,心窩部の不快感を覚えるようになり,1980年4月には食欲不振,体重減少,悪心,嘔吐が出現し,このころから頭髪,眉毛,腋毛の脱落と爪の萎縮がみられるようになり大分県立病院を受診,1980年5月12日,入院となる.

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 最近,わが国においては全結核の減少と共に結核の罹患年齢も高齢化の傾向にある1).腸結核についても同一傾向にあると思われ,その病像も陳旧化したものや非典型的なものがみられ,Crohn病や潰瘍性大腸炎などとの鑑別診断が,臨床的にも病理学的にも困難な例が多くなってきた.われわれは,臨床的には大腸結核と診断しえたが,病理組織学的には結核結節が全くみられず,その他の組織所見および肉眼像より治癒した腸結核と診断した例を経験したので報告する.

 症 例

 患  者: 72歳,女性.

 主  訴: 腹部膨満感.体重減少.

 家族歴: 弟,肺結核.

 既往歴: 42歳時,肺結核症で加療.

 現病歴: 1978年ごろから体重減少が始まり2年間で13kgの減少をみる.1980年5月ごろより腹満感があり,近医受診し市販薬により軽快したが,1981年2月再び心窩部不快感,食欲不振,腹部膨満感が出現した.再び近医受診し胃X線検査を受け異常なしと言われたが,症状が持続するため当院を受診し,精査・治療の目的で入院となる.

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 われわれは,通常みられる大腸癌と異なる形態を示したS状結腸癌の1例を経験したので,そのX線,内視鏡所見を中心に報告する.また,この癌の浸潤形態は腺腫が先行した形と異なるように考えられるので,この点について若干の文献的考察を試みた.

 症 例

 患  者: 71歳,男性.

 主  訴: 血便.

 家族歴: 特記することなし.

 既往歴: 肺結核,痔疾手術,高血圧.

 現病歴: 1981年1月ごろより便に粘液,血液が付くようになった,近医で痔疾と診断され坐薬を投与されたが便の性状は変わらなかった.6月に注腸X線,内視鏡検査を受けS状結腸に病変を指摘された.7月,某病院に入院,精密検査を受けたが確診されず経過観察されることとなった.8月になっても便に血液が付着するので当院内科受診,9月5日入院となる.

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 Mallory-Weiss症候群は,1929年MalloryとWeissにより初めて報告された1).近年,上部消化管出血時の緊急ないし早期内視鏡検査の普及により,年々その報告例が増加している.最近では上部消化管出血の重要な出血源の1つとして常に念頭に置かねばならない疾患の1つとなってきた2)

 本症の定義も時代と共に変わってきているが,筆者らは奥山ら3)の言う“嘔吐などにより腹腔内圧が急激に上昇し,噴門部近傍に裂創が発生し,これを出血源として顕出血を来した例”をMallory-Weiss症候群とするという定義が現時点では最も妥当であると考えている.

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 筆者は先に胃癌の組織型を,①“腺管の分化度”という純形態学的指標に加え,②“粘液の産生”という癌細胞の機能面での特徴の1つを指標とし,両者の組み合わせにより,(Ⅰ)腺管形成良,胞体内粘液量少―tubular differentiation: well,mucus in cytoplasm: poor (以下Ⅰ群),(Ⅱ)腺管形成良,胞体内粘液量多―tubular differentiation: well,mucus in cytoplasm: rich (以下Ⅱ群),(Ⅲ)腺管形成不良,胞体内粘液量少―tubular differentiation: poor,mucus in cytoplasm: poor (以下Ⅲ群),(Ⅳ)腺管形成不良,胞体内粘液量多―tubular differentiation: poor,mucus in cytoplasm: rich (以下Ⅳ群)の4型に分類して(Fig.1),剖検例を対象に胃癌の組織型別にみた進展様式の特徴を検討し報告したが1),今回は漿膜下層以上に浸潤増殖した進行胃癌切除標本を対象に加え,癌の浸潤に伴う形態学的変化について検索し興味ある所見を得たので報告する.

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 6号に掲載された論文を理解していないと本号の論文は理解しにくく,そのために両論文にまたがっての質問になるかと思います.五関先生は“腺管構造の不良な胃癌を未分化型癌という名称で表すのは,厳密に言うと不適当であり,組織形態学的に厳密な表現として,腺管構造と粘液形成の2方向への分化を2つの軸として分類・検討……”とありますが,未分化・分化の用語を“統一的な立場から純形態的に腺管の有無をもって”と定義して用いている以上問題はないと思いますが? 胃癌組織発生の観点からは,粘液量を考慮することによって厳密な表現とはならないと思いますが? なぜならば,胃癌細胞には粘液以外に機能の異なる刷子縁があるからです.粘液量の所見を形態に加えることによって,何故に,厳密となるのでしょうか? お教えください.

 各群で,他臓器への直接浸潤を高度,中等度,軽度としていますが,その定義はどのようになっていますか? 更には,各群の間に直接浸潤に関して有意差が認められるとして,各群の意義と有用性を主張していますが,剖検例という癌発生から死ぬまでの時間は種々であるものを対象としているからには,少なくとも原発巣の大きさをそろえたうえでの検討がないかぎり,上記の主張はできないと思いますが?

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欧文目次

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 1969年に竹本教授と共に全結腸の内視鏡検査を世界にさきがけて成功し,そののち一貫して腸病変の診療に精進している長廻博士の文字どおりの労作である.少し前に出版された同名の英語版は,海外で大好評を得ていると聞いている.日本の医学書には珍らしい瀟洒な表紙を持つ320頁の本を,数日かけて読ませていただいた.192頁の本文のあとに40症例の提示があり,そのあとに簡単な手技の解説が付けられている.内視鏡だけでなくX線および病理所見も詳しく,鑑別診断を通じて書かれた大腸疾患のモノグラフになっている.

 “大腸疾患の種類は豊富であるが,全体をよく眺めてみると診断は割り切って考えることが可能であり,より現実的である(自序より)”との考えで書かれた著者の試みは見事に成功しているように思われる.大腸病変の理解を困難にするのは炎症性疾患(IBD)にあるが,著者はその疾患の特徴像のうちで潰瘍性大腸炎に合うところはどこで,異なるところは何かという視点に立って,その各々の病変を解説している.これは極めて現実的な,実際に役立つ方法と思われた.

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 第8回村上記念「胃と腸」賞の贈呈式が7月13日夜の早期胃癌研究会例会(於・エーザイ本社5階ホール)にて行われました.今回の受賞論文は次のとおりです.

 「十二指腸潰瘍のnatural history」

 山田直行・早川和雄・福地創太郎

 秋山 洋・中島幹夫(虎の門病院)

 (「胃と腸」17巻7号:773~784頁,1982)

 贈呈式は7月度例会幹事の並木正義先生(旭川医科大学第3内科教授)の司会のもとに進められました,著者の福地・山田・早川の3先生が登壇され,早期胃癌研究会代表市川平三郎先生(国立がんセンター病院長)より賞状・賞牌・賞金が贈呈されました.引き続き市川先生より今回から“村上記念「胃と腸」賞”と改称された由来について次のようにお話がありました.

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 1971年にSellinkによるexamination of the small intestine by means of duodenal incubationという小冊子が出版されて以来,小腸のX線造影法は一変した.いわば本書の入門編と言えるものであるが,小腸の新しい造影方法を記したoriginalityの高い本であった.もちろん,われわれもその著書をもとに現在の小腸二重造影法に取り組んだのである.胃と大腸の二重造影法はほぼ完成していたが,小腸だけが聖域として取り残されていた.それまでは病変の少ないことや検査法の繁雑なこともあって,あえて挑戦しようとするものが少なかった.いや何人もの業績はあるが,すべて経口的にバリウムを飲ませ充満像を追跡したものである.ただ1970年に出版されたMarshakの「Radiology of the small intestine」が,従来の方法で多数の小腸疾患を集めた唯一の名著とされていた.Sellinkは特殊なカテーテルを使って十二指腸まで挿入し,造影剤を薄くして大量注入し,ときには水または空気を注入し,小腸全域を1本の管として写し出したのである.もちろん小腸全域を写し出す時間も非常に短くなり,ルーチン検査としての小腸造影法を確立したと言える.1982年に出版されたこの度の大著は,撮影法の基本は全く変わっていない.ただ前著書を見たとき,小腸病変がほとんど見られない正常像ばかりであったことと,二重造影像ではなく薄層法をほとんど用いていたことがちょっと気になった.果たして小腸病変のあるときに,正常例のような美しい写真が撮れるかどうか疑ったからである.日本ではその後,小腸二重造影像としてSellinkの原法は応用されていったが,少なくとも炎症性小腸疾患に関する限り,現在では日本のほうがはるかに病変をきれいに写し出すようになっている.しかし,彼の原法が消えたわけではない.日本人特有の応用のうまさと原法以上のものを作り出す器用さにあるのだろう.小腸二重造影像と本書のような小腸薄層法とどちらが優れているかは,今後の結果をみなければわからないが,隆起性病変を探し出すには薄層法のほうが優れているかもしれない.そのあたりの二重造影像の欠点にも本書は触れている.しかし,いずれにしても日本の小腸二重造影法の生みの親がSellinkである.そして,本書を一読すれば,この10年間のうちにいかに多くの小腸疾患を彼の方法で見付けたかがわかる.つまリルーチン検査として十分役に立ったことを立証している.その点では,小腸造影の方法論にしても小腸疾患のX線像の良さにしてもMarshakを凌駕している.消化器の専門家はもちろんのこと,一般実地医家にとっても貴重な専門書であると同時に教科書でもある.小腸の画像診断は,内視鏡のやりにくい所であるためX線造影が最も診断能力を発揮する所である.今後は,集大成されたSellinkの本書と日本の小腸X線像,殊に二重造影像との優劣を競うことになろう.しかし,小腸疾患の数と種類では,欧米は日本にまさっている.本書の小腸疾患の像を参考に,目本がこれにまさる小腸のX線像を撮り,小腸疾患のX線診断を完成させることも時間の問題だと思っている.

 しかし,非常に細かい所まで手の届いた綿密な実験と観察と体験による本書は,ある意味では日本人好みの本である.外国の消化管のX線診断を扱ったものとしては,近年あまりみられない名著と言えよう.

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 Acute Leukemia Following Inflammatory Bowel Disease: S.B. Hanauer, K.K.Wong, P.H.Frank, D.L.Sweet, J.B.Kirsner (Digestive Diseases and Sciences 27: 545~548, 1982)

 潰瘍性大腸炎と大腸癌との関連は周知の事実であるが,消化管外での新生物発生も偶然より多く起こるように思われる.著者らは,緩解中の炎症性腸疾患の婦人に起こった急性白血病の2例を報告している.

書評「胃癌の臨床」 岡部 治弥
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 索引を含めて781頁,かなりの厚みを持ったB5判の著書である.監修された城所仂教授はその序文に,昭和3年,すなわち今から55年,約半世紀前に,当時の九大1外科三宅速教授らにより著わされた書「胃癌」の内容を引用し,“それは今日,われわれが読んでも驚嘆に価するものである”とし,“これら先人の努力のうえにたって,その後,現在までの長い年数をかけ,多くの胃癌診療の経験が積み重ねられ,現在の世界に冠たる胃癌研究王国が築かれた”と誇らかに記している.この往年の名著「胃癌」は筆者の秘蔵本の1つである.早速取り出して,今回の本書と並べ,その目次や内容を見比べてみたが,この50年間に胃癌に関しての臨床的知識,診療技術と研究内容の進歩が如何に大きいものであったかを如実に感じることができた.

 本書は端的に表現すると,胃癌の病理から臨床,疫学にかけての広汎な領域にわたり豊富な内容を各項目ごとに実にコンパクトに纒め上げている.その内容は疫学から病理,診断,転移,手術,特殊型,保存治療,切除後の諸問題,予後など全13章より成り,各章は更に幾つかの節に細分され,総計47節を数える.胃癌に関して動物実験を除き病理および臨床をめぐる諸項目について,まず余すところなく取り上げている.そしてその1節ごとに,本邦において,それぞれの第一人者と目される方々により執筆されている.通読してみたが,大変読みやすく理解しやすい本という印象を受けた.理由を考えてみると,各節ごとに内容を熟知した筆者によって書かれていることが最も大きいと思うが,本書の各頁は,ゆとりを持った印刷となっており,各頁の左側はかなりの空白スペースをとっている.これが1つは読みやすい感じを持たせるようである.読了後,序文を再び読み返してみると,“本書の目的は,日本における胃癌の現状を示すものであると同時に,胃癌診療の現状を知るために役立つ書となることができれば望外の喜びである”と書かれている.本書の面目を実によく表現している.また“胃癌の専門家にとっては新しい知識の整理に役立つものと思われ,卒業後日の浅い医師諸君にはup to dateな胃癌診療指針となりうるものと確信している”と記されている.正に同感であり,広く胃癌の診療・研究を行う方々の座右の書として熟読されることをお勧めする.

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 Lactose Malabsorption In Children and Adolescents with Inflammatory Bowel Disease: B.S.Kirschner, M.U.DeFavaro, W.Jensen (Gastroenterology 81: 829~832, 1981)

 乳糖吸収不良は,潰瘍性大腸炎の活動性と相関し,子供では腹痛の原因になることが報告されてきた.そのような理由で,ミルクと乳製品が,炎症性腸疾患の子供の食事から除外されることが多い.Crohn病患者では,食事がしばしば制限されるし,更に医原的制約が加わると,既に障害されている栄養状態に一層拍車をかけることになる.

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 Cigarett smoking and ulcerative colitis: H Jick, AM Walker (N Engl J Med 308: 261~263, 1983)

 最近Harriesらは紙巻タバコ喫煙者では潰瘍性大腸炎(UC)の頻度が少ないと報告し,Buresらも同様の報告をしている.またUCの1女性で,タバコをやめると再燃し喫煙を始めると寛解したという症例報告がある.この女性はニコチン4mg含有チューインガムの1日5回投与で再燃予防できたという.そこで今回,両者の因果関係につき検討した.

編集後記 福地 創太郎
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 早期胃癌診断学の進歩も微小癌やⅡb病変が爼上に上がってから既に久しい.確かに5mm以下の微小癌が臨床的に診断される例やⅡb症例も多数報告されている.しかし,臨床的に発見された微小癌は全く氷山の一角にすぎず,隆起や陥凹の明らかな例や色調の変化を認める特殊例にすぎないし,ⅡbもⅡbもどきの類似Ⅱbが大部分である.やはり,この辺に現在の診断学の進歩の最前線があるのだが,実際の臨床の場では,それ以前に,まだまだいろいろな落とし穴を抱えている.スキルスの早期発見の困難性の問題1つ取り上げても,進歩の最先端だけ見て喜んでいられないのが,実際に臨床の第一線に従事する者の実感ではないか.今回,早期胃癌の特集号の企画に当たって,あえて“早期胃癌診断の問題点”としたのは,そういう感慨を込めている.丸山氏の臨床診断の実態に関する論文は,従来公表されているきれいごとの早期胃癌の臨床診断成績の背後に隠されている実態を顕わに曝露しただけに,衝撃的かもしれない.しかし,これはかつて沖中重雄教授が発表した教室の誤診率16%という数字が一般社会に与えた衝撃と比べて,それでも低い.誤診率算出の基準は何かと考えた医師の反応のように,日々X線や内視鏡で悪戦苦闘している医師にとっては,さほど驚くべき実態ではないかもしれない.しかし,私にとっても意外だったのは,診断基準がそれぞれの施設でかなり異なることである.いずれにしても,この問題はスクリーニング検査と第2次以降の検査の在り方について,重要な問題提起であろう.

基本情報

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胃と腸
18巻9号 (1983年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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