臨床皮膚科 59巻5号 (2005年4月)

特集 最近のトピックス2005 Clinical Dermatology 2005

1. 最近話題の皮膚疾患

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要約

 テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(以下TS-1 (R))による薬疹の2例を経験した.症例1は肝細胞癌の肺転移に対しTS-1 (R)を開始12日後(総量1,560mg)に,足趾に紅斑,水疱が出現し,手指にも拡大した.病理組織像では,表皮真皮境界部の裂隙,表皮の液状変性と真皮乳頭層の浮腫,真皮浅層のリンパ球浸潤を認めた.症例2は再発性胃癌に対しTS-1 (R)を開始17日後(総量1,300mg)に,足趾に紅斑と鱗屑,水疱が出現した.両者とも,内服中止後約2週間で鱗屑と色素沈着を残して略治した.その後,症例1ではテガフール・ウラシル,症例2ではドキシフルリジンを開始したが,皮疹は生じなかった.発症機序として基底細胞への直接障害が考えられた.本剤の登場により,減少していたテガフール(フトラフール)皮膚炎が再び増加する可能性がある.

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要約

 帯状疱疹後肉芽腫は,帯状疱疹の瘢痕上に新たに出現する肉芽腫性病変である.このような肉芽腫性病変は,われわれの調べた限り現在までに51例報告されている.各報告では環状肉芽腫,サルコイド肉芽腫など異なった診断名が使われているが,これらはすべて同じ病態・機序によるものと考えられ,一括して帯状疱疹後肉芽腫と呼称したほうがよいと考える.帯状疱疹後の皮疹を生検することは少ないため,こうした肉芽腫が形成されていることはあまり知られていない.白血病に伴った自験1例を,過去の症例を鳥瞰しながら報告した.

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要約

 Cytophagic histiocytic panniculitisは,発熱などの全身症状とともに,肝機能障害,汎血球減少,出血傾向を生じる進行性の比較的まれな疾患であり,ウイルス感染症に引き続いて生じたり,自己免疫疾患などの基礎疾患を有することが知られている.今回,われわれは,SLEおよびsubclinical Sjogren症候群を基礎疾患に有した26歳女性に生じ,ステロイド内服治療が奏効した1例を経験した.近年,治療に反応し予後のよい例の報告もあり,自験例を供覧するとともに,cytophagic histiocytic panniculitisについて最近の知見を交え解説した.

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要約

 後天性両側性太田母斑様色素斑は中年以降に両側性に生ずる太田母斑の一型であるが,しばしば肝斑と誤診されている.肝斑は額,眼窩下部から頬骨にかけて,そして口囲周囲に好発するが,下眼瞼や上眼瞼を侵すことはない.また肝斑は紫外線曝露によって増悪し,紫外線を避けるだけで,ある程度の改善がみられる.しかし,太田母斑は紫外線の影響をあまり受けない.肝斑の色素斑の大きさ,濃さはさまざまであるが,境界は鮮明な両側性のびまん性,均一の褐色調地図状色素斑で,点状色素斑はみられない.したがって,肝斑に似ていても眼瞼に色素斑がある場合や,色素斑が青紫色調を呈する場合,点状の色素斑を混じている場合は太田母斑を考える.鑑別が困難な場合は皮膚生検を行うが,眼瞼部のパンチ生検ではほとんど傷跡は残らない.または皮疹の一部をQスイッチ・レーザーで治療して,効果がなければ肝斑と考える.また,ハイドロキノンの外用で改善がみられれば肝斑である.

学校伝染病の新局面 日野 治子
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要約

 学校伝染病とは,学校保健法で大きく3群に分けられた感染症で,その取り扱いで最も重点がおかれているのは,いかに周囲へ蔓延させないで済ませるか,である.学校伝染病にはおのおの登校制限があり,診断した医師は決められた期間は,登校の許可を与えられない.第1,2種に関しては疾患の特異性から治癒するまでとされているが,第3種のうち“その他の伝染病”は“伝染のおそれがなくなるまで”とされているため,疾患によっては現場で見解の相違が生じている.最終決定者が主治医でも校医でもなく校長に権限があることも,時に事態が混乱するもとにもなっている.いかに学童を学校伝染病から守り,感染症の伝播を防ぐか,新興・再興感染症が様々に問題視される時代において,もう一度考えるべき時期になっている.

2. 皮膚疾患の病態

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要約

 アトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー疾患は,Th2細胞に依存する病態と考えられてきた.しかし,Th2細胞に依存せず,IL-18に依存するアトピー性皮膚炎マウスモデルを確立したことから,Th2細胞に依存しないアトピー性皮膚炎の可能性が示唆された.実際,皮膚にIL-18が集積するように遺伝子操作したトランスジェニックマウスは,SPF飼育環境下でもそう痒性慢性皮膚炎を自然発症する.さらに,Th2細胞への分化ができないトランスジェニックマウスでも同様の皮膚炎を発症する.このようなTh2応答が不要でIL-18に依存するアトピー性皮膚炎を「自然型アトピー」と提唱する.

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要約

 アトピー性皮膚炎において,急性期病変ではTh2優位,慢性期病変ではTh1優位となり,ステージによるTh1/Th2バランスのシフトが知られている.われわれは培養ケラチノサイトにIFN-γ(Th1)とIL-4(Th2)を加えて培養し,電気抵抗値(TER)とデキストラン粒子の透過量(Flux assay)を測定して培養ケラチノサイトシートの透過性を検討した.結果,IFN-γは経ケラチノサイト物質透過を抑制し,IL-4は物質透過を亢進した.さらに,IFN-γはケラチノサイトのE-カドヘリンとデスモグレイン3の細胞膜への移行を促進して表皮細胞の接合を強固にし,逆にIL-4によって接合が減弱することが示された.すなわち,Th1/Th2バランスのシフトによってケラチノサイトの細胞間接合の強さが相反して調節され,水分や血漿蛋白の体内から表皮内への移行が制御されている可能性が示された.

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要約

 痛みと異なるかゆみの伝達経路の存在が明らかにされたことで,かゆみのメカニズムの理解は大きく前進した.しかし,それはヒスタミンによるかゆみの伝達経路であり,すべてのかゆみを説明できるものではない.最近の電気刺激によるかゆみ誘発法を用いた研究では,新たなかゆみの神経の存在が示唆されている.さらに,病態のかゆみを理解するうえではかゆみ過敏の理解も必要である.かゆみ過敏状態では通常かゆみを生じないようなさまざまな刺激がかゆみを生じてしまう.かゆみを抑制するはずの痛み刺激までもがかゆみを生じる.その結果,アトピー性皮膚炎患者でもよくみられるitch-scratchの悪循環が発生する.かゆみ過敏状態ではさまざまな炎症性メディエーターがかゆみを生じうるので,炎症そのものを抑制しない限りかゆみを抑えることはできない.

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要約

 アトピー性皮膚炎患者の治療に抗真菌薬が有効であることが報告されている.アトピー性皮膚炎患者T細胞のTh1,Th2サイトカイン産生に対する抗真菌薬の作用を検討した.抗CD3,CD28抗体で刺激したT細胞のIL-4,IL-5の放出量は,アトピー性皮膚炎患者では健常者より高かった.ケトコナゾール,テルビナフィン,トルナフタートはT細胞のIL-4,IL-5の放出を抑制したが,IFN-γ,IL-2の放出は抑制しなかった.ケトコナゾールはテルビナフィン,トルナフタートより強力な抑制作用を示した.cAMPアナログは抗真菌薬のIL-4,IL-5産生抑制作用を解除した.抗真菌薬は,抗CD3,CD28抗体刺激によるT細胞内cAMPシグナルを抑制した.ケトコナゾールはcAMPを産生するadenylate cyclaseを抑制し,テルビナフィン,トルナフタートはcAMPを分解するcyclic nucleotide phosphodiesteraseを増強した.抗真菌薬はcAMPシグナルの抑制を介してT細胞のIL-4,IL-5産生を抑制し,アトピー性皮膚炎患者のTh2偏位を是正すると考えられる.

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要約

 遺伝性対側性色素異常症(dyschromatosis symmetrica hereditaria;DSH)は,四肢末端,特に手背・足背に濃淡さまざまな色素斑と脱色素斑が密に混在する像を特徴とし,常染色体優性遺伝の疾患である.われわれは2003年,このDSHの病因遺伝子をADAR1 (double-stranded RNA specific adenosine deaminase;DSRAD)遺伝子であると,世界に先駆けて同定した.つまり,本疾患の4家系(患者51名,非患者55名)の協力により,原因遺伝子をchr. 1q21. 3にマッピングし,haplotype解析と新規SNPを利用して約500kbの間にまで範囲を狭め,その中に存在する9つの遺伝子のmutation screeningを行った.その結果,本疾患の病因遺伝子がADAR1遺伝子であることを解明した.さらに,新たに16名のDSH患者について,ADAR1遺伝子の新規変異を同定した.また,遺伝性汎発性色素異常症の患者3名と網状肢端色素沈着症の患者3名ではADAR1遺伝子の変異はなく,それぞれ独立した疾患と考えられた.

3. 新しい検査法と診断法

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要約

 水疱性類天疱瘡はヘミデスモソームに存在する230kDa水疱性類天疱瘡抗原(BP230)と180kDa水疱性類天疱瘡抗原(BP180)に対する自己抗体を示す自己免疫性水疱症であり,最近の高齢化に伴って,まれならずみられるようになった.現在,BP180のNC16a部位に病原性エピトープが存在すると考えられ,同部位の大腸菌発現リコンビナント蛋白を用いたenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)法が確立され,水疱性類天疱瘡および妊娠性疱疹患者の血清中のBP180に対する自己抗体を特異的に,かつ高感度に検出できるようになった.また,蛍光抗体間接法に比較して,ELISA のインデックス値は病勢とよく相関するので,病勢のモニタリングとしても有用である.

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要約

 疥癬の診断は,虫体や虫卵を見つけることである.しかし,やみくもに調べても虫体や虫卵はなかなか見つからない.効率よく検出するためには,疥癬虫の生態を踏まえたうえで探索する必要がある.虫体を見つけるには,まず住み家である疥癬トンネルを探す.疥癬トンネルが見つかれば,その盲端に疥癬虫が生息する.疥癬虫は肉眼では微細な黒点として認められる.この黒点を針でつつきだすと,疥癬虫が摘出できる.疥癬トンネルが見つからないときは,虫体生息部位に生じるかゆみの症状,陰嚢・陰茎部の小結節,手足の水疱周囲に注目して,虫体の有無を検索する.

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要約

 外陰部Paget病における予後因子として,リンパ節転移の有無はもっとも重要なものの一つである.進行期の本症に対する確立した有効な治療がない現状では,リンパ節転移をいかに早期に診断し,根治的手術をするかが治療上のポイントとなる.また本症が高齢者に好発することや発生部位の解剖学的理由から低侵襲で確実なリンパ節転移の診断(N診断)が必要とされる.一方,本症におけるセンチネルリンパ節生検の意義については,いまだ確立されたものではないが,筆者らは25例の外陰部Paget病に対し,センチネルリンパ節生検を試みたところセンチネルリンパ節の同定率,正診率ともに高く,メラノーマの場合と同様にN診断やリンパ節郭清の適応条件として非常に有用であると思われた.今後,外陰部Paget病の治療指針において,センチネルリンパ節生検は積極的に検討されるべきものと考える.

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要約

 ロボスキンアナライザー(インフォワード社)は,顔全体をデジタル画像としてコンピュータ処理し,独自開発の画像解析システムにより顔面の各種情報を定量化する皮膚計測システムである.しわ治療の効果判定は,これまで臨床写真を用いた担当医の判断,患者自身の評価などの主観的評価方法が主に行われてきた.一方,定量的な評価方法としてレプリカ法があるが,手技の煩雑さなど問題点があった.今回,われわれはヒアルロン酸注入による鼻唇溝の治療の評価についてロボスキンアナライザーを用いて定量的に行い,客観的評価が十分に可能であることを確認した.

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要約

 皮膚の色を客観的に評価する方法が多数試みられている.従来の方法は高額な機器を使用するものが多かった.今回新しく開発された「スキントーン・カラースケール」について解説した.「スキントーン・カラースケール」は紙製の色票の短冊を5本使用するだけで測定が可能であり,特別な機器を必要としない.また,測定時間も数分と短くてすみ,習熟すれば正確で安定した客観的なデータを得ることができる.皮膚の色素沈着の程度をこのスケールの明度で測定したところ,肉眼所見とよく相関した.また,ビタミンC製剤内服による美白効果をこのスケールの明度の変化で測定したところ,肉眼所見とよく相関した.したがって,本法は皮膚色を客観的に評価する方法として簡便かつ有用であると思われた.

4. 皮膚疾患治療のポイント

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要約

 爪真菌症の海外ガイドラインについてまとめた.いずれのガイドラインも,真菌学的検査に基づいた診断の重要性を強調している.治療は内服療法が基本であるが,本邦と投与量が異なり,治療効果のデータについては,今後の検討が必要である.

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要約

 2003年のタクロリムス軟膏小児用の承認の条件として,それまでタクロリムス軟膏成人用を処方した患者,および新規に処方する小児,成人患者全員に対して,タクロリムス軟膏のがん原性についての説明を行い,患者の理解を得ることが医師に義務づけられた.近年,アトピー性皮膚炎はその背景に社会的問題があることから,患者への説明に時間がかかるようになっている.しかし,一度しっかり説明を行っておけば,大部分の患者の信頼が得られ,それ以降の診察もスムーズに行うことができると考えられる.それを裏づけることとして,今回,われわれが行った患者アンケートより,医師に課せられた説明義務を果たすことが患者の治療に対する満足度につながるという結果が得られたので,タクロリムス軟膏の使用の留意点も含めてアンケート結果をまとめた.

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要約

 男性型脱毛症の病態を解説し,テストステロンを活性型のダイハイドロテストステロンに変換する5α-還元酵素Ⅱ型の重要性について述べた.さらにその5α-還元酵素Ⅱ型の阻害剤であるfinasterideの男性型脱毛症治療における有効性が期待されることを述べた.また,わが国におけるfinasterideの臨床試験成績を紹介し,finasteride(1mg錠)の1日1回内服により,男性型脱毛症の進行が停止し,増毛効果もみられることを示した.本剤が男性型脱毛症治療の新しいツールになりうると結論した.

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要約

 ニキビ(ざ瘡)患者は,化粧をしてはいけない.これは,皮膚科医にとってもニキビ患者にとっても不文律のようになっていた.確かに,化粧が原因のニキビは存在する.しかし,実際には,ほとんどの患者が化粧をしていても,適切な治療で軽快をみる.また,女性患者の化粧をしたいという気持ちは強い.そこで,基礎化粧とメイクアップを含めた化粧指導を行い,その化粧法を治療と並行しながら2~4週間継続する試験を行ったところ,皮疹は悪化せずに患者の生活の質(quality of life)の著明な改善を認めた.ニキビを悪化させないようなメイクアップ方法としては,赤い皮疹を目立たなくする補色のパウダーファンデーションの使用とアイメイクやリップメイクを中心とした部分メイクを強調する化粧を基本とした.これからのニキビ患者の治療では,化粧を否定するのではなく,ニキビを悪化させないような化粧法を積極的に指導することも考慮すべきである.

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要約

 尋常性疣贅に対する一般的な治療法は液体窒素凍結療法であるが,ときに難治性のものがあり治療に苦慮する.近年,外用剤ではグルタールアルデヒド,モノクロロ酢酸,ビタミンD3製剤が,外科的治療では光線力学的療法(PDT),CO2レーザー,パルス色素レーザー,いぼ剥ぎ法など新しい治療法が試みられている.われわれの施設では超音波メスを使って難治性疣贅を治療している.超音波メスは外科領域でよく使われている手術器であり,血管や神経を温存して組織を破壊する.この特徴を皮膚に利用すると,弾性線維の豊富な真皮を残して表皮のみを破砕・吸引できるため,ウイルス感染した表皮病変部を容易に削り取れる.真皮成分は残るので,汗腺上皮や周囲組織から上皮化が起こり,約1か月で治癒する.

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要約

 褥瘡においては,まず危険因子を含めた患者背景を全身的に把握することが最重要課題となる.そして,できる限り発生の要因を取り除き,局所的に褥瘡評価ツールを用いて褥瘡を経時的に評価することが望ましい.これまで褥瘡の評価ツールとしてPSST,PUSH,PUHPなどが報告されているが,項目数が多い場合や少ない場合,あるいは評価に熟練を要する場合もあり,必ずしも一般的ではなかった.これら従来の欠点を考慮して,日本褥瘡学会によりDESIGN評価が開発された.DESIGNは,創を評価する6つの病態の頭文字を表している.Depth(深さ),Exudate(滲出液),Size(大きさ),Inflammation/Infection(炎症/感染),Granulation tissue(肉芽組織),Necrotic tissue(壊死組織)の6項目に,Pocket(ポケット)が存在すると評価の末尾に-Pと記載する.またDESIGN評価と治療との関わりについて示し,DESIGN評価を用いて経過評価を行った代表症例を供覧した.

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要約

 海外では創傷消毒の概念は放棄され,「洗浄→必要あれば実効ある感染制御」という方式に変わっている.エビデンスに基づいて吟味すると,急性一般創傷に従来の消毒処置を行う意義は少ないと考えられる.慢性創傷でのエビデンスは不十分だが,海外ではwound bed preparationの考えから,いわゆる「消毒」に代わり,「洗浄,そして時期・状況と実効性を考慮した感染制御」という方針が重視されている.「創傷消毒の是非」という臨床的疑問は「感染制御をどの時点・状況から,いかに行うか?」という新たな設問に変換されなければならない.

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要約

 シリコンゲルシートによる密閉療法は簡便で副作用も少ないために,肥厚性瘢痕・ケロイドの治療法として多くの臨床報告がされている.今回,ケロイドに対してシリコンゲルシート(シカケア (R))を貼布し,疼痛,そう痒感,ケロイドの隆起,赤色調を4週ごとに24週観察した.また治療前後の組織を採取し,肥満細胞数の変化とFas抗原を比較検討した.自覚症状である疼痛とそう痒感は治療開始後早期に改善し,12週後には消失した.ケロイドの隆起と色調の改善には12週以上を要した.治療開始24週後の組織肥満細胞数は有意に減少していた.線維芽細胞のFas抗原発現は増強していた.シリコンゲルシートによるケロイド治療は安全性が高く,特に疼痛やそう痒に有効な治療と考え,積極的に試みる治療の1つであると考えている.

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要約

 ビタミンCのイオントフォレーシスのしみ,小じわに対する効果を顔面の半分のみに施行し,無治療および単純塗布による場合と比較検討した.イオントフォレーシスのほうが単純塗布よりもより良い効果をもたらすことが判明した.しかし,なかには治療にあまり反応しない場合もあること,乾燥や皮膚が赤みを帯びるなどの作用も示すため,治療に際しては,これらのことを十分説明したうえで施行する必要がある.また,ビタミンCの細胞内への取り込み,還元型への制御機構などについてまとめた.

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要約

 現在,皮膚のrejuvenation(若返り)を目的としたレーザーあるいは光治療器が非常に多数発売されている.皮膚に傷をつけない(nonablative),リスクがない(no risk),包帯などで日常生活が制限される期間がない(no down-time)ことを大きな売り物にしている.こうした治療は,患者の負担は確かに軽いが,それだけに1回当たりの治療効果は小さいので,定期的に繰り返し治療を行う必要がある.各機種の特性を十分理解したうえで,既存の治療法と組み合わせるなど,各種の工夫を行いながら活用すれば,元来患者に受け入れられやすい気軽な治療であるから,高い満足度を得られることが期待できる.この種の治療は,効果の発現機序やエビデンスについて,まだまだ説明不十分な面も多いので,基礎的研究の発展が待たれる.

5. 皮膚科医のための臨床トピックス

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要約

 ミルクアレルギーや大豆・卵など蛋白質不耐症の患児の養育に使用されるアミノ酸調整粉末中には,従来,ビオチンがほとんど含まれていなかったため,患児が調整粉末単独で哺育された場合にビオチン欠乏症を発症した例が報告されている.ビオチン欠乏症に特徴的な皮膚症状は難治性の開口部皮膚炎と頭部の脱毛であり,亜鉛欠乏症との鑑別を要する.乳幼児の眼瞼縁および口角のびらんを伴う紅斑と会陰~襁褓部の乾癬様紅斑が難治であり,血清亜鉛値の低下が認められない場合にはビオチン欠乏症を考えなければならない.患児のビオチン欠乏状態を早期に正しく評価するためには,尿中ビオチンの低下とメチルクロトニルグリシンをはじめとする尿中有機酸の増加を証明することが重要である.本症にみられる開口部皮膚炎,脱毛などの皮膚症状は,ビオチン~1mg/日の内服により劇的に改善する.

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要約

 近年,身のまわりの化学物質の種類の増加やオフィス,住宅における建材の変化,気密性の増強などに伴い,種々の症状を訴える人が増加し社会問題となっている.これらの病態に対して化学物質過敏症(multiple chemical sensitivity;MCS)という概念が提唱され,基礎および臨床面からその対応が迫られている.MCSの最大の原因物質としてホルムアルデヒド(FA)が問題視されているが1),本稿では多量の新製品パーソナルコンピュータ(PC)を設置した室内で新たにアレルギー様症状を呈した1例を提示する.そして,FA室内濃度の測定結果を踏まえ,PCから排出されたFAと関係すると考えられたため,新たにPCアレルギーという概念を提唱するとともに,今後FAも含めMCSのさらなる解明とPCを含めた環境基準の設定を期待する.

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要約

 乾癬では,細胞性免疫が病態に重要な役割を果たしているため,免疫反応の一部のみを抑制する生物学的製剤は米国をはじめ世界で乾癬の治療に使用されている.AlefaceptはT細胞の活性化を可溶化LFA-3によって抑制し,効果発現は遅いが長期の寛解期間が期待できる.Efalizumabは接着因子LFA-1のサブユニットに対する抗体で,T細胞の活性化と皮膚浸潤を抑えるので効果は比較的早い.Etanerceptは体内のTNF-αを可溶化受容体で中和し,50~60%の患者で乾癬部感受性指数(PASI)75%以上の改善が得られる.TNF-α抑制剤としては他にもinfliximabとadalimumabが臨床治験中である.これらの生物学的製剤は肝腎障害がまれで,副作用も比較的少ないという利点がある.コスト,保険,感染症などの面で使用製剤や投与患者の選択,使用法や投与量のさらなる検討の余地があるが,乾癬の長期的な治療を見据えた有望な選択肢となるであろう.

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要約

 全国8大学(札幌医科大学,福島県立医科大学,群馬大学,筑波大学,信州大学,神戸大学,宮崎大学,鹿児島大学)の皮膚科受診患者を対象に皮膚癌症例と対照例(皮膚癌以外の患者)で症例対照研究を実施し,皮膚癌の予防となりうる食品を探策した.コーヒー,紅茶,緑茶,βカロチン,ニンニク,ビタミンCやEなどが検討され,紅茶を毎日習慣的に飲む人,ビタミンCとEを両方摂取する人が,皮膚癌群に比較して対照群で有意に多く,それぞれの皮膚癌への相対危険度は0.69,0.36であった.本邦における皮膚癌の予防食品を疫学的に調査した報告はほとんどみられず,今回の結果は癌予防を考えた食生活をするうえで参考となると思われた.

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要約

 配偶者の存在および配偶者のサポートの認識が,精神的苦痛とがんへのコーピングに及ぼす影響について,国立がんセンター東病院外来に通院中の男性272名,女性252名のがん患者を対象に,構造化面接およびProfile of Mood States(POMS)とMental Adjustment to Cancer Scale(MAC)の2つの自記式質問票により横断的に評価した.配偶者がいない男性患者では,配偶者がいる患者に比して,精神的苦痛が有意に高く(p=0.006),前向きなコーピングの程度が有意に低かった(p=0.000).また配偶者のサポートを認識していない男性がん患者では,認識している患者に比して,前向きなコーピングの程度が有意に低かった(p=0.009).しかし,女性の患者では,配偶者の有無,配偶者のサポートを認識しているか否かは,精神的苦痛やコーピングに影響しなかった.

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要約

 爪白癬は潜在的な患者を含め罹患者が多く,美容的な問題を生じ,Quality of Life (QOL)に影響を与える疾患といえる.しかしながら,爪白癬のQOLについての調査・研究は欧米も含め十分ではない.そこで,われわれは爪白癬患者を対象としたQOL調査を実施した.爪疾患特異的尺度の結果では,女性,若年者,手の爪白癬が重症なほどQOLが低下している傾向であった.包括的QOL尺度では,「身体」的側面だけでなく,「精神」的側面においてもQOLが低下する傾向が示された.爪白癬は,美容的な問題だけではなく,生活全般に影響を与えているといえる.

皮膚のきめ 船坂 陽子
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要約

 皮膚のきめの概念および慢性紫外線曝露によるきめの乱れについて概説した.また,ケミカルピーリングやIntense Pulsed Light (IPL)など,skin rejuvenationを誘導することができる治療を施行した際のきめの改善効果について述べた.

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要約

 化粧品および医薬部外品の効能・効果を謳うために必要な評価法を確立して,消費者に的確な情報提供を行い,将来的には新規の効能・効果を取得することも目標として,日本香粧品学会の特別委員会として化粧品機能評価法検討委員会が発足し,皮膚科医,薬学者,化粧品業界の研究者での検討が開始された.皮膚科診療の現場でも化粧品についてのさまざまな質問を患者から受ける皮膚科医にとって,またしみやしわに対しては治療のツールを化粧品,医薬部外品に求めなければならない皮膚科医には,ともに取り組んでいかねばならない領域と思われ,その活動状況を報告した.

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要約

 厳しい医療環境の中にあって病院には入院主体の医療が求められている現在,外来主体の診療科である皮膚科は入院患者が少なく,高度医療機器を使用することも少ないことなどから,患者1人当たりの単価が低く,その収益は病院全体の1~2.5%にすぎない.しかしながら,原価計算をすれば収支ほぼ拮抗した診療科であり,お荷物の診療科ではない.一方,診療面では外来患者の10~15%は他科の入院患者で,病院にとって皮膚科の存在価値は大きい.病院における皮膚科の存在価値を高めるためには,入院患者の増加を図るとともに,新しい診療技術の開発や診療報酬体系における皮膚科特有の診療技術のアップによって診療単価の増加を図ることが必要である.また,病院管理者(院長)に対しては,収益だけでなく原価計算による評価を申し入れることも大切である.

Derm.2005

小さな国際交流 金原 彰子
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私の勤務する病院は関西国際空港に近いこともあって,外国人の患者さんが多い.留学生や研修生,労働者など,職種や国もさまざまである.学生時代,英語は得意と自分では思っていたにもかかわらず,中学生レベルの英語しか話せない私の外来に外国の患者さんがくると,少し緊張して身構えてしまう.院内には,職員で各国の言葉を話せる人が何人かいるので,まったく日本語を話せない患者さんが来院すると通訳として診察についてくれる.困るのは,「日本語少しわかります」という患者さんである.少しわかる患者さんには通訳はつかない.「少しわかる」といっても,私の英語力と同程度であると話があまり通じない.日常会話ならまだしも医学用語になると,私の拙い英語ではなかなか理解してもらえない.こういっては申しわけないが,皮膚科に訪れるのはポツッと1つだけできたにきびや,ちょっとカサカサするといった程度のごく軽症の患者さんが多い.異国の地での慣れない生活や気候のせいで不安になるのかなとか,こちらの国ではこんな程度でも病院に行くのかなとかいろいろ考えるが,とりあえず言葉ができない分,愛想だけでもよくしようと満面の笑みを浮かべて何とか対応する.日本人とは異なり,外国人の患者さんは「原因は何ですか?」と必ず聞いてくる.これを説明するのが一苦労である.彼らは論理的な答えを聞かないと納得してくれないのである.「こんなもの,ほっといても治る!」とは口が裂けてもいえない.

 モロッコからの留学生で,「このにきびの薬がほしい」と,自分の国でもらっていた薬を持ってきた患者さんがいた.日本にはない薬なので,処方できないことを説明し,日本で通常使用される薬を処方した.これが少しも効かない.「この薬しかきかないんだー!(英語)」と,彼は自分が持ってきた薬をみせてくれるが,処方できない.何度もきてくれたが,結局あまりよくならずに帰国することになった.それでも,帰国の数日前,「またモロッコにきたら連絡ください(英語)」と名刺をくれた.もちろんモロッコにも行っていないので連絡もしていないが,名刺は大事においてある.

白人には美黒? 西村 栄美
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海外で生活してみると,当たり前と思っていた常識や美意識が,日本特有のものであったり,東アジア特有のものであることに気づく.色白肌をよしとするのも,日本を筆頭とする東アジア諸国に特徴的に見られる嗜好のようである.北欧のように冬が長く,日照時間が短い国では,待ちかねた春が訪れると,太陽を浴び,日焼けしてみたい気持ちになることも,ボストンに住んでみて少しは理解できるようになったが,どうもそれだけではない.アメリカ人,ヨーロッパ人とも,小麦色に日焼けした肌をより魅力的,健康的と考える人が実に多い.欧米では,休暇中に日焼けして職場に戻ると,日焼けが褒められるうえに,バカンスもしっかりとっていて立派と評される.日光浴のために顔面や襟元に加えて腕なども薄いシミ(老人性色素斑)だらけという白人も珍しくはないが,誰も気にしている様子はない.『色の白いは七難隠す』という発想は白人にはまったく伝わらない.紫外線が皮膚癌の誘因となることも認識されているものの,太陽への憧れや日焼けした肌への憧れのほうが強いと見える.そういうわけで,色素細胞を研究する米国の研究室では,紫外線を浴びることなく皮膚をこんがり茶色にできないものかと美黒剤(?)の開発を目指す.そんな留学先の研究室においても,真夏に皆で外出するときに帽子をかぶるのは日本人の私一人.サングラスでキメた仲間から首を傾げられているうちに,“日本人だからね”と納得されるようになった.それでも,欧米では日傘は禁忌.狂気の沙汰と思われかねない.

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近年,皮膚科においてもストレスと皮膚症状のかかわりなど心身相関への関心が持たれるようになってきた.日本皮膚科学会の専門医研修目標にも精神身体医学の重要性が謳われ,行動目標が明記されている.しかし,心身症を正しく理解している皮膚科医は少なく,心身症,あるいは気分障害や統合失調症などの精神疾患への偏見のために,これらを合併する患者に対して不十分な皮膚科的治療しか遂行できていない医師も少なからず,が現状のように思う.

 日本心身医学会では,心身症を“身体疾患の中で,その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し,器質的ないし機能的障害が認められる病態”と定義している.この考え方は,WHOの健康の定義“単に病気がないだけでなく,肉体的にも,精神的にも,社会的にも良好な状態”にも通ずる.心理精神的要素,社会的要素,生物学的要素の3者が互いに相互関係をもって身体疾患の成立に関与すると考えるのが心身医学の考え方である.心身医学的治療とは,心理療法をすることとは限らない.疾患を遷延させている要素を身体面,心理面,社会面から全人的に検討して問題を解決していくことであり,医学の原点ともいえる.

臨床と研究 八幡 陽子
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以前はあまりなかったことだが最近,ときどき臨床と研究の関係についてまじめに考えることがある.私が研究を始めたのは入局後4年目のことで,動機はその頃なんとなくいろいろなことに行き詰まりを感じており,新しいことを始めたかったということが主だった.大学で臨床をしながら研究をするという環境に恵まれ,最初は手技的な面白さから始まり,数年が経過した現在は,自分で考えながら実験計画を進めていく楽しさも感じることができるようになってきた.しかし一方では,まったくの基礎的な研究ではなく,実際に臨床の場で活かされるような研究結果を出すことの難しさを実感し,へこんでしまうこともしばしばである.幸いにも私は,この数年の間に尊敬すべき多くの先生方から,臨床をしながら研究を続けていく必要性や楽しさ,さらにはモチベーションを保っていく方法についても何度となく教えていただく機会を得て,たくさんの刺激を受けながらやってくることができた.今ではすでに常識となった検査方法や診断に必要な抗体の検出も,それらが臨床経験に基づく研究の末に可能となり,新しいコトが明らかになっていくのだということが理解できるようになり,それを実際に目にするたびに自分もやってみたいと思い,意気込んでみるのだが,やはりしばらくするとまたへこんでしまう.そんな疲れた感じが私からにじみ出ているのか,皮膚科医として研究をしていくという魅力について,私がパワフルな諸先生方から教えていただいたのと同じようにはうまく後輩たちに伝えることもできず,自分の無力さを思い知ることも多い.できればもう少し自分にもパワーをつけて,これからも浮き沈みを繰り返しながらも,なんとか臨床と研究を続けていければなと考えながらまた細々と実験を始めるこの頃である.

患者さんの涙 植木 理恵
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順天堂医院で脱毛症外来を長らく担当していますが,診察中に患者さんに泣かれてしまうことがあります.完治して手を取り合って泣いてしまったこともありますが,全頭型・汎発型で義髪(かつら)が不要なくらい良くなってきたところで再発してしまったとき,何年も熱心に通院しているのに何回も繰り返してしまい,治療することに疲れてしまったときなど,自分の力のなさ(治療技量や円形脱毛症の発症機序の解明に尽くしていない点など)を強く感じつつ,患者さんを慰め,それでも治療する意欲や,円形脱毛症を患っているからといって,何ら社会的に劣るようなことはないと励ましたりします.実は,初診の患者さんが問診中に涙があふれてきてしまうことが一番多いのです.脱毛症が激しく,今後どうなるのか不安が強く思いつめていることもありますが,結構患者さん方から「皮膚科に行ったが,ストレスのせいだからあきらめなさいといわれ,私が悪いようにいわれた」,「いきなり治らないといわれ,2回目からは頭も診てくれない」,「他の患者さんがいるところで処置された」とか,また幼児の患者さんの母親からは,「あなたの性格,しつけが悪いから,子どもが円形脱毛症になるんだ,と医師や看護師から怒られた」などと訴えがあります.診療する側の思いやりや円形脱毛症への理解が不足していることから,患者さんやご家族の不安が増したり,憤りが生じるようです.ですから私から,「今までどんな治療を受けたことがあるのですか?」とごく普通に問われたときに,さまざまなことが思い出され,涙が込み上げてしまうようです.治療に難渋することも多い疾患ですが,皮膚科医のほうから患者さんを拒絶してはいけないと思っています.

 円形脱毛症はまれではない難治性疾患ですが,隠す方法がないわけではありません.だからといって,隠せばいいじゃないの,と診療中に安易に思わないでください.長年,義髪をつけ普通に生活している方でも,「お棺に入ったときにかつらが取れてしまったらどうしようと心配なんです」と笑顔の老婦人など,治りたいと強く願っています.

理由 阿部 理一郎
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生命現象をはじめ,すべてに“理由”があるはずだ.そう考えることは魅力的ですが,逆に科学に携わる者にとっては仮定ばかりが先行する邪魔な考え方です.だから“進化における環境の変化への適応は,適応でなく,選択だ”というように,少しnegativeに考えられれば,慎重に判断できるのかもしれません.けれども,“その細胞の存在意義”などと考えることは,宇宙的(?)な視野で俯瞰できるので,ときおり考えてみたくもなります.

 たかだか8年ほどしか研究を始めてから経っていませんが,研究をすればするほど自分の手の届かない,大きな存在を意識することが多くなりました.君が何をしようが,すべては決められているんだと…….

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私は免疫・アレルギーに関する皮膚疾患の病態の解明と治療への応用を目指して皮膚科に入局し,臨床と研究の両立を目指している.扱うべき疾患も多いし,自分としては誇りをもってやってきているつもりであるが,他科の医師から皮膚科をみると,「結局,治療は軟膏中心だから簡単なのでは?」と思われることが多いようだ.そう考えてみると,確かに皮膚科は病名が多いわりにステロイド軟膏中心の治療であり,発症機序に基づく疾患特異的な治療はあまりない.プロトピック軟膏も免疫抑制剤なので,やはり同じことがいえる.どうしてこのような現状が続いているのかを勝手に推測してみると,皮膚科では疾患の多くがステロイドの有効な炎症性であり,患者さんがそれなりに満足してくれるため,よりよい治療法への探究心や皮膚科医自身の危機感が欠けてきたためではないかと思う.そこには,正しい診断がつかなくてもステロイドで治りそう,と甘い考えが起こり,診断すらもおろそかにさせてしまう危険性すらも孕んでいる.

 少し前になるが,京大の先々代教授である太藤重夫先生とお話させていただく機会があった.そのときに,現代の皮膚科学は科学技術の発展とともに,以前では考えられなかったような事実が明らかにされてきており,素晴らしいことだ,とおっしゃられていた.確かに水疱症や膠原病などでは検査手技の進歩のおかげで診断が容易になった.ところが同時に,検査に頼りがちで皮膚や組織をしっかり見つめ,その疾患は何が原因で,どうすれば根本的に治せるかを考えるプロセスが欠けてきている気がする.もしも今,好酸球性膿疱性毛包炎(太藤病)が見つかっていなかったとして,自分がそれをみても,その病態を正しく認識できないのではないかと思える.結局,自分は医学進歩の上に安住させてもらっているだけで,皮膚科医としての「目」に磨きはかかっていないのかもしれない.

女性外来雑感 古川 富紀子
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病院より女性外来をやるように仰せつかって,2003年の11月から他の女性医師とともに月に2回外来に出ている.女性外来は本来は「性差を意識した医療」ということで,女性特有の症状の出方,検査値の特徴などをわかったうえで診療を行っていくということを目標にするが,私の場合,現在のところ月2回の外来で,通常の皮膚科の業務の合間をぬっての仕事ではとてもそこまではいかず,もっぱら受診相談という程度にとどまっている.外来の時間は1人40分で,予約料という形で3,150円いただいている.詳しい検査を複数の病院ですでにやっている患者さんが多いため,3人に2人くらいはまったく話だけとなる.3,150円いただいてしまうからには,40分お話をしなければ申しわけない.果たして40分ももつだろうか,逆に話が切れないときはどうしようかと最初は心配だった.でも,ふたを開けてみると結構40分でうまくいっている.その間,こちらはほとんど聞き役である.40分も話をしていても,専門外であるから新しい展開になることはあまりなく,やはり専門科に紹介するか,前医がある場合は,その先生の指示に従ってくださいということになることが多い.これでいいのかなと思うが,アンケートでは今のところ満足度は良好なようだ.

 つい最近,病院でコーチング研修というのがあって,その中の1つのスキルとしての傾聴ということについての講義を受けた.共感的理解をもって聴くということが重要だが,そのためには相手がリラックスできる距離・位置関係をつくる,相手がリラックスできる雰囲気(表情・態度)をつくる,相手に「聴いている」ということが伝わるように相手をみる,身体を向ける(顔だけではなく),うなずき,相槌をしながら聴く,相手の話をさえぎらないことだという.傾聴のレベルとしては1から3まであり,1は聞き手の意識が相手のほうに向かず,話を聴きながら自分自身に向いている状態,2は聞き手の意識が100%相手に向いている状態,3は聴き手が相手の話を聴きながら相手の状態をもとらえている状態という.医療面接としてはもちろん3をめざしてほしいということである.振り返ると,私はいつも患者さんの話はよく聴こうと心がけているつもりではあったが,傾聴のレベルとしては,ほとんどは1だったかなーと思う.

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診療中,どうにかならないか?とときどき思うこと.

 1つ.なぜに外用薬は使い回しされてしまうのか?.診察中,患者さんから「他の家族に処方された軟膏を塗ってた」とか,「前にもらった薬を使ってみた」といわれるのは珍しくない.こちらから質問すると判明することもよくある.毎回,今後はやめるよう説明するが,残念ながら,努力はなかなか実らない.

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留学してまもなくラボの近くでテロが起こった.米国の象徴であった世界貿易センターがあっけなく倒壊し,一瞬にして数千人が命を失った.異常な混乱の中,ラボのボスからDNAチップを渡された.DNAチップは手のひらに乗るほどの小さな板で一種のマイクロアレイであるが,一度に数万種の遺伝子発現を解析できる革新的技術である.DNAチップを使ってケラチノサイトの転写プロファイリングをしなさいというのである.これなら一気にデータが出ると思った.しかし,20枚のチップには延べ数十万の遺伝子が載っており,特に時系列情報の解析は困難を極めた.炭疽菌騒動が米国を揺るがしていた最中,半年ほど費やして何とか有意な遺伝子を数百種に絞り込んだ.次にプロファイリングしようとしたが,当時はまだ充実したアノテーションがなく,自分で皮膚用のデータベースを作成した.結局,一つひとつの遺伝子について既知の機能を確認しながら全体の生物現象を推測していくという地道な作業となり,それはジグソーパズルを解いているようなものである.しかも解は1つではなさそうで,霧の奥に遺伝子の群集を並べて絵を描いている感すらあった.夜になり眼が疲れてくると,チップの残像とマンハッタンの摩天楼が重なり,果たしてこれはサイエンスだろうかと何度も思った.サイエンスなのかアートなのか,皮膚科学を含めた形態学ではよく議論されるテーマであるが,最新鋭のマイクロアレイも部分を見るか全体を見るかで,それぞれの割合が変わってくるのかもしれない.マイクロアレイはポストゲノム時代の旗手として期待され,最近は臨床応用も現実味を帯びてきた.しかし,数万のシグナルから何を,どのように抽出するかは大きな問題である.最近はどの領域でも膨大な数の遺伝子情報を扱うことが多くなり,バイオインフォマティクスという新しい分野も急速に発達してきた.無数に断片化してしまった同時多発テロ犠牲者の遺体は,現在も遺伝子解析による同定が行われているが,まだ終了の目処が立っていないらしい.この作業にもバイオインフォマティクスが貢献しているという記事を読んで複雑な心境になった.

電子カルテ 石橋 睦子
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2003年の夏,われわれの外来にも電子カルテが導入された.当初はこの急激な進化についていかれず,文字どおり四苦八苦した.以前のように自由に絵を描き込むことができない.マウスで不器用に震える曲線を描いても,時間をかけたわりにはイメージとかけ離れたシェーマができ上がる.通常のカルテ記載のほか,予約,各種検査,注射や処置,病名登録など,書いたほうが早いオーダーもすべてコンピュータで出すため,これまで以上に時間がかかる.一番悩まされたのは,キーボードを打つタイミングである.患者と話しながら打とうとすると,つい画面をみがちになり,目を合わさずに診療を終わらせてしまいかねない.とはいえ,患者に向かいながら手だけキーボードを打つのも,気もそぞろのような印象を与えてしまう.患者と話し終わってから打つのでは,時間がいくらあっても足りない.患者に不快感を与えず,かつ素早く必要事項を記載するにはどうすればよいのか.試行錯誤を繰り返し,最近気づいたことは,短時間でも,皮疹をきちんと診察し,患者の目をみて話すよう心がけると,多少画面に向かう時間が長くても患者はあまり不快に感じないということだ.最近は,医師も患者も電子カルテに慣れ,一緒に画面をみながら打つこともある.

 導入から1年以上経過し,作業の煩雑さに慣れてから改めて振り返ると,電子カルテが多くの点で紙カルテに優ることがわかる.項目ごとに整理され,経時的なデータ整理をするには非常に便利である.他科のカルテもその場で参照でき,データを共有できるため連携がスムーズになった.また,診療時間以外にカルテをみたいときも,わざわざカルテ室まで足を運ぶ必要はない.人件費削減,保管場所の縮小なども大きな利点である.今後は電子カルテが主流になることは確かだろう.しかし,1日中画面に向かっていると,肩は凝るし,目が疲れる.早急にドライアイ対策をしてもらわないと,そのうち医師は全員,充血してしょぼしょぼした目で診察をすることになるのではないか,と眼科に通いながら考えている.

外来でのある出来事 西尾 大介
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私が外来診察デビューを果たして間もない頃の出来事です.水疱性類天疱瘡の診断で外来通院しながらステロイドを減量していた中年女性の患者様がおられました.その方には水疱性類天疱瘡発症時より主治医としてかかわっており,入院中の連日の軟膏処置も行っていました.発症時には全身に紅斑,水疱が多発していたため非常に不安な様子でしたが,退院時にはほとんど皮疹は消失しており,気さくに世間話などもできるような主治医と患者との関係になっていました.その後の外来通院では皮疹の再燃がないことを確認しながらステロイドを減量している状態となりました.定期的に受診していただいて,入院時に皮疹があった部位を確認し,間擦部などを診察して,再燃がないことを毎回確認しておりました.

 ある外来日にその患者様が受診してきました.いつもどおり,「特に変わったことはないですか?」と聞いたところ,問題ないと言われました.そして,いつもの部位を診察して帰っていただきました.特におかしな様子もありませんでした.

皮膚の電顕の有用性 石河 晃
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人体を地球にたとえると,森林(皮膚)を見て地球の健康状態を判断するのが皮膚科診断学(発疹学),一つひとつの森林の木(細胞)の生育状態をみて,その森林が健康かどうかを判断するのが病理学,1本の木に何が起こっているかを見るのが電顕である.臨床像を理解するには皮膚病理学を習得することが重要である.同様に,皮膚病理学を究めるには電顕形態学を習得するとよいのであろうか.これは一面真実である.電顕を使って初めて見えてくるものが病気の性質や原因と密接に関連している場合,皮膚電顕形態学は非常に重要な役割を担うことになる.例えば,先天性表皮水疱症の病型診断である.表皮細胞内に水疱があり,ケラチン線維の凝集塊がある場合,Keratin 5/14をコードする遺伝子の,ケラチン分子重合のため非常に重要な部分に変異があるDowling-Meara型の単純型表皮水疱症である,と診断確定がなされる.1本1本の木を調べることにより,森林の病態を診断するのみならず,病気の原因にまで迫る所見が得られるわけで,電顕の面目躍如である.

 一方で,木を見て森を見ずでは診断ができないケースも多くある.例えば,異型性の強いスピッツ母斑とメラノーマは電顕的形態のみでは鑑別できない.また,扁平苔癬など細胞浸潤のパターンが重要な場合,電顕は無用の長物となる.電顕は必ずしも病理学的変化を理由づける所見がとれるわけではないことも事実である.

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アトピー性皮膚炎(AD)の有病率に関しては,皮膚科医が直接健診に参加して調査した報告はまだ少ないのが現状である.平成12~14年度厚生労働科学研究(AD疫学班:山本昇壯班長)の一環として,小学校健診による全国規模のAD有病率調査(玉置邦彦班員)が実施され,私も調査を手伝わせていただく機会を得た.健診の対象は小学1年生と6年生とし,全国に8つの拠点施設(旭川医科大学,岩手医科大学,東京大学,岐阜大学,近畿大学,広島大学,高知医科大学,九州大学)を設け,約24,000名を対象に調査した.結果は,学童の約1割(11%)がADに罹患しており,そのうちの約3/4は軽症というものであった.

 学童を対象にした全国規模の調査は今回が初めてであり,とても貴重な経験をさせていただいたと思っている.また,この健診を振り返ってみると,いくつか感じる点があった.まず,皮膚科医は学校医には指定されていないため,この種の健診を小学校で実施する場合,参加を強制することはできない.そこで,原則は任意参加で実施するわけだが,この点をあまり強調しすぎると健診参加率が極端に落ちてしまい,有病率調査の意義が失われてしまう.強制ではないが,できるだけ参加してほしいという形で健診を実施した結果,健診参加率は全体で約8割を達成することができ,ほっとしたのを覚えている.また,小学校健診を成功させるには,学校関係者のみならず,地域の教育委員会や医師会の協力も必要であることを痛感した.さらに,お忙しいなか研究協力者として拠点施設で健診を実施していただいた先生方には,ここで改めて感謝の意を表したい.

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昨年から信州大学に移り,皮膚腫瘍の分子診断システムの構築に取り組んでいます.

 メラノーマとスピッツ母斑の鑑別の難しさは,皮膚科医ならばよく知るところです.また,メラノーマには一見通常の色素細胞母斑と紛らわしいものもあります.一方,基底細胞癌も毛芽腫をはじめとする良性付属器腫瘍との鑑別が難しいことがあります.これらの鑑別には,顕微鏡的所見だけでなく,肉眼所見が重要であることを数年前に書きました(皮膚臨床39:1485, 1997).最近ではDermoscopyという有力な検査法も出てきて,診断について極めて重要な情報を提供してくれます.それでもなお,診断に迷う症例が少なくありません.皮膚病理のエキスパートの1人である信州大学の斎田教授のもとには,全国の各施設からそのような問題症例のコンサルテーションが次々に寄せられてきます.良性か悪性か,まさに究極の選択に直面して悩んでいる皮膚科医が決して少なくないことを実感します.

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患者に好まれる医師とは,一体どうあればいいのだろうか? 精神科の帰りに必ず現れる彼女は「電波誘発性皮膚そう痒症」.無数の電波が飛び交う現代社会に何とも気の毒な皮膚疾患であるが,治療は本人が持つ携帯電話でOKであり私の出る幕はない.何でも,自分の携帯電話の発する電波が他の電波と干渉しあい,相殺される結果,症状が改善するのだという.

 そんな彼女が当科に通う理由は,恐ろしいことに私のことが大好きだからである.「1位は安部ちゃん!2位は天野先生で,3位はキムタク」.ジャニーズの上に2人の皮膚科医がランクインする,恐るべき感性の持ち主なのだ.ほどなく彼女は私との結婚を要求してきた.これを断るのは一苦労である.最初,真面目に断ったところ,「安部ちゃんにふられた~!」とでも騒いでくれれば微笑ましい光景で終わるのであろうが,この手の患者は余計なところに知恵がまわるため,だしぬけに外来受付に現れ,「安部先生が2万円で別れてくれといった」などと生々しい虚偽をデッチあげるのであった.

薬剤情報 中田 土起丈
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薬剤の種類は年々多様化,複雑化しており,そのすべてに精通することは不可能といわざるをえない.したがって,個々の薬剤に関する詳細な情報を得るためには,製造元・販売元である製薬会社の協力が不可欠である.ここでは私が薬剤情報について考えさせられた新旧2つのエピソードを紹介してみたい.

 10年以上前の話になるが,当直の夜に悪性黒色腫の術後化学療法中の入院患者さんが腰痛を訴えた.みてみると,左側腹部から腰部に小水疱が出現しており,明らかに帯状疱疹の初期像であった.化学療法中の患者さんに抗ウイルス薬を投与した経験がなかったので,念のために投与中の3剤の情報をチェックしたところ,そのうちの1剤,しかも1クールにわたって連日投与する薬剤の欄に“慎重投与:水痘患者(致死的な全身障害が現れることがある)”という記載が目に入った.折り悪く,医局の花見か何かの日で他の医局員は出払っており,携帯電話など存在しなかった当時の状況では先輩医師に相談することも叶わなかった.藁にもすがる思いで販売元の製薬会社に電話をかけて事情を話したところ,夜にもかかわらず,水痘での副作用発症例の詳細や,帯状疱疹の患者では同様の副作用発現は認められていないことなど,貴重な情報提供を受けることができた.念のために投与中止が望ましいという結論に達し,患者さんには事情を話して,本来の入院目的である化学療法の中断を納得してもらった.幸い,帯状疱疹の経過中,特に副作用は認められなかった.

やりくり上手? 永井 弥生
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一般病院に8年勤務したあと大学に戻る機会をいただき病棟医長となった.前病棟医長はなんと10年以上勤められたので久々の交代であり,荷の重さに加え,久しぶりにお目にかかる疾患が多々あり,冷や汗ものである.わが病棟は34床の大所帯,そういえば,他大学出身の私が入局前に初めて病棟を訪れたとき,「皮膚科病棟」の大きな掲示をみて,皮膚科の病棟?と驚いたものであった.

 空きベッドの心配をする時期もあったが,このところはずっと満床ベッドのやりくりに苦労している.来週の入院予約の患者さんをどう入っていただくか,と頭を悩ませているところへ,急ぎ入院の依頼が続き頭を抱える(ふりをしているだけで張り切っている,ともいわれるが……).他病棟のベッドを借りることもできるのだが,看護師さんからは,症状の落ち着いている方に移っていただいて,緊急入院はこちらの病棟でとるように,との依頼もあり,移っていただく患者さんにお願いしなければならない.車椅子ではあるが,潰瘍の処置をしているだけの気のいいおじいさんにお願いする.快く受けてくれたが,しばらくすると看護師さんが「先生,大変,怒ってるよ!」,「歩いてる患者がいるのに,どうして俺がよそへ行かなくちゃならないんだ!」,「それは強い薬を使っている人とか点滴治療している人とかで……」,「俺は行かない!」.あまりの剣幕にご丁重にお詫びして他の人をお願いする.入院生活はやはりストレスもたまってしまうのだろうと感じる.別の方に快く移っていただいたと思っていたが,主治医から「なんだか寂しそうなんですけど,戻れないでしょうか?」.「皮膚科」の病棟が居心地よいのかと都合よく考えつつも,難しいと思うことはしばしばである.

基本情報

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臨床皮膚科
59巻5号 (2005年4月)
電子版ISSN:1882-1324 印刷版ISSN:0021-4973 医学書院

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